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第9章 世代交代への動き
4.幼子の狂気
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稲葉一鉄は、守就から道三の次男孫四郎の名を聞き、6年前のある事を思い出した。
それは、稲葉山城で起こったある家来の悲劇であった。
当時、孫四郎は幼く(8歳)、未だ幼名の勘九郎と呼ばれた時である。
利発で活発だった孫四郎は、父道三の前で得意の木登りの腕を見せた事がある。
当時26歳の一鉄は、道三の覚えも良かった為、常に道三の傍におり身の回りの世話をしていた。
なので、当日も一鉄は道三の妻と子供達が住む稲葉山城内にある屋敷内にいてその一部始終を見ていたのである。
孫四郎は、父道三の前で得意気にあっという間に、城内で一番高い木のてっ辺まで登ったのだが、登ったは良いが、降りてくる自信がなかったのか、降りて来られなくなってしまったのである。
道三、自らが木を登って行こうとしたが、家来達に止められ、最終的に城内の者の中で木登りに自信がある者達を呼び、その者達が木に登っていくという事になった。
しかし、その者達の中でも、その木に登ろうとした者はたった一人であった。
他の者たちは、木の高さに驚き、子供を抱えておりてくる自信が無いと辞退したのである。
そんな中、佐平次という薪拾いを仕事としている男が、一人だけスルスルと木に登り、てっ辺に居た孫四郎を首にしがみつかせ、やっとの事で降りて来る事に成功したのであった。
その日から、佐平次は一躍稲葉山城内での有名人になった。
寵愛する息子を助けてもらった父道三も、少なくない金子を褒美として佐平次に渡した。
事はそれで終われば、唯の愉快な話であったが、事は終わらず、話しには続きがある。
孫四郎は、その次の日から毎日佐平次を探し、木登りの教えを受け始めたのである。
それから、一ヵ月もしない内に、佐平次は孫四郎を助けたその木のてっ辺から落ちて死んだ。
その前日まで毎日の様に、彼と木登りの練習をしていた孫四郎であったが、不思議な事に、佐平次が死んだ日に限って、孫四郎は佐平次と行動を共にしていなかった。
ある日、パッと生まれた城内の有名人が、突然またパッと消えてしまった事に、多くの者が驚いた。
佐平次から木登りの教えを受けていた孫四郎もその一人の様であった。
彼は3日間、自分の部屋に引き籠ってしまった。多くの者は、悲しみにくれる幼子の事を想像し、同情したのである、
父道三は、そんな息子の様子を心配し、仕事が忙しい中、それでも時間を探し3日連続彼の部屋を訪れ、短くない時間彼を見舞い、励まし続けた。
父の励ましもあってか、孫四郎は1週間も経つと、元気を取り戻したのだが、その後も奇妙な事が続く。
佐平次と仲が良かった者達が次々と城内から消えていったのである。
その消えた者達の中には一人だけ、一鉄とも顔見知りの者がいた。
城では、佐平次の怨霊が毎晩彼らの夢枕に立ち、彼らにこっち(あの世)に来いと手招きをしたからだという噂がまことしやかに語られる様になった。
若き一鉄は、そんな噂を信じず、馬鹿馬鹿しいと直ぐに忘れ、1年も経つと佐平次事件についてもスッカリ忘れていたのである。
しかし、事件から数年が経過したある日、偶然、訪れていた場所で、居なくなった佐平次の知人で、一鉄とも顔見知りであった者とバッタリと出会い、佐平次事件の真相を知る事になる。
その者が語った佐平次事件の真相はこうである。
佐平次が死んだのは、事故ではなく事故を装い、孫四郎に殺されたという事である。
8歳の幼子に、大の大人が殺せる訳が無い。一鉄も初めはそれを信じなかったが、男の話を最後まで聞き理解せざるを得なかった。
男が言うには、孫四郎を助けた佐平次は、その次の日から毎日彼に呼ばれ、ひたすら、あの日の木に登らされていたという事。
名目は、木登りを教えるという事であったが、佐平次は孫四郎に手本を見せてくれと言われ、ひたすらあの木を登りおりを繰り返させられたと言う事であった。
