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#19 それは遠い、遠い昔の魔王の記憶
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創造神はこの星を創世した時に、様々な種を空から蒔いた。
ある種は広大な水を生み出し河となり、流れ出て海となる。
ある種は緑を生み出し、森となり、空気を作る。
ある種は様々な種類の命を生み出す。地上で交配を繰り返し、とある生物がやがて人間へと進化する。
ある種は暗闇を作り出し、魔物を作り、魔王が生まれた。
ある種は光を生み出し…女神が生まれた。
今はもう誰も知らない古に起こった出来事。
私と彼女と勇者の物語。
「お兄様!!」
可愛がっている妹、ルナが私の所へ駆け寄ってくる。ギュッと腰に抱きつかれたので、そのまま優しく抱き止める。
「どうした?ルナ」
こうやって甘えてくるという事は…大体理由が思い浮かぶ。
「また私の髪の毛と瞳をバカにされたのです…」
悲しげに俯き、泣くのを我慢して大きな瞳で私を見る妹。
「女神なのに黒髪、黒い瞳で気持ち悪いと…本当は悪魔なんじゃないかって…皆言うのです。私、ルシフェルお兄様みたいに綺麗な銀髪に生まれて来たかった…」
耐えきれなくなったのかポロポロと涙を溢すルナ。
「ルナの髪も瞳も…綺麗だから皆嫉妬している」
「ルシフェルお兄様…」
「だから泣かないで」
指先で涙を拭ってやるとルナはニコリと微笑んだ。
「ルシフェルお兄様…私、好きな人が出来たのです」
頬を染めて恥ずかしそうに俯くルナ。
ああ、ついにこの日が来てしまった。
兄様と慕われる度に痛む胸。一点の曇りもない瞳で私を見つめ、兄として慕ってくれるルナに、お前が好きだなどと言える筈がない。
言える事の出来ない想いを抱えて、心がどす黒くジワリと変色していくのを何とか押さえる。
「お兄様、この方がレイト様です…」
二人がそっと寄り添いながら挨拶してくるのを何とか笑顔で答える。
ルナの想い人は人間だった。それも勇者と呼ばれる選ばれた者だった。
話してみれば勇者は気さくでいい人だった。すぐに私とも打ち解けた。
二人で出掛ければいいと言っても毎回出掛けに誘われた。
勇者ならルナを任せられる。この気持ちは永遠に封印しよう…そう誓った。
「君の役割は世界を闇で覆う事なんだけど。やる気ある?」
「…」
何度となく繰り返される、このやり取り。この星が誕生してから数億年。人間が誕生した頃からずっと言われ続けた台詞にルシフェルは嘆息する。
この美しい星を、ルナが居るこの星を壊すなど馬鹿げている。
「もうねぇ、流石に僕は待てないからね。君がこの世界を壊さなかった事を後悔するといい…まだ自分が征服すれば良かったと思える程の絶望を君にあげるよ」
そう言うと創造神は目の前から消える。嫌な予感がして、ルナと勇者の元へと急ぐ。
「無事で居てくれ…」
「いやぁぁぁ!レイト様!!」
バッサリと切りつけられたレイトをルナは抱き抱える。辺りは血の海で勇者の命の灯火は今にも消えそうだ。
ルナは勇者の傷口を塞ぎ、自らの生命力を注いでいく。
ふ…と勇者が微かに瞳を開けた瞬間、ルナの心臓を剣が貫いた。
それはまるでスローモーションのようだった。
グラリと崩れ落ちるルナ。真っ赤な血がまるで雨のように降り注ぐ。
レイトは目を見開き力を振り絞ってルナを抱き止めた。
「ルナ!!!レイト!!!」
魔王の叫びが響き渡る。
「ねぇ、人間と女神が結ばれるって本気で信じてるの?」
クスクスと笑う子供。レイトはルナをそっと横たわらせると剣を構える。
「人間の分際で創造神に剣を向ける…こんな嘆かわしい事はないね。そこの女神の魂は違う世界へと飛ばした。勿論永久にこちらの世界へ転生出来ないようにして」
「な…にを…」
「未来永劫、何度生まれ変わってもお前はこの記憶を持ち続ける事が罰なんだよ。感謝してよ?お前の中であの女の事を忘れないように呪いをかけておくから。永久に逢えないのに忘れられない…こんな滑稽な話は中々無いね」
勇者の身体を剣が貫く。
「ルナ…レイト…」
ルシフェルは呆然と二人の亡骸を抱き締める。
「あーあ。だから素直にこの世界を壊しておけば良かったのに。そうしたらあの女の魂はここで転生出来て、あの男もまた巡り会えた可能性もあったのに」
そう言って笑う創造神の身体が半分消し飛んだ。
ほんの一瞬の出来事だった。
1つに括られていた髪はヒモが解けて風に靡く。綺麗な銀糸のような髪は漆黒の闇のように、ルビーのようだった瞳は黒曜石のような瞳に変わっていた。
魔王ルシフェル誕生の瞬間だった。
ルシフェルは何度も生まれ変わる勇者を見守った。
勇者としてではなく、平民として生まれてきた生。
貴族として生まれ、ルナを探して生涯独身を貫いた生。
国王となり、愛の無い結婚をした生。
どの生涯も求めていたのはただ1人、ルナだけだった。
守りたかった。けれど守れなかった。
自分の醜い欲望が2人を切り裂いたのだ。
抱き締めたかった。
好きだと伝えたかった。
腕の中に閉じ込めたかった。
唇を奪いたかった。
愛したかった。
愛されたかった。
堕天使?
