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第6章 土岐家の名君
19.招かれざる客【前編】
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南泉寺で襲撃された頼純一行は、意識を失った十兵衛を連れ急ぎ大桑城に戻った。
十兵衛は、城へ戻ると直ぐに待機していた医者に見せられる。
同時に十兵衛の身体に刺さった手裏剣を、毒に詳しい薬師が確認する。
十兵衛の身体には、複数の刺し傷が残っており、その傷口を酷く腫れていた。
十兵衛の顔や、身体は、どす黒い色になっており、猛毒が全身に回っている事は、誰の目からも明らかであった。
医者は、十兵衛の脈をとりながら、これは駄目だと言う様に首を何度も振る。
『助けろ、なんとしても助けるのじゃ』
頼純が感情的な声で、怒鳴りつける様に言う。
『これは、いけません』
『未だ息がある事自体、不思議な状態です。普通の者では、とっくに死んでおります。』
医者は、そう言いながら土下座をする。
悲観的な雰囲気が、部屋に充満する中、隣の部屋で毒の種類を確認していた薬師が声を上げる。
『分りましたぞ、これは、多分、ツチハンミョウとうい昆虫の毒でございます!!』
数秒後、薬師が血相を変えて、部屋に入ってくる。
『その御方は、多分、ツチハンミョウという昆虫の毒を受けたのでございます』
『もう、遅いかもしれませんが・・この解毒剤を飲ませれば・・』
薬師は、そう言うと、手に持った粉薬を水に溶かしはじめ、それができると、倒れている十兵衛にユックリとその液体を飲ませた。
十兵衛は、既に意識がなく、少しも動かないため、その作業は直ぐに終わった。
その後、薬師は別の液体状の薬を取り出し、十兵衛の傷口に塗りたぐった。
『後は、体力勝負でございます。この御方が死ぬか、どうかは、この御方の生命力次第です!!』
『しかし、現状をみますと、先ず望みは無いかと・・お医者様の言ったとおり、未だ生きているのが、不思議な状況ですので・・』
『持って、今晩かと、御覚悟はしておいた方が・・・』
『一刻が過ぎた後未だ、息をされている様でしたら、又解毒剤と、塗り薬を塗らせて頂きますが・・・』
薬師は、決して軽はずみな事は言わず、自分のできる事は終わったと言い、部屋から退室したのであった。
『頼純様、十兵衛兄様は大丈夫よね?』
帰蝶がワラにもすがる様な表情で、頼純に聞く。
『・・・・、正直分らん、しかし、人は使命を持って生まれてくる筈、十兵衛が未だ息をしているという事は、仏が未だ、十兵衛を見捨てていない・・・という事じゃ』
『十兵衛が未だ息をしているという事は、十兵衛自身も諦めていないのじゃ、ワシらも十兵衛を信じよう!』
頼純がそう言うと、帰蝶は思いっきり頼純に抱き着く。
不安で張り裂けそうになる気持ちを、頼純に抱き着く事で抑えようとする行為であった。
頼純は一瞬驚いたが、妻の気持ちを理解したのか、帰蝶に抱きしめられながら、優しく励ます様に幼き妻の頭を撫でる。
『きっと、大丈夫じゃ!』と、頼純は、自分自身と帰蝶を共に鼓舞する様に呟いた。
その時、部屋に近づく音が聞こえて来た。
頼純の側近の家来である。
『頼純様、大変でございます。土岐頼芸様が・・尾張より3千の兵を連れ、この城に参られました』
『・・・何、叔父上が・・尾張から、兵を引き連れて・・』
『・・・』
頼純は、無言で状況を把握しようと一人考える。
『帰蝶、スマヌ、野暮用じゃ。ちと、面倒な事が起きているみたいじゃ。十兵衛をお主に頼んでも良いか?』
『ハイ!、十兵衛兄様の事は私にお任せ下さい』
『六郎、十兵衛と帰蝶の二人の事を頼む!』
『・・頼純様、ワシは貴方様の警護を任されておる、他の者に二人を頼めば良いと思うのだが・・』
『なあに、城の中で、ワシを襲う者はおるまい、襲撃された時の事を考えると、帰蝶の方が心配じゃ』
(あの襲撃、手裏剣で狙われたのは、ワシではなく帰蝶であった、まさか、叔父上が関係しているとは思えぬが・・)と頼純は、一瞬、突然来訪してきた叔父土岐頼芸が南泉寺での襲撃と関わっている可能性を疑ったが、今の自分が少し興奮状態だと、その考えを打ち消した。
『十兵衛がこうなっている以上、今は、お主しか帰蝶を頼める奴はいない・・頼む!』
『頼純様、お気をつけて!』
『帰蝶、用が終わったら直ぐに戻る。なあに、直ぐじゃ!』
頼純は、そう言い、呼びに来た側近の家来と共に、土岐頼芸を出迎える為、城門へと向かったのであった。
