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シナリオ通りは無理でした
しおりを挟む結局恋人未満まで到達させることは出来ず、準備など一切整わないままヒロインが転入してくる日を迎えた。
この際ヒロインがあの男ルートを選ばないことを祈るしかない。祈ることしかできないのだ。だってもう間に合わなかったんだから。
そんなこんなでヒロインの様子を窺い始めて早二週間。私の祈りが届いたのかヒロインはあの男を狙っていないらしい。
狙いがあの男じゃないのならそれでいい。双子の兄、親戚、幼馴染を狙うのなら適当に突っかかればいいだけだし。
求婚マンなら別に。私には関係ないし。関係ない関係ない。ヒロインが転入してきてから一切私のところに来なくなったことなんて、全然関係ない。
今、この自分の席から見下ろす先にヒロインと求婚マンが一緒にいて仲良さそうに会話してることなんて、私には関係のないことなのだ。
「お前が俺のとこに来なくなった理由はアイツだと思ってたんだがなぁ」
ガタガタと音を立てて、目の前の席に腰を下ろしながら、かつて私が友人以上恋人未満を目指した男が言う。
「別に、理由は他にもあるのよ」
ヒロインが来てしまった以上、友人以上恋人未満を目指す必要がなくなった、っていう理由がね。そんなこと言えないけれど。
しかし今となって考えてみれば、私はこの人に対して恋愛感情を全く持っていなかったんだな。
シナリオのためにと彼に言い寄って、ヒロインが彼に近付く気配がないからとあっさり引けるんだから。
そう考えると、私は彼にとても失礼なことをしていたのだろう。
「なんか、今までごめんなさいね」
「いや、別にいいけど」
あっさりした奴で良かった。
「俺は別にいいけど、お前はあれでいいのか?」
彼が言う『あれ』というのは、見下ろす窓の外でヒロインと求婚マンが仲良さそうにしている現状のことだろうけど、いいも悪いもない。
私には関係ないんだから。
「……いいんじゃないかしら」
「そんなに寂しそうなのに?」
そんな彼の言葉に、私は一瞬目を瞠った。そして、すぐに苦笑を零す。
「しつこいのが来なくなったな、くらいにしか思っていないわよ。あなただってそうでしょ? 私みたいな鬱陶しいのが来なくなってホッとしてるくせに」
「お前の場合はなんか鬼気迫るもんがあったからな。でも別に鬱陶しいともホッとしたとも思ってない」
「ふぅん。……あなたは、私のことをなんだと思ってた? 友人だった?」
「まぁ……鬼気迫るもんがあったからなぁ」
二回言うほど鬼気迫ってたのか私。怖かっただろうなぁ。
でも私だって必死だったのだから、仕方がなかったのだ。そういうことにしておいてほしい。
「でも、そうだな……今のお前となら友人になれそうな気がするな」
……ということは、私は友人以上恋人未満どころか友人でもなかったってことじゃん。
今まで私がやってたことって一体何だったんだ。
私はそんなことを考えながら、深いため息を零す。
「お前がなんで俺にあそこまで執着してたかは知らないが、お前を幸せにするのは俺じゃなくてアイツだと思うんだよな」
私の深いため息を物ともせず、彼は見下ろす窓の外の求婚マンに視線を移す。
「でもあの女の子と仲良さそうにしてるじゃない?」
「いや、鬼気迫るお前を見てた俺なら分かる。あれは仲良くなんかない」
「鬼気迫る鬼気迫るって何回言うのよ」
「何回でも言う」
何回でもて。
どんだけ鬼気迫ってたんだ私。
「あの女にも、わりと鬼気迫るものを感じる」
「えぇ?」
私には仲良さそうにしか見えないけどなぁ。と、私は小さく首を傾げる。
「お前、あの二人が何の話してると思ってる?」
「わからないけど、いちゃいちゃしてるんじゃないの?」
「違うんだなぁこれが」
やれやれとでも言いたげな顔をされてしまった。
それだけではなく「これだからお前ってやつは」と完全に小ばかにされてしまい、ちょっと腹立たしい。
「声も聞こえない場所から見てるだけで二人が何の話をしてるかなんてわかるわけないじゃない」
「あの女はアイツの弟を狙ってるんだ。どうしても紹介してほしいっつってな」
弟? 求婚マンの弟といえば、重い病気を患っていて今にも死にそうな子だったはず。
求婚マンの両親はその弟だけを溺愛していて、求婚マンに対してお前がこの子の代わりになってくれればいいのにと言い放っていた。
そのせいで心に深い傷を負い、彼のシナリオだけがメンタルケアになったのだ。
それを知ってか知らずか弟を紹介してくれだなんて、よく言えるな。
「……その話、私が知らないだけ?」
「うーん、まぁ俺に夢中だったお前は知らないかもしれないが、結構有名な噂話だぞ」
なんだろう、ちょいちょい鼻につくなコイツ。
「アイツの弟、病弱らしいがとてつもなく顔がいいらしい」
「へぇ……」
スチルの片隅とかで見た気はするけど、あんまり覚えてないな。主要キャラ以外にそれほどガッツリ興味を抱くタイプじゃなかったしな。
「ただなぁ……アイツは前妻の子で弟は後妻の子ってのもあって家庭環境は大惨事だとか」
「……なんでそこまで知ってるの」
「……まぁ、ほら、女は噂話とか大好きだろ」
「女ねぇ」
「……俺の姉と妹たちがそういう話大好きなんだよ」
「あぁ、それはなんか、大変ね」
付き合わされてるのか聞かされてるのかは知らないけれど、彼の顔がうんざりしていたので、そこに大変さが滲み出ていた。
しかしまぁその噂話は知らないが、家庭環境が大惨事なのは知ってる。そのせいでのメンタルケアだったわけだから。
そんな状態で弟を紹介しろだなんて無茶な話だろう。
「じゃあなんで仲良さそうに見えたのかしら? アイツ的には弟を紹介しろだなんて言われても迷惑でしょうに」
「だから仲良さそうには見えないっつっただろ。俺に夢中過ぎて気が付かなかったか?」
「いや」
それは違う、と否定しようとしたところで、私の言葉尻を捕らえながら彼は口を開く。
「っつーのは冗談で、それだけお前があの二人から目を逸らしてるってことだろ」
「……は?」
「そりゃ見たくないわな。好きな奴が他の女といるところなんて」
……え、まさか。
まさか、私、アレのこと好きなの?
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