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第9話 メキシコ、中米、ムスタング紀行
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最後のコスタリーカ行きはロスアンゼルスまでの片道航空券であとは車によるドライブ旅行となった。
すでにノースウエスト航空で働いていた弟とロスアンゼルスで待ち合わせ、67年型のグリーンのムスタングをロスの中古車センターで買って、メキシコ縦断、中米南下の旅に出た。
3年ほど使ったものであったが1967年型の特にグリーン カラーのムスタングは当時アメリカで一世を風靡した人気車種であった。
ベージュがかった白いレザーのシートカバーは外側のグリーンとよく調和がとれていた。
急ぐ旅でもないので10日間ほどかけてゆっくりと行くことにした。
サンデイエゴの国境を越えてからノガーレスの砂漠を横切って南下した。
かってヒッピー旅行をしていたとき知り合ったメキシコ大学生のギエルモが彼の故郷シウダー・カマルゴで弁護士事務所を開いていたので一泊して再会を祝った。
まだ独身であり実家に住んでいたが、彼のうちは代々当地の大地主であった。
兄弟八人の大家族で、結婚してその土地に住んでる兄弟が子供連れで押しかけて来て、その夜は盛大なフィエスタ(パーテイー)となった。
七年前、メキシコシテイーの彼の広いアパートにメキシコ大生が四、五人同居しており、そこに僕も加えてもらい半年ばかり一緒に暮らした仲だ。
アパートの位置するコロニアル ナポレスの歓楽街に夜な夜なみんなで繰り出してはドンチャン騒ぎをやっていた。
時どきアカプルコやベラクルースにヒッチハイクや安いローカル バスで連れ立って出かけて行き、ナイトクラブで女の娘たちと戯れたりしたこともあったが、全てが若気の至りで楽しい思い出でになっていた。
そういう昔話に花を咲かせその夜の宴は延々と続いた。
翌日からの三、四日は弟のために前に訪れたことのある史跡を再訪することにした。
革命児サパタの故郷チワワ、ケレタロのローマ王朝のそれを模倣した高いレンガ壁の上の上水道、メキシコ・シテイーは考古学博物館をはじめ見どころは枚挙にいとまがないほど多数あったが、時間の制約でその一部にとどめた。
シテイーを後にすると、オハカの古い建造物、途中のマヤやアステカの遺跡などメキシコは観る物にこと欠かなく興味が尽きない。
メキシコを去ってシウダーデイダルゴでグアテマラに入国するも、この国は素通りすることに決めた。
マヤの遺跡を見学して行きたいのはやまやまだが、迂回すると所要日数に二、三日は余分にかかるので今回は涙を飲んで次回に譲った。
グアテマラの国境を越えエル サルバドールに入ると、パンアメリカン国道一号線はジャングルをぬって一直線に首都サン サルバドールをめざす。
わずか2時間ほどで到達でき、それから半日もすれば国外に抜ける小さい国である。
国境越えでの車の通関手続きに疲れた僕は弟に運転を代わってもらい、助手
席でシートを倒し、うたた寝を決め込んでいた。
突然の急ブレーキで身体が浮き上がり前面のダッシュボードに頭をぶっつけた。
目を開けるとそこに異様な光景が急展開した。
車の脇の道路から迷彩色の戦闘服を着た国軍兵が二人ボンネットに乗り上がらんばかりに駆け上がり小銃を弟と僕に突きつけた。
「どうしたんだ!?」
とびっくりして弟に訊くと。
「こいつらがイキナリ道路脇の茂みから飛び出してきて銃を向けるので」
と弟は返答した。
僕は車の窓から首を出して叫んだ。
「ケパサ(どうしたんだ)? 俺たちは何もしてないだろうが」
「我々を首都まで乗っけて行ってくれ」
と今度は穏やかな懇願する顔付きになった。
「なんだ、ヒッチハイクか? それだったら、こうして指を立てて頼めばいいんだよ」
と僕は窓の外に腕を突き出して親指を立てた仕草をして見せた。
「そうやって何度もやってみたがどの車も止まってくれないんだ」
「そうか、それで検問のホールドアップという訳か、エスタ ビエン(まーいい)、乗れよ」
「ムーチャ グラシアス セニョール」
