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第13話 レストランバー、トロピカル
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最初の店、バールアスールを新聞広告で売りに出した。
アメリカで働いて金を貯めたという二十七、八歳のコスタリーカ人の若者に熱心に食い下がられ、買値よりさして儲けもせずに売ってやった。
彼もまたこれからコスタリーカで人生を開いていかなければならないのだ。
似た者同士で熱心に懇願する彼に親近感をおぼえた。
儲かっているからと、二店の同時経営の愚は避けた。
どっち付かずで両方ダメになるか、他人に任せれば現金商売では必ず従業員に泥棒されるからだ。
新装開店した南国風サロンの店を、”バールレストラン トロピカル” と命名し、チラシを町中にまいて大々的に宣伝した。
食べ物のメニューに日本的なものも加えて数を増やし、よりエキゾテイックな雰囲
気を出した。
早朝から麻袋を脇にしてメルカードに出かけ、材料の買い物を済ませた後、肩に担いで店に戻る行動パターンは以前と同じであったが、違うところはその量が倍加したことであった。
すでに学生ビザが切れて結婚による永住権ビザに切り替えていたので愛車のムスタングはもう学生ビザに依るカリフォルニアのナンバープレイトでの使用は効かず、輸入税を払って輸入措置をとるか、安く売っぱらってしまうかの選択を迫られた。
しかし、その関税があまりにも高いので残念ながら手放してしまった。
それ以後は、もっぱらタクシーを利用したが、メルカード以外の近場に商用があるときなど文字通り担ぎ屋で、大きい袋を肩に担いで街を彷徨ったものである。
しかし間違いなく健康は増進した。
東京での生活に比べるとその苦労に雲泥の差がありハードな毎日であったが、楽しい日々であった。
レストランなので厨房には専門のコックを雇い入れ、材料の仕込みは僕との二人でやっていたが、それでも足りないぐらいに営業規模が膨らんだ。
酒類販売の利益率が圧倒的に高く、儲けの源泉はあくまでもお客に呑んでもらうところにあったので、相変わらず客に呑ます為に僕のボカ開発の奮闘が続いていた。
一人でブラリとやって来るお客をほっとけないので、手薄の従業員の中で僕が話の相手を務めるバーテンダーとなった。
以前の下町の安バーに比べれば客層が格段のレベルアップをして、酔客の騒ぎも少な
く余裕を持ってお客との会話を楽しめた。
商売は徐々に上向き、半年もすると完全に上昇気流に乗ったように売上げが伸びていった。
週末だけで八百ドルの利益が出るようになった。
もっともこの商売は週末の金土日が勝負である。
月火水木はただ店を開けているだけの感じであった。
商売が軌道にのると人間誰しも考えることは同じで、僕もごたぶんにもれず少しは楽をしようと、僕の代わりのマネージャーを雇うことにした。
アウレリアのマクドナルドでの同僚、ホセ キーロスが信頼できる人物だったので、彼に依頼すると、快く引き受けてくれた。
彼は仕事をかげひなたなく忠実に実行し、五、六人の従業員仲間の信頼も得て、商売が順調に推移した。
またバーテンダーをやっていて、お客のウケも非常に良かったので商売繁盛に大いに寄与した。
それからは彼と二人して早朝のメルカードへ材料仕入れに担ぎ屋スタイルで出かけて行くのが常となった。
レストランでの仕事量が半分に激減した僕はウニバルサシオン(住宅造成地)の自宅の建築を進めることにした。
建築士の設計図をもとに、小金を費やし材料を随時、適量だけ買い込み、少しずつ建築を進めるラテン方式で、いわば貧乏節約型の建築方法であった。
その都度、建築労働者を雇い、僕も一緒に建築作業をやった。
おかげでコンクリートブロック塀の積み方や簡単な配管工事のやり方を習得した。
セメントのブロックを積み上げていると中から大きな褐色のサソリが、もそもそと這い出してきたのにはビックリ仰天した。
まさに手元であるから、静かにそこから手をずらし、ゆっくりとラダー(梯子)から降りなければならなかった。
脅かして飛びかかられたり、知らずして指が触れたりでもしたら、一大事だ。それも一度や二度ではなくしょっちゅなので、冷や汗の連続であった。
ブロックの空洞の内側が彼らにとって涼しくて居心地のいい居住地になっているのだ。
そこで一斉捕縛の為、保管場所に積み上げれられている全ブロック群の穴の中に棒を差し込み、出て来たところを棒アミで捕獲して、大きな瓶の中に留置した。
大小十数匹、禁固刑一ヶ月ほどで標本化した。
新マネージャーのホセの働きがめざましく、店の評判があがり週末にかかわらずサロンはお客で満杯となった。
またも我が家に春が訪れ、有頂天になった。
