転生したってリセット癖は治らない

佐倉 奏

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#16 感謝を込めて招待します。

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   バーベキュー当日の朝。ルナはリリーの店へと立ち寄ると品物を預かる。かなりの量だがアイテムボックスがあるので問題がない。

「確かに確認しました。リリーさん、こんな急に頼んでしまってごめんなさい。」

「いいのよ。私も久々に沢山お裁縫が出来て楽しかったし、ルナさんがデザインしたのを仕立てるのは本当に楽しかったわ。」

「そう言って貰えて良かったです。では、今夜のバーベキューお待ちしていますね。夕方迎えを寄越しますので」

   そう告げてルナは町へと急ぐ。まだまだ足りない物は多く、急いで買い付けなければならない。

「えーと、強力粉、塩、イースト、トマト、ウインナー、チーズ、あとは…牛乳、砂糖、ジャム…は高いなぁ。果物買って自作するかな」

   次から次へと商品をかごに入れていく。頭の中で今日のバーベキューで何を出すか考えながら、レシピを思案する。

「っと、レヴィンさんに朝食の差し入れもしないと!」

   パン屋でバゲットを買うついでに、サンドイッチも購入する。食パンを1斤まるごと中身をくり貫いて、シチューを入れてチーズを散らして釜戸で焼いても美味しいかもしれない。

   どうも店を見て回ると色々買い込んでしまうのは女性の性なのか?思い付いたレシピを試したくて食パンを1斤、追加で購入した。

「間に合うかな~」

   ルナは急いで会計を済ませるとバーベキュー会場へと向かう。

「あっ!クロードさん!夕方リリーさんを会場までご案内お願いしますね」

「俺は小間使いじゃないんだが」

「まぁまぁ、堅いこと言わないで下さいよ~。か弱い女性一人であの場所まで行けと言うんですか?」

   ルナの言葉にクロードは盛大にため息をつきながら了承するのだった。

   会場へと辿り着くとレヴィンがグッタリしながら寝転がっている。


    一般的な釜戸、コンロが設置されている。コンロの隣は水魔法の力が籠められた魔石を埋め込んだ蛇口と流し台があり、その設備にはちゃんと屋根がついていた。所謂炊事場である。

   炊事場の前は広場になっており、テーブル・椅子が置いてある。
   ルナはテーブルにバッとテーブルクロスを敷く。これはリリーに頼んで作って貰った物だ。
   椅子にも沢山の綿が入ったクッションを置いて、長時間座っても大丈夫なようにする。

   広場の隣には、ちょこんとした可愛らしい家が建っている。2階建てで1階に4部屋とトイレ、2階に4部屋とトイレの合計8部屋の作りだ。
   この家の特徴は、キッチンが無いのとお風呂が無い事。

   ルナは各部屋に入るとアイテムボックスから寝具を取り出し、木で出来たベッドに敷いていく。その寝具もリリーのお手製だ。
   掛布には綿と白亜鳥の羽毛を入れている。流石に羽毛だけで人数分作成するのは無理だったので綿を混ぜた。
   だが綿を入れた事により逆に、ほんの少しだけ重みが増して体に密着する。その為体から放出された暖かな空気は掛布から逃げる事がなくなり保温性が増した。
   これはいい誤算だった。

   全ての部屋に寝具を設置してから家を出る。
今度は温泉の場所へと向かう。
   以前は完全に自然のままの露天風呂だったが、レヴィンによって男女別の露天風呂へと変貌していた。

   脱衣場も作られていて脱いだ洋服やタオルが置ける棚も設置されている。
 ルナは棚にバスタオルと小さめのタオルを置くと、レヴィンの元へと向かう。


「レヴィンさん本当に凄い!!」

「徹夜続きで死ぬかと思った…」

「ああっ!ご飯食べたら寝てください!!バーベキュー始まる少し前に起こしますから!ご自慢の剣とかは勿論持ってきてますよね?」

「ああ…ちゃんと持ってきて…」

   そのままレヴィンは寝落ちする。ルナは風魔法でレヴィンを持ち上げるとクリーンの魔法をかけてレヴィンの汚れを落とす。そして1階の部屋のベッドで寝かせた。

「かなり無茶振りしたよなぁ」

   今度何かお礼をしなければと思うルナだった。


   夕方、レヴィンを叩き起こして建物の最終確認をしてもらう。テレビのお笑い番組よろしくいきなり建物が倒壊したら洒落にならないからだ。
   レヴィンが確認している間、ルナはバーベキューの準備に精を出していた。

   時間のかかるスモークはお昼過ぎから既に稼働させている。大振りのベーコンに魚屋で買ったサーモン。この2つはフックに引っ掻けて上から吊るす。
   茹で卵、チーズは鉄板の上に置いてスモークさせる。

   ピザ生地を作り、冷蔵庫もどきに保管。これは外枠はレヴィンに頼んだ。氷の魔石はかなりのレア物なので中々手に入らない。
   なのでルナは、で、氷の魔石を作成した。上手くいくか不安だったが杞憂だったみたいだ。

   冷蔵庫には他にもクロードから聞き出したレイトの好きなワイン(値段に驚いて断念しようとしたらクロードが半分出してくれた。どれだけレイト様が好きなんだと心の仲で突っ込んだのは秘密だ)
果実酒、お酒の飲めない人の為の果実水を冷やしてある。

