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第3章 最期の奇跡(希代の詐欺師逝く)
11.悪行の報い
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自分の後から迫りくる気配を感じた飽桀は、覚悟をきめて握っていた櫓を水面から出し、船内に投げ捨てる。
両手が自由になった飽桀は、思い出したの様に自分の後ろに寝かせていた凛凛を、抱き上げようとする。
その動作は、子供を抱き上げるというモノではなく、とにかく敵の攻撃を防ぐ盾になるモノを抱えようとするモノだった。
しかし、飽桀の目論見は外される。自分が抱えようとした赤子、一足先に何者かが奪ったのである。
得体のしれない何者かが、突然船内に侵入、そして自分が直感的に人質に取ろうと、縋ろうとした防具を横から奪われたのである。
『ウワァ―』と飽桀は無意識に声をあげ、恐怖した。
『オメェ~、ナニモンだぁ、なにもんだよぅ、この野郎!』と飽桀は自分の恐怖を悟られまいと、精一杯の勇気で威嚇する様に叫んだ。
得体の知れない人影は、飽桀からそのまま離れていく。そして離れた場所で浮上する。
月明りで照らされたその得体の知れない者が、自分と一度会った事がある者だと、飽桀は瞬時に思い出せない。女の様な、その生き物は飛んだのである。
仙女の姿をした妖は、飽桀の叫びを意には介さず、救出したばかりの凛凛の顔を満月の光に照らして、安否を確認する様に眺める。
その眼差しは、自分の子供を見つめる母の様であった。
凛凛は目を閉じて寝ており、その呼吸は安定したリズムを奏でていた。
それを確認した妖は、凛凛を一度優しく抱きしめる。凛凛の身体の温かさを感じ安心したのか、その表情が一瞬緩む。
その後、妖は凛凛の頭を自分の右肩にもたれかけさせ、片手でその身体をしっかりと抱きかかえる。
妖は、その動作をする中、凛凛には最低限度の衝撃しか与えず、彼女を起こす様な事はしなかった。
自分達の位置を安定させた妖は浮上した上空から、静かに飽桀の位置迄降りていく。
再び自分へ近づいてくる得体の知れない者の行動に、飽桀は恐怖の為、言葉も出ず唯見つめる事しか出来なかった。
『だから、お前はなにもんだぁ、答えやがれ。』と飽桀は自分を誇示し相手を威嚇する様に再び叫ぶ。
妖は、無言のまま、自由な方の片手を飽桀へ翳す、翳したと思った瞬間、妖の腕が伸び、飽桀の腕をつかみ、いや握り潰した。
ボギィッと鈍い音がしたと思うと、飽桀は悲鳴をあげた。
悲鳴は、痛いからだけではない。得体の知れない者が自身に明確な敵意を示した事に対する恐怖心からの叫びだった。
妖は、飽桀が自分に話しかける事自体が不快だったかのように、小さく溜息をする。
そして、捕まえた泣き叫ぶ誘拐犯を冷静に観察する様に暫くじっと見つめる。
その眼差しには、つい先ほど凛凛へ注いでいた温かさなど微塵もなく、まるで目の前にいる害虫をどう効率的に処理するかを考えているように冷たかった。
妖は決められた作業を淡々とこなす様に、ユックリと飽桀から離した手を飽桀に向け、再び手を翳す。
すると凛凛の貼られたままであった、青色の鱗が凛凛の額から離れ、飽桀の額へと飛びそして貼りつく。
『ヒィ~。』
青い鱗が額についた事を恐れる飽桀の声が響く。
『Ō。』と妖が呪文を唱えると、飽桀は動けなくなり、言葉もしゃべれなくなる。
青い鱗から、光が放出する、その光が妖の頭を照らす。
『・・・ほう・・凛凛を秦の皇帝に献上するつもりだったのか。今日から30日後、秦から東南の海で待つ・・。』
『斉の国、人殺し、宦官、伝書鳩・・・陸信、』と、妖は確認する様に呟く。
(コイツ・・俺の記憶を・・読んでいるのか?)と、飽桀は妖の行動の意味を知り、何度目かの恐怖を感じた。
『凛凛の父親を殺したのは、お前か』と妖は低い声で飽桀に聞く。
それは、疑問を投げかけるではなく、確認の問いかけであった。
『違う、俺じゃない、俺じゃないんだ。助けてくれ。』と突然、身体に自由が戻り口が動く。
飽桀は、逃げ場のない船内を諦め、海に飛び込もうと後ろへふり返えろうと思った。
『・・・・私を恨むなよ、憎むなら自身の無慈悲な行いを、悪行に染まった自身の人生恨んで死にな。』
その声は、仙女の声ではなく、飽桀自身の声だった。その声が聞こえたと思った瞬間、自身の喉元に恐るべき速さで何かが飛んできた。
般若の顔である。その長い牙が、飽桀の喉をつらぬく。
妖は、憎しみの相手の首に噛みつき、首の一部を噛みちぎり、悪行の報いを受けさせたのであった。
喉元を噛みちぎられた飽桀は、息が出来ず、苦しんだが、直ぐに出血で意識を失った為、その苦しみは長くは続かなかった。