「エントンセス(で、)どこ迄いくんだい?」
「カピタル(首都)までお願いします」
田舎出の兵隊なのか実に素朴だ。
しかも軍隊の教育も行き届いている。
下手をすると悪い兵隊だったら身ぐるみをはがす追い剥ぎに仾変しても不思議ではなかった。
「国軍に協力するのは国民の務めなのに、素通りしていくなんて情けない奴らだ。そんなことじゃ、隣のニカラグアみたいに革命が起こるぞ」
「もうその兆しがありますよ、セニョール」
かって非常に平和であった中米もこの時分から次第に険悪な情勢へと移行して行った。
当時コスタリーカに次いでサルバドールも他の中米諸国に軽工業製品を輸出するほどの優れた工業レベルを誇っていたがこの数年後に内乱が勃発して国内情勢は混迷を極めていった。
その点コスタリーカは民主化を維持して現在に至っており、中米六カ国の中ではずば抜けて優れた国だ。
まだ日も高いので首都サンサルバドールでは車で街を一巡りして、サンミゲルまで足を伸ばし一泊することにした。
翌日は朝から数時間でサルバドールの国境を越えホジュラスに入国しした。
この国境とニカラグアまでの国境間のパンアメリカン道路はホンジュラスの尻尾のような南端部を横断するだけで、あっという間の距離ですぐにニカラグアの国境の手前までやって来た。
そこでふと7年前のヒッピー旅行の時に起きた珍事件のことがよみがえった。
ヒッピーの文無し旅行でこの同じ国境にやって来て、ニカラグア側のカスタム、イミグレイション(税関、移民局)オフイスを通過するとき、20ドルの入国税を請求されたので、旅行小切手の100ドル札しか持ってなく、
「これでお釣りを頂こう」
と言うと、
「その小切手の真偽が確認できないから、受け取れない」
「では首都に着いたら、移民局に出向いて払うよ」
「必ずだぞ、でないと出国できないからな」
というような問答の末、入国させてもらい、首都マナグアに行ったがすっかりそのことを忘れてしまい、二、三日後にニカラグアを出国しようとコスタリーカとの国境に来た時に思い出した。
しかも状況は同じで、ドルの小金が依然として無かった。
この辺鄙な国境の村にはトラベラーズチェックを受け取ってくれるような大きい店などは無かった。
仕方なく,すっとぼけてイミグレを通り過ぎようとしたが、パ
スポートとリストを見比べられ、
「あんたは入国税をまだ払ってない」
と係官に指摘された。
「ちゃんと払ってますよ、もう一度よく調べてください」
彼は背後の壁にぶら下がっているテレックスの束を取り出して入念に一枚一枚たぐっている。
その間僕は周りを見回した。
オフイスの出口からすぐ傍に4、50メートル幅の谷を挟んで吊り橋が架かっていた。
対岸にはコスタリーカ側の国境オフイスが構えており、軍服姿の警備兵が小銃を肩に警護していた。
コスタリーカには軍隊が無いので、彼らはガルデイア ルーラルと言って警察保安隊なのだ。
「無いなー、いつ払ったんだ?」
「今朝マナグアを発つ時に払ってきました」
「そうか、この電報は昨日までの分だから..」
と言いかけて、カチャカチャと音のする奥のテレックス ルームへ入っていった。
- - - 良かった、夕がた此処にやって来て - - -と思った。
マナグアから此処までバスで丸一日の旅路なのだ。
僕はカウンターの上に置かれた自分のパスポートを掴み上げて静かに後ずさりし、横滑りに急いで歩を進め、出口を飛び出したらあとは脱兎のごとく駈けだした。
吊り橋をゴトゴト音を立てて走り去る背後から、「止まれチーノ(中国人)!撃つぞ!」
と、大声で叫んだ。
走り寄る前面のコスタリーカ側の兵士たちは大仰に両手を振って、
「早く、早く、駆け込めッ!」
と叫びながら、僕を招き寄せている。
もし撃てば、弾が逸れて前面のコスタリーカ兵にでも当たったら大変な国際問題になる。
どうせ撃ちっこないと踏んで、前面のコスタリーカ兵たちは歓喜していた。
こんなことで足止めを食らっていたら、
「また、マナグアに戻って二十ドルの現金を用意して来い」
と言われかねなかった。
もうあれから七、八年も経ち政権も変わったので記録も無いだろう、もし咎められても罰金を払えば済むかも、最悪の場合一晩ぐらい留置所の世話になるか、などと一抹の不安を抱えてホンジュラス側からニカラグアの国境オフイスへ入っていった。
