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第二章 近づく夏
23rd Mov. 準備とお誘い
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第一回目の勉強会の当日。
半日授業が終わり、四人で立川駅まで。当初、どこかでお昼を食べてからという計画だったけど、滅多に食べれない宅配ピザを食べようということになった。
ちょっと遠回りしてピザをお店でピックアップ。持ち帰りにした分、予算に余裕が出たので豪華にした。お腹いっぱいどころか、食べきれなさそう量になった。
それに予定通りのお菓子とジュース類もあって、夕食は食べられないだろうなって予感がしている。
「ここが野田の部屋……。ある意味、予想通りで期待を裏切らないと言えば良いのか……」
「何も無くてごめん」
いつも気の利くコメントをしてくれる中野ですら、コメントに困っている様子。僕の部屋に入った感想が出て来ないらしい。
それもそのはず。僕の部屋は必要最低限の物しかない。
勉強デスクにベッド。カーペットは敷いておらず、フローリングのまま。少ない服はクローゼットに入っているので目につかないようになっている。部屋に入って見えるのはベッドと机くらいか。確かにコメントのしようがないよな。
「だけどさ、ピアノがあるじゃん。毎日頑張ってんだろ?」
「そうだね。弾かない日はないかな」
「おおー! 野田君もピアノ好きですな!」
こういう時に弾いて見てよと言わないでくれる彼らが好きだ。
大抵、今までのクラスメイトなら、ここぞとばかりに弾いてくれというだろう。
でも彼らは、僕の頑張りだけに注目してくれる。それが心地良い理由かもしれない。
「さて、ピザが冷めちまう前に食わないか?」
「それもそうだ。いま、折り畳みのテーブル持ってくるから隙に座って待ってて。いや、座布団も必要だね」
その辺りの準備をすっかり忘れていた。
家でピザを食べずとも、勉強でテーブルが必要になるのは当然だ。
それにお客さんを床に直接座らせるわけにもいかないじゃないか。
友達を家に招くことに不慣れすぎて、準備出来ていなかった。
「それなら俺も手伝うよ。一人じゃ大変だろ」
中野の申し出はこの上なくありがたいものだったので、言葉に甘えることにした。
納戸のようになっている隣の部屋から、テーブルを引っ張り出して預ける。
僕は座布団かクッションが無いか部屋を漁ったものの、見当たらなかったのでリビングにあるクッションを拝借してきた。
急いで部屋に戻りクッションを渡すと、またリビングに逆戻り。
コップやお皿、フォークなどを取りに戻る。
「私も手伝うよ」
食器棚を物色していると背中越しに声が掛かった。
「座っててくれても良いのに」
「ううん。一人で全部やるのは大変でしょ? お部屋を貸してもらってるんだし、これくらい手伝わせて」
ウチに来た時から興味深々の様子を隠せない彼女は、部屋に入ってもキョロキョロと見回していて、少し悪戯っ子のような表情をしていた。そんな彼女が手伝いということでおりてきてくれたんだけど、やっぱり悪戯を思い付いた子供のように目をキラキラさせている。
僕は比較的重くないコップを四つ重ねて渡す。
「これだけで良いの? もっと持てるよ?」
「あとはお皿とフォークくらいだから僕だけでも大丈夫だよ。それにしても、伏見さん楽しそうだね」
「いや~、野田君がここで育ったって思うと何か楽しくなっちゃってさ。最初はみんなで勉強会したり、お菓子食べたりするのが楽しみだったんだけどね」
見慣れているリビングは、どこにでもあるソファとテレビ。
建売住宅に個性などある訳もなく、さほど面白い家だとは思えない。
「そうかな? 伏見さんの家の方が楽しそうだと思うけど」
「ウチ? 面白いかなぁ~。千代ちゃんちは日本家屋って感じで、お部屋も広いから楽しいよ! ウチはお母さんの趣味でレースとかキルトいっぱいなの。だから洋風って言うのかな」
「結先生はそう言うのが好きなんだね。うちも母さんの意見でこんな感じになってるよ。あまり物を置くのが好きじゃないらしくて」
「じゃあ野田君はお母さん似なんだね! お部屋がそっくり!」
「そう言われるとそうなのかも。伏見さんもお母さん似だよね。結先生に初めて会った時は、凄い似ているし、お姉さんかと思ったよ」