いくら、木登りの名人佐平次でも、あの高い木を一日何度も登らされ、それを毎日続けさせられたのだから、たまったものではない。心身共に追いつめられていった。
何度も辞めたいと孫四郎と、その御付きの者に伝えたのだが、彼らはそれを許さなかった。
佐平次が死ぬ前日に漏らしていたと、男は恐ろしい事を口にした。
『あ奴らは、内心、ワシがあ奴らの面に泥を塗ったと思っており、怒っておるのじゃ』
『殿様の前で、恥をかかせたと・・・ワシに何度も木に登らせるのはその罰じゃ』
『ワシは頼まれて、しょうがなく、木に登りアイツを助けただけじゃ』
『ワシは、もう疲れた。疲れたんじゃ。あんな金子、貰わなければ、あの日、あの木に登らなければ・・』
『ワシが、あの小僧に、道三様にこの訓練を辞めさせて欲しいと訴えるといったら、あの小童、何と言ったか分かるか?』
『父上と自分の考えは一緒だから無駄だと、しかしもしワシがそんな事をしたら、絶対にワシを許さないと言うのだ』
『あの小僧の、あの時の目は普通ではない、鬼の様な目じゃった』
男は、それが佐平次との最期の会話だった言った。
佐平次が死んだ日の後、男の元に孫四郎の御付きの者達が来て男と佐平次との関係、死ぬ前に話していた内容等を聞きに来たと一鉄に告げた。
男達は、孫四郎様と佐平次の件について、男が他の者に話をしたら男の命は無いと脅されたという。
男は、その者達の言葉にただならぬ殺気を感じ、自分の身の危険を感じ、逃げたのだといった。
(あの男が言った事が真実であれば、8歳の幼子と思えぬ不気味さを感じる。)
(いくら主君の御子息でも、善意で助けてくれた命の恩人を、死に追いやるような輩であれば・・)
(人の命の大切さを知らん者が、そんな者にこの国の上に立たれては、美濃は滅びる)
(これは確かめねばならんな、殿の後継者に対する考えを、そして孫四郎様の本質を・・)
『稲葉あ、どうした、急に黙ってしまって』
『何か、考えているのか?』
『イヤ、安藤殿、ワシに少し時間をくれんか?、確かめたい事がある・・』
『オオっ、殿に進言してくれる気になったのか?ヨシ、任せたぞ!』
安藤守就の問いに、稲葉一鉄は、複雑な思いで頷いたのであった。
それは、稲葉山城で起こったある家来の悲劇であった。
当時、孫四郎は幼く(8歳)、未だ幼名の勘九郎と呼ばれた時である。
利発で活発だった孫四郎は、父道三の前で得意の木登りの腕を見せた事がある。
当時26歳の一鉄は、道三の覚えも良かった為、常に道三の傍におり身の回りの世話をしていた。
なので、当日も一鉄は道三の妻と子供達が住む稲葉山城内にある屋敷内にいてその一部始終を見ていたのである。
孫四郎は、父道三の前で得意気にあっという間に、城内で一番高い木のてっ辺まで登ったのだが、登ったは良いが、降りてくる自信がなかったのか、降りて来られなくなってしまったのである。
道三、自らが木を登って行こうとしたが、家来達に止められ、最終的に城内の者の中で木登りに自信がある者達を呼び、その者達が木に登っていくという事になった。
しかし、その者達の中でも、その木に登ろうとした者はたった一人であった。
他の者たちは、木の高さに驚き、子供を抱えておりてくる自信が無いと辞退したのである。
そんな中、佐平次という薪拾いを仕事としている男が、一人だけスルスルと木に登り、てっ辺に居た孫四郎を首にしがみつかせ、やっとの事で降りて来る事に成功したのであった。
その日から、佐平次は一躍稲葉山城内での有名人になった。
寵愛する息子を助けてもらった父道三も、少なくない金子を褒美として佐平次に渡した。
事はそれで終われば、唯の愉快な話であったが、事は終わらず、話しには続きがある。
孫四郎は、その次の日から毎日佐平次を探し、木登りの教えを受け始めたのである。
それから、一ヵ月もしない内に、佐平次は孫四郎を助けたその木のてっ辺から落ちて死んだ。
その前日まで毎日の様に、彼と木登りの練習をしていた孫四郎であったが、不思議な事に、佐平次が死んだ日に限って、孫四郎は佐平次と行動を共にしていなかった。
