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第8話 コスタリーカ国立大学、医学部入学
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次のコスタリーカ訪問では、正式な外国人留学生としての書類をコスタリーカ国立大学に提出した。
そして受理された。
まだ来年の新学期まで間があるが、あとは新年度の入学を待つだけだ。
その間にスペイン語の猛特訓をしようと決意した。
こうしてあの失恋旅行からコスタリーカへ留学するまでの一年あまりの間に東京からなんと7回半のコスタリーカ往復旅行をやってのけたのである。
この時世によくもそんなに地球の裏側まで頻繁に行けたものだと日本の友人に驚嘆されたが、言わずもがな、アウレリアの魅力がかくも絶大であったのだ。
最後の半回は言うまでもなく、行ってしまって日本へ戻らなかったからである。
最終回、七回目のコスタリーカ訪問から帰国した数日後、再びめぐって来た春の陽光の中ひとしきりの感慨を胸に秘めて、業務服のカバオールで身を包んだ僕はメインテナンス部長のオヘイゲンのオフイスを訪ねた。
「ミスター オヘイゲン、すっかりお世話になりましたけど、今度コスタリーカへ移住することにしました。ついては会社を辞めたいと思います」
「オイ、オイ、どういうことだ?将来パンナムを背負って立ってくれると期待していたのに。コスタリーカでスマッグラー(密輸業者)からいいオファーでもあったのか?」
「エ、エーッ、どういう事ですか?」
奇想天外の唐突な問いに面食らった僕は、むしろ興味深く反問した。
「オレの友達でカリブ海のスマッグラーの飛行機を整備して月に一万ドル稼いでる奴がいるよ」
「へーそんなこともあるんですか。実は、コスタリーカ女性の恋人ができて、僕はコスタリーカ大学の医学部に留学することに決めたんです」
「そうか、そういうことか。また新たなことに挑戦するのだな。お前は、努力家だからうまくいくことを祈っている。何か事情が変わったらいつでも戻って来い。お前にはリハイアブル(再雇用可)のレコメンデイションを出しておくよ」
「ハイ、有り難うございます。その節はヨロシク」
オヘイゲンは席を立つと、大きい体を揺すって僕を抱擁し、
「しっかりやれよ、お前はなかなかのチャレンジャーだ」
と激励してくれた。
それにしても世の中は広い、興味津々な事がいろいろとあるものだ。
先ほどのスマッグラーの整備士の話しには感心した。
離婚後ほかに落ち着くこともなく、弟のアパートに仮住まいをしてはや一年が経っていた。
その弟もこの春、無事慶応大学法学部を卒業して、僕のふるさとノースウエスト航空会社の同じ運行部乗務員課に就職した。
日本を去る心の準備はできていた。
愛する母に対する一抹の不安と侘しさが心の底にあったが、感無量であった。
座して自らを閉塞感に落とし込むよりも、飛び出して活路を求めるのだ、という冒険心であった。
思えば大学卒業のとき就職活動で日本航空を訪問した時の情景がよみがえった。
女性の人事課員が応えるに、
「教育大は推薦校に入っていません、どうしても日本航空に入りたければ一般公募で応募してください」
「へー、国有会社がそういう差別をしているのですか?その一般公募というのはどういうものですか?」
「毎年何千人もの応募があり、数人が合格します」
後者は国民の批判をかわすためのていのいいエクスキューズであり、ほとんどの入社定員は指定校の教授や会社役員のコネで決まってしまうのだ。
まあ当時の日本の会社すべてが似たようなものだった。
今も多分にそうであるが、当時はまさにコネ社会であった。
日本人はそれをごく自然な社会慣習と思っているが、女性の社会進出を拒む女性差別を筆頭に差別が社会のあらゆるところに存在する先進国では日本は稀に見る著しい差別国家である。
しかもそれに慣らされた国民にその自覚がないから、是正されることもないのである。
その時に芽生えた日本脱出のおぼろげな願望が形を伴い遂に日の目を見た。
人後に落ちぬ強烈なマザーコンプレックスの僕は愛するお袋と遠く離れ疎遠になるという危惧だけを除けば、日本を飛び出すことになんの抵抗感もなかった。
愛する新妻と生まれたての赤ん坊を連れて楽しく里帰りする光景がま
ぶたの裏に浮かんでいた。
