冒険恋愛小説ドキュメンタリー “エメラルド王、勇者の愛”

Eishi_Hayata

文字の大きさ
10 / 15

第10話「コスタリーカ」 医学部友人、マイクを訪問

しおりを挟む
弟を日本へ送り出すと、いよいよ日本との縁が切れて僕はコスタリーカ一色に染まっていった。

もう引き返せない、前へ進むだけだという思いを新たにした。

将来への不安、心細さも心の隅にあったが、アウレリアの僕に対する愛情を感じる時、そういう気の弱さは影をすくめた。

アウレリアとデイトを重ねるたびにコスタリーカの社会や文化について、また世間の人々の慣習や幸福感などを話題に、話し合った。

彼女はまだ将来の展望を決めていなかった。

僕に会ったのが彼女の運命の分岐点になるようで僕は少なからず緊張した。

そういう思いを彼女に告白すると、

「いいのよ心配しなくて、愛する人とどういう成り行きになって、どういう結末を迎えようと後悔しないわ、自分で選んだ道だもの」

と泰然と笑った。

コスタリーカ国立大学に登校の初日、教務課主任がわざわざ僕に面会に来て、
「セニョール ハヤタ、見せたいものがある。ちょっと私について来てくれませんか」
と言うので、彼の後に従い、とある大きな部屋の中に入っていった。

そこにはいろんな種類の真新しい医療器具、機械が整然とおかれていた。

多分医学生の実習室なんだろうと思った。

「セニョール ハヤタ、これらの医療機器は日本政府から寄贈してもらったものです。あなたが頑張って医学部を無事卒業されることを教授、職員一同が期待しています。当校には十人ほど日本からの聴講生がいますが、正規留学生はあなた一人です。どうか我々の期待に応えてください」

「ハイ、一生懸命頑張ります」

僕よりさらに若い者達に混ざって烈苛な競争に打ち勝つのには並々ならぬ努力が必要だと強く自覚していた。

まして自分にはスペイン語のハンデイーもある。

期待に胸が押しつぶされそうになった。

同じスペイン語クラスにアメリカ人の留学生のマイクがいた。

英国系の白人でマリンコープ(海兵隊)あがりの27歳だが学費と生活費は海兵隊からの援助であった。

外国人の医学部留学生という境遇が同じなので、すぐに友達になり、週末の休日に彼のモンロビアの住まいをアウレリアと共に訪問した。

これまではマイクとは英語での会話であったが、今日はアウレリアが一緒なので西語での会話となった。

小高い丘の上の小さな一軒家を借りて犬と一緒に住んでいた。

この犬は彼がケンタッキーから連れてきたというシェパードの雑種であったが、主人である彼の言葉をよく理解し数々の命令を混乱することなく適切に処理したのに僕らは驚いた。

「どのくらいの命令作法をおぼえたの?」

と僕が訊くと、

「今までのところ200通りばかり教えた」

とマイクが満足そうに応えた。

アウレリアが続けて、
「それではコスタリーカで大いに役にたつわね、ここはドロボーが多いから」

「そうなんですよ、それで特別に訓練してるって訳です」

彼も女性に丁寧なフェミニストだ。

「本当にここは泥棒天国だね。僕ももうやられたよ、新しく借りた一軒家を留守にしてカメラや彼女のために日本から持ってきた真珠のネックレスなど盗まれてしまった」

「そりゃ気の毒だ、そんな高価な物を。私も前回の帰国でどうでもいいような物を少し持っていかれたけど」

「お二人ともお気の毒に、コスタリーカは凶悪犯罪は少ないけど泥棒事件だけは多いのよね」

「まあ他のラテンアメリカの国も泥棒は多いけどね。ところで少し早いけど、昼食にアワカテ(アボガド)とハモンセラーノ(生ハム)のサンドイッチを作っておいた。ビールにワインにコークもあるけどコスタリーカ名物のうまいタマリンド ジュースとツマミにしようとセビッチも作ったよ」

マイクが立ち上がりキッチンへ入っていった。

アウレリアと僕も手伝うためとキッチンの造作を見ようと彼の後に従った。

飾り気のないあっけらかんとした広いスペースはいかにもラテン的で高いガラス窓を透して陽光がさんさんと降り注いでいた。

んとした広いスペースはいかにもラテン的で高いガラス窓を透して陽光がさんさんと降り注いでいた。

野菜置き場のストーレッジには盛り沢山の南国風野菜や果物が積まれていて、その臭気が食欲を刺激した。

愉快な談笑の中に会食が始まり、テーブルの上に並べられたさまざまの食べ物をしげしげと見ていたアウレリアが、

「あなたって手先が器用ね、日本人のエイシーもそうだけど、あなた方はドクターに向いてるわ。あなたはコスタリーカでお医者さんになるつもり、マイク?」

「私は無事卒業できたら医師免許を米国に切り替えてアメリカで開業したいと思っているけど、それにもまた試験があるんだよね」

「どうしてまたコスタリーカに留学したの?」

アウレリアが興味深く質問を続けた。

「アメリカで医学を修了するには大学で合計8年もかかってしまう。コスタリーカでははるかに短縮できる事と何といっても学費が安いので奨学金が出やすいのです。ところでエイシーは卒業したらどうするの?」

「僕はコスタリーカの田舎へ行って、辺境地医療をやろうとおもっている」

「それはいい心がけだね、セニョリータ アウレリアは高校卒業後のプランは?」

「うちは私を大学に行かせてくれる余裕はないわ、高校に入ってからも休暇はアルバイトで家計を助けてきたの。父がタクシー1台持って、貨物車のピックアップも持って働いているけど、兄弟が多くて大変なの。国立大に入っても卒業できる自信はないし」

「私もケンタッキーの父が公務員で大学に行かせてもらう余裕がなく、長い間マリンコープ(海兵隊)で奉仕して大学進学の奨学金を得たんです」

「僕は少し恵まれていたけど、それがかえって僕に紆余曲折の人生をもたらしてしまい、いつも試行錯誤さ。今度こそはアウレリアと確実な生活を築きたいと思っている」

「聞いたけど、凄いねえ。一年間に七回半の地球半周、はるばる東京からのデイト旅行。そんな熱愛ストーリー、アメリカでも聞いたことがない。でもアウレリア、君みたいな素晴らしい女性が相手なら納得だ。君たちの将来を祝して、ガッド ブレス ユー(神の祝福を)!」

マイクがワイングラスを高く持ち上げた。

「サンキュー マイク」

と僕が応え、

「グラシアス マイク」

とアウレリアが感謝した。

「サルー!(乾杯!)」

皆んなでトス(祝杯)をした。

三人の友情を祝福するかのように、マイクの愛犬が「ウオー、ウオー」と同調の叫び声をあげた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...