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第4章 狂王の末路
7.王からの命令書
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時は、少し遡る。
フォンミンが姜文の家に初めて来訪する一週間前である。
その日、秦の国の李覚という若い将軍に一つの命令が下される。
李覚は25歳と若いながらも、既に一万人の兵を束ねる将であり、将来が嘱望される男であった。
命令の内容は王の護衛として、巡遊へ加われというモノである。
大王の護衛として、一万人の部隊がつく事は当然の事だ。しかし、李覚が首をかしげたのは兵に所持せよと言う武器である。聞くと、大王は、他にも一万の兵を護衛として招集している。
総勢2万の兵で、王を護衛し、各地を巡遊する。護衛兵の数が、2万人というのは多くは無い。
『大王様は、何をしに巡遊に行くのだろうか?』
李覚が受けた命令の特異性は、数ではなく、持って行く武器であった。
上層部から受けた命令書には、兵が一人ずつ必ず強弩を所持し随行せよとの事であった。
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弩《ど》とは、現代のクロスボウと同じ原理の弓の名前である。
固い弓の弦を、両足を使い背筋力で置き引き金にかける。そして引き金を引くと、矢が放たれる。その飛距離は弱弩(手で扱える小型の弩)で100mの有効射程距離、強弩であれば700m~800mであった。
破壊力も凄まじく、鎧等で使われる薄い鉄板等は、モノともせず貫通する。
取り扱いが簡単で、弓の様に習熟までに時間がかからない物であり、秦の国が中国を統一した原動力はこの武器の発明であったとも言われている。
強弩(大型の弩)は全身をつかい、弓弦を引かなければならない為、連射性に弱く、基本は城攻め等、動かない標的に使う武器であった。
『1万個の強弩を持って行くという事は、城でも落としに行くのか?そんな城、何処に』と、李覚は思わず考えた事を声に出してしまっていた。
次の日、李覚はますます困惑する事になる。
王宮から来た使者は、毒矢30万本を持参し、李覚の部隊に配る様に命令する。
猛毒が塗っている為、取り扱いには注意する旨を伝え、帰ろうとする。
(毒矢だと・・・、30万本もの毒矢を何に射るのじゃ)
『使者殿、恐れ入りますが、大王様は誰かと闘うおつもりでも?』
『大王様は、今回の巡遊の前に、海神と闘う夢を見たそうじゃ』
『今回、巡遊する地には海辺も多い。もしもの事が起こった時の用心との事じゃ』
『海神ですが・・』
『何じゃ将軍、其方、大王様のお考えに不満でもあるのか?』
『いえ、滅相もござりませぬ、命令謹んでお受け致します』と言い、李覚は頭を下げる。
(不老不死の霊薬の次は、海神とは、我が王は、神様と闘って勝てると思っているらしい)
(神とは、人間が勝てないものの代名詞ではないか、我が王は我らに神殺しをしろと・・)
(神に勝てると思う、我が王は偉大な王か、それとも・・)
李覚は、バカバカしくなり、考える事をやめたくなった。
どっちにしても、自分達は命令に従わなければならないのである。
命令に従わなければ、命を失うだけ、神でも誰が敵でもそれは変わらないからである。
紀元前210年、晴れた朝、始皇帝達を乗せた輿と2万人の兵隊達は4回目への巡遊へ出発する。
それは、支配する領土を見て回るという様相では無く、まるで戦いに赴くようであった。
始皇帝は、不老不死の霊薬を求め、最後の巡遊へ出発したのであった。
フォンミンが姜文の家に初めて来訪する一週間前である。
その日、秦の国の李覚という若い将軍に一つの命令が下される。
李覚は25歳と若いながらも、既に一万人の兵を束ねる将であり、将来が嘱望される男であった。
命令の内容は王の護衛として、巡遊へ加われというモノである。
大王の護衛として、一万人の部隊がつく事は当然の事だ。しかし、李覚が首をかしげたのは兵に所持せよと言う武器である。聞くと、大王は、他にも一万の兵を護衛として招集している。
総勢2万の兵で、王を護衛し、各地を巡遊する。護衛兵の数が、2万人というのは多くは無い。
『大王様は、何をしに巡遊に行くのだろうか?』
李覚が受けた命令の特異性は、数ではなく、持って行く武器であった。
上層部から受けた命令書には、兵が一人ずつ必ず強弩を所持し随行せよとの事であった。
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弩《ど》とは、現代のクロスボウと同じ原理の弓の名前である。
固い弓の弦を、両足を使い背筋力で置き引き金にかける。そして引き金を引くと、矢が放たれる。その飛距離は弱弩(手で扱える小型の弩)で100mの有効射程距離、強弩であれば700m~800mであった。
破壊力も凄まじく、鎧等で使われる薄い鉄板等は、モノともせず貫通する。
取り扱いが簡単で、弓の様に習熟までに時間がかからない物であり、秦の国が中国を統一した原動力はこの武器の発明であったとも言われている。
強弩(大型の弩)は全身をつかい、弓弦を引かなければならない為、連射性に弱く、基本は城攻め等、動かない標的に使う武器であった。
『1万個の強弩を持って行くという事は、城でも落としに行くのか?そんな城、何処に』と、李覚は思わず考えた事を声に出してしまっていた。
次の日、李覚はますます困惑する事になる。
王宮から来た使者は、毒矢30万本を持参し、李覚の部隊に配る様に命令する。
猛毒が塗っている為、取り扱いには注意する旨を伝え、帰ろうとする。
(毒矢だと・・・、30万本もの毒矢を何に射るのじゃ)
『使者殿、恐れ入りますが、大王様は誰かと闘うおつもりでも?』
『大王様は、今回の巡遊の前に、海神と闘う夢を見たそうじゃ』
『今回、巡遊する地には海辺も多い。もしもの事が起こった時の用心との事じゃ』
『海神ですが・・』
『何じゃ将軍、其方、大王様のお考えに不満でもあるのか?』
『いえ、滅相もござりませぬ、命令謹んでお受け致します』と言い、李覚は頭を下げる。
(不老不死の霊薬の次は、海神とは、我が王は、神様と闘って勝てると思っているらしい)
(神とは、人間が勝てないものの代名詞ではないか、我が王は我らに神殺しをしろと・・)
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李覚は、バカバカしくなり、考える事をやめたくなった。
どっちにしても、自分達は命令に従わなければならないのである。
命令に従わなければ、命を失うだけ、神でも誰が敵でもそれは変わらないからである。
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