しかし、その恐れていた危惧がまもなく現実のものとなり、僕を地獄の底に
突き落とすことになろうとは、そのとき知る由もなかった。
そして受理された。
まだ来年の新学期まで間があるが、あとは新年度の入学を待つだけだ。
その間にスペイン語の猛特訓をしようと決意した。
こうしてあの失恋旅行からコスタリーカへ留学するまでの一年あまりの間に東京からなんと7回半のコスタリーカ往復旅行をやってのけたのである。
この時世によくもそんなに地球の裏側まで頻繁に行けたものだと日本の友人に驚嘆されたが、言わずもがな、アウレリアの魅力がかくも絶大であったのだ。
最後の半回は言うまでもなく、行ってしまって日本へ戻らなかったからである。
最終回、七回目のコスタリーカ訪問から帰国した数日後、再びめぐって来た春の陽光の中ひとしきりの感慨を胸に秘めて、業務服のカバオールで身を包んだ僕はメインテナンス部長のオヘイゲンのオフイスを訪ねた。
「ミスター オヘイゲン、すっかりお世話になりましたけど、今度コスタリーカへ移住することにしました。ついては会社を辞めたいと思います」
「オイ、オイ、どういうことだ?将来パンナムを背負って立ってくれると期待していたのに。コスタリーカでスマッグラー(密輸業者)からいいオファーでもあったのか?」
「エ、エーッ、どういう事ですか?」
奇想天外の唐突な問いに面食らった僕は、むしろ興味深く反問した。
「オレの友達でカリブ海のスマッグラーの飛行機を整備して月に一万ドル稼いでる奴がいるよ」
「へーそんなこともあるんですか。実は、コスタリーカ女性の恋人ができて、僕はコスタリーカ大学の医学部に留学することに決めたんです」
「そうか、そういうことか。また新たなことに挑戦するのだな。お前は、努力家だからうまくいくことを祈っている。何か事情が変わったらいつでも戻って来い。お前にはリハイアブル(再雇用可)のレコメンデイションを出しておくよ」
「ハイ、有り難うございます。その節はヨロシク」
オヘイゲンは席を立つと、大きい体を揺すって僕を抱擁し、
「しっかりやれよ、お前はなかなかのチャレンジャーだ」
と激励してくれた。
それにしても世の中は広い、興味津々な事がいろいろとあるものだ。
先ほどのスマッグラーの整備士の話しには感心した。
離婚後ほかに落ち着くこともなく、弟のアパートに仮住まいをしてはや一年が経っていた。
その弟もこの春、無事慶応大学法学部を卒業して、僕のふるさとノースウエスト航空会社の同じ運行部乗務員課に就職した。
日本を去る心の準備はできていた。
愛する母に対する一抹の不安と侘しさが心の底にあったが、感無量であった。
座して自らを閉塞感に落とし込むよりも、飛び出して活路を求めるのだ、という冒険心であった。
思えば大学卒業のとき就職活動で日本航空を訪問した時の情景がよみがえった。
女性の人事課員が応えるに、
「教育大は推薦校に入っていません、どうしても日本航空に入りたければ一般公募で応募してください」
「へー、国有会社がそういう差別をしているのですか?その一般公募というのはどういうものですか?」
「毎年何千人もの応募があり、数人が合格します」
後者は国民の批判をかわすためのていのいいエクスキューズであり、ほとんどの入社定員は指定校の教授や会社役員のコネで決まってしまうのだ。
まあ当時の日本の会社すべてが似たようなものだった。
今も多分にそうであるが、当時はまさにコネ社会であった。
日本人はそれをごく自然な社会慣習と思っているが、女性の社会進出を拒む女性差別を筆頭に差別が社会のあらゆるところに存在する先進国では日本は稀に見る著しい差別国家である。
しかもそれに慣らされた国民にその自覚がないから、是正されることもないのである。
その時に芽生えた日本脱出のおぼろげな願望が形を伴い遂に日の目を見た。
人後に落ちぬ強烈なマザーコンプレックスの僕は愛するお袋と遠く離れ疎遠になるという危惧だけを除けば、日本を飛び出すことになんの抵抗感もなかった。
愛する新妻と生まれたての赤ん坊を連れて楽しく里帰りする光景がま
ぶたの裏に浮かんでいた。
しかし、その恐れていた危惧がまもなく現実のものとなり、僕を地獄の底に
突き落とすことになろうとは、そのとき知る由もなかった。
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