転生したってリセット癖は治らない

佐倉 奏

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#14 少しは距離が縮んだ気がします。

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   サース火山の中腹から頂上へと進む。勿論途中に遭遇した魔物はキッチリ仕留めてアイテムボックスへと収納する。
   下山する時間を考えると昼迄には頂上に辿り着いてヘルハウンドを狩らなければならない。なので素材の剥ぎ取りは後回しだ。

   頂上に近付くにつれて熱気が強くなる。そこかしこから、硫黄の匂いと湯気が立ち込めていた。

「かなり…熱いですね」

   ルナはハァハァと息を切らす。この熱さでの登山はかなりの体力を消費する。ルナ程ではないがクロード、ジェイクもかなりキツそうだ。

「ヘルハウンド自体はそこまで強くはない。ただこの環境下で何の問題もなく動けるからこその強さなんだ」

   ジェイクの説明に成る程、とルナは納得する。この熱さでは思うように体が動かない。

   地球に居た時は暑い時はクーラーを付けてベッドで転がりながらゲームをしたっけ…そんな事を思い出す。

「クーラー…いや、吹雪をずっと起こすには魔力の無駄だし発動中は多分他の魔法は使えない」


   う~ん、と考えて閃いた。

「冷えピタだ!!」


   ルナはそう言うとイメージする。体中を被うように薄い水の膜を張る。体に密着させると呼吸が出来ないから少しだけ隙間を開けて膜を作成。その膜の中に氷の塊を何個も入れる。
   これですぐには水の膜は熱くならないハズだ。氷には魔力を籠めて溶けにくく、なおかつかなり冷たくなるようにする。


「うん!熱くない!」

   ルナの魔法にクロードとジェイクは呆然とする。
それもその筈だ。ルナの魔法は見た事もない魔法だからだ。
   この世界での常識を逸脱している。そもそもなんて魔法は存在しない。
   目の前で展開された水魔法も存在しない。

「なぁ、クロード。この女は何者なんだ」

「レイト様の想い人…ですね」

   2人のやり取りに気付かずルナは成功した魔法に喜ぶ。さっそくクロードとジェイクにも魔法をかけると、2人から感謝された。

「すまない」

「助かる」

「やだ、2人共素直すぎて気味が悪い」

   そう言ったルナの頭にジェイクの拳骨が落とされた。


   頂上付近まで行くと気配を察知する。この気配はかなり大きい。これがヘルハウンドか。
   ルナはゴクリと喉を鳴らす。今までで一番の強敵に緊張が走る。

   ヘルハウンドの体は赤黒く、体の大きさはそこまで大きくはない。けれど醸し出しているオーラからは強者の貫禄がある。サース火山での頂点に君臨しているのだろう。

「俺は前衛で致命傷を狙う。ルナは魔法で援護してくれ。クロード、お前はルナを守りながら牽制だ」

「分かりました」

「ああ、ジェイクも気を付けろよ。ヘルハウンドの炎を喰らったら、ただじゃ済まないからな」


   ジェイクはヘルハウンドの後ろから斬りかかる。すかさずルナは風魔法でジェイクの移動速度を速くさせた。
   クロードはヘルハウンドの動きを見ながらルナの前をキープするように動く。

「ジェイクさん、氷柱でヘルハウンドを狙います!」

「ああ!頼む!」

   ルナは地面から氷柱が生えるイメージをする。するとガッと地面から太い氷柱が生えてきた。
   しかしヘルハウンドはそれをすれすれで躱す。避ける方向を予測したジェイクはヘルハウンドへと斬りかかる。
   追い討ちでクロードは土魔法を発動させヘルハウンドの足を地面と固定させた。

