2 / 8
2
しおりを挟む
「やっぱりね!」
マリネルが笑っている。
私は一切笑えないというのに。
私を引き留めた見知らぬ男性は、テストの試験官で、鑑定スキルをお持ちの人だった。
そんな彼がざっと鑑定をしながら歩いていたところ、偶然私のスキルを発見したらしい。
特殊スキルだったからと呼び止められて、五次テストまで飛ばしていいと仰られたそうだ。
その五次テストで行われるのは魔法の技能テストなので、スキルの使いかたなんかもそこで披露することになる。
そのテストで受かってしまったら、魔王討伐部隊への入隊が決まってしまうわけだ。
「受かりませんように受かりませんように……」
笑うマリネルをよそに、呪詛のように吐き続けていた。
そんな呪詛が誰かに届くわけもなく、結局受かってしまった。
スキルの内容を聞かれて、魔術師様が幻影魔法で作り出した魔物の影と戦って、うっかり本気を出してしまって。
幼い頃から両親による嫌がらせ紛いの戦闘訓練を受けていて、ほんの少しでも手を抜こうものならぶん殴られたり飯を抜かれたりは当たり前だったので、手を抜くということが出来なかったのだ。マジでクソ。
そんな両親は王宮から届いた私宛ての手紙を勝手に読んで「鼻が高い」と高笑いをキメていた。うるさかった。こんなクソみたいな状況になったのはお前らのせいだからな。
そう思いながら、両親から手紙を奪い取ると、そこには魔王討伐部隊への正式な入隊が決まったことと入隊式が行われるということが書かれていた。
入隊式の場所は王宮騎士団の訓練所。日時は三日後の正午だそうだ。
もはや今から嫌な予感しかしないわけだけれど、入隊が決まってしまったのなら仕方がない。行くしかない。行きたくない。
「マリネルも一緒に行こうよ」
「選ばれてもない私が行けるわけないじゃない」
マリネルとそんな会話を交わした翌日、私は王宮騎士団の訓練所にやってきた。
そこにいたのは案の定、ヒロインと攻略対象キャラ御一行様だった。
何かの間違いで全然知らん人たちが集まっていたりしないかな、と淡い期待を抱いていたのだが、そんなに甘くはなかった。つらい。
御一行様の中央、一際目立つ桜色の髪に金色の瞳を持つ女性。あれがヒロインのリディアだ。世界最高ランクの治癒魔法が使える、はずだ。ゲームと一緒なら。
顔のいい男たちに囲まれて、あざとい感じの愛されスマイルを浮かべている。
そんなリディアを囲む男の中の一人、金髪に紫色の瞳のイケメンはこの国の第二王子である。名前はフレア。攻撃特化型で、炎の魔法を得意としている。
ちなみに第一王子も魔法は使えるし、戦闘力もある。それなのに第一王子ではなく第二王子がここにいるのは、魔王討伐で死ぬ可能性があるからだという設定があった。第一王子を死なせるわけにはいかないけれど、第二王子ならいいやってことだ。
その隣にいる男、銀髪に青い瞳のイケメンは近衛隊で銃士をやっているクヴェル。こちらは遠距離攻撃特化型で水魔法を得意としている。スーパークール系イケメンで、いわゆるツンデレだった。ゲームではね。現実は知らん。
そしてその隣の男が我々が通う学園の生徒会長、ハーラルト。彼は紫色の髪にオレンジ色の瞳、そして眼鏡。彼はどちらかというと攻撃防御ともに平均的で普通。しかし特殊スキルを持っていて、動物と心を通わせることが出来る。
その特殊スキルのせいで可愛い動物が寄って来たりするので、内心それが恥ずかしいらしい。可愛いポイントなんだろうな。
リディアの真後ろを陣取っているのが、赤い髪に赤い瞳のチャラ男、マルクス。あれは基本的に不真面目なので攻撃も防御も未知数である。しかし移動特化型の特殊スキルを所有しており、そのスキルを使って空を飛んでみたり壁を歩いてみたりして偵察を行うのが得意。
さらに、御一行様の輪からは少しだけ離れているけれど、一応近くにいる小柄な男がレオン。緑色の髪に濃いピンク色の瞳で、可愛らしい顔をしているのだが、実は毒舌家である。彼はハーラルトとは真逆で攻撃防御ともにトップクラス。周囲からは将来の大魔導士だと噂されている。
ヒロインであるリディアを取り囲んでいるのはこの五人である。
ヒロインは現在15歳で、フレアとハーラルトが年上キャラ。クヴェルとマルクスが同い年キャラ。レオンが年下キャラだったはず。
それからもう一人、魔力討伐部隊の引率の先生ポジションである魔術師、テレンスさん。黒髪黒目のミステリアスなカラーリングとは裏腹に柔和な人だった。年齢は25歳。ちなみに攻略対象キャラではないのだが、DLCを買えば攻略できるようになる。
ゲームに登場していたのはこのメンバーだけだった。あぁ、あと悪役令嬢の娘もだけど。生まれてないからな、あの子。
ゲームにいたのはこのメンバーだけだったのだが、今ここにはもう一人いる。いやモブである私もいるけど、私以外にもう一人。あれは誰だろう?
