転生したってリセット癖は治らない

佐倉 奏

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#24 過去の自分と今の自分と

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   ゆっくりと起き上がる。身体は気だるく瞼はまだ全て開いていない。
   ふと視線を感じ、そちらへ目を向ければ懐かしい顔が心配そうにこちらを見ていた。

「ルシフェル…お兄様」

「ああ、んだね」

   ルシフェルの言葉にルナはコクリと頷く。

「お兄様…あれからどれだけの月日が流れたのですか?」

「…レイトの生まれ変わりが15人目から数えるのは辞めた」

「…そうですか」

   目の前のルナをジッと見つめるルシフェル。

「お兄様、どうかなさいましたか?」

「…はどうした?」

   ルシフェルの言葉にルナは瞳を細めた。

「膨大な記憶に思考がついていけないのか、私の中で眠っています」

「ルナ…その身体は瑠菜のものだ。いくらお前の生まれ変わりだったとしても生まれ育ってきた時間はお前に奪う権利はない」

   ルシフェルの言葉にルナは瞳を見開く。ギュッと掌を握り締めワナワナと震えている。

「それでも…それでも私はレイト様とっ!!」

「ルナ…」

   宥めるようにルナを呼ぶルシフェル。ルナはグッと唇を噛み締める。

「あっちの世界の記憶が無ければ…こんな想いはしなくて済んだのに!!」

   ポロポロと涙を流すルナをルシフェルはそっと抱き寄せる。小さな子供をあやすように、頭をそっと撫でてやる

「ルナ、どうか瑠菜の気持ちを優先させてやってくれないか?」

「お兄様っ…お兄様は私が居なくなってもいいんですか…」

「お前は居なくならない。そうだろう?いつだって瑠菜の魂にお前は刻まれているのだから。元が同じ魂だからか…勇者レイトに惹かれているみたいだ。」

   面白そうに笑うルシフェルにルナは顔を歪ませた。

「お兄様は…それでいいのですか?」

「ああ…遥か昔にルナの兄で居ると誓ったのだから…」

「お兄様…」

   一先ず屋敷へと促されルナはルシフェルの後へとついていくのだった。




「レイト様、ルナ様がギルドで依頼を受けたとの情報が入っております」

「魔王城の近くのギルドだな」

   いい当てられクロードは少し驚くが、すぐに報告を続ける。

「はい。あそこら辺に住んでいる者達は魔王城とは知らないそうで。どこかの貴族の屋敷と勘違いしているみたいです。ルナ様の目撃情報はギルドに依頼を受ける時だけで、それ以外は全く目撃情報がありません」

「変装している…と考えていいな。あまり大人数で行って勘づかれるのも厄介だ。クロードと俺で行くと

「はっ!畏まりました」

「ジェイクは城に残って警備を!出発は明日だ。クロード、荷物の準備は任せた」

   レイトはそう言うと自室へと踵を返した。


   翌朝、レイトとクロードは早馬で二週間かかる行程を一週間で走破しようと只管駆け抜ける。
   途中馬を休ませるのと夜以外はひたすら走り続けた。

「レイト様、お身体は大丈夫ですか?」

「これ位で音を上げるような鍛え方はしていない」

「確かに」

   ふっとクロードが笑う。釣られてレイトも笑うとクロードはポツリと呟いた。

「それにしてもあの方は本当にじっとしている事が出来ない。最初に見張りとして監視して居た時には色々驚かされました。まさか初心者の森で迷って半泣きになるとは…」

   思い出したかのようにプッと吹き出すクロード。

「気配を消して立ち入り禁止エリアに突撃するとは思わなかったな。ジェイクに突っ込まれて言い訳出来ずに慌ててる姿も面白かった」

   レイトもふと思い出して思わず吹き出す。

「最初は…レイト様には相応しくないと思っておりました。とんだじゃじゃ馬だと。もっと淑女な方がレイト様には似合う…そう思っていましたが、どうやら間違いだったようです」

「あれと居ると飽きないだろう?」

「ええ…ですからレイト様には頑張ってもらってルナ様に振り向いてもらわないとですね」

「…戻って来てくれると思うか?」

「弱気なレイト様は珍しいですね」

「俺だって人間だ。弱気にだってなる。嫉妬だってする」

「その結果の魅惑魔法で逃げられたとか笑い話にもなりませんよ」

   クロードの言葉に押し黙るレイト。最近部下がズカズカ物を言うようになったのも…彼女の影響なのだろう。
   そんな事を考えながらレイトは馬を走らせるのだった。




   一方、ルシフェルの屋敷で2人はお茶をしつつ過去の話をしていた。
   ルナとレイトが死んだ後の話だ。何度もレイトの生れ変わりを見守り続けてきた事、ルナが生れ変わっていないかずっと探し続けていた事。

   ルナは悲痛な表情でルシフェルの話に聞き入っていた。

「お兄様…ごめんなさい…」

「何故謝る?」

「私…私…お兄様の気持ちに気付いていながら…」

   そう言いかけたルナの唇にルシフェルは人差し指を当てた。

「それ以上は言わなくていい…過ぎた事だ。」

「でもっ…私のせいでレイト様は死んで…お兄様を苦しめてしまって…」

「ルナの魂がこっちの世界に戻ってこれただけで私はもう満足なんだ。だから気にしないでいい」

   ルナは涙を溢しながらルシフェルへと抱き付いた。

「でも何故…私はこっちに戻ってこれたのでしょう…」

「ルナとレイトが死んだ後…私が創造神を半殺しにしたから…だと思う。」

「は…半殺し!?」

「ああ。ルナ、私の存在が以前と違うのには気付いているか」

   ルナは言われてジッとルシフェルを見つめる。

「お兄様…まさか…」

「ああ。ルナとレイトが目の前で殺されて…堕天した。その時に創造神を半殺しにしたんだ。流石に産みの親を殺す程の力は無いから半殺しで精一杯だったんだ」

「そうなんですね…」

「多分、半殺しにした事によってあまりこの世界に干渉出来なくなったんだと思う。ただ…そろそろ回復してもおかしくはない」

   ルナは瑠菜の頃の記憶を呼び覚ます。狭間の世界と呼ばれた空間。そしてそこに居たのは…創造神そっくりの男の子。声から仕草まで瓜二つの男の子。

   ルナは考える。あの男の子は創造神と同一人物なのか。しかし、どう考えても同一人物とは思えない。
   ルナとレイトを離れ離れにさせたのにわざわざ元の世界に呼び戻すとは思えない。

   男の子は言っていた。

   

   

   ルナはこの言葉から創造神とは違うと答えを出した。ルシフェルから聞いた話だと創造神は暫くこの世界には干渉出来ていなかったからだ。
   それならあの男の子は何者なんだろう…


「お兄様、私は前の世界で死んだ時に狭間の世界という所に飛ばされました。そこには…創造神そっくりの人物が居たのです」

   ルナの言葉にルシフェルは眉を潜めた。
そして何やら思案している。

「…どちらにしろこっちからは会う事は叶わない。」

「そう…ですね」

「心配するな。ルナ…レイトも今生こそは二人を守ってみせる」

「お兄様…」
 
「で、家出娘はいつ王子の元へ帰るのかな?」

   ふふっと笑うルシフェル。優しくルナの頭を撫でると、あやすように宥める。

「取り敢えず…に身体を明け渡します。お兄様…昔も今も私の大切なお兄様。大好きです。だから…無茶はしないで下さいね」


   ルナはそう言うと寂しそうに笑い瞳を閉じた。
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