王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】

野松 彦秋

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第6章 土岐家の名君

20.招かれざる客【中編】

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『今、城には兵がどれだけいる?』

頼純は、唐突とうとつに後ろからついてくる側近の家来に質問をした。

頼純は歩きを止めず、振り返らないが、家来の回答に耳を傾ける。
『兵の数ですか?、・・・我が家の者が1,000名、後は朝倉家の方達が500』

『頼純様、まさか、頼芸よりのり様と戦いになる事をお考えか?』
側近の家来は、慌てて頼純を制するように、質問をする。

『ワシの考えではない、叔父上の考え方次第では、そうなる事も有りうるという事じゃ』

『併せても1,500か、叔父上が連れて来た兵達が3,00と戦になれば、朝倉家の者達がどう動くかが、問題じゃ、籠城戦になれば、当てにはなるまい・・』

頼純は、呟く様にそう言うと突然立ち止まる。

突然であった為、後ろから着いてきた家来は、危うく頼純にぶつかりそうなり、慌てて立ち止まる。

『殿、どうなされました?』

『・・・叔父上に会う前に、山崎殿と話がしたい』

『山崎殿、朝倉家の山崎吉家よしいえ殿ですか?』

『そうじゃ、あの方は、話しの分かる方だからな・・』

『万が一、叔父上と合戦になった場合、朝倉家がどう動くかを事前に話しておきたいのじゃ』

『・・・それでは、先に山崎殿のお部屋に』と頼純の家来はそういうと主君の前に出て、先導し二人は朝倉家の山崎吉家の部屋に向かったのであった。

部屋で休んでいた山崎吉家よしいえであったが、ただならぬ頼純の様子を見て、即座に人払いをして二人を部屋に招き入れる。

山崎吉家その年30歳、越前から頼純に従い付いて来た朝倉家の家臣団筆頭の男であった。

若い時より、朝倉宗滴より見出されて、外交関係の仕事を中心に任されている武将である。

吉家の身長が当時の男性の平均身長より15㎝も高い長身と、顎髭を伸ばし、彫が深い顔は、正直日本人離れしていた。

『頼純様、今日刺客に襲われたと聞いたが・・・、その件でのお話ですかな』

『吉家殿、刺客に襲われたのは確かじゃ、しかし、刺客達の目的は帰蝶じゃった』

『奥方殿が・・・』

山崎吉家は、そう言うと、眉間に皺を寄せる。己の顎髭あごひげを触り、刺客を送った者を推理する様に考え込む。

考えこむ吉家は、一瞬、自分の顔を覗き込むように見ている頼純に気づき、慌てて、弁明する様に言う。

『頼純様、まさか我が家【朝倉家の意】を御疑いか?違う、違いますぞ、我らでは無い。』

宗滴そうてき様には、定期的に文を送ってはいるが、頼純様が守護として、職務を全うしているという事のみ書いておりますし、宗滴様も又、頼純様を続けて支えよと返書を下さっております』

『今回の件は、我らは関与しておりません!起請文きしょうもん【神仏にかけて誓を立て、請い奉ること】を書いても良い』

そう言い、自分の言葉を信じて欲しいと、じっと頼純の顔を見つめる吉家であった。

『・・・分った。ワシは吉家殿のそのお言葉を信じよう』

頼純が短く、そう告げると、吉家は安堵の表情を浮かべる。

吉家の心が実際、どういう事を考えているかは分からないが、山崎吉家にはなんとなく嘘がつけない、人間の不器用さがあった。

外交とは、騙し合いの世界と見る者も多い、しかし、裏を返せば、騙し合いの世界で、最初から疑ってかかられ、それを信用しても良いのではに変えさせる、何かが無いといけない。

信用させるのは、言葉だけではなく、その者の細かな総ての行動なのである、それを総して日本人は古来より人柄と表現してきた。

(朝倉宗滴という御仁は、吉家殿の不器用さ、人柄に、外交官としての資質を見出したのだな・・)

(今回の件の黒幕は、やはり朝倉家ではなさそうだ・・)と、弁明する吉家の様子をみて頼純はそう確信したのであった。

『吉家殿、お主は、今回の黒幕、裏で糸を引く者は誰だと思う?』

『斎藤家と、頼純様を戦わせたい者、・・・道三殿自身か、尾張の織田信秀、若しくは土岐頼芸様かと・・』

『しかし、いくら、暗殺を得意と聞く道三殿といえど、自分の可愛い娘を生贄にはせんと信じたい・・』

『しかも、今回の襲撃の前、頼純様の護衛する者に、笛を持たせる事を提案したのは、あの明智殿』

『斎藤家が、自作自演したとは、思えん、ましてや、笛を提案した明智殿は、本日帰蝶殿を庇い、死にかけている、状況から見ると道三殿では無いと思いまする・・』

『そうなると、尾張の織田、若しくは、それに操られた頼芸様かと・・』

『・・・・、やはり、吉家殿も、そう思うか・・・』

『・・実は、吉家殿、その叔父上が、兵3千を連れて、この城の城門に来ておるのじゃ』

『・・・・兵3千とは、なんとも中途半端な』

『目的は多分、ワシと、いや、この大桑おおが城の者達を巻き込み、舅殿と一戦、美濃の国の覇権をかけ争うつもりじゃ、多分その中には、吉家殿の主君、朝倉家も入っておる筈じゃ』

『・・・・兵3千、大桑城周辺の兵をかき集めて、5千、若しくは6千で、勝てる訳が無い』

山崎吉家は、少し怒気を含んだような声でそう吐き捨てた。

『美濃の国には、舅殿に不満を持つ者達が少なくないとは聞くが、劣勢の状態で兵を上げても、その者達が兵を上げるとはワシには思えん』

『そうなると、叔父上が頼るのは、ワシの後ろ盾になっている吉家殿の朝倉家となる筈じゃ』

『伯父上が、吉家殿に朝倉家に援軍を求めるよう、命令するのは必定』

『吉家殿、お主の主家は、援軍を送ってくれるかのう?・・ワシは送って来ないと思うが』

『事前根回しもなく、突然、援軍を送れと言われて、送るお人好しは、おりませぬ』

『ワシも、そう思うのだが、叔父上はそうは思うまい・・』

『そもそもそう思う人であれば、突然兵を連れてこの城へは来るわけもない』

『吉家殿、これから数日の間、様々な事が起こると思うが、ワシが貴殿に会いに来たのは、一つだけ頼みがあっての』

『聞いてくれるかのう?』

『用件によりますが、何でしょうか?』

それから二人は短い時間であったが、今後起こる事を想定し、自分達の立ち回り方を相談したのである。

吉家と相談した後、頼純は覚悟を決めた様に一度、大きく息を吐き、『ヨシ!』と言って吉家の部屋を後にしたのであった。

頼純が去った後、吉家も自分の部屋を出て、頼純と同じように大きく息を吐き、自分の頬を両手で叩き、『行くか・・』と言って、ある場所へ向かった

頼純は、叔父頼芸が待つ大桑城の城門に、吉家は十兵衛が看病されている部屋に向かったのであった。
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