王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】

野松 彦秋

文字の大きさ
57 / 168
第4章 狂王の末路

7.王からの命令書

しおりを挟む
時は、少しさかのぼる。

フォンミンが姜文の家に初めて来訪する一週間前である。

その日、秦の国の李覚りかくという若い将軍に一つの命令が下される。
李覚は25歳と若いながらも、既に一万人の兵を束ねる将であり、将来が嘱望される男であった。

命令の内容は王の護衛として、巡遊へ加われというモノである。

大王の護衛として、一万人の部隊がつく事は当然の事だ。しかし、李覚が首をかしげたのは兵に所持せよと言う武器である。聞くと、大王は、他にも一万の兵を護衛として招集している。

総勢2万の兵で、王を護衛し、各地を巡遊する。護衛兵の数が、2万人というのは多くは無い。

『大王様は、何をしに巡遊に行くのだろうか?』

李覚が受けた命令の特異性は、数ではなく、持って行く武器であった。
上層部から受けた命令書には、兵が一人ずつ必ず強弩を所持し随行せよとの事であった。
|
弩《ど》とは、現代のクロスボウと同じ原理の弓の名前である。

固い弓のつるを、両足を使い背筋力で置き引き金にかける。そして引き金を引くと、矢が放たれる。その飛距離は弱弩じゃくど(手で扱える小型の弩)で100mの有効射程距離、強弩きょうどであれば700m~800mであった。

破壊力も凄まじく、鎧等で使われる薄い鉄板等は、モノともせず貫通する。

取り扱いが簡単で、弓の様に習熟までに時間がかからない物であり、秦の国が中国を統一した原動力はこの武器の発明であったとも言われている。

強弩(大型の弩)は全身をつかい、弓弦を引かなければならない為、連射性に弱く、基本は城攻め等、動かない標的に使う武器であった。

『1万個の強弩を持って行くという事は、城でも落としに行くのか?そんな城、何処に』と、李覚は思わず考えた事を声に出してしまっていた。

次の日、李覚はますます困惑する事になる。
王宮から来た使者は、毒矢30万本を持参し、李覚の部隊に配る様に命令する。

猛毒が塗っている為、取り扱いには注意する旨を伝え、帰ろうとする。

(毒矢だと・・・、30万本もの毒矢を何に射るのじゃ)

『使者殿、恐れ入りますが、大王様は誰かと闘うおつもりでも?』

『大王様は、今回の巡遊の前に、海神うみがみと闘う夢を見たそうじゃ』

『今回、巡遊する地には海辺も多い。もしもの事が起こった時の用心との事じゃ』

『海神ですが・・』

『何じゃ将軍、其方そなた、大王様のお考えに不満でもあるのか?』

『いえ、滅相もござりませぬ、命令謹んでお受け致します』と言い、李覚は頭を下げる。

(不老不死の霊薬の次は、海神とは、我が王は、神様と闘って勝てると思っているらしい)

(神とは、人間が勝てないものの代名詞ではないか、我が王は我らに神殺しをしろと・・)

(神に勝てると思う、我が王は偉大な王か、それとも・・)

李覚は、バカバカしくなり、考える事をやめたくなった。
どっちにしても、自分達は命令に従わなければならないのである。
命令に従わなければ、命を失うだけ、神でも誰が敵でもそれは変わらないからである。

紀元前210年、晴れた朝、始皇帝達を乗せた輿と2万人の兵隊達は4回目への巡遊へ出発する。
それは、支配する領土を見て回るという様相では無く、まるで戦いに赴くようであった。

始皇帝は、不老不死の霊薬を求め、最後の巡遊へ出発したのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...