それは、妖が望んだ結果であったかは分からない。
それを知る者は妖と、妖が見上げた満月のみだったからである。
両手が自由になった飽桀は、思い出したの様に自分の後ろに寝かせていた凛凛を、抱き上げようとする。
その動作は、子供を抱き上げるというモノではなく、とにかく敵の攻撃を防ぐ盾になるモノを抱えようとするモノだった。
しかし、飽桀の目論見は外される。自分が抱えようとした赤子、一足先に何者かが奪ったのである。
得体のしれない何者かが、突然船内に侵入、そして自分が直感的に人質に取ろうと、縋ろうとした防具を横から奪われたのである。
『ウワァ―』と飽桀は無意識に声をあげ、恐怖した。
『オメェ~、ナニモンだぁ、なにもんだよぅ、この野郎!』と飽桀は自分の恐怖を悟られまいと、精一杯の勇気で威嚇する様に叫んだ。
得体の知れない人影は、飽桀からそのまま離れていく。そして離れた場所で浮上する。
月明りで照らされたその得体の知れない者が、自分と一度会った事がある者だと、飽桀は瞬時に思い出せない。女の様な、その生き物は飛んだのである。
仙女の姿をした妖は、飽桀の叫びを意には介さず、救出したばかりの凛凛の顔を満月の光に照らして、安否を確認する様に眺める。
その眼差しは、自分の子供を見つめる母の様であった。
凛凛は目を閉じて寝ており、その呼吸は安定したリズムを奏でていた。
それを確認した妖は、凛凛を一度優しく抱きしめる。凛凛の身体の温かさを感じ安心したのか、その表情が一瞬緩む。
その後、妖は凛凛の頭を自分の右肩にもたれかけさせ、片手でその身体をしっかりと抱きかかえる。
妖は、その動作をする中、凛凛には最低限度の衝撃しか与えず、彼女を起こす様な事はしなかった。
自分達の位置を安定させた妖は浮上した上空から、静かに飽桀の位置迄降りていく。
再び自分へ近づいてくる得体の知れない者の行動に、飽桀は恐怖の為、言葉も出ず唯見つめる事しか出来なかった。
『だから、お前はなにもんだぁ、答えやがれ。』と飽桀は自分を誇示し相手を威嚇する様に再び叫ぶ。
妖は、無言のまま、自由な方の片手を飽桀へ翳す、翳したと思った瞬間、妖の腕が伸び、飽桀の腕をつかみ、いや握り潰した。
ボギィッと鈍い音がしたと思うと、飽桀は悲鳴をあげた。
悲鳴は、痛いからだけではない。得体の知れない者が自身に明確な敵意を示した事に対する恐怖心からの叫びだった。
妖は、飽桀が自分に話しかける事自体が不快だったかのように、小さく溜息をする。
そして、捕まえた泣き叫ぶ誘拐犯を冷静に観察する様に暫くじっと見つめる。
その眼差しには、つい先ほど凛凛へ注いでいた温かさなど微塵もなく、まるで目の前にいる害虫をどう効率的に処理するかを考えているように冷たかった。
妖は決められた作業を淡々とこなす様に、ユックリと飽桀から離した手を飽桀に向け、再び手を翳す。
すると凛凛の貼られたままであった、青色の鱗が凛凛の額から離れ、飽桀の額へと飛びそして貼りつく。
『ヒィ~。』
青い鱗が額についた事を恐れる飽桀の声が響く。
『Ō。』と妖が呪文を唱えると、飽桀は動けなくなり、言葉もしゃべれなくなる。
青い鱗から、光が放出する、その光が妖の頭を照らす。
『・・・ほう・・凛凛を秦の皇帝に献上するつもりだったのか。今日から30日後、秦から東南の海で待つ・・。』
『斉の国、人殺し、宦官、伝書鳩・・・陸信、』と、妖は確認する様に呟く。
(コイツ・・俺の記憶を・・読んでいるのか?)と、飽桀は妖の行動の意味を知り、何度目かの恐怖を感じた。
『凛凛の父親を殺したのは、お前か』と妖は低い声で飽桀に聞く。
それは、疑問を投げかけるではなく、確認の問いかけであった。
『違う、俺じゃない、俺じゃないんだ。助けてくれ。』と突然、身体に自由が戻り口が動く。
飽桀は、逃げ場のない船内を諦め、海に飛び込もうと後ろへふり返えろうと思った。
『・・・・私を恨むなよ、憎むなら自身の無慈悲な行いを、悪行に染まった自身の人生恨んで死にな。』
その声は、仙女の声ではなく、飽桀自身の声だった。その声が聞こえたと思った瞬間、自身の喉元に恐るべき速さで何かが飛んできた。
般若の顔である。その長い牙が、飽桀の喉をつらぬく。
妖は、憎しみの相手の首に噛みつき、首の一部を噛みちぎり、悪行の報いを受けさせたのであった。
喉元を噛みちぎられた飽桀は、息が出来ず、苦しんだが、直ぐに出血で意識を失った為、その苦しみは長くは続かなかった。
それは、妖が望んだ結果であったかは分からない。
それを知る者は妖と、妖が見上げた満月のみだったからである。
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