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シナリオ通りを目指します
しおりを挟む「好きです! 結婚してください!」
どうも悪役令嬢です。たった今求婚されたところです。
「保留させてください」
そして今保留したところです。
……いや、だって、この人私の相手役じゃないんだもの!
悪役令嬢たる私の使命。それはヒロインとライバル関係になり、ヒロインの恋路の障害になることである。
私はヒロインが登場する前に、とある男と友人以上恋人未満程度の関係になる。
そして後からやって来たヒロインがその男と急接近、恋が芽生えてヒロインと私とその男との間で三角関係になり、うまくいけばヒロインが男を掻っ攫っていくというシナリオだった。ヒロインがそのルートを選べば、の話だけれど。
シナリオ改変なんてするつもりもない私はもちろんその男と仲良くなった。友人以上恋人未満かと問われると、正直自分では分からない。友人以……くらいまでしか到達していない可能性も無きにしも非ず。
とはいえ私は頑張って男に近付こうとしていたはずだ。それとなく好きですよアピールだってしていたし、クラスの人たちは私が男に恋をしているとバレバレだったに違いない。
それなのになぜ別の男が突然求婚してきた?
分からない。まったくもって分からない。
しかも今求婚してきたこの男、攻略対象キャラなのである。唯一私とは無関係の。
というのも、この作品の攻略対象キャラはほぼほぼ私の周辺人物なのだ。
私という悪役令嬢が邪魔をしなければいけないからなのだろうけれど、一人目は私が友人以上を目指している男、二人目は私の双子の兄、三人目は私の親戚、四人目は私の幼馴染、そして隠しキャラは私のクラスの担任の先生。
一人ずつに別々の悪役令嬢を用意するのが面倒だったんだろうな。と邪推してしまうほどに私の仕事が多いね。
そして、そんな多忙を極める私と唯一関係のないキャラが今私に求婚してきたこの男。この男のルートを選ぶと悪役令嬢は登場しない。なぜなら彼の家庭環境がとんでもないせいで悪役の出る幕がないのだ。
だから私はこの男とは一切関わってこなかった。必要がないから。あの男と友人以上恋人未満になることが先決なので必要のない男と関わっている暇はない。私は忙しい。
双子の兄は私が何もしなくとも兄だし親戚だってそう。幼馴染とは三角関係にはならないのでただなんとなく仲が良ければそれでいいし現在良好な関係を築いている。
しかし私が友人以上恋人未満を目指すあの男。あの男だけは私から動いて関係を築いておかなければならないのに、なかなか思うように事が運べない。ヒロインを迎え入れる準備としてもう少し恋人未満状態までもっていきたいのに、どうにも私の相手をしてくれない。
と、まぁそういうわけなのだが、これを求婚してきたこの男に説明をするわけにはいかないのでどう断るのが正解なのか分からなかった。だから保留させてもらいたいのだ。
「保留ということは、可能性はあるんだな!」
「いや、その」
どちらかというとないです。
「俺は諦めないからな!」
彼はそう言って颯爽とどこかへ行ってしまった。多分購買だろう。
どうしたもんかと小さなため息を零していると、隣の席の幼馴染が私を見て苦笑を漏らしていた。
「振り向いてもくれない男より、あの情熱的な男のほうがいいんじゃねーの?」
「……いや、まぁ、うーん」
幼馴染は簡単に言うけれど、そう簡単な話ではないんだなぁ。
それからというもの、男の求婚攻撃は激しさを増した。
一日に最低三度は「好きだ」と言われるし、それと同じペースで「結婚してくれ」とも言われる。
あいつ酷い家庭環境なはずなのにめちゃくちゃ元気じゃん!
ゲームで攻略してた時はこいつだけ恋愛じゃなくほぼメンタルケアレベルだったのに!
そんなことを考えている場合ではない。もうヒロインがこの学園に来てしまう。タイムリミットは刻一刻と近付いてきているのだ。
それなのに私はまだ友人以上恋人未満になれていない。もしもヒロインがあの男のルートを選んでしまったら私との三角関係なんて無理だ。うっかりシナリオ改変してしまう……!
もうどんな手を使ってでもあの男を振り向かせねば!
放課後の今なら、あの男は真っ直ぐ帰らないはずだしきっと探せばどこかにいるはず! なんとしてでも恋人未満になるんだ!
「おい」
出たな求婚マン!
もうこの際逃げてしまおう。あの男を探しながら。こいつと一緒にいてはいけない。
だってこんなに毎日毎日好きだなんて言われたら……。
「またアイツを探しに行くのか?」
「え?」
思わず足を止めてしまった。言われた言葉が「好きだ」でも「結婚してくれ」でもなかったから。
「……振り向きもしない男なんかより、俺にしろよ」
「え、っと」
「俺にしとけよ。幸せにするから」
私は何も言わずにその場から逃げ出した。
走って走って、一周回って自分の教室に戻って来た。行く宛がなかったから。
ばたばたと教室に駆け込むと、恋人未満を目指す男とどこぞのご令嬢が一緒にいた。しかし彼女は私を見て気まずそうな顔をした後ぱたぱたと走り去っていく。
「……お邪魔してごめんなさいね」
「いや別に。それにしても見事に茹で上がってるな」
茹で上がってるってあんた人をタコみたいに、と反論したい気持ちもあったけれど、うまく口が動かなかった。
足もろくに動かせなくて、私はその場で膝から崩れ落ちた。
「……あ、っぶなかったぁー……」
……俺にしとけよ、幸せにするから。ってなによ。好きになっちゃうところだったわ。
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