しかしながら、こういう時にえてして魔がさすものである。
アメリカで働いて金を貯めたという二十七、八歳のコスタリーカ人の若者に熱心に食い下がられ、買値よりさして儲けもせずに売ってやった。
彼もまたこれからコスタリーカで人生を開いていかなければならないのだ。
似た者同士で熱心に懇願する彼に親近感をおぼえた。
儲かっているからと、二店の同時経営の愚は避けた。
どっち付かずで両方ダメになるか、他人に任せれば現金商売では必ず従業員に泥棒されるからだ。
新装開店した南国風サロンの店を、”バールレストラン トロピカル” と命名し、チラシを町中にまいて大々的に宣伝した。
食べ物のメニューに日本的なものも加えて数を増やし、よりエキゾテイックな雰囲
気を出した。
早朝から麻袋を脇にしてメルカードに出かけ、材料の買い物を済ませた後、肩に担いで店に戻る行動パターンは以前と同じであったが、違うところはその量が倍加したことであった。
すでに学生ビザが切れて結婚による永住権ビザに切り替えていたので愛車のムスタングはもう学生ビザに依るカリフォルニアのナンバープレイトでの使用は効かず、輸入税を払って輸入措置をとるか、安く売っぱらってしまうかの選択を迫られた。
しかし、その関税があまりにも高いので残念ながら手放してしまった。
それ以後は、もっぱらタクシーを利用したが、メルカード以外の近場に商用があるときなど文字通り担ぎ屋で、大きい袋を肩に担いで街を彷徨ったものである。
しかし間違いなく健康は増進した。
東京での生活に比べるとその苦労に雲泥の差がありハードな毎日であったが、楽しい日々であった。
レストランなので厨房には専門のコックを雇い入れ、材料の仕込みは僕との二人でやっていたが、それでも足りないぐらいに営業規模が膨らんだ。
酒類販売の利益率が圧倒的に高く、儲けの源泉はあくまでもお客に呑んでもらうところにあったので、相変わらず客に呑ます為に僕のボカ開発の奮闘が続いていた。
一人でブラリとやって来るお客をほっとけないので、手薄の従業員の中で僕が話の相手を務めるバーテンダーとなった。
以前の下町の安バーに比べれば客層が格段のレベルアップをして、酔客の騒ぎも少な
く余裕を持ってお客との会話を楽しめた。
商売は徐々に上向き、半年もすると完全に上昇気流に乗ったように売上げが伸びていった。
週末だけで八百ドルの利益が出るようになった。
もっともこの商売は週末の金土日が勝負である。
月火水木はただ店を開けているだけの感じであった。
商売が軌道にのると人間誰しも考えることは同じで、僕もごたぶんにもれず少しは楽をしようと、僕の代わりのマネージャーを雇うことにした。
アウレリアのマクドナルドでの同僚、ホセ キーロスが信頼できる人物だったので、彼に依頼すると、快く引き受けてくれた。
彼は仕事をかげひなたなく忠実に実行し、五、六人の従業員仲間の信頼も得て、商売が順調に推移した。
またバーテンダーをやっていて、お客のウケも非常に良かったので商売繁盛に大いに寄与した。
それからは彼と二人して早朝のメルカードへ材料仕入れに担ぎ屋スタイルで出かけて行くのが常となった。
レストランでの仕事量が半分に激減した僕はウニバルサシオン(住宅造成地)の自宅の建築を進めることにした。
建築士の設計図をもとに、小金を費やし材料を随時、適量だけ買い込み、少しずつ建築を進めるラテン方式で、いわば貧乏節約型の建築方法であった。
その都度、建築労働者を雇い、僕も一緒に建築作業をやった。
おかげでコンクリートブロック塀の積み方や簡単な配管工事のやり方を習得した。
セメントのブロックを積み上げていると中から大きな褐色のサソリが、もそもそと這い出してきたのにはビックリ仰天した。
まさに手元であるから、静かにそこから手をずらし、ゆっくりとラダー(梯子)から降りなければならなかった。
脅かして飛びかかられたり、知らずして指が触れたりでもしたら、一大事だ。それも一度や二度ではなくしょっちゅなので、冷や汗の連続であった。
ブロックの空洞の内側が彼らにとって涼しくて居心地のいい居住地になっているのだ。
そこで一斉捕縛の為、保管場所に積み上げれられている全ブロック群の穴の中に棒を差し込み、出て来たところを棒アミで捕獲して、大きな瓶の中に留置した。
大小十数匹、禁固刑一ヶ月ほどで標本化した。
新マネージャーのホセの働きがめざましく、店の評判があがり週末にかかわらずサロンはお客で満杯となった。
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しかしながら、こういう時にえてして魔がさすものである。
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