ゆるゆる冒険者生活にはカピバラを添えて

蔵崎とら

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「綺麗な所ね」
「うん。あと広い」

 魔法陣で移動してきたので、冒険者ギルドまでは一瞬だった。
 大きな門のそばに魔法陣用の建物があって、そこを出るとすぐに門がくぐれるようになっている。
 門をくぐると、目の前に広がる円形の広場。その中心には大きな噴水があった。
 広場の周りにぐるりと石畳の道があり、さらにその周りにいくつものお店が建っている。

「一つの街みたい」
「確かに」

 門を入ってすぐ右手にはパン屋さん。あれは看板が見えているので確実だ。
 そしてどこからか空腹を誘ういい香りがしているので他にも飲食店があるのだろう。お腹が空いてきた。
 他には服を売っている店、魔道具を売っている店、アクセサリーを売っている店、え、あれは聖獣用の服やアクセサリーを売っている店!? 行きたい! 今すぐにでも行きたい!

「リゼット姉さん、買い物は後だからね」
「……はい」

 冒険者ギルド本部は門から見て真正面、噴水の向こう側にある。
 私たちはとりあえず右回りで本部を目指すことにした。
 一軒目にパン屋さんがあって、あれはスープだろうか? 軽食が食べられそうなお店があって、なんだかいい香りがする美味しそうなものを売っているお店があって、服、魔道具、薬……あー! ここだわ聖獣用のリボンだったりスカーフだったりアクセサリーだったりを売っているお店! かわいい! 聖獣用アイテムショップ『永遠の夢』という看板がかかっている。後で来る。絶対に来る。

「着いたよ」
「あら」

 思ったより早く到着した気がする。
 冒険者ギルドは白い石造りの建物で、窓にはクリスタルと魔法石のステンドグラスが嵌め込まれている。
 今日、私たちが冒険者登録をするのは、この建物の中央。冒険者ギルド総合本部、モルガナイト館だ。
 冒険者登録等、基本的な事務仕事をしてくれるのがこのモルガナイト館の人たち、らしい。
 登録後にお世話になるのは、正面入って右手にあるジェイド館。ジェイド館では冒険者に依頼をしたり冒険者が依頼を受けたりするところ。
 そして左手にあるサファイア館。こちらは冒険者が持ってきた物を鑑定して買い取ってくれるところだそうだ。
 他にもアメジスト館、シトリン館などなど、色々と部署が分かれているとのことだったけれど、サロモンが言うには私たちが関わるのは主にモルガナイト館とジェイド館、そしてサファイア館だろうとのことだった。
 ちなみに冒険者ギルドの制服の胸元、ループタイにはそれぞれの館の名と同じ宝石があしらわれており、それを見るとどこの部署で働いている人なのかが分かるのだとか。

「こちらへどうぞ」
「はい」

 行き交う皆さんのループタイ観察をしていたところで自分の番がやってきた。多少の緊張はあるものの、聖獣召喚に比べれば大したことではない。
 冒険者登録は、基本的な個人情報と聖獣のデータをクリスタルが読み取ってくれて、それが宝石となって出てくる。
 その宝石を身に着けておけるようなアクセサリーに加工して登録完了となる。

「あわわ」

 データ読み取り用のクリスタルが「ぺっ」と吐き出すように宝石を出してくれた。
 もっとふわっと出してくれるもんだと思っていたからちょっと驚きつつも宝石を受け取る。
 その宝石を魔法の合成釜に入れて、お好みのアクセサリーを指定。
 あ、お察しの通りこのデータ読み取り用のクリスタルを創生したのもウォルミテ・ロユマノワだし、魔法の合成釜を作ったのもウォルミテ・ロユマノワである。

「どうしよう? ピアスにしておこうかしら」
「きゅるる」

 私の独り言にモルンが相槌を打ってくれている。かわいい。
 モルンの相槌が入ったことだし、やっぱりピアスにしておこう。
 指輪やネックレス、ブレスレットもいいけれど、ピアスが一番邪魔にならない気がするから。

「リゼット姉さん、登録出来た?」
「ええ、ほら」

 魔法の合成釜からピアスを受け取って、早速付けてみたところでサロモンに声を掛けられたので髪を耳にかけてピアスを見せびらかす。

「おぉ、綺麗な海みたいな青だ」

 この冒険者宝石は自分の魔力と聖獣の魔力の色が混ざって結晶化するらしいという話なので、私の魔力とモルンの魔力を混ぜると海の色になるということだ。
 あぁさっきのお店に海の色のスカーフなんかが売ってあればモルンの首に巻いてあげたい。私とお揃いだ。絶対かわいい。

「俺はブレスレットにしたよ」
「あら、なかなか素敵なブレスレットね。宝石の色は薔薇の色みたいね」

 サロモンとそんな会話をしていると、サロモンの聖獣ウォルクが頭で私の左手をグイグイと持ち上げる。
 なにごとかと思ったが、どうやらなでてほしいらしい。
 なでるくらいお安い御用だわ、ということでウォルクのつやつやで滑らかな額から後頭部に向けて数度なでる。
 するとウォルクは気持ちよさそうに目を細めた。
 しかしそれに気が付いたモルンが私とウォルクの間にのそのそと入り込み、鼻先をウォルクの脇腹に当てた。
 そしてその鼻先でウォルクを押し始めた。
 これはもしかして、モルンのヤキモチでは? え、かわいい。

「モルン」
「きゅるる」

 名を呼べば、ウォルクの脇腹から鼻先を離してこちらを向いてくれる。
 きゅるきゅると鳴きながら目を細めるモルンの額をなでれば、モルンは満足そうに「クククッ、クク」と喉を鳴らしたのだった。

「今ウォルクとモルン、小競り合いしてた?」
「してたみたい」

 サロモンと笑い合っていると遠くから「キエエェェェ」という絶叫が聞こえてきた。
 間髪入れずに「頼むから静かにしてくれ」というツッコミも聞こえる。

「イヴォンたちも戻ってきたな」
「絶叫で分かるわね」

 なんて話をしていたら大笑いするティーモと申し訳無さそうにしているイヴォンが戻ってきた。

「二人も登録は終わったの?」

 私がそう声を掛けると、ティーモがこくこくと数度頷く。

「無事登録完了です! っぷぷ、登録は無事完了したんですけど、イヴォンの聖獣が」
「笑うな……」

 私とサロモンが、何があったのかと問えば、どうやらイヴォンの聖獣アブルがよその聖獣に喧嘩を売ったらしい。

「どちらかというとアブルがキーキー言ってたくせに、喧嘩になった途端よその聖獣に向かって『頼むから静かにしてくれ』って言い出しちゃって」

 クルマサカオウムは人の言葉を操ることが出来るそうだから、きっとイヴォンがよく言っている言葉を覚えたのだろう。

「よその聖獣、確かカラスだったんですけど、その子が目を丸くしててそれがもう面白くて面白くて!」

 ティーモが腹を抱えて笑い出してしまった。
 なにはともあれ、四人とも聖獣召喚も出来たし冒険者登録も出来た。
 これからきっと、私たち四人と四匹のゆったり冒険者生活が始まる……はず!




 
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