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第4章 狂王の末路
4.はちみつ殿と呼ばれた仙女
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『改めて、今日は良く来てくれた、感謝する』と姜文は妖に会いに来てくれた事を対し礼を述べた。
『・・・』、妖は姜文の言葉を聞いたまま黙って自分の杯に注がれた蜂蜜湯を飲み続けている。
2杯目の蜂蜜湯を飲み干すと、蘭華がいる方向に顔を向ける。
『ラッ、・・ランカ殿、は・ち・み・つ湯をもう一杯、下さりませんか?』と、妖は覚えたての単語をユックリと用いて、自分の希望を述べる。
妖の顔が無表情の為か、蘭華は直ぐにカノジョの言葉の意味を理解できず、キョトンとしてしまった。
蘭華としても、人外のモノが自分の出した飲み物を其処迄好きになってくれるとは想定もしていなかったのである。数秒して、やっと蘭華の頭が動き出す。
『ハ、はい、私の名前、憶えてくれたんですね、嬉しいですわ』
『お待ちください。いま、もう一度お湯を温めますので』と、蘭華はそういうと慌てて台所に急須を持って歩いて行った。
『姜文様、質問があります。』
『おおぉ、何じゃ?』
『徐福様とはどういう御仁でしたか?』
会話に困っていた姜文は、妖の質問を心の中で驚き、そして感謝した。
(私と妖、会話するモノが無いとおもっていたが、・・・あるではないか。私が一番知っている徐福様の話が。灯台もとくらしというが・・・)と姜文は亡き養父に感謝した。
その日、姜文は自分と徐福の思い出を思いつくまま妖に話した。
その話に、妖は喰いつくように聞き入り、時に感嘆の声をあげ、笑い、そして涙した。
姜文も、同じで語りつくせぬ徐福との思い出、彼への感謝が溢れ出てくる。悲しみも、喜びもすべて、それは徐福と共に過ごした彼の人生を説明する様であった。
話をしていく中で、姜文は改めて自分と徐福が二人で一人のような、徐福が掛け替えのない相棒であった事を、そんな人と巡り合えた幸せを思い、涙した。
途中で参加し、二人の横で聞いていた蘭華は、その様子を見て、この時間は徐福がくれた姜文への治療の時間なのではないかと思った。
それほど、姜文は徐福との思い出を話す度に彼の目には生気が戻っていく。
(思い出とは、人を時に傷つけ、そして時に励ます。但し、それは当人の気持ちに左右される、立ち直れていない場合、思い出は人を追いつめる、立ち直った状態であれば、思い出はその人を励ます)
(良かった。本当に良かった。この人はもう大丈夫)
蘭華は、愛する男の回復を改めて確信し、笑い話をする姜文の様子を見ながら、人知れず笑い涙を流す。
その日、3人は徐福の思い出話に華を咲かす。
それは、目的も何もなかった。ただ、3人の関係が始まる大きなキッカケになったのは間違いない。
故人を知る者同士が、故人との思い出を話し、理解し、そして新たな友人となる。
逝ってしまった徐福も、さぞあの世で照れているだろうと、徐福を知る蘭華は故人に思いをはせた。
半日は、あっという間に過ぎ、時間が来たので妖は帰ると二人に告げる。
『妖殿、今日は本当に楽しい時間を有難う』
『また話がしたい』
『姜文様、妖殿とは、おかしゅうございます』と蘭華が姜文に真顔で注意する。
『確かに・・・。妖殿、貴方、お名前はあるのですか?』
『名前・・・・』
『人と話をする事も無かったので・・・有りませぬ』
『あやかし様は、はちみつがお好みの様ですので』
『はちみつ殿でよろしいのではないですか?』と蘭華が真顔で姜文へ提案する。
『それは、あまりに安易。蜂蜜を我が故郷斉の国では、フォンミーと呼びます。少し音を変えましょう。』
『・・・フォンミンでは、如何でしょう?』
『フォンミン、可愛い名前ですね、好いと思います』
『あやかし殿、お主の名前はフォンミンじゃ、宜しいか』
『・・・お好きにお呼び下さい。私は帰ります』と相変わらず無表情の仙女はそう言い、無言で海に戻っていった。
『怒らせてしまいましたかね』
『怒ってはいまい』
姜文と蘭華はそんな会話をしながら彼女を見送った。
次の日、姜文は寝室の扉を叩く蘭華の呼びかけで起床する。
『姜文様、起きて下さい!。フォンミン殿が、来られましたよ』
