2 / 21
2
その少女との再会は、あれからたった二日後のことだった。
「シェリー先生、その……ちょっと、ご相談が」
多分あのお守りのことだろうなぁ、と思いつつ、私は少女を座らせた。
そして、テーブルに温かいミルクティーとクッキーを並べる。
「先日いただいたお守りが、割れてしまいました」
私が魔力を込めたプレート状の魔石が割れた。割れた、ということは効果を発揮したということだ。
「割れた後、あなたの周りに何か変化は?」
「それが……継母が、背中に強い痛みがあると言って寝込んでしまいました」
少女の継母が寝込んだということはどういうことか。
そこから私が推測出来ることと言えば、先日少女が言っていた話は嘘ではなかったということ。
実際に少女の継母が、少女の背中にあのおびただしいほどの傷跡を作っていたということ。
そして、おそらくまた叩かれそうになったのだろうということ。
そこで私の闇の魔法が発動し、己の行いが己に返ったということ。
そんなところだろう。
その後、お茶とお菓子で心を落ち着かせた少女が教えてくれたのは、ほとんど私の推測通りだった。
推測通りじゃなかったことといえば、叩かれていたのが背中だけじゃなかったことくらいかな。
「継母は、どれくらい寝込むのでしょうか?」
そんな少女の問いかけに、私は少しだけ考える素振りを見せる。
「あなたはどのくらいの期間、継母からの暴力に苦しんでいたの?」
「ええと、一年ほど」
「そう」
私はそう短く返して、ミルクティーを口に含む。
そんな私の様子を見て察したのか、少女はおずおずと口を開いた。
「……まさか、一年ほど?」
自分の行いが巡り廻って自分に返ってくる。それがあの魔石プレートに刻んだ『因果応報』の真意なのである。
善行も返ってくるものなので、いいことをしてたら痛い目は見なかったと思うのだけれどね。
「穏便に家を出て結婚出来るわね」
私のその言葉を聞いて、少女はあからさまにホッとしていた。
そうしてしばらく談笑した後、少女は晴れやかな笑顔で帰っていった。どうか彼女の結婚生活が、穏やかで幸せなものでありますように。
こうして女性の晴れやかな笑顔を見る瞬間が、私の楽しみであり生き甲斐だ、なんてことを考えていた時のこと。
ふと新聞の一面が視界に入る。……どうやら、私を捨てた伯爵が何かやらかしたらしい。
読み進めてみると、やらかしたのは横領だと書かれている。しかし一面に、しかもかなり大々的に掲載されているのに……横領だけだとは思えない。
もちろん横領だって立派な犯罪だけれど、死者のいない事件が一面に載るというのは本当に珍しい。
何しちゃったんだろうなぁ、伯爵。
私を捨てたんだから、それ相応の罰が当たってほしいものだ。没落とか? 取り潰しとか?
跡取り欲しさにそこらへんの女を捕まえて子どもを産ませて、産まれたのが女だったからっていう理由で捨てたくせに、その大事な大事な継ぐ家がなくなるとなれば……なんとも滑稽な話である。
まぁでも、捨てられたおかげで今回の事件の火の粉を被ることなく、実入りのいい仕事をしながらのんびり暮らしていくことが出来るわけだから、結果としては捨てられていて良かったのかもしれない。
なんて、対岸の火事を眺める気持ちで、一度鼻で笑ってからその新聞を放り投げたのだった。
しかしそれから数日後、まさかもまさか、対岸からものすごい勢いで火の粉が降って来やがった。
私には関係ないと鼻で笑っていたというのに、どうやら巻き込まれてしまいそうになっている。
突然外でバタバタと音がしたと思ったら、我が家、いや我が小屋のドアがどんどんと叩かれる。
外では男が大声で叫んでいた。
この小屋に来るのはほとんどが女性なので、半狂乱の男が来るなんて珍しい。
だがしかし男にだって消したい傷跡の一つや二つ、と、そこまで考えたところで男の叫び声が少し聞き取れた。
どうやら、再婚して出て行った母の名を叫んでいるらしい。
そんなに叫ばれてもここに母はいないのに。
「母ならもうここには居ませんが?」
ドアを開けてそう言って、ふと顔を上げて男の顔を見ると、今まで見た誰よりも顔色が悪い。
顔面蒼白ってこういう状態のことを言うんだなってくらい血色が悪い。そして汗が酷い。顔中びっちゃびちゃだ。
「セーラはどこだ!?」
「もうここには住んでいません。再婚して出て行きました」
「再婚!? 俺は聞いていないぞ!」
そんなこと私に怒鳴られたって知らないんだけども。お前に知らせる義務も義理もないと思われてたんじゃないのか。
「まぁ、まぁそんなことはどうでもいい。セーラを母だと言ったな? じゃあお前がシャーロットか」
「あー……そんな名前だったこともあるようなないような?」
幼い頃に、私には本当の名前があるとかないとか、母に言われたことがある。けれど、父親に捨てられた時にその名も捨てた。
そしてさっきから嫌な予感がしているのだが、この目の前にいる汗びちゃの男は、もしや?