「無料体験の日でしょ? あの日はすっごく機嫌良かったの。多分、それが原因だったんだね。最近、お化粧も気合が入るようになったし、何かあったんだとは思ってたけど」
「確かにそんなようなこと言ってたような……。だけど、そんなに化粧しなくても可愛らしいのにね、結先生。伏見さんのお母さんって知った後でも、時折お姉さんじゃないかって思う時あるし。ただ、こうやって見ると親子だなって良く分かるよ。結先生と似てるよね。顔とか雰囲気とか」
「そ、そうかな。パパは自分に似ているって良く言ってるんだ。私もお母さんもそれは否定してるんだけど」
「伏見さんのお父さんは伏見さんのことが好きなんだね。神田さんも伏見さんの家に男友達を連れてくと危ないみたいなこと言ってたしね」
「危ないとまでは言ってなかったような気もするけど……。でも危ないのかな? 男友達連れてきたこと無いから分かんないや」
「僕も今日初めて女友達を招いたよ。男友達もだけど。だから準備とか出来てなくて、ちょっと反省してます」
「気にしなくて良いのに。そうだ、次回はウチで勉強会する? 野田君ばかりにお願いしちゃうのも申し訳ないし」
「えっ? えーと……。お父さん危なくない?」
ふがいない僕の返事。正直女の子の部屋に入るのは勇気がいる。それは中野や神田さんが一緒でも、あんまり変わらない。
そんな僕の態度がおかしかったのか、悪戯が成功したような笑い顔の伏見さん。
ふふふと口の前に手を当てて笑う仕草は結先生と同じだった。
「怖いなら、パパがいない日にならどうかな! お母さんだけなら野田君は安心でしょ?」
「それはそうかもしれないけど……」
電子ピアノを探すため、楽器店へ行った時以来の二人でゆっくり話す時間。
いつもよりテンションが高い伏見さんとの会話は、少し落ち着かなくてドキドキする。
「おーい、大丈夫か? 手が足らないなら手伝うぞ?」
伏見さんとの会話の最中は、手は止まっていて準備が進んでいなかった。
そのせいか、遅いのを気にした中野と神田さんが二人して様子を見に来た。
「ううん、大丈夫だよ! もう行きまーす」
そう言った彼女はコップにフォークを入れて、足早に戻っていった。
半日授業が終わり、四人で立川駅まで。当初、どこかでお昼を食べてからという計画だったけど、滅多に食べれない宅配ピザを食べようということになった。
ちょっと遠回りしてピザをお店でピックアップ。持ち帰りにした分、予算に余裕が出たので豪華にした。お腹いっぱいどころか、食べきれなさそう量になった。
それに予定通りのお菓子とジュース類もあって、夕食は食べられないだろうなって予感がしている。
「ここが野田の部屋……。ある意味、予想通りで期待を裏切らないと言えば良いのか……」
「何も無くてごめん」
いつも気の利くコメントをしてくれる中野ですら、コメントに困っている様子。僕の部屋に入った感想が出て来ないらしい。
それもそのはず。僕の部屋は必要最低限の物しかない。
勉強デスクにベッド。カーペットは敷いておらず、フローリングのまま。少ない服はクローゼットに入っているので目につかないようになっている。部屋に入って見えるのはベッドと机くらいか。確かにコメントのしようがないよな。
「だけどさ、ピアノがあるじゃん。毎日頑張ってんだろ?」
「そうだね。弾かない日はないかな」
「おおー! 野田君もピアノ好きですな!」
こういう時に弾いて見てよと言わないでくれる彼らが好きだ。
大抵、今までのクラスメイトなら、ここぞとばかりに弾いてくれというだろう。
でも彼らは、僕の頑張りだけに注目してくれる。それが心地良い理由かもしれない。
「さて、ピザが冷めちまう前に食わないか?」
「それもそうだ。いま、折り畳みのテーブル持ってくるから隙に座って待ってて。いや、座布団も必要だね」
その辺りの準備をすっかり忘れていた。
家でピザを食べずとも、勉強でテーブルが必要になるのは当然だ。
それにお客さんを床に直接座らせるわけにもいかないじゃないか。
友達を家に招くことに不慣れすぎて、準備出来ていなかった。
「それなら俺も手伝うよ。一人じゃ大変だろ」
中野の申し出はこの上なくありがたいものだったので、言葉に甘えることにした。
納戸のようになっている隣の部屋から、テーブルを引っ張り出して預ける。
僕は座布団かクッションが無いか部屋を漁ったものの、見当たらなかったのでリビングにあるクッションを拝借してきた。
急いで部屋に戻りクッションを渡すと、またリビングに逆戻り。
コップやお皿、フォークなどを取りに戻る。
「私も手伝うよ」
食器棚を物色していると背中越しに声が掛かった。
「座っててくれても良いのに」
「ううん。一人で全部やるのは大変でしょ? お部屋を貸してもらってるんだし、これくらい手伝わせて」
ウチに来た時から興味深々の様子を隠せない彼女は、部屋に入ってもキョロキョロと見回していて、少し悪戯っ子のような表情をしていた。そんな彼女が手伝いということでおりてきてくれたんだけど、やっぱり悪戯を思い付いた子供のように目をキラキラさせている。
僕は比較的重くないコップを四つ重ねて渡す。
「これだけで良いの? もっと持てるよ?」
「あとはお皿とフォークくらいだから僕だけでも大丈夫だよ。それにしても、伏見さん楽しそうだね」
「いや~、野田君がここで育ったって思うと何か楽しくなっちゃってさ。最初はみんなで勉強会したり、お菓子食べたりするのが楽しみだったんだけどね」
見慣れているリビングは、どこにでもあるソファとテレビ。
建売住宅に個性などある訳もなく、さほど面白い家だとは思えない。
「そうかな? 伏見さんの家の方が楽しそうだと思うけど」
「ウチ? 面白いかなぁ~。千代ちゃんちは日本家屋って感じで、お部屋も広いから楽しいよ! ウチはお母さんの趣味でレースとかキルトいっぱいなの。だから洋風って言うのかな」
「結先生はそう言うのが好きなんだね。うちも母さんの意見でこんな感じになってるよ。あまり物を置くのが好きじゃないらしくて」
「じゃあ野田君はお母さん似なんだね! お部屋がそっくり!」
「そう言われるとそうなのかも。伏見さんもお母さん似だよね。結先生に初めて会った時は、凄い似ているし、お姉さんかと思ったよ」
「無料体験の日でしょ? あの日はすっごく機嫌良かったの。多分、それが原因だったんだね。最近、お化粧も気合が入るようになったし、何かあったんだとは思ってたけど」
「確かにそんなようなこと言ってたような……。だけど、そんなに化粧しなくても可愛らしいのにね、結先生。伏見さんのお母さんって知った後でも、時折お姉さんじゃないかって思う時あるし。ただ、こうやって見ると親子だなって良く分かるよ。結先生と似てるよね。顔とか雰囲気とか」
「そ、そうかな。パパは自分に似ているって良く言ってるんだ。私もお母さんもそれは否定してるんだけど」
「伏見さんのお父さんは伏見さんのことが好きなんだね。神田さんも伏見さんの家に男友達を連れてくと危ないみたいなこと言ってたしね」
「危ないとまでは言ってなかったような気もするけど……。でも危ないのかな? 男友達連れてきたこと無いから分かんないや」
「僕も今日初めて女友達を招いたよ。男友達もだけど。だから準備とか出来てなくて、ちょっと反省してます」
「気にしなくて良いのに。そうだ、次回はウチで勉強会する? 野田君ばかりにお願いしちゃうのも申し訳ないし」
「えっ? えーと……。お父さん危なくない?」
ふがいない僕の返事。正直女の子の部屋に入るのは勇気がいる。それは中野や神田さんが一緒でも、あんまり変わらない。
そんな僕の態度がおかしかったのか、悪戯が成功したような笑い顔の伏見さん。
ふふふと口の前に手を当てて笑う仕草は結先生と同じだった。
「怖いなら、パパがいない日にならどうかな! お母さんだけなら野田君は安心でしょ?」
「それはそうかもしれないけど……」
電子ピアノを探すため、楽器店へ行った時以来の二人でゆっくり話す時間。
いつもよりテンションが高い伏見さんとの会話は、少し落ち着かなくてドキドキする。
「おーい、大丈夫か? 手が足らないなら手伝うぞ?」
伏見さんとの会話の最中は、手は止まっていて準備が進んでいなかった。
そのせいか、遅いのを気にした中野と神田さんが二人して様子を見に来た。
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そう言った彼女はコップにフォークを入れて、足早に戻っていった。
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