蘭華の声は、慌てている、しかしその声はどこか嬉しそうだった。
フォンミン《蜂蜜》殿と呼ばれた仙女は、こうして姜文の家に通う様になったのである。
『・・・』、妖は姜文の言葉を聞いたまま黙って自分の杯に注がれた蜂蜜湯を飲み続けている。
2杯目の蜂蜜湯を飲み干すと、蘭華がいる方向に顔を向ける。
『ラッ、・・ランカ殿、は・ち・み・つ湯をもう一杯、下さりませんか?』と、妖は覚えたての単語をユックリと用いて、自分の希望を述べる。
妖の顔が無表情の為か、蘭華は直ぐにカノジョの言葉の意味を理解できず、キョトンとしてしまった。
蘭華としても、人外のモノが自分の出した飲み物を其処迄好きになってくれるとは想定もしていなかったのである。数秒して、やっと蘭華の頭が動き出す。
『ハ、はい、私の名前、憶えてくれたんですね、嬉しいですわ』
『お待ちください。いま、もう一度お湯を温めますので』と、蘭華はそういうと慌てて台所に急須を持って歩いて行った。
『姜文様、質問があります。』
『おおぉ、何じゃ?』
『徐福様とはどういう御仁でしたか?』
会話に困っていた姜文は、妖の質問を心の中で驚き、そして感謝した。
(私と妖、会話するモノが無いとおもっていたが、・・・あるではないか。私が一番知っている徐福様の話が。灯台もとくらしというが・・・)と姜文は亡き養父に感謝した。
その日、姜文は自分と徐福の思い出を思いつくまま妖に話した。
その話に、妖は喰いつくように聞き入り、時に感嘆の声をあげ、笑い、そして涙した。
姜文も、同じで語りつくせぬ徐福との思い出、彼への感謝が溢れ出てくる。悲しみも、喜びもすべて、それは徐福と共に過ごした彼の人生を説明する様であった。
話をしていく中で、姜文は改めて自分と徐福が二人で一人のような、徐福が掛け替えのない相棒であった事を、そんな人と巡り合えた幸せを思い、涙した。
途中で参加し、二人の横で聞いていた蘭華は、その様子を見て、この時間は徐福がくれた姜文への治療の時間なのではないかと思った。
それほど、姜文は徐福との思い出を話す度に彼の目には生気が戻っていく。
(思い出とは、人を時に傷つけ、そして時に励ます。但し、それは当人の気持ちに左右される、立ち直れていない場合、思い出は人を追いつめる、立ち直った状態であれば、思い出はその人を励ます)
(良かった。本当に良かった。この人はもう大丈夫)
蘭華は、愛する男の回復を改めて確信し、笑い話をする姜文の様子を見ながら、人知れず笑い涙を流す。
その日、3人は徐福の思い出話に華を咲かす。
それは、目的も何もなかった。ただ、3人の関係が始まる大きなキッカケになったのは間違いない。
故人を知る者同士が、故人との思い出を話し、理解し、そして新たな友人となる。
逝ってしまった徐福も、さぞあの世で照れているだろうと、徐福を知る蘭華は故人に思いをはせた。
半日は、あっという間に過ぎ、時間が来たので妖は帰ると二人に告げる。
『妖殿、今日は本当に楽しい時間を有難う』
『また話がしたい』
『姜文様、妖殿とは、おかしゅうございます』と蘭華が姜文に真顔で注意する。
『確かに・・・。妖殿、貴方、お名前はあるのですか?』
『名前・・・・』
『人と話をする事も無かったので・・・有りませぬ』
『あやかし様は、はちみつがお好みの様ですので』
『はちみつ殿でよろしいのではないですか?』と蘭華が真顔で姜文へ提案する。
『それは、あまりに安易。蜂蜜を我が故郷斉の国では、フォンミーと呼びます。少し音を変えましょう。』
『・・・フォンミンでは、如何でしょう?』
『フォンミン、可愛い名前ですね、好いと思います』
『あやかし殿、お主の名前はフォンミンじゃ、宜しいか』
『・・・お好きにお呼び下さい。私は帰ります』と相変わらず無表情の仙女はそう言い、無言で海に戻っていった。
『怒らせてしまいましたかね』
『怒ってはいまい』
姜文と蘭華はそんな会話をしながら彼女を見送った。
次の日、姜文は寝室の扉を叩く蘭華の呼びかけで起床する。
『姜文様、起きて下さい!。フォンミン殿が、来られましたよ』
蘭華の声は、慌てている、しかしその声はどこか嬉しそうだった。
フォンミン《蜂蜜》殿と呼ばれた仙女は、こうして姜文の家に通う様になったのである。
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