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第4章 狂王の末路
5.姜文、狂王の影に気づく
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蘭華は、毎朝起きると先ず二人分の食事をつくる。
それを持って、姜文の家に向かうのである。
面倒見の良い彼女は、徐福の葬儀の次の日からその日課を続けていた。
その日も、何時も通り二人分の朝食を持って姜文の家に出掛けた。
姜文の家につき、蘭華は姜文に声をかけたが応答は無かった。
姜文の精神状況は少しずつ回復に向かってはいるが、未だ眠れない日が続いているようであった。
蘭華は、姜文を起こさない様に家に入り、慣れた手つきで部屋の掃除を始める。
掃除を開始して間もなく、外から物音がして、蘭華は気になり玄関から顔を出す。
すると、其処には仙女の姿をした妖フォンミンが立っていた。
『ひぃいい~』
予想していなかった彼女の来訪に、思わず悲鳴を上げてしまう蘭華であった。
彼女の反応は無理もない、フォンミンは美しい顔なのだが無表情である。
更に初めて会った日、彼女は飽桀の返り血を浴び、血だらけにした顔を蘭華に見せている。
その時の記憶が、一瞬だが彼女を緊張させ、恐怖を思い出させる。
『・・フォンミン殿ですか・・今日も来て下さったのですか』
『・・・・ランカ殿、姜文様はいらっしゃいますか』
『聞きたい事が有って、参りました』
『キョウブンさま、はい、ハイッ、おります 先ずは中へお入りください』
蘭華は、フォンミンが帰ってしまわない様に、慌てて彼女を中にいれようとした。
蘭華が、自分の訪問を許してくれた事を知ったフォンミンの顔が少しだけ変化する。
笑顔になるとか、表情がでるとかではない。
無表情はそのままなのだが、彼女の一瞬緊張がとれた様な空気が蘭華には伝わった。
蘭華はそれが嬉しかった。
フォンミンを椅子に座らせ、蘭華は早歩きで姜文の寝室へ向かう。
扉越しに、姜文へ呼びかけると、眠たそうな目をしてはいるが、驚いた顔で姜文は飛び出してきた。
『蘭華殿、おはようございます。フォンミンが来ているというのは、本当か?』
『私が呼んでいないのに、彼女自身で私の家に・・』
『はい、あちらで椅子に座っております』
『フォンミン殿!よく参られた、よく参られた』と姜文はそう言いながら居間に早歩きで向かう。
蘭華も、それをみて、自分は台所へ向かう。
『はちみつ、お湯を沸かさなきゃ!』、急に湧いた使命に、蘭華の気持ちも盛り上がっていた。
姜文が居間にはいると、無表情な仙女は、昨日と同じく部屋の隅々を興味深げに見ていた。
『フォンミン殿、今日も来てくれるとは嬉しいぞ』
『どうしたのじゃ』と笑顔で言い、姜文はフォンミンの座る席の向いに腰をおろした。
『姜文様、今日は貴方様にお伝えしたい事、お聞きしたい事があって参りました』
『凛凛をさらおうとした男ですが、名は飽桀と申しておりました』
『・・・飽桀・・あの男か‥やはり』
姜文が漁師の長より、飽桀が行方不明だと聞いたのは3日前であった。
徐福と陸信の死から立ち直れなかった姜文に、漁師の長が気兼ねして報告をしていなかったのである。
あの日、徐福と陸信がなくなり、凛凛も誘拐されそうになった。
妖であるフォンミンが誘拐した男を殺し、凛凛を取り戻してくれたが、船もその男の亡骸も未だ見つかっておらず、姜文も犯人が誰だったかを知らなかったのである。
それまで姜文は、二人の死と凛凛の誘拐が関係しているのではと疑ってはいたが、断定迄はしていなかった。
子供のいない夫婦が、乳飲み子をさらって自分達の子として育てるという話は、この時代それほど珍しい事件では無かったのも一つの要因である。
しかし、フォンミンの口から飽桀の名を聞いて、姜文は今回陸信が殺された理由は凛凛が、いや不老不死の霊薬が関わっていた事を確信したのであった。
内容が内容だけに、姜文の顔から笑顔が消えた。
『フォンミン殿、貴女はどうしてその男の名を知っている?』
『その男は自身で名乗ったのか?』
『いえ、その男の記憶を読みました』
『貴女は、そんな事もできるのか・・、では奴の目的もご存知か?』
『はい、あ奴の故郷の国、姜文様達がこの地に参られる前にいた国の王が、不老不死を願い、凛凛を連れて来るように、その男に命じたのです』
『始皇帝』
『あの狂王が・・・』
『そうか・・、未だ諦めていなかったのか・・あの狂人は』と姜文は、頭の中を整理する様にとぎれとぎれに呻くように呟く。
『・・・つまり、あの狂人が、凛凛が貴女の角を食べ、それを食べると不老不死になれる事迄知っていると申すのか!』と、姜文は声を高くし、驚きの声をあげる。