違う。
多分…最初から…私は…
ある種は広大な水を生み出し河となり、流れ出て海となる。
ある種は緑を生み出し、森となり、空気を作る。
ある種は様々な種類の命を生み出す。地上で交配を繰り返し、とある生物がやがて人間へと進化する。
ある種は暗闇を作り出し、魔物を作り、魔王が生まれた。
ある種は光を生み出し…女神が生まれた。
今はもう誰も知らない古に起こった出来事。
私と彼女と勇者の物語。
「お兄様!!」
可愛がっている妹、ルナが私の所へ駆け寄ってくる。ギュッと腰に抱きつかれたので、そのまま優しく抱き止める。
「どうした?ルナ」
こうやって甘えてくるという事は…大体理由が思い浮かぶ。
「また私の髪の毛と瞳をバカにされたのです…」
悲しげに俯き、泣くのを我慢して大きな瞳で私を見る妹。
「女神なのに黒髪、黒い瞳で気持ち悪いと…本当は悪魔なんじゃないかって…皆言うのです。私、ルシフェルお兄様みたいに綺麗な銀髪に生まれて来たかった…」
耐えきれなくなったのかポロポロと涙を溢すルナ。
「ルナの髪も瞳も…綺麗だから皆嫉妬している」
「ルシフェルお兄様…」
「だから泣かないで」
指先で涙を拭ってやるとルナはニコリと微笑んだ。
「ルシフェルお兄様…私、好きな人が出来たのです」
頬を染めて恥ずかしそうに俯くルナ。
ああ、ついにこの日が来てしまった。
兄様と慕われる度に痛む胸。一点の曇りもない瞳で私を見つめ、兄として慕ってくれるルナに、お前が好きだなどと言える筈がない。
言える事の出来ない想いを抱えて、心がどす黒くジワリと変色していくのを何とか押さえる。
「お兄様、この方がレイト様です…」
二人がそっと寄り添いながら挨拶してくるのを何とか笑顔で答える。
ルナの想い人は人間だった。それも勇者と呼ばれる選ばれた者だった。
話してみれば勇者は気さくでいい人だった。すぐに私とも打ち解けた。
二人で出掛ければいいと言っても毎回出掛けに誘われた。
勇者ならルナを任せられる。この気持ちは永遠に封印しよう…そう誓った。
「君の役割は世界を闇で覆う事なんだけど。やる気ある?」
「…」
何度となく繰り返される、このやり取り。この星が誕生してから数億年。人間が誕生した頃からずっと言われ続けた台詞にルシフェルは嘆息する。
この美しい星を、ルナが居るこの星を壊すなど馬鹿げている。
「もうねぇ、流石に僕は待てないからね。君がこの世界を壊さなかった事を後悔するといい…まだ自分が征服すれば良かったと思える程の絶望を君にあげるよ」
そう言うと創造神は目の前から消える。嫌な予感がして、ルナと勇者の元へと急ぐ。
「無事で居てくれ…」
「いやぁぁぁ!レイト様!!」
バッサリと切りつけられたレイトをルナは抱き抱える。辺りは血の海で勇者の命の灯火は今にも消えそうだ。
ルナは勇者の傷口を塞ぎ、自らの生命力を注いでいく。
ふ…と勇者が微かに瞳を開けた瞬間、ルナの心臓を剣が貫いた。
それはまるでスローモーションのようだった。
グラリと崩れ落ちるルナ。真っ赤な血がまるで雨のように降り注ぐ。
レイトは目を見開き力を振り絞ってルナを抱き止めた。
「ルナ!!!レイト!!!」
魔王の叫びが響き渡る。
「ねぇ、人間と女神が結ばれるって本気で信じてるの?」
クスクスと笑う子供。レイトはルナをそっと横たわらせると剣を構える。
「人間の分際で創造神に剣を向ける…こんな嘆かわしい事はないね。そこの女神の魂は違う世界へと飛ばした。勿論永久にこちらの世界へ転生出来ないようにして」
「な…にを…」
「未来永劫、何度生まれ変わってもお前はこの記憶を持ち続ける事が罰なんだよ。感謝してよ?お前の中であの女の事を忘れないように呪いをかけておくから。永久に逢えないのに忘れられない…こんな滑稽な話は中々無いね」
勇者の身体を剣が貫く。
「ルナ…レイト…」
ルシフェルは呆然と二人の亡骸を抱き締める。
「あーあ。だから素直にこの世界を壊しておけば良かったのに。そうしたらあの女の魂はここで転生出来て、あの男もまた巡り会えた可能性もあったのに」
そう言って笑う創造神の身体が半分消し飛んだ。
ほんの一瞬の出来事だった。
1つに括られていた髪はヒモが解けて風に靡く。綺麗な銀糸のような髪は漆黒の闇のように、ルビーのようだった瞳は黒曜石のような瞳に変わっていた。
魔王ルシフェル誕生の瞬間だった。
ルシフェルは何度も生まれ変わる勇者を見守った。
勇者としてではなく、平民として生まれてきた生。
貴族として生まれ、ルナを探して生涯独身を貫いた生。
国王となり、愛の無い結婚をした生。
どの生涯も求めていたのはただ1人、ルナだけだった。
守りたかった。けれど守れなかった。
自分の醜い欲望が2人を切り裂いたのだ。
抱き締めたかった。
好きだと伝えたかった。
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違う。
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