頼純の背中を見ながら、見送る帰蝶。まさか、それが頼純との別れになるとは帰蝶は思ってもみなかったのである。
最悪のタイミングで、招かれざる客が大桑城へやってきてしまったのであった。
十兵衛は、城へ戻ると直ぐに待機していた医者に見せられる。
同時に十兵衛の身体に刺さった手裏剣を、毒に詳しい薬師が確認する。
十兵衛の身体には、複数の刺し傷が残っており、その傷口を酷く腫れていた。
十兵衛の顔や、身体は、どす黒い色になっており、猛毒が全身に回っている事は、誰の目からも明らかであった。
医者は、十兵衛の脈をとりながら、これは駄目だと言う様に首を何度も振る。
『助けろ、なんとしても助けるのじゃ』
頼純が感情的な声で、怒鳴りつける様に言う。
『これは、いけません』
『未だ息がある事自体、不思議な状態です。普通の者では、とっくに死んでおります。』
医者は、そう言いながら土下座をする。
悲観的な雰囲気が、部屋に充満する中、隣の部屋で毒の種類を確認していた薬師が声を上げる。
『分りましたぞ、これは、多分、ツチハンミョウとうい昆虫の毒でございます!!』
数秒後、薬師が血相を変えて、部屋に入ってくる。
『その御方は、多分、ツチハンミョウという昆虫の毒を受けたのでございます』
『もう、遅いかもしれませんが・・この解毒剤を飲ませれば・・』
薬師は、そう言うと、手に持った粉薬を水に溶かしはじめ、それができると、倒れている十兵衛にユックリとその液体を飲ませた。
十兵衛は、既に意識がなく、少しも動かないため、その作業は直ぐに終わった。
その後、薬師は別の液体状の薬を取り出し、十兵衛の傷口に塗りたぐった。
『後は、体力勝負でございます。この御方が死ぬか、どうかは、この御方の生命力次第です!!』
『しかし、現状をみますと、先ず望みは無いかと・・お医者様の言ったとおり、未だ生きているのが、不思議な状況ですので・・』
『持って、今晩かと、御覚悟はしておいた方が・・・』
『一刻が過ぎた後未だ、息をされている様でしたら、又解毒剤と、塗り薬を塗らせて頂きますが・・・』
薬師は、決して軽はずみな事は言わず、自分のできる事は終わったと言い、部屋から退室したのであった。
『頼純様、十兵衛兄様は大丈夫よね?』
帰蝶がワラにもすがる様な表情で、頼純に聞く。
『・・・・、正直分らん、しかし、人は使命を持って生まれてくる筈、十兵衛が未だ息をしているという事は、仏が未だ、十兵衛を見捨てていない・・・という事じゃ』
『十兵衛が未だ息をしているという事は、十兵衛自身も諦めていないのじゃ、ワシらも十兵衛を信じよう!』
頼純がそう言うと、帰蝶は思いっきり頼純に抱き着く。
不安で張り裂けそうになる気持ちを、頼純に抱き着く事で抑えようとする行為であった。
頼純は一瞬驚いたが、妻の気持ちを理解したのか、帰蝶に抱きしめられながら、優しく励ます様に幼き妻の頭を撫でる。
『きっと、大丈夫じゃ!』と、頼純は、自分自身と帰蝶を共に鼓舞する様に呟いた。
その時、部屋に近づく音が聞こえて来た。
頼純の側近の家来である。
『頼純様、大変でございます。土岐頼芸様が・・尾張より3千の兵を連れ、この城に参られました』
『・・・何、叔父上が・・尾張から、兵を引き連れて・・』
『・・・』
頼純は、無言で状況を把握しようと一人考える。
『帰蝶、スマヌ、野暮用じゃ。ちと、面倒な事が起きているみたいじゃ。十兵衛をお主に頼んでも良いか?』
『ハイ!、十兵衛兄様の事は私にお任せ下さい』
『六郎、十兵衛と帰蝶の二人の事を頼む!』
『・・頼純様、ワシは貴方様の警護を任されておる、他の者に二人を頼めば良いと思うのだが・・』
『なあに、城の中で、ワシを襲う者はおるまい、襲撃された時の事を考えると、帰蝶の方が心配じゃ』
(あの襲撃、手裏剣で狙われたのは、ワシではなく帰蝶であった、まさか、叔父上が関係しているとは思えぬが・・)と頼純は、一瞬、突然来訪してきた叔父土岐頼芸が南泉寺での襲撃と関わっている可能性を疑ったが、今の自分が少し興奮状態だと、その考えを打ち消した。
『十兵衛がこうなっている以上、今は、お主しか帰蝶を頼める奴はいない・・頼む!』
『頼純様、お気をつけて!』
『帰蝶、用が終わったら直ぐに戻る。なあに、直ぐじゃ!』
頼純は、そう言い、呼びに来た側近の家来と共に、土岐頼芸を出迎える為、城門へと向かったのであった。
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