しかし、ありがたいことに何も問題はなく、車でニカラグア再入国を果たした。
世の中のすべての問題は時が解決してくれるものだ。
ニカラグアの首都マナグアは碁盤の目のように都市計画で整備された居心地の良い都市である。
弟はかつてソモサ政権が君臨した大宮殿を興味深く眺めていた。
マナグアでも一泊し翌朝は早くから、この地帯に複数あるピラミッド型の火山、ニカラグア富士の麓を這うように抜けてコスタリーカの国境へやってきた。
七、八年前とは打って変わり立派な道路に橋が掛かっていた。
期待のコスタリーカに入国したら辺りは一変した。
綺麗な舗装に、道路沿いにはゴミがなく、清潔感にあふれている。
道路沿いの人家もこ綺麗で、すべてのものがコスタリーカは他の中米諸国に比べ卓越していた。
ムスタングは連日の長いドライブに耐え、故障する事もなく十日目の今日もエンジンの快音を鳴らし疾走していた。
もうじき待望の愛しいアウレリアに会えるかと思うと、胸がはち切れんばかりの高揚感におそわれた。
コスタリーカの首都サンホセにその日の夕方に到着するとアウレリアの家族から大歓迎を受けて、旅の疲れも吹き飛んだ。
今度は堂々と家族の前でアウレリアを抱き寄せて唇に熱いキスをした。
兄弟が祝福するように拍手した。
もうアウレリアは完全に公認のぼくの恋人だ。
近所の人たちもグリーンのムスタングを囲み、その流麗な美しさに見入っていた。
僕はすでに彼らに紹介されており、隣人たちとは気さくな間柄になっていた。
こうしてメキシコと中米の車による縦断旅行を成し遂げて感無量であったが、後年になってもまたいつかやりたいという願望に駆られている。
帰着後さっそく彼女の家の近くに賃貸でだされていた新築の一軒屋を借りうけて住みはじめた。
弟はあと二、三日の滞在予定日を残してコスタリーカを満喫していた。
アウレリアの元同僚でマクドナルドで現在も働いている、飄々としたホセ・キーロスはアウレリアと僕の仲を取り持ってくれた気の置けない僕の友達でもあるが、弟と二人でアセリの彼の家を訪ねると、彼の妹のラウラを弟に紹介した。
若い彼らは意気投合して翌日にもデイトへ出かけて行った。
すでにノースウエスト航空で働いていた弟とロスアンゼルスで待ち合わせ、67年型のグリーンのムスタングをロスの中古車センターで買って、メキシコ縦断、中米南下の旅に出た。
3年ほど使ったものであったが1967年型の特にグリーン カラーのムスタングは当時アメリカで一世を風靡した人気車種であった。
ベージュがかった白いレザーのシートカバーは外側のグリーンとよく調和がとれていた。
急ぐ旅でもないので10日間ほどかけてゆっくりと行くことにした。
サンデイエゴの国境を越えてからノガーレスの砂漠を横切って南下した。
かってヒッピー旅行をしていたとき知り合ったメキシコ大学生のギエルモが彼の故郷シウダー・カマルゴで弁護士事務所を開いていたので一泊して再会を祝った。
まだ独身であり実家に住んでいたが、彼のうちは代々当地の大地主であった。
兄弟八人の大家族で、結婚してその土地に住んでる兄弟が子供連れで押しかけて来て、その夜は盛大なフィエスタ(パーテイー)となった。
七年前、メキシコシテイーの彼の広いアパートにメキシコ大生が四、五人同居しており、そこに僕も加えてもらい半年ばかり一緒に暮らした仲だ。
アパートの位置するコロニアル ナポレスの歓楽街に夜な夜なみんなで繰り出してはドンチャン騒ぎをやっていた。
時どきアカプルコやベラクルースにヒッチハイクや安いローカル バスで連れ立って出かけて行き、ナイトクラブで女の娘たちと戯れたりしたこともあったが、全てが若気の至りで楽しい思い出でになっていた。
そういう昔話に花を咲かせその夜の宴は延々と続いた。
翌日からの三、四日は弟のために前に訪れたことのある史跡を再訪することにした。
革命児サパタの故郷チワワ、ケレタロのローマ王朝のそれを模倣した高いレンガ壁の上の上水道、メキシコ・シテイーは考古学博物館をはじめ見どころは枚挙にいとまがないほど多数あったが、時間の制約でその一部にとどめた。