「皆さん揃いましたね。とりあえず自己紹介をしましょうか」
そう言ったのは引率の先生ポジションであるテレンスさんだった。
自己紹介を始めたのは第二王子であるフレアから。ハーラルト、クヴェル、マルクス、レオンと続き、リディアの自己紹介が始まれば、攻略対象キャラたちは瞳を輝かせながら聞いていた。
そうして私の番が回ってくる。
「ミレイア・セルベルです」
と、名を名乗ったところで、フレアが口を開く。
「じゃあ早速入隊式とやらを始めようか」
あぁそうですか。リディアの自己紹介さえ聞ければそれでいいんですか。モブである私のことなんてどうでもいいんですか。
ええ、ええ、どうせ私はモブですよ。別にいいんだけどね! 腹立たしい。
しかし自己紹介すらさせてもらえなかった人がもう一人いるんだけど? と、ゲームのメンバーではないもう一人のほうへと視線を移す。
「あ、どうも御者です」
私の視線を受けた彼がぺこりと会釈をしながらそう言った。
そうか、馬車移動だから御者さんがいるのか。良かった、モブは私だけじゃないらしい。
ただ御者さんは金髪にエメラルドグリーンの瞳をしている。私はモブらしくこの国ではとてもとても平凡な淡い茶色の髪とグレーに近い青い瞳なのに。
いやでも身近にモブがいてくれると心強いのは確かである。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
ぜひともモブ同士仲良くしていただきたい。
マリネルが笑っている。
私は一切笑えないというのに。
私を引き留めた見知らぬ男性は、テストの試験官で、鑑定スキルをお持ちの人だった。
そんな彼がざっと鑑定をしながら歩いていたところ、偶然私のスキルを発見したらしい。
特殊スキルだったからと呼び止められて、五次テストまで飛ばしていいと仰られたそうだ。
その五次テストで行われるのは魔法の技能テストなので、スキルの使いかたなんかもそこで披露することになる。
そのテストで受かってしまったら、魔王討伐部隊への入隊が決まってしまうわけだ。
「受かりませんように受かりませんように……」
笑うマリネルをよそに、呪詛のように吐き続けていた。
そんな呪詛が誰かに届くわけもなく、結局受かってしまった。
スキルの内容を聞かれて、魔術師様が幻影魔法で作り出した魔物の影と戦って、うっかり本気を出してしまって。
幼い頃から両親による嫌がらせ紛いの戦闘訓練を受けていて、ほんの少しでも手を抜こうものならぶん殴られたり飯を抜かれたりは当たり前だったので、手を抜くということが出来なかったのだ。マジでクソ。
そんな両親は王宮から届いた私宛ての手紙を勝手に読んで「鼻が高い」と高笑いをキメていた。うるさかった。こんなクソみたいな状況になったのはお前らのせいだからな。
そう思いながら、両親から手紙を奪い取ると、そこには魔王討伐部隊への正式な入隊が決まったことと入隊式が行われるということが書かれていた。
入隊式の場所は王宮騎士団の訓練所。日時は三日後の正午だそうだ。
もはや今から嫌な予感しかしないわけだけれど、入隊が決まってしまったのなら仕方がない。行くしかない。行きたくない。
「マリネルも一緒に行こうよ」
「選ばれてもない私が行けるわけないじゃない」
マリネルとそんな会話を交わした翌日、私は王宮騎士団の訓練所にやってきた。
そこにいたのは案の定、ヒロインと攻略対象キャラ御一行様だった。
何かの間違いで全然知らん人たちが集まっていたりしないかな、と淡い期待を抱いていたのだが、そんなに甘くはなかった。つらい。
御一行様の中央、一際目立つ桜色の髪に金色の瞳を持つ女性。あれがヒロインのリディアだ。世界最高ランクの治癒魔法が使える、はずだ。ゲームと一緒なら。
顔のいい男たちに囲まれて、あざとい感じの愛されスマイルを浮かべている。
そんなリディアを囲む男の中の一人、金髪に紫色の瞳のイケメンはこの国の第二王子である。名前はフレア。攻撃特化型で、炎の魔法を得意としている。
