呪われた第三皇子と捨てられた令嬢

蔵崎とら

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「ちょっと先生、ここ! これをね、消していただきたいのよ。消せるかしら?」
「はい、消せますよ」
「本当? この憎きシミったら隠しても隠しても隠し切れないものだから困っていたのよ」
「このくらいであれば一瞬ですよ」
「助かるわぁ!」

 そう言った貴族のご婦人は、連れていた侍女からバッグを受け取り、ごそごそとその中から何かを取り出した。

「今日は先生にお礼の品を持ってきたのよ」
「お礼の品ですか?」

 はい、と渡されたので手を出して受け取ると、それはそれは綺麗な宝石だった。詳しい価値は分からないけれど高そうだということだけは分かる。

「こんな高価なもの、いただいてもいいんですか?」
「いいのよ! いつもお世話になっているもの。だから今日も綺麗によろしくね」
「承りました」

 はい”先生”ことこの世に生を受けた半月後に捨てられたどこぞの伯爵の私生児です、どうも。
 捨てられたのは半月後だったけれど、実際は生まれた瞬間に必要なしと判断されていた。女だったから。
 男だったら跡取りにするつもりでいたようだが、女なら実子がいるからとゴミのように捨てられたわけだ。
 生まれたばかりのことで当時の詳しい話は覚えていないけれど、一見すると小屋のような家にぶち込まれて、そこですくすくと育ってきた。
 そして私が十三歳になったころ、母親に新しい男が出来た。
 母親はその男と再婚するにあたり、私を連れて行く気でいたようだが、男のほうは乗り気ではない。
 そりゃあそうだ、私の存在なんか面倒だもの。だって、捨てられたとはいえ半分は伯爵の血が混ざっているのだから。
 私がいたらきっと母親は幸せになれない。そう思った私は、一人で小屋に残った。
 母親が幸せになれるのなら、それでよかったから。
 ……というのは建前で、一人になれば好きなように働くことが出来るから、今よりも生活水準が上げられたのだ。
 邪魔だという理由で捨てられたもんだから、私も己が邪魔だと判断したものはさくさく切り捨てるようにしているだけ。
 貴族の私生児なんて、八方美人で生きていけるほど甘くはない。

 私が始めた仕事というのは、魔女の美容診療所。
 仕事内容は主に治癒魔法を駆使してシミだったりホクロだったり痣だったりを消したり、皺を消したり。
 さらには色魔法を使っての染髪だったり、肌の色を白くしたり黒くしたり、さらには爪の色を染めたり。
 最初はそれほど稼げなかったけれど、口コミが広がったらしく、今では貴族のご婦人やらご令嬢やらが足繫く通ってくれている。
 女性の肌悩みやおしゃれ願望なんかはどの世界でも似たようなものなのだろう。
 治癒魔法の力はそれほど強くなかったけれど、努力と根性と少しの知識でうまく利用出来た。
 それから色魔法という火だの水だのという五大要素の欠片もない魔法は、世間的には使い道がなく役立たずだと言われているが、使いようによっては結構なんでも出来た。馬鹿と鋏は使いようってやつよね。
 そしてもう一つ。これは私を捨てた伯爵も、私の母親だって知らないもう一つの力。それは――おっと、またしても迷える子羊がやってきたようだ。

「シェリー先生、シェリー先生お願いします」
「はいはい、どうぞお入りなさい」

 涙声で私を呼ぶ声、それに穏やかな口調で応える。
 ドアから顔をのぞかせたのは、今にも泣きだしそうな、若くて美しい少女だった。

「シェリー先生は、傷を消せるとお聞きしました」
「ええ、消せますよ」
「これを、お願いできますか?」

 そう言った少女は、おそるおそる服を脱いで背中を向ける。

「あらあら」

 少女の背中にあったのは、まだ新しく生々しい傷と、無数の傷跡だ。この形状は、鞭だろうか?
 いやぁこれは酷い。鞭打ちって最悪外傷性ショックで死に至る可能性もあるって話だけど。

