転生したってリセット癖は治らない

佐倉 奏

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#23 記憶のカケラ③

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   ルナはレイト一行と旅をするようになった。
戦いには一切、手を出さずに回復要員として同行した。
   あまり目立ってしまうとバレてしまう可能性があるからだ。…創造神に。


   それでも…とルナは思う。多分もうバレているんだと。いつ裁きが下ってもおかしくはない。
   例えこの身が無くなろうと…魂が消滅しようともレイトから離れる事はもう出来ない。

   知ってしまった恋にルナの心は焼き尽くされる。
止まる事など出来ないのだ。


「お兄様…お兄様もこんな気持ちだったのかな…」

   夜、一人空を見つめるルナ。散歩に行くと言ってからもう半年。連絡を一切していない。心配しているだろうか。
   でも自分に何かあれば気付く筈で、何も言ってこないという事は、好きにしなさいと言ってくれているのだと思った。
   と言うかそう思いたかったのかもしれない。


「ルナ…」

「レイト様…」

   不意に呼ばれて振り返る。

「こんな夜遅くに一人は危ない」

「星を…見たかったんです。」

「そうか…それなら気が済むまで付き合うとするよ」

   レイトは然り気無くルナの肩に自分の着ていたシャツをかける。冬ではなくとも夜は冷え込む。

「ありがとうございます」

   ふんわりと頬笑むルナ。レイトはサラリとルナの頭を撫でた。

「何か悩み事でもあるのか?」

「あら、悩んでいるように見えました?」

   何となく、兄の事を言いたくはなくて話題を逸らそうと少し茶化したように返事をすれば、レイトの真剣な瞳がルナの瞳を捕らえる。
   その瞳に少し、兄を思い出したのは奥に燻っている熱が同じに見えたからだ。

   レイトは草むらに手を付いたルナの手を上から包み込み、そして指を絡ませる。所謂恋人繋ぎというやつだ。

「あ…の」

   恥ずかしさでルナは頬を染める。思わず下を向けば空いている左手で顔を上に向けさせられた。

「ルナ…好きだ」

   レイトの言葉にルナは瞳を見開く。思わず息をするのを忘れ、その端正な顔に魅入っていた。

「ルナ…好きだ。」


   再び紡がれる愛の言葉。優しく耳に残り、まるで旋律のようだ。
   絡んだ指先でルナの指を優しく撫でるレイト。左手はルナの頬に添えられ、親指で何度も優しく頬を撫でている。

「わ…私女神で…だから…」

「女神とか、人間だとか関係ない。ルナだから好きなんだ」

   優しく見つめられルナは瞳を逸らせない。近付いてくるレイト。ルナはゆっくりと瞳を閉じて、唇に降りてくる温もりに身を任せた。

   温かく、柔らかい感触に身体が震える。


   キスを…してしまった。触れてしまった。

   繋がれた手は温かく、触れた唇は柔らかかった。

   愛しい。側に居たい。彼の側に。

   想いが通じあった喜び。そして恐れ。

   私は…最悪な女だと、こんな自分本意な女だったのかと、思い知った。


「ルシフェルお兄様、お久しぶりです」

「ああ。…元気だったか?」

「はい。…ルシフェルお兄様、私…好きな人が出来たのです」

「…そうか」


   お兄様の気持ちを知っていてレイト様を紹介した。
何故なら…創造神がレイト様に何かしてくるのでは?と思ったからだ。
   私の恋人ならお兄様もレイト様を守ってくれるのでは?と言う打算があった。
   お兄様の気持ちを知っていて、その気持ちを利用する私は何て浅はかで愚かな女なのだろう。


   レイト様とお兄様は波長が合ったのか、仲良くしていてホッとした。
   私はあれ以来、お兄様の瞳を見る事は出来なかった。



   目の前が真っ赤に染まる。この血は誰の血?
目の前で倒れているのは…誰?
   歪んだ口元が気持ち悪くて、目の前の子供が怖くて私は動けない。

   誰?誰が倒れたの?ねぇ、
目の前の人を認識する。それは…愛しい人

「嫌ぁぁぁぁ!!レイト様っ!!!」

   持てる全ての力で彼の傷を治す。息も絶え絶えでこのままでは彼は死んでしまう。
   彼の口に自らの口を重ね、命を吹き込む。冷たくなっている唇にルナの体は震えた。

   少しずつ、少しずつ自らの命を吹き込み次第に顔色は赤みを射していく。ルナがホッとした瞬間、目の前が真っ暗になった。


   体中の血の気が引いていく感じがする。足元からヒンヤリと冷えていく感覚だ。
   胸が痛くてそこに触れると、剣が胸に刺さっていた。

   刺されたのかと理解したと同時に意識が遠ざかる。
魔力も、自らの命も使い果たしてしまった。
   レイト様だけは無事で居て欲しいと、薄れ行く意識の中で願った。
   お兄様、バカで愚かな妹の頼みを…聞いてく…だ…


「ねぇ、人間と女神が結ばれるって本気で信じてるの?」

   そんな言葉を聞きながら私は深い眠りへと誘われた。
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