シテイーを後にすると、オハカの古い建造物、途中のマヤやアステカの遺跡などメキシコは観る物にこと欠かなく興味が尽きない。
メキシコを去ってシウダーデイダルゴでグアテマラに入国するも、この国は素通りすることに決めた。
マヤの遺跡を見学して行きたいのはやまやまだが、迂回すると所要日数に二、三日は余分にかかるので今回は涙を飲んで次回に譲った。
グアテマラの国境を越えエル サルバドールに入ると、パンアメリカン国道一号線はジャングルをぬって一直線に首都サン サルバドールをめざす。
わずか2時間ほどで到達でき、それから半日もすれば国外に抜ける小さい国である。
国境越えでの車の通関手続きに疲れた僕は弟に運転を代わってもらい、助手
席でシートを倒し、うたた寝を決め込んでいた。
突然の急ブレーキで身体が浮き上がり前面のダッシュボードに頭をぶっつけた。
目を開けるとそこに異様な光景が急展開した。
車の脇の道路から迷彩色の戦闘服を着た国軍兵が二人ボンネットに乗り上がらんばかりに駆け上がり小銃を弟と僕に突きつけた。
「どうしたんだ!?」
とびっくりして弟に訊くと。
「こいつらがイキナリ道路脇の茂みから飛び出してきて銃を向けるので」
と弟は返答した。
僕は車の窓から首を出して叫んだ。
「ケパサ(どうしたんだ)? 俺たちは何もしてないだろうが」
「我々を首都まで乗っけて行ってくれ」
と今度は穏やかな懇願する顔付きになった。
「なんだ、ヒッチハイクか? それだったら、こうして指を立てて頼めばいいんだよ」
と僕は窓の外に腕を突き出して親指を立てた仕草をして見せた。
「そうやって何度もやってみたがどの車も止まってくれないんだ」
「そうか、それで検問のホールドアップという訳か、エスタ ビエン(まーいい)、乗れよ」
「ムーチャ グラシアス セニョール」
「エントンセス(で、)どこ迄いくんだい?」
「カピタル(首都)までお願いします」
田舎出の兵隊なのか実に素朴だ。
しかも軍隊の教育も行き届いている。
下手をすると悪い兵隊だったら身ぐるみをはがす追い剥ぎに仾変しても不思議ではなかった。
「国軍に協力するのは国民の務めなのに、素通りしていくなんて情けない奴らだ。そんなことじゃ、隣のニカラグアみたいに革命が起こるぞ」
「もうその兆しがありますよ、セニョール」
かって非常に平和であった中米もこの時分から次第に険悪な情勢へと移行して行った。
当時コスタリーカに次いでサルバドールも他の中米諸国に軽工業製品を輸出するほどの優れた工業レベルを誇っていたがこの数年後に内乱が勃発して国内情勢は混迷を極めていった。
その点コスタリーカは民主化を維持して現在に至っており、中米六カ国の中ではずば抜けて優れた国だ。
まだ日も高いので首都サンサルバドールでは車で街を一巡りして、サンミゲルまで足を伸ばし一泊することにした。
翌日は朝から数時間でサルバドールの国境を越えホジュラスに入国しした。
この国境とニカラグアまでの国境間のパンアメリカン道路はホンジュラスの尻尾のような南端部を横断するだけで、あっという間の距離ですぐにニカラグアの国境の手前までやって来た。
そこでふと7年前のヒッピー旅行の時に起きた珍事件のことがよみがえった。
ヒッピーの文無し旅行でこの同じ国境にやって来て、ニカラグア側のカスタム、イミグレイション(税関、移民局)オフイスを通過するとき、20ドルの入国税を請求されたので、旅行小切手の100ドル札しか持ってなく、
「これでお釣りを頂こう」
と言うと、
「その小切手の真偽が確認できないから、受け取れない」
「では首都に着いたら、移民局に出向いて払うよ」
「必ずだぞ、でないと出国できないからな」
というような問答の末、入国させてもらい、首都マナグアに行ったがすっかりそのことを忘れてしまい、二、三日後にニカラグアを出国しようとコスタリーカとの国境に来た時に思い出した。
しかも状況は同じで、ドルの小金が依然として無かった。
この辺鄙な国境の村にはトラベラーズチェックを受け取ってくれるような大きい店などは無かった。
仕方なく,すっとぼけてイミグレを通り過ぎようとしたが、パ
スポートとリストを見比べられ、