「セーラの娘だということは、俺の娘だな」
私を捨てた男だな?
「ちょっと存じ上げません」
「いや、お前は俺の娘だ。セーラが別の男との間に子どもを作った話は聞いたことがない」
再婚の話も聞かせてもらってなかったくせに、どの口が言ってるんだか。
あ、そういえば、私を捨てた父親は今罪人なんだったっけ。じゃあこれ罪人じゃん。
「よし、お前は俺の娘だ。だから俺たちを助けろ」
……それが人にものを頼む態度か?
「シェリー先生、その……ちょっと、ご相談が」
多分あのお守りのことだろうなぁ、と思いつつ、私は少女を座らせた。
そして、テーブルに温かいミルクティーとクッキーを並べる。
「先日いただいたお守りが、割れてしまいました」
私が魔力を込めたプレート状の魔石が割れた。割れた、ということは効果を発揮したということだ。
「割れた後、あなたの周りに何か変化は?」
「それが……継母が、背中に強い痛みがあると言って寝込んでしまいました」
少女の継母が寝込んだということはどういうことか。
そこから私が推測出来ることと言えば、先日少女が言っていた話は嘘ではなかったということ。
実際に少女の継母が、少女の背中にあのおびただしいほどの傷跡を作っていたということ。
そして、おそらくまた叩かれそうになったのだろうということ。
そこで私の闇の魔法が発動し、己の行いが己に返ったということ。
そんなところだろう。
その後、お茶とお菓子で心を落ち着かせた少女が教えてくれたのは、ほとんど私の推測通りだった。
推測通りじゃなかったことといえば、叩かれていたのが背中だけじゃなかったことくらいかな。
「継母は、どれくらい寝込むのでしょうか?」
そんな少女の問いかけに、私は少しだけ考える素振りを見せる。
「あなたはどのくらいの期間、継母からの暴力に苦しんでいたの?」
「ええと、一年ほど」
「そう」
私はそう短く返して、ミルクティーを口に含む。
そんな私の様子を見て察したのか、少女はおずおずと口を開いた。
「……まさか、一年ほど?」
自分の行いが巡り廻って自分に返ってくる。それがあの魔石プレートに刻んだ『因果応報』の真意なのである。
善行も返ってくるものなので、いいことをしてたら痛い目は見なかったと思うのだけれどね。
「穏便に家を出て結婚出来るわね」
私のその言葉を聞いて、少女はあからさまにホッとしていた。
そうしてしばらく談笑した後、少女は晴れやかな笑顔で帰っていった。どうか彼女の結婚生活が、穏やかで幸せなものでありますように。
こうして女性の晴れやかな笑顔を見る瞬間が、私の楽しみであり生き甲斐だ、なんてことを考えていた時のこと。
ふと新聞の一面が視界に入る。……どうやら、私を捨てた伯爵が何かやらかしたらしい。
読み進めてみると、やらかしたのは横領だと書かれている。しかし一面に、しかもかなり大々的に掲載されているのに……横領だけだとは思えない。
もちろん横領だって立派な犯罪だけれど、死者のいない事件が一面に載るというのは本当に珍しい。
何しちゃったんだろうなぁ、伯爵。
私を捨てたんだから、それ相応の罰が当たってほしいものだ。没落とか? 取り潰しとか?
跡取り欲しさにそこらへんの女を捕まえて子どもを産ませて、産まれたのが女だったからっていう理由で捨てたくせに、その大事な大事な継ぐ家がなくなるとなれば……なんとも滑稽な話である。
まぁでも、捨てられたおかげで今回の事件の火の粉を被ることなく、実入りのいい仕事をしながらのんびり暮らしていくことが出来るわけだから、結果としては捨てられていて良かったのかもしれない。
なんて、対岸の火事を眺める気持ちで、一度鼻で笑ってからその新聞を放り投げたのだった。
しかしそれから数日後、まさかもまさか、対岸からものすごい勢いで火の粉が降って来やがった。
私には関係ないと鼻で笑っていたというのに、どうやら巻き込まれてしまいそうになっている。
突然外でバタバタと音がしたと思ったら、我が家、いや我が小屋のドアがどんどんと叩かれる。
外では男が大声で叫んでいた。
この小屋に来るのはほとんどが女性なので、半狂乱の男が来るなんて珍しい。
だがしかし男にだって消したい傷跡の一つや二つ、と、そこまで考えたところで男の叫び声が少し聞き取れた。
どうやら、再婚して出て行った母の名を叫んでいるらしい。
そんなに叫ばれてもここに母はいないのに。
「母ならもうここには居ませんが?」
ドアを開けてそう言って、ふと顔を上げて男の顔を見ると、今まで見た誰よりも顔色が悪い。
顔面蒼白ってこういう状態のことを言うんだなってくらい血色が悪い。そして汗が酷い。顔中びっちゃびちゃだ。
「セーラはどこだ!?」
「もうここには住んでいません。再婚して出て行きました」
「再婚!? 俺は聞いていないぞ!」
そんなこと私に怒鳴られたって知らないんだけども。お前に知らせる義務も義理もないと思われてたんじゃないのか。
「まぁ、まぁそんなことはどうでもいい。セーラを母だと言ったな? じゃあお前がシャーロットか」
「あー……そんな名前だったこともあるようなないような?」
幼い頃に、私には本当の名前があるとかないとか、母に言われたことがある。けれど、父親に捨てられた時にその名も捨てた。
そしてさっきから嫌な予感がしているのだが、この目の前にいる汗びちゃの男は、もしや?
