転生したってリセット癖は治らない

佐倉 奏

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#18 王室御用達

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   バーベキューの翌日、ルナはリリーと共に登城していた。折角の登城なのだから、とリリーはルナに新しいワンピースを用意してくれていた。
   生地は薄いグリーンで胸から切り替えしになっているエンパイアワンピースだ。
   ふわりとした裾は風に揺れると優雅に靡く。

「ルナちゃんにピッタリだわ凄く似合ってる」

   褒められて照れるルナ。レイトが来るのを応接室で待っている間にリリーと歓談する。最初こそ緊張していたリリーだが、ルナと話している間に緊張か解れたらしい。

   暫くするとレイトとレヴィン、ジェイクが入ってきた。

「待たせてすまない」

   レイトはそう言うとレヴィンとジェイクをソファーへと促す。

「今日集まって貰ったのは王室御用達の件だ」

「王室御用達?」

   ルナが首を傾げる。

「ああ。城下町に何件かあるんだが…貴族専用と言ってもいい位の値段設定でな。平民向けの部門を設立しようと思って呼んだんだ」

   レイトはレヴィンが作った剣とリリーの作った掛布をテーブルへと置いた。

「さて、レヴィン。お前の作った、この平均的な剣はいくらで売っている?」

「このランクなら大銀貨3枚で売っています。」

   レイトの問いかけに答えるレヴィン。

「それではリリー。この掛布、売るとしたらいくら位で売る?」

「そうですね…白亜鳥はルナさんがとってきてくれたので…ギルドで依頼を出してみないと何とも言えません。ただ、羽毛と綿の比率を変えればかなりお安く作成出来ますね。大銀貨1枚から2枚位でしょうか」

   リリーの言葉にレイトは満足げに頷く。

「そう、二人の商品は平民向けに丁度いいんだ。高品質なのに価格は求めやすい。俺は貴族だけでなく平民も豊かになって欲しいと願っている。品質の良い物が流通すれば巡りめぐって、いずれ国は潤う。」

   レイトの考えにルナは成る程、と納得する。

「だから平民向けの皇室御用達、言うなれば国が品質を保証する店という事だな。名称は後々考えて変えるが…この部門の設立が決まった際には第1号、2号を二人の店にしようと思う。」


「ほ、本当ですか!!」

   レヴィンがガタッと立ちあがり声をあげる。それもそのはず。国が品質を保証してくれるという事は、客から信頼されるという事だ。
   売上が上がるのは間違いない。

「勿論、定期的に抜き打ちで品質の調査をして万が一、手抜きをしていたら剥奪するが」

「職人の誇りにかけてそれだけは絶対やらないと誓う!!」


「私は…材料の確保もままならない現状なので…」

   リリーが申し訳なさげにレイトに頭を下げた。

「他国に嫁いだ娘さん夫婦と、リリーさんの旦那さんに帰ってきてもらってはどうでしょう?」

   リリーの言葉にルナは、ふと思い付いた事を提案してみる。

   「旦那さんが魔物とかの素材を調達、娘さん夫婦が綿花の栽培とか始めてみるのは?役割は四人で話し合って決めても良さげですし。多分国から品質保証を貰えたらかなり忙しくなるんじゃないですかね?」

「国から年に一度、褒賞金も出そう。天候悪化での素材の確保が難しい時など、相談に乗る事も出来る」

   ルナとレイトの発言にリリーは少し考えてから、娘夫婦と旦那さんに手紙で詳細を伝えて理解を得られれば、との事で話は纏まった。

   レイトは早速詳細を纏める為に書類作成に取り掛かる。ルナとレヴィン、リリーは城を後にした。
   リリーは娘夫婦と旦那さんに手紙を書くと自宅に戻り、ジレヴィンはこれから客が増える事を見越して弟子を取るか、誰か1人雇うかと言いながら店に戻って行った。


「さて…私は今日はのんびりしようかな」

   昨日のバーベキュー広場へ行くと温泉へと向かう。ここら辺一帯の施設には人避けと魔物避けの魔法を施した。

   ゆっくりと温泉に浸かるとここ数日の疲れが出てくる。自分でもかなり無茶したなと思う。それでもレヴィンよりは大分マシだったが。

   ふぃ~とため息をつきながら身体を伸ばす。やっぱり日本人は温泉だ!と実感する。




   それにしても昨日…何で記憶があやふやなんだろう?


   それは魔法にかかってたからね。


   うわっ!!いきなり心の中読まないでよ!



   頭の中に響く男の子の声にルナは一瞬焦る。
そう言えばここ暫く見て(というか会話を)無かったなと思った。
   そもそも神出鬼没すぎである。


   
   ごめんごめん。ちょっとこの世界に干渉しにくくなっててね。あまりこっちに来れなくなってるんだ。


   ふーん?良く分からないけど…って言うか、魔法ってどういう事?


   ああ、やっぱスルーしてくれないんだ?

  聞き捨てならないからね。

   魔王の元から帰ったルナはレイトの魔法によって操られていた…って言うのかな。う~ん、説明が難しいな。意識がハッキリしていない状態にさせられていた…って感じかな。一番近いのは。そんな状態だったんだよ。


   何…それ…

   だから昨日の事を覚えていないんだよ。魅惑チャームって魔法をかけられていたんだ。


   魔法をかけられ意識を混濁させられていた、その事実にルナの手は震える。
   悲しい?憤り?悔しい?形容しがたい気持ちが溢れ出てきそうだ。
   今まで確かに抱き締められたり、いきなりキスされたりしていた。強引な所もあったけれど、それでも意識を混濁させて、という卑劣な事はされなかった。
   苦い気持ちがルナの心の中でジワリと広がっていく。


   ルナ、落ち着いて?

   ごめん…大丈夫だから…

   明らかに大丈夫じゃないよね?暫く頭を冷やしてみるのはどう?

   頭を冷やす?

   ルナが良ければだけど…魔王の元へと送り届ける事なら出来る。魔王ならレイトから君を匿える。
   自力で逃げる…のは多分不可能だから。



   男の子の提案にルナは目を閉じて暫く考える。
今、レイトに逢ったら…多分酷い言葉を投げ掛けそうだ。
   そうなったら…仲直りは難しいかもしれない。多分私は今、かなり冷静ではない。


   ただし、送り届けたら僕は暫くルナとは通信出来なくなる。だからレイトの元に帰りたくなったら自力で帰らないといけなくなるよ。

   貴方は…何か知っているの?私の過去を。魔王もレイト様も…何か知っているみたいなの。でも…教えてくれない。

   君が自分で真実を思い出さないと…誰かに教えてもらってもそれは全く意味の無い事だから。

   そう…じゃあ魔王の所へ連れて行って。丁度良かったのかもしれない…自分の過去を知るには色々と動き廻らないとだしね?


   分かった。じゃあ荷物とかあれば纏めて。用意が終わったら呼び掛けて。出来るだけ早めに…もう時間が無いんだ…


   男の子の言葉にルナは頷くと温泉から出て身支度を始めるのだった。
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