「この傷を、消してほしくて」
「傷も傷跡も消せますよ」
「お願いします!」

 少女はついに泣き出してしまった。まぁこの傷で泣いてなかった今までがおかしいのだけれど。

「でも、私、お金があまりなくて」
「払えるだけで大丈夫」

 まぁこんないたいけな少女から金をとらなくても、傲慢な貴族のご婦人からしこたまぼったくれるからな。

「とにかく、あちらのベッドへどうぞ。うつ伏せで待っていて」
「はい」

 とりあえず、まずは痛々しい傷を治療してから残りの傷跡を消そう。

「こんなになるまでよく我慢したわね」

 治癒魔法を施しながら、そう声を掛けると、少女は小さな声で受け答えをしてくれる。

「継母との折り合いが悪くて……」

 なるほど、犯人はクソ女、と。
 脳内のメモ帳に書き留める。

「そんな中で、私に縁談が来たのです。結婚すればあの家から出ることが出来る……だから、出来ればこの傷を消したくて……」

 折角結婚で家を出たのに、傷があるからとまた家に帰されたらたまったもんじゃないものね。

「その縁談は、いい縁談なのかしら?」
「意外にもいい縁談なのです。あの継母ですし私を適当な家に売り飛ばすくらいのことをするのだろうと思っていたのですが、それよりも先に私を気に入ってくれた人がいらっしゃって」

 それにしては、声があまり弾んでいない。
 自らの口でいい縁談だと言える相手との結婚で、嫌な継母がいる家から逃げ出せるというのなら、もう少し喜びがあってもいいはずだ。いくら背中が痛いとはいえ。

「……何か気がかりなことがあるのではない?」
「……それが、その縁談のことを、まだ継母は知らなくて。それと、継母の実子にも縁談が来たのですが、そちらのお相手よりもこちらのお相手のほうが身分も高く見目もいいのです」

 ふむ。
 その話が継母の耳に入った瞬間逆上するやつでは。

「よし、傷も治ったし傷跡も消えたわ。しばらく濡らした布で冷却するからそのままで待っていてね」
「はい」

 私は少女を待たせたまま、机の引き出しから魔石を薄いプレート状にしたものを取り出した。
 そしてそれに魔力を込める。黒く、禍々しい魔力を。
 そう、これは私を捨てた伯爵も、母親だって知らない秘密の力。闇の魔法だ。

「さてさて、もう起き上がっても大丈夫よ。ほら見て、綺麗に消えたわ」

 起き上がった少女を鏡の前に座らせて、手鏡を使って背中を見せた。

「まあ! ありがとう、本当にありがとうございますシェリー先生」
「どういたしまして」

 泣くほど喜んでくれるなんて、こちらも喜ばしい限りだ。

「その、えっと、料金はこのくらいしか」

 正直なところ相場以下ではあった。しかしまぁ、この少女から金をとるつもりはなかったし、とりあえず少女が持っていたお金の五分の一ほどを貰っておいた。
 タダにすると逆に気を遣うだろうから。

「お金はこれでいいわ。でもその代わり、これを出来るだけ肌身離さず持っていて」
「え、これは……? 魔石、ですか? 何か文字……模様……?」
「そう。『因果応報』」
「いうん、ん?」
「模様はともかくとして、お守りよ。それを持っていて、あなたの役に立ったかどうかを後日教えてもらえないかしら?」
「お守り……ということは、別に代金を支払わなければならないのでは……?」
「まだ試作品だし、試せる機会がないから協力してもらえたらなと思って」
「そういうことでしたら」

 納得はしたが理解は出来ない、そんな顔をしていたが、最終的には受け取ってくれた。
 この少女の言うことが本当で、あの傷が継母やその周辺人物によってつけられた物だとしたら、そんな悪事を働く人間には罰が当たるはずでしょう?




 

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