壊れた妹と見えない束縛

ケイト

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矛盾の月

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 俺が恋歌ちゃんと出会ったのは今年の五月頃だった。
家に帰ると彼女が居て、妹と二人で勉強をしていた所にお茶を持っていったのが初めての出会いだったと思う。
その時はまだ妹とライバルでは無かったそうだが、頭が良いと思っていた自分が最初の学校のテスト結果で二位になり、一位を取った妹がどんな勉強をしているのかを見に来たとか言っていた。
 
『歴史は楽しいですよね、こんなにもやっていて楽しい科目はありません』
 
『勉強が楽しい? 辛いけどやらなきゃいけないもんだからやるだけでしょ』

 勉強を楽しむ妹に対して、勉強は辛い物であり乗り越える物であると教えられてきた彼女は衝撃を受けたようで、妹と何やら口論をしていたのが台所にいる俺の所まで聞こえてきたんだっけ。

「それで、勉強は楽しめてるか?」
 
「もう、言わないで下さいと言ったばっかりじゃありませんか……お兄さんはいじわるですよ、ゆうかちゃんに接する時みたいに優しくして下さいよ」
 
 勉強のやり方、向き合い方は人それぞれだと思う。
俺は……まぁ、最低限出来ればいいかなと思うぐらいだから何かアドバイスとかする資格無いし、するつもりも無いんだけどね。
 
「満点以外はダメ、二番は負けの一番だとか言ってた恋歌ちゃんには驚いたからな、めちゃくちゃインパクトあったもん」
 
「まだ続けるんですか~?」
 
「おっと、悪かった悪かった、許してくれ」
 
 プンプンと怒っているが、まったく怖くない。
向こうも俺もフザケてこんな話をしているのは分かっている。
でもこの感じ……。
 
「何だか恋歌ちゃんと話してるとさ、昔のゆうかと話してるような気持ちになるんだよな」
 
「そ、そうですか?」
 
「ああ、明るくて元気で頭も良くてスポーツも出来るし冗談も言い合える、昔のゆうかにそっくりなんだよ」
 
「そう……ですか……」
 
「雰囲気は違うけど笑った時の顔だってゆうかみたいで」
 
「お兄さん」
 
 恋歌が足を止めた。
視線は足元に向いていて、何かを伝えようとしているような感じがする。
……もしかして歩くの早かった、とか?

「悪い、少しゆっくり歩くよ」
 
「……僕はゆうかちゃんじゃありません、僕は僕なんです、それだけは分かって下さい」
 
 俺の予想は外れ、さらに予想外の事が起きている。
恋歌は俯いたまま、その場にしゃがみ込んでしまった。
これが流石に足が疲れて動けないって事じゃないのは分かるんだが、何が言いたいのかは分からない。
当たらない予想を立てるのなら、ライバルである妹と同じ扱いをされたのが酷く気に入らなかったのかもしれないが……。
 
「ごめんなさい、今上手く気持ちを言葉に出来ません」
 
 かける言葉が思いつかず、ただ彼女の隣に立っている事しか出来なかった俺を見て、彼女は立ち上がり謝罪をする。

「やっぱりダメだ、王子様を作らないと僕はやっぱり……めんどくさい女なんです」

「別に俺は恋歌ちゃんをめんどくさいとか思ってない、大丈夫だから……だから」
 
 俺は彼女を泣かせる程の事を言ってしまったのだろうか。
瞳は潤み、頬に一筋の透明な曲線のイタズラのような跡をつたって地面に落ちていく。
冷たいアスファルトを照らす街灯が、落ちた物は涙であると俺に教えていて、再度彼女の顔をみようとするが、背中を向けられてしまって表情を確認する事が出来ない。
 
「言って欲しい言葉がある、言わないで欲しい言葉もある、だけどその二つは、僕から言いたくないんです、お兄さんから自発的に言って欲しいし、触れないで欲しいんですよ」
 
「なんかその……気に触ったのなら謝る、悪かった、ただ俺は君がかつての妹のように素敵な人だと言いたかっただけなんだよ、分かってくれ」
 
「……兄さん」
 
 兄さん?

「ならこの時間だけは、この夜のバイトが終わって帰るまでの時間だけは、僕がかつてのゆうかちゃんの代わりになります、お兄さんの事も兄さんと呼びます」
 
 待って下さい。
いや本当に待ってくれ。
つまり何、俺はこんな夜遅くに後輩に兄さん呼びさせて妹プレイをする変態になるって事?
ただでさえ学校でシスコン呼ばわりされているのに、さらに追撃するつもりなの!?
 
「いや後輩に兄さん呼びさせてそんな変態みたいな事は……」
 
「兄さんが僕をゆうかちゃんみたいだと言った罰です! だからその、この時間帯だけは、僕の事を……恋歌と、呼び捨てて下さい」
 
 断るんだ俺。
絶対に断らないとダメだ。
理由? んなもん簡単だよ、昼間に間違って呼ぶ可能性があるからだ。
仮に俺が、恋歌と呼んだとする。
確実に妹は兄さんを取られたと言い出すだろうし、逆に恋歌が俺を兄さんと呼んでいるのがバレたら……。
 
 俺はシスコンから後輩を妹にして喜ぶ変態にレベルアップ間違い無し。
これを知ったら妹は確実に怒るを超えて呆れて距離を取られてしまう事待った無し。
この場合呆れるより怒り狂って恋歌と大喧嘩するかもしれないけれど、とにかく良くない事しか起きないだろう。

「それは流石に」
 
 恋歌が振り返る。
目を擦ったような赤色と、未だ瞳に残る涙。
いつもの雰囲気と違い、しおらしい彼女の雰囲気が俺にNOと言わせないようにしているような気さえしてきやがる。
 
 言うんだ。
それはダメだって、一言言えばいい。

「それは」
 
「ダメ……ですか?」
 
「ダメ……じゃないです」
 
 俺は弱い。
自分に言い訳するけど、彼女にはかなり助けられている。
ゆうかの事を頼めるのは彼女だけだし、俺の返答が気に入らないとして、ゆうかを無視し始めたら本格的に不登校まっしぐらだろう。
つまりこれは全部妹の為にやる事であり、後輩に兄さん呼びさせて喜ぶ変態なんかじゃ断じて無い!
 
「あ、ありがとうございます、兄さん!」
 
「ちょっと、れ、恋歌ちゃん!?」
 
 まるでゆうかのように、彼女は俺に抱きついて来た。
体に伝わる力は明らかに彼女の方が上だが、毎日妹とハグをしてる身からすると、ほとんど同じぐらいの勢いだったと思う。
 
「兄さん、私は妹なんですから、恋歌と呼んで下さいよ」
 
「その……恋歌」
 
「はい、兄さんの妹の恋歌です」
 
 彼女を家に送り届けるまで、このプレイは続いた。
終始ご機嫌だった恋歌に比べて、俺は恥ずかしさと誰かに見られて無いかどうかと色々考えてしまって、とにかく疲れてしまった。
 
「それじゃあまた明日、登校中に合流します」
 
「ああ、また明日な、あと人前じゃこの変なプレイはナシだからな! 絶対やめろよな」
 
「わかってますよ、そこまで僕も馬鹿じゃありません、それじゃあおやすみなさい、兄さん」
 
 彼女が玄関を開けて家に入る瞬間、また泣いているのが見えてしまった。
要望には答えたはずだが……何か間違っていたのかもしれない。
だがそれを聞く勇気も時間も、俺には無かった。
 
「何かひっかかるんだよな、恋歌ちゃんが言ってた事と、今の行動には何か……うーん」
 
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