「ジェイク!いまだ!!」

「うぉぉぉ!!!」

   閃光烈火の如く鋭い太刀がヘルハウンドの首にかかる。ザンッ!という音と共にヘルハウンドの首は転げ落ちた。

「ふぅ…何とかなったか」


   ジェイクはヘルハウンドの首を持ち上げる。すると、カッ!と目を見開いたヘルハウンドは口から炎を吐き出した。


「ジェイクさん!!」

「ジェイク!!」

   思わず目を瞑るルナ。恐る恐る目を開けると、そこには無傷のジェイクが立っていた。


「お前の水魔法…規格外すぎだろ」

   ルナの水魔法で作られた膜によって炎を中和され難を逃れたジェイクは呆れたように、けれど笑ってルナの元へと行くとルナの頭をグシャグシャと撫でたのだった。

   ヘルハウンドが落とした魔石は、まるで真っ赤なルビーのようで艶めき眩い光を放っている。大きさはは手の平よりほんの少しだけ小さい。

「この大きさの魔石は中々市場には出ないですね」

「ああ。俺も久々にこのサイズを見た」

   クロードとジェイクは魔石を覗き込むと感嘆の声を上げる。

「こんな立派な魔石を武器でも防具にでも使う訳じゃなく調理器具に使うのか…」

   ジェイクの呟きにクロードも苦笑する。

「レイト様の想い人は色々規格外すぎて我々の考える先を行ってますね」

   そんなクロードの呟きにジェイクも苦笑した。


「クロードさーん!ジェイクさーん!ヘルハウンドの剥ぎ取りも町に戻ってからにしましょう!」

   ルナの言葉に、はいはいと頷くと二人は町へ戻る支度をするのだった。


   ギルドのテーブルを借りて三人は今回手に入れた魔石の振り分けをする。
   ルナはまず、二人へ中銀貨を5枚ずつ渡す。
そして袋からドサッと大量の魔石を取り出した。

「別に俺らはレイト様からあんたを守るように言われてるんだから魔石はあんたが独り占めしていいんだぜ?」

   ジェイクの言葉にクロードも同意する。

「そんな訳にはいかないですよ。例えレイト様からの指示だとしても、今回のヘルハウンド討伐は頼んだのですから。こういう事はキッチリしておかないと、また次があった時に頼みにくくなりますからね」

   ニッコリと笑うルナに二人は顔を見合わせる。

「成る程。クロードから聞いてはいたが、したたかな女だ」

「お褒め頂き光栄です」

   魔石の分配はヘルハウンドの素材と魔石はルナへ。その他の比較的大きい魔石はクロードとジェイクが二人で分ける。
   残りの小さな魔石と魔物の皮はルナの分になった。

「そんな小さな魔石だけではあまりお金にならないですよ?」

   クロードの問い掛けにルナはニンマリと笑う。

「これはお金にかえるんじゃないです。後でのお楽しみです」

   その日は解散し、後日コンロが完成したらバーベキューをする事に。
   ルナは足取り軽く武器屋のレヴィンの元へと急ぐ。

「レヴィンさーん!!魔石ゲットしましたよーー!!」

   バターンとドアを開けて飛び込む。

「おう、嬢ちゃん無事だったか!」

「はい!これで大丈夫ですか?」

「おい…こんな大きさの魔石何処で手に入れた!?」

   「サース火山に居たヘルハウンドを狩ってきました!あ、ちゃんと護衛二人つけたので安心して下さい」

「はぁ…もう何も言わん!!」

   呆れたように言うレヴィン。ルナから魔石を預かるとコンロへと埋め込む。

「予想より大きかったな。少しコンロを削りたいから待っててくれ」

「分かりました~!」

「釜戸は出来てるから暇なら確認しておいてくれ」

レヴィンはそう言うとクイ、と親指を釜戸へと向ける。ルナは目を輝かせて釜戸へと駆け寄った。

「うわー!うわー!凄い!燻製もちゃんと出来るようになってる!燻製させる食品を吊るせるように先端はフックになってるし、下段の鉄板にはぶつからないようになってる!!流石職人!」

「褒めたって何も出ねぇからな?」

   カーンカーンと音を立てながらコンロを調整していくレヴィン。少し待つとコンロを持ってレヴィンがルナの元へとやってきた。

「折り畳んで足を収納出来るようにしてある。コンロ周りの風避けも畳めるからそんなに嵩張らないだろ。あとは持ち運び出来るよう取手もつけてる」

   コンロの背面には真っ赤に輝く魔石が埋め込まれている。

「火をつけてみてもいい?」

「ああ、試してみてくれ」


   ルナがコンロのスイッチを捻るとカチカチカチ…と音がして、その次にボッ!!と火が着いた。
   スイッチで火力調節も出来る優れものだ。

「うわー!これ!!これです!想像した通りのコンロです!!」

   特注品の金額はコンロと釜戸合わせて小金貨1枚。
痛い出費だがレヴィンの腕は確かだし、これからもお世話になるだろうから値切ったりはしない。
   ヘルハウンドの素材と他の魔物の素材を売ったので懐はまだ余裕がある。


「よし!明日はバーベキューの食材を買いに行かないと!」

   ルナは明日の買い物を楽しみに思いながら宿へと向かうのだった。
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