王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】

野松 彦秋

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第6章 土岐家の名君

14.頼純の提案

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1547年10月、土岐頼純よりずみが大桑城へ入城してから丁度一年が経過しようとする時期であった。

暑い夏が終わり、過ごしやすい季節になっていた。

城中では、頼純の守護職就任1周年を祝う行事を行うかどうかの議論がされていた。

しかし頼純自身が未だそのような時期では無いと、固辞した為、その話は立ち消えとなり、頼純の人柄を慕う者達は内心落胆していたのである。

その者達の中には、当然頼純の正室帰蝶と、十兵衛も含まれていた。

十兵衛の本音は、実質道三の国になってしまっている美濃国において、1年間も自分を抑え、道三の傀儡くぐつ【操り人形の意】を演じている頼純の忍耐と、その中でも機会があれば道三の政治手法を学ぼうとする頼純の貪欲さを1年みており、主君としてではなく、一人の人間としてそんな努力をしている男を労ってあげたいというモノだった。

心の中で密かに残念がっていたが十兵衛とは違い、正室の帰蝶は、気性や幼さもあり、気持ちが素直に声に出てしまっていた。

何時もの様に、帰蝶の顔を見に部屋に遊びに来た頼純に、直接、毎回不満を漏らすので、頼純としても帰蝶をなだめるのが大変そうであった。

二人の会話が聞こえてきてしまう、十兵衛、護衛の男も、帰蝶の愚痴が聞こえ始めると、内心、やれやれ又始まったと呆れていたのである。

そんなある日の事である。

『頼純様、ワタシ、頼純様の守護職1周年を祝う事は諦めましたわ』

『ただ、私と頼純様が祝言を挙げてからも、丁度1周年です』

『私は、この1年、頼純様のお蔭で楽しく過ごさせて頂いております、私の感謝の意を込めて、何か頼純様に出来る事があればと・・・』

『なにか、私に、帰蝶にできる事があれば何なりとお申し付けください!』

『・・・フム、ワシの願いは、帰蝶殿が、今のまま健やかに成長してくれれば・・』

『何時も、帰蝶殿の笑顔に癒されておるからのう・・』

『子供扱いしないで下さい!!』

『私は、既に11でございますぅ、大人でございます!』

十兵衛は、帰蝶のその言葉を聞いて、思わず吹き出しそうになってしまったが必死に堪えた。

確かに、十兵衛と帰蝶が初めて会った時に比べると、帰蝶の身長は伸び、髪も伸びた。

帰蝶の顔立ちも、聡明であり肌も普通の女性より色白である、後4,5年もすればすれ違う殿方が振り返るような女性になると思うが、正直、言動や思考、行動が未だ未だ子供である。

『スマヌ・・・・、ああ、そう言えば、一つだけ、帰蝶殿にお願い出来る事があった』

『頼純様、そう言えば、その帰蝶殿というのも、止めて下さい。私は、貴方様の妻なのだから、帰蝶とお呼び下さいませ』

『そうか?そうじゃな、スマン、帰蝶殿』

『殿は、やめてぇと言ってるのに!!夫婦になってもう一年も経つのですから、今日から帰蝶で・・お願い、頼純様』

『ワカッタ、ワカッタ、帰蝶、これで良いか』

『ハイ、頼純さあま!!もう、殿を付けたら、許さないですからね』

『・・・それで、頼純様のお願いとは?何ですか』

『・・・ウム、ワシと、ワシと一緒に行って欲しい所があるのじゃ』

『行って欲しい所、どこです、それは?』

南泉寺なんせんじじゃ、我ら土岐家の菩提寺ぼだいじじゃ』

『ワシの先祖や、死んだ両親に、帰蝶殿・・帰蝶を紹介したいのじゃ』

『土岐家の先祖、いや死んだ両親や家族に、守護職に就任した自分と帰蝶を見せ、その場でこれからも見守って欲しいと、皆に宣言したいのじゃ』

『・・・・』

『・・・ン、如何した、帰蝶・・』

『私は、斎藤道三の娘でございます』

『その私が、そんなところへ行って、土岐家の皆様が歓迎するとは・・・』

『それは、違う、貴女は、確かに斎藤家の娘、しかし、既にワシの正室、土岐家の者になっておる』

『・・・帰蝶、貴女がそんな事を言うとは、・ウム、しかし、これは逆に良い機会かもしれぬな』

『二人で、菩提寺に行く日が、我らの本当の祝言の日になる』

『良いな、帰蝶』

『ハイ、頼純様、・・・嬉しい・・・私、楽しみにしております』

『明日、日を決める、十兵衛、六郎、聞こえたか?お主らも、付き従うのだぞ!!』

『ハッ!承知致しました!』と十兵衛が言い、六郎と呼ばれた男は、『御意のとおり!』と言った後、持っていた自分の愛刀である長刀の柄の部分で畳の上をドンと小突いた。

こうして、3人は運命の日に歩き出したのである。
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