ちなみに第一王子も魔法は使えるし、戦闘力もある。それなのに第一王子ではなく第二王子がここにいるのは、魔王討伐で死ぬ可能性があるからだという設定があった。第一王子を死なせるわけにはいかないけれど、第二王子ならいいやってことだ。
その隣にいる男、銀髪に青い瞳のイケメンは近衛隊で銃士をやっているクヴェル。こちらは遠距離攻撃特化型で水魔法を得意としている。スーパークール系イケメンで、いわゆるツンデレだった。ゲームではね。現実は知らん。
そしてその隣の男が我々が通う学園の生徒会長、ハーラルト。彼は紫色の髪にオレンジ色の瞳、そして眼鏡。彼はどちらかというと攻撃防御ともに平均的で普通。しかし特殊スキルを持っていて、動物と心を通わせることが出来る。
その特殊スキルのせいで可愛い動物が寄って来たりするので、内心それが恥ずかしいらしい。可愛いポイントなんだろうな。
リディアの真後ろを陣取っているのが、赤い髪に赤い瞳のチャラ男、マルクス。あれは基本的に不真面目なので攻撃も防御も未知数である。しかし移動特化型の特殊スキルを所有しており、そのスキルを使って空を飛んでみたり壁を歩いてみたりして偵察を行うのが得意。
さらに、御一行様の輪からは少しだけ離れているけれど、一応近くにいる小柄な男がレオン。緑色の髪に濃いピンク色の瞳で、可愛らしい顔をしているのだが、実は毒舌家である。彼はハーラルトとは真逆で攻撃防御ともにトップクラス。周囲からは将来の大魔導士だと噂されている。
ヒロインであるリディアを取り囲んでいるのはこの五人である。
ヒロインは現在15歳で、フレアとハーラルトが年上キャラ。クヴェルとマルクスが同い年キャラ。レオンが年下キャラだったはず。
それからもう一人、魔力討伐部隊の引率の先生ポジションである魔術師、テレンスさん。黒髪黒目のミステリアスなカラーリングとは裏腹に柔和な人だった。年齢は25歳。ちなみに攻略対象キャラではないのだが、DLCを買えば攻略できるようになる。
ゲームに登場していたのはこのメンバーだけだった。あぁ、あと悪役令嬢の娘もだけど。生まれてないからな、あの子。
ゲームにいたのはこのメンバーだけだったのだが、今ここにはもう一人いる。いやモブである私もいるけど、私以外にもう一人。あれは誰だろう?
「皆さん揃いましたね。とりあえず自己紹介をしましょうか」
そう言ったのは引率の先生ポジションであるテレンスさんだった。
自己紹介を始めたのは第二王子であるフレアから。ハーラルト、クヴェル、マルクス、レオンと続き、リディアの自己紹介が始まれば、攻略対象キャラたちは瞳を輝かせながら聞いていた。
そうして私の番が回ってくる。
「ミレイア・セルベルです」
と、名を名乗ったところで、フレアが口を開く。
「じゃあ早速入隊式とやらを始めようか」
あぁそうですか。リディアの自己紹介さえ聞ければそれでいいんですか。モブである私のことなんてどうでもいいんですか。
ええ、ええ、どうせ私はモブですよ。別にいいんだけどね! 腹立たしい。
しかし自己紹介すらさせてもらえなかった人がもう一人いるんだけど? と、ゲームのメンバーではないもう一人のほうへと視線を移す。
「あ、どうも御者です」
私の視線を受けた彼がぺこりと会釈をしながらそう言った。
そうか、馬車移動だから御者さんがいるのか。良かった、モブは私だけじゃないらしい。
ただ御者さんは金髪にエメラルドグリーンの瞳をしている。私はモブらしくこの国ではとてもとても平凡な淡い茶色の髪とグレーに近い青い瞳なのに。
いやでも身近にモブがいてくれると心強いのは確かである。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
ぜひともモブ同士仲良くしていただきたい。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
57
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる