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一章・・・宵の森

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 意識がゆっくりと浮上する。
(・・・あ、そうだ。あれやりたいな。)

「知らない天井だ・・・」

やりたかったことをやってご機嫌になった蓮也改め新月にいげつは起き上がる。

「わっ!俺裸だ!?」

服を着てなかった。
慌ててチェストを探す。
(どこ!?チェストってどれ!?)
慌てれば慌てるほど見つかる気がしない。

「チェストはベッドのすぐ隣だよ。」

そこを見てみると、確かにわかりやすく置いてあった。
(灯台もと暗しってこの事か。)

「・・・ん?」

「起きたね、少年。」

振り返ると紅月が立っている。

「紅月さん!・・・あっ、待ってください俺今裸です。」
「知ってる。チェストの中に着替えがあるから着替えよう。」

そう言ってチェストを開けると、テキパキと衣類を取り出す。
ベッドの上に、いかにも“異世界の村人です!”と言った感じの服が置かれた。

「着方はわかる?」
「大丈夫だと思います。」
「わからなかったら聞いて?私もこの格好では目立つから着替える。」
「分かりました。」

服のつくりは簡単なため、直ぐに着ることが出来た。
(あとは靴だけど・・・)
靴下がない。靴は革でできた編み上げのブーツなのだが、靴下を履かずに履くには抵抗がある。

「紅月さん、靴下って・・・」

紅月の方を向くと、丁度髪をまとめているところだった。額に角はないが、角がある姿を知っているために、少しだけ違和感を感じた。

「ん?あぁ、この世界には靴下を履くっていう文化がないから、靴下は存在しないんだよね。ちょっと待ってね、多分チェストに入ってるから・・・」

はい、と靴下を渡される。

「ありがとうございます。
紅月さんはこの世界のこと、詳しいんですか?」

靴下を履き、靴を履きながら聞く。慣れないから少しだけ時間がかかる。

「それなりにね。主に頼まれてこの世界に来ることは多いから、割と知ってる。生まれは地球だけど、地球よりもこっちの方が長くいるかな。」
「そうなんですか。じゃあこの世界って、どんな種族がいるんですか?」

紅月も靴紐を結びながら答える。

「結構いるよ。
一番多いのが人族
一番少ないのがあやかし
それ以外だと獣人族とか、精霊族とか、妖精族とかかな。あと魔族もいて、人族と対立してるね。」

「どの種族が強いとかってあったりするんですか?」

「個体差があるし、どの強さでいうのかにもよるからなんとも言えないけど、妖族はダントツで強いね。妖術ようじゅつっていう妖族固有の技を持ってて、魔法とは比にならないくらい強いんだよ。手先も器用で、独自の文化を築いている。ただ、個体数が少ない上に、産まれたばかりの妖族は弱いから他種族との接触は好まないね。住んでいる場所も大陸から離れた島だから、実質鎖国状態だよ。そして、妖族同士の結束が強い。
長老を王とおき、最も強い力を持つ人格者を長とすることで結束を保っている。特に長の人気はとどまることを知らない。
妖族は長生きだから、多分前回来た時と王も長も代わってないはずだよ。」

「何年前ですか?」

「五十年前。」

(長生きのレベルが違う!てかそうだよ紅月さんも鬼だったよ結構生きてるはずだよ・・・)

丁度靴を履き終わり、立ち上がる。
革は柔らかくて、足を傷めずにすみそうだった。

「準備出来たみたいだね。他にも聞きたいことはあるだろうけど、外も気になるだろ?散策に行こう。」

矢筒と弓を背負い、いかにも狩人という感じの服を着ている。

「新月は護身用のナイフを持っててね。」

皮の鞘に納まっているナイフを手渡される。
そっと出してみると、厳ついサバイバルナイフだった。

「解体用ナイフだけど、護身程度ならできるよ。」

紐で腰に括りつけてもらった。
紐は弾力があって、痛くない程度に縛ってあるだけなのにしっかりと固定されている。

「よし、行こうか。」

扉を開けると、薄暗い森が広がっている。

「ここは宵の森と言って、こんなふうに常に薄暗いんだ。」

小屋の周りは少しひらけていて、小屋の裏には断崖絶壁の壁がそそり立っている。
(雨降った時とか大丈夫なのかこれ。)

「あの崖なら大丈夫。簡単に崩れやしないよ。」

見てて、と言って近くにあった岩にむきなおる紅月。

「?」

「よいせっと。」

ドゴッ!ガラガラガラ・・・

「!?」

軽い掛け声とともにだされた回し蹴りで、その岩が崩れさる。

「まぁ、岩はこんな感じに砕けちゃうんだけど、」

そう言いながら崖にむきなおる。

「いやいやいや!崩れちゃいますって!」

あれを見たら止めざるを得ないだろう。

「大丈夫だから見てて。」

同じように、壁に蹴りをする。

「そいっ!」

ズンッ・・・

地響きこそしたものの、壁はビクともしていない。
(あ、紅月さんが蹴ったところだけ凹んでる。)

「とあまぁこんなふうに、ちっとやそっとじゃ壊れないからね。本気じゃないけど。」

(本気だったら壊せるってこと!?恐ろしや恐ろしや・・・)
紅月の不穏な言葉をききながらも、ひとまず大丈夫だと安心することにする。
(異世界の常識は俺の非常識だから気にしない気にしない・・・)

紅月に連れられて森の中に入ると、木が鬱蒼と茂っている。
歩いていて気がついたが、低い木の枝がひょいと避けてくれていて、木の根は転ばないように引っ込んでくれている。

「紅月さん、この森って生きてるんですか?」
「この森だけに限らず、自然は意志を持ってるよ。それがどうかした?」

ちゃんと立ち止まって話をさせてくれる。

「さっきから森の木が、俺の歩きやすいように動いてる気がして・・・」
「それは主の・・・大地と自然を司る神、アトランシスの加護があるからだよ。自然達は決して新月を傷つけないし、新月を必ず助けてくれる。」
(えっ、チート・・・)

でも、スローライフを送る上では有難い能力だと自分を納得させる。

「アトランシスってツクヨミさんのことですよね。」
「うん、主のことだよ。」
(チートはいいって言ったのになぁ・・・)

肩を落とした新月に、紅月は首を傾げる。

「もっとカッコイイ加護が良かった?
一応、大地からの恵みで体力、魔力は常に回復するから強いと思うんだけど・・・。」

回復量にもよるが、またチート要素が増えた気がする。
(いや、でもスローライフが送れないわけじゃないさ!)
なんとか自分を納得させて、紅月に大丈夫だと伝える。

「じゃあ行こうか。」


しばらく歩いていると、沢山木の実がなっていることに気がついた。
(見た目はすごく毒々しいものとか、トゲトゲなものが多いけど、あれ食べられるのかな?)

「お腹すいた?」

木の実ばかり見つめていることに気がついた紅月が聞いてくる。

「あっいえ!食べれるのかなーって思ってただけです。」
「ふふふ、ここら辺で少し休憩しようか。」

まだ全く疲れてないのに、小休止をはさむことになった。

「疲れは大地が癒してくれても、空腹は癒してくれないからね。」
「そんなに歩いてませんよ?」
「楽しくて気がついてないんだと思うけど、三時間くらいずっと歩いてるからね?」

えっ、と固まる。
(足も痛くないし、全然疲れてないのに・・・回復って凄過ぎない?朝から晩まで農作業出来そうだよ。)

「木の実を取ろう。美味しい果実は直ぐに分かるはずだよ。」

割と高い位置にあるため、新月の背では届きそうもない。
すると、その果実がなっている木の枝が下がってきて、新月の前に垂れる。

「・・・いいの?」

頷くように枝が揺れ、果実の下に手を出すとポトリと果実が手に納まった。
見た目がとても毒々しい。
(た、たべれるのかこれ?食べれるとしても、どうやって食べればいいんだ?)

《そのままたべて、だいじょーぶ》

幼い子供のような声が頭に響く。

《かわもちゃんと、たべれるの
むしてもやいてもおいしいけど、にるのはやめてね
たべあわせでどくになるからね、きをつけてね?》

声に従い、かぶりつく。
シャキッとした食感で、真ん中の方はトロッとしている。とても甘いのに後味はさっぱりしていて嫌味がない。

「美味しい・・・!」

あっという間になくなってしまった。
(もう一個食べたい・・・あと紅月さんにもあげたい・・・この美味しさを、ぜひとも共有したい!)

ポトポトッと、手の中にさっきの木の実が落ちてきた。

「わっ!・・・えへへ、ありがとね?」

木を見上げてお礼を言えば、嬉しそうに枝が揺れている。
紅月を探してキョロキョロとするも、いつの間にか見当たらない。

「紅月さーん?」

返事もない。もしかして、離れてしまったのだろうか?

「紅月さーん!どこ行っちゃったんですかー?おれ、一人じゃ帰れませんよー?」

両手に木の実を持ちながら、声を出して紅月を探す。
だが、新月は失念していた。ここは森で、さらに言えば異世界で、人を狙う魔獣がいることを。
大声を出せば、魔獣がよってくるということを。


グルルル・・・


背筋がスっと、冷たくなる。
パッと振り返ると、目を爛々とさせた獣がいる。口からはヨダレが垂れていて、自分が獲物として狙われていることを悟る。
(ど、どうしよう・・・!今、両手塞がってるのに・・・それに戦闘の経験なんてないよ・・・)

ゆっくりと後ずさっても、ジリジリと間合いを詰められる。
トン、と背中に木が当たった。
(しまっ・・・!)


動きが止まった新月に、獣はおどりかかった。







To Be Continued・・・・・・
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