「セーラの娘だということは、俺の娘だな」
私を捨てた男だな?
「ちょっと存じ上げません」
「いや、お前は俺の娘だ。セーラが別の男との間に子どもを作った話は聞いたことがない」
再婚の話も聞かせてもらってなかったくせに、どの口が言ってるんだか。
あ、そういえば、私を捨てた父親は今罪人なんだったっけ。じゃあこれ罪人じゃん。
「よし、お前は俺の娘だ。だから俺たちを助けろ」
……それが人にものを頼む態度か?
あなたにおすすめの小説
転生したら没落寸前だったので、お弁当屋さんになろうと思います。
皐月めい
恋愛
「婚約を破棄してほしい」
そう言われた瞬間、前世の記憶を思い出した私。
前世社畜だった私は伯爵令嬢に生まれ変わったラッキーガール……と思いきや。
父が亡くなり、母は倒れて、我が伯爵家にはとんでもない借金が残され、一年後には爵位も取り消し、七年婚約していた婚約者から婚約まで破棄された。最悪だよ。
使用人は解雇し、平民になる準備を始めようとしたのだけれど。
え、塊肉を切るところから料理が始まるとか正気ですか……?
その上デリバリーとテイクアウトがない世界で生きていける自信がないんだけど……この国のズボラはどうしてるの……?
あ、お弁当屋さんを作ればいいんだ!
能天気な転生令嬢が、自分の騎士とお弁当屋さんを立ち上げて幸せになるまでの話です。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
動物嫌いの婚約者……婚約破棄、助かりました ―幼い公爵令嬢は神獣たちにもふもふ囲まれて辺境で幸せに暮らします―
pdf
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、頭の上に小鳥、足元に白い犬、そばには黒猫という不思議な子たちに囲まれて暮らしていた。けれど婚約者である王太子は、そんな動物たちを嫌い、「そんな獣を飼っている相手は嫌だ」と婚約破棄を言い渡す。
傷つきながらも、リリアーナが思ったのはひとつだけ。
――この子たちを嫌う人と結婚しなくていいなら、助かります。
辺境の離宮へ移されたリリアーナを待っていたのは、広い森と澄んだ空気、そして大きな犬さん、猫さん、鳥さんたち。さらに彼女のまわりには次々と動物たちが集まりはじめ、やがて頭の上の小鳥、黒猫、白い犬が、ただの動物ではなく神獣だと気づかれていく。
それでもリリアーナにとっては、ぴよちゃんはぴよちゃん、ミーちゃんはミーちゃん、ワンちゃんはワンちゃん。
もふもふに囲まれながら、自分の「好き」を否定されない場所で、幼い令嬢は少しずつ幸せを見つけていく。
婚約破棄された幼い公爵令嬢と、彼女を選んだ神獣たちが紡ぐ、辺境もふもふ恋愛ファンタジー。
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
婚約破棄された地味令嬢、実は美貌を隠していただけでした
かきんとう
恋愛
王都でも指折りの名門、ローゼンベルク公爵家の大広間に、重苦しい空気が満ちていた。磨き上げられた床に反射するシャンデリアの光はいつもと変わらぬはずなのに、その場に集う貴族たちの視線はどこか好奇と期待に満ちていて、まるで見世物を待つ観客のようだった。
その中心に立たされているのは、ひとりの令嬢。
栗色の髪はきっちりと後ろで束ねられ、華やかさとは程遠い質素なドレス。顔立ちは整っているはずなのに、厚めの前髪と控えめな表情のせいで、印象はどうにも薄い。社交界では“地味令嬢”と呼ばれている少女――リシェル・エヴァンズである。
「リシェル・エヴァンズ」
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。