「あんたは入国税をまだ払ってない」
と係官に指摘された。
「ちゃんと払ってますよ、もう一度よく調べてください」
彼は背後の壁にぶら下がっているテレックスの束を取り出して入念に一枚一枚たぐっている。
その間僕は周りを見回した。
オフイスの出口からすぐ傍に4、50メートル幅の谷を挟んで吊り橋が架かっていた。
対岸にはコスタリーカ側の国境オフイスが構えており、軍服姿の警備兵が小銃を肩に警護していた。
コスタリーカには軍隊が無いので、彼らはガルデイア ルーラルと言って警察保安隊なのだ。
「無いなー、いつ払ったんだ?」
「今朝マナグアを発つ時に払ってきました」
「そうか、この電報は昨日までの分だから..」
と言いかけて、カチャカチャと音のする奥のテレックス ルームへ入っていった。
- - - 良かった、夕がた此処にやって来て - - -と思った。
マナグアから此処までバスで丸一日の旅路なのだ。
僕はカウンターの上に置かれた自分のパスポートを掴み上げて静かに後ずさりし、横滑りに急いで歩を進め、出口を飛び出したらあとは脱兎のごとく駈けだした。
吊り橋をゴトゴト音を立てて走り去る背後から、「止まれチーノ(中国人)!撃つぞ!」
と、大声で叫んだ。
走り寄る前面のコスタリーカ側の兵士たちは大仰に両手を振って、
「早く、早く、駆け込めッ!」
と叫びながら、僕を招き寄せている。
もし撃てば、弾が逸れて前面のコスタリーカ兵にでも当たったら大変な国際問題になる。
どうせ撃ちっこないと踏んで、前面のコスタリーカ兵たちは歓喜していた。
こんなことで足止めを食らっていたら、
「また、マナグアに戻って二十ドルの現金を用意して来い」
と言われかねなかった。
もうあれから七、八年も経ち政権も変わったので記録も無いだろう、もし咎められても罰金を払えば済むかも、最悪の場合一晩ぐらい留置所の世話になるか、などと一抹の不安を抱えてホンジュラス側からニカラグアの国境オフイスへ入っていった。
しかし、ありがたいことに何も問題はなく、車でニカラグア再入国を果たした。
世の中のすべての問題は時が解決してくれるものだ。
ニカラグアの首都マナグアは碁盤の目のように都市計画で整備された居心地の良い都市である。
弟はかつてソモサ政権が君臨した大宮殿を興味深く眺めていた。
マナグアでも一泊し翌朝は早くから、この地帯に複数あるピラミッド型の火山、ニカラグア富士の麓を這うように抜けてコスタリーカの国境へやってきた。
七、八年前とは打って変わり立派な道路に橋が掛かっていた。
期待のコスタリーカに入国したら辺りは一変した。
綺麗な舗装に、道路沿いにはゴミがなく、清潔感にあふれている。
道路沿いの人家もこ綺麗で、すべてのものがコスタリーカは他の中米諸国に比べ卓越していた。
ムスタングは連日の長いドライブに耐え、故障する事もなく十日目の今日もエンジンの快音を鳴らし疾走していた。
もうじき待望の愛しいアウレリアに会えるかと思うと、胸がはち切れんばかりの高揚感におそわれた。
コスタリーカの首都サンホセにその日の夕方に到着するとアウレリアの家族から大歓迎を受けて、旅の疲れも吹き飛んだ。
今度は堂々と家族の前でアウレリアを抱き寄せて唇に熱いキスをした。
兄弟が祝福するように拍手した。
もうアウレリアは完全に公認のぼくの恋人だ。
近所の人たちもグリーンのムスタングを囲み、その流麗な美しさに見入っていた。
僕はすでに彼らに紹介されており、隣人たちとは気さくな間柄になっていた。
こうしてメキシコと中米の車による縦断旅行を成し遂げて感無量であったが、後年になってもまたいつかやりたいという願望に駆られている。
帰着後さっそく彼女の家の近くに賃貸でだされていた新築の一軒屋を借りうけて住みはじめた。
弟はあと二、三日の滞在予定日を残してコスタリーカを満喫していた。
アウレリアの元同僚でマクドナルドで現在も働いている、飄々としたホセ・キーロスはアウレリアと僕の仲を取り持ってくれた気の置けない僕の友達でもあるが、弟と二人でアセリの彼の家を訪ねると、彼の妹のラウラを弟に紹介した。
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