   果実水はルナのお手製だ。メイソンジャーを思い出すなぁと思いながら色々な果物を入れた。炭酸があればもっと美味しかったのに少し残念だ。

   一段落した所でクロードとリリーが到着した。

「リリーさん!遠くまでわざわざありがとうございます!」

「ルナちゃん、ご招待ありがとう。とっても素敵な所ね」

   ルナとリリーが歓談していると、レイトとジェイクも到着した。

「ルナ!久しぶりだ!」

「ちょ…レイト様!!皆が居るから離れて下さい」

「久々に逢ったんだ。少し位いいだろ?」

 ギュッと抱き締められルナは慌てて離れようとするが、レイトの腕はルナを捕らえたまま動かない。
   暫くルナの抱き心地を堪能すると漸く腕の中から解放した。

   レイト・クロード・ジェイク・レヴィン・リリー。
この五人はルナがこっちの世界にやってきて助けてくれた人達だ。だから、恩返しがしたかった。
   ルナは五人の方を見るとスッとお辞儀をした。

「今日は遠くまで来て頂きありがとうございます。ささやかではありますが、日頃の感謝を込めてこの場を設けさせて頂きました。楽しんで頂ければ幸いです」

   ルナはレヴィンを呼ぶ。呼ばれたレヴィンは何事かと思いつつルナの隣へと向かった。

「この方はレヴィンさん。町にある武器屋の店主です。私は町の武器屋や防具屋を何件も廻りましたが彼程の腕を持った職人は居ないと思っています。武器だけではなく、色々な物を作れる器用な方です。
   前にある炊事場、広場の椅子やテーブル、あちらの家、少し行った所にある温泉の建物。これら全てレヴィンさんが作ってくれました。しかも一週間で」

「一週間!?」

   ジェイクは信じられないと言った感じでレヴィンを見る。レヴィンは照れ臭そうに頬をかいた。
 
「後程お見せしますが、レヴィンさんの作った携帯コンロも素晴らしい出来です。私の無茶苦茶な要求に答えて、それ以上の物を作ってくださるレヴィンさんは私の恩人です」

   続いてルナはリリーを呼ぶ。

「こちらはリリーさん。記憶が無くなって生きる為に冒険者になった私にとても良くしてくれました。危険ではない依頼を私に下さり、しかも報酬は破格でした…一緒に食べたご飯はとても美味しくて…まるでお母さんみたいだなって思っています。」

   ルナの言葉にリリーは涙目で頷く。

「私が着ているワンピースや、このテーブルクロス、あちらの家にあるリネン、寝具は全てリリーさんお手製です。一つ一つ丁寧に作られていてとても使いやすいのです。そんなリリーさんも私の恩人です」


   ルナはクロードの方へと顔を向ける。

「クロードさん、いつもありがとうございます。なんやかんや言いつつ私のワガママを聞いてくれて。クロードさんのお小言、嫌いじゃないですよ?」

   ルナがそう言うとクロードはやれやれと言った表情で額に手を当てる。しかしよく見るとほんの少しだけ…口角が上がっていた。

「ジェイクさん、初対面は最悪でしたね」

   ふふふ、と笑うルナにジェイクも笑う。

「そりゃー気配消しながら歩いてる令嬢なんざ見た事ないからな。怪しすぎだ」

「それは忘れて下さい。ジェイクさんの強さ、魔物への知識、とても勉強になりました。本当に感謝しています」

「そして…レイト様…」

「ああ」

「レイト様が私を助けてくれたから今の私が居ます。何も分からない、素性も分からない私に手を差し伸べてくれて本当にありがとうございます」

   ルナは全員の方を向く。

「何だか湿っぽくなってしまってごめんなさい。今日は沢山料理をご用意していますので、楽しんで下さい」

   今日は身分も関係なく過ごして欲しい。そんなルナの願いをレイトを始め全員が了承する。
   ジェイクとレヴィンは二人でお酒を飲みつつ武器の話で盛り上がっている。
   レヴィンが作った剣はレイトの目に止まり、レイトの側近全員分の作成を依頼されていた。作るのに時間はかかるが、それを差し引いても良い出来なのだそうだ。

   リリーとクロードも何やら談笑している。どうやら町での噂話をリリーから聞いているそうだ。
   女性の噂話はバカに出来ないらしい。時には重要な話とかもあるそうだ。


「ルナ、隣へ座れ」

   ワインを飲みつつルナを見つめるレイト。どうやら少しだけ酔っているみたいだ。

「レイト様、そう言えば露天風呂は見ましたか?」

「いや、まだだな。」

「良ければ案内しますよ?お着替えも用意してあるので…」

「何だ、また俺と入りたいのか?」

   ニヤリと笑いルナの指先に口付けるレイト。

「そ、そんな事言ってない~!!」

   ズルズルと引き摺られながら露天風呂へと連行されるルナ。残りの四人は見て見ぬ振りを決めたのだった。


「なるほど。確かに素晴らしい出来だ」

   ルナの体を後ろから抱き締めながら露天風呂を堪能するレイト。

「だから何で私まで…」

「照れてるルナは本当に可愛いな」

「話聞いてます!?」

   レイトはルナの首に顔を埋め感触を楽しむ。戯れに首筋に舌を這わせればレイトの腕の中のルナは身体を奮わせた。


「やっ…お風呂で汗かいてるから…」

「ルナの身体は甘いな。まるでお菓子みたいだ」

「もう出るので離して下さいぃ~…」

「あと10秒」

   レイトのあと10秒はこの後10回以上続くのだった。
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