ある日、パッと生まれた城内の有名人が、突然またパッと消えてしまった事に、多くの者が驚いた。
佐平次から木登りの教えを受けていた孫四郎もその一人の様であった。
彼は3日間、自分の部屋に引き籠ってしまった。多くの者は、悲しみにくれる幼子の事を想像し、同情したのである、
父道三は、そんな息子の様子を心配し、仕事が忙しい中、それでも時間を探し3日連続彼の部屋を訪れ、短くない時間彼を見舞い、励まし続けた。
父の励ましもあってか、孫四郎は1週間も経つと、元気を取り戻したのだが、その後も奇妙な事が続く。
佐平次と仲が良かった者達が次々と城内から消えていったのである。
その消えた者達の中には一人だけ、一鉄とも顔見知りの者がいた。
城では、佐平次の怨霊が毎晩彼らの夢枕に立ち、彼らにこっち(あの世)に来いと手招きをしたからだという噂がまことしやかに語られる様になった。
若き一鉄は、そんな噂を信じず、馬鹿馬鹿しいと直ぐに忘れ、1年も経つと佐平次事件についてもスッカリ忘れていたのである。
しかし、事件から数年が経過したある日、偶然、訪れていた場所で、居なくなった佐平次の知人で、一鉄とも顔見知りであった者とバッタリと出会い、佐平次事件の真相を知る事になる。
その者が語った佐平次事件の真相はこうである。
佐平次が死んだのは、事故ではなく事故を装い、孫四郎に殺されたという事である。
8歳の幼子に、大の大人が殺せる訳が無い。一鉄も初めはそれを信じなかったが、男の話を最後まで聞き理解せざるを得なかった。
男が言うには、孫四郎を助けた佐平次は、その次の日から毎日彼に呼ばれ、ひたすら、あの日の木に登らされていたという事。
名目は、木登りを教えるという事であったが、佐平次は孫四郎に手本を見せてくれと言われ、ひたすらあの木を登りおりを繰り返させられたと言う事であった。
いくら、木登りの名人佐平次でも、あの高い木を一日何度も登らされ、それを毎日続けさせられたのだから、たまったものではない。心身共に追いつめられていった。
何度も辞めたいと孫四郎と、その御付きの者に伝えたのだが、彼らはそれを許さなかった。
佐平次が死ぬ前日に漏らしていたと、男は恐ろしい事を口にした。
『あ奴らは、内心、ワシがあ奴らの面に泥を塗ったと思っており、怒っておるのじゃ』
『殿様の前で、恥をかかせたと・・・ワシに何度も木に登らせるのはその罰じゃ』
『ワシは頼まれて、しょうがなく、木に登りアイツを助けただけじゃ』
『ワシは、もう疲れた。疲れたんじゃ。あんな金子、貰わなければ、あの日、あの木に登らなければ・・』
『ワシが、あの小僧に、道三様にこの訓練を辞めさせて欲しいと訴えるといったら、あの小童、何と言ったか分かるか?』
『父上と自分の考えは一緒だから無駄だと、しかしもしワシがそんな事をしたら、絶対にワシを許さないと言うのだ』
『あの小僧の、あの時の目は普通ではない、鬼の様な目じゃった』
男は、それが佐平次との最期の会話だった言った。
佐平次が死んだ日の後、男の元に孫四郎の御付きの者達が来て男と佐平次との関係、死ぬ前に話していた内容等を聞きに来たと一鉄に告げた。
男達は、孫四郎様と佐平次の件について、男が他の者に話をしたら男の命は無いと脅されたという。
男は、その者達の言葉にただならぬ殺気を感じ、自分の身の危険を感じ、逃げたのだといった。
(あの男が言った事が真実であれば、8歳の幼子と思えぬ不気味さを感じる。)
(いくら主君の御子息でも、善意で助けてくれた命の恩人を、死に追いやるような輩であれば・・)
(人の命の大切さを知らん者が、そんな者にこの国の上に立たれては、美濃は滅びる)
(これは確かめねばならんな、殿の後継者に対する考えを、そして孫四郎様の本質を・・)
『稲葉あ、どうした、急に黙ってしまって』
『何か、考えているのか?』
『イヤ、安藤殿、ワシに少し時間をくれんか?、確かめたい事がある・・』
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