その言葉を聞き、無表情の仙女は無言で頷いたのである。
それを持って、姜文の家に向かうのである。
面倒見の良い彼女は、徐福の葬儀の次の日からその日課を続けていた。
その日も、何時も通り二人分の朝食を持って姜文の家に出掛けた。
姜文の家につき、蘭華は姜文に声をかけたが応答は無かった。
姜文の精神状況は少しずつ回復に向かってはいるが、未だ眠れない日が続いているようであった。
蘭華は、姜文を起こさない様に家に入り、慣れた手つきで部屋の掃除を始める。
掃除を開始して間もなく、外から物音がして、蘭華は気になり玄関から顔を出す。
すると、其処には仙女の姿をした妖フォンミンが立っていた。
『ひぃいい~』
予想していなかった彼女の来訪に、思わず悲鳴を上げてしまう蘭華であった。
彼女の反応は無理もない、フォンミンは美しい顔なのだが無表情である。
更に初めて会った日、彼女は飽桀の返り血を浴び、血だらけにした顔を蘭華に見せている。
その時の記憶が、一瞬だが彼女を緊張させ、恐怖を思い出させる。
『・・フォンミン殿ですか・・今日も来て下さったのですか』
『・・・・ランカ殿、姜文様はいらっしゃいますか』
『聞きたい事が有って、参りました』
『キョウブンさま、はい、ハイッ、おります 先ずは中へお入りください』
蘭華は、フォンミンが帰ってしまわない様に、慌てて彼女を中にいれようとした。
蘭華が、自分の訪問を許してくれた事を知ったフォンミンの顔が少しだけ変化する。
笑顔になるとか、表情がでるとかではない。
無表情はそのままなのだが、彼女の一瞬緊張がとれた様な空気が蘭華には伝わった。
蘭華はそれが嬉しかった。
フォンミンを椅子に座らせ、蘭華は早歩きで姜文の寝室へ向かう。
扉越しに、姜文へ呼びかけると、眠たそうな目をしてはいるが、驚いた顔で姜文は飛び出してきた。
『蘭華殿、おはようございます。フォンミンが来ているというのは、本当か?』
『私が呼んでいないのに、彼女自身で私の家に・・』
『はい、あちらで椅子に座っております』
『フォンミン殿!よく参られた、よく参られた』と姜文はそう言いながら居間に早歩きで向かう。
蘭華も、それをみて、自分は台所へ向かう。
『はちみつ、お湯を沸かさなきゃ!』、急に湧いた使命に、蘭華の気持ちも盛り上がっていた。
姜文が居間にはいると、無表情な仙女は、昨日と同じく部屋の隅々を興味深げに見ていた。
『フォンミン殿、今日も来てくれるとは嬉しいぞ』
『どうしたのじゃ』と笑顔で言い、姜文はフォンミンの座る席の向いに腰をおろした。
『姜文様、今日は貴方様にお伝えしたい事、お聞きしたい事があって参りました』
『凛凛をさらおうとした男ですが、名は飽桀と申しておりました』
『・・・飽桀・・あの男か‥やはり』
姜文が漁師の長より、飽桀が行方不明だと聞いたのは3日前であった。
徐福と陸信の死から立ち直れなかった姜文に、漁師の長が気兼ねして報告をしていなかったのである。
あの日、徐福と陸信がなくなり、凛凛も誘拐されそうになった。
妖であるフォンミンが誘拐した男を殺し、凛凛を取り戻してくれたが、船もその男の亡骸も未だ見つかっておらず、姜文も犯人が誰だったかを知らなかったのである。
それまで姜文は、二人の死と凛凛の誘拐が関係しているのではと疑ってはいたが、断定迄はしていなかった。
子供のいない夫婦が、乳飲み子をさらって自分達の子として育てるという話は、この時代それほど珍しい事件では無かったのも一つの要因である。
しかし、フォンミンの口から飽桀の名を聞いて、姜文は今回陸信が殺された理由は凛凛が、いや不老不死の霊薬が関わっていた事を確信したのであった。
内容が内容だけに、姜文の顔から笑顔が消えた。
『フォンミン殿、貴女はどうしてその男の名を知っている?』
『その男は自身で名乗ったのか?』
『いえ、その男の記憶を読みました』
『貴女は、そんな事もできるのか・・、では奴の目的もご存知か?』
『はい、あ奴の故郷の国、姜文様達がこの地に参られる前にいた国の王が、不老不死を願い、凛凛を連れて来るように、その男に命じたのです』
『始皇帝』
『あの狂王が・・・』
『そうか・・、未だ諦めていなかったのか・・あの狂人は』と姜文は、頭の中を整理する様にとぎれとぎれに呻くように呟く。
『・・・つまり、あの狂人が、凛凛が貴女の角を食べ、それを食べると不老不死になれる事迄知っていると申すのか!』と、姜文は声を高くし、驚きの声をあげる。
その言葉を聞き、無表情の仙女は無言で頷いたのである。
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