壊れた妹と見えない束縛

ケイト

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とある少女の日記

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 勉強は好きじゃないけれど、中学時代はずっと一番だった。
高校に入ってもそれは変わらないと思っていたけれど、最初のテストは二番だった。
全科目で満点を取った彼女の名前を書いておく、次は絶対に負けない。

 妹迫ゆうかさん、僕が初めて勝てなかった人だ。

 小テストは互角、お互いに満点だった。
もうすぐ高校に入って初めての中間テスト。
相変わらず勉強は嫌い、でもやらないと親がうるさいし、あの妹迫さんに負けたくない。
だから僕は勉強しなきゃいけない、こんな日記にかける時間はあまり無い。
大丈夫、かけてしまった文章はテストが終わってから書き足すか、これからの日記をもっと丁寧に書けばいい。


 テストがようやく終わった。
妹迫さんに負ける気がしない、絶対に勝てる。
そういえば妹迫さんにはお兄さんがいるらしい。
噂だととても頭がよくて、かっこいい人らしい。
でも聞いてたよりも……うん、僕のタイプじゃなかった。
勉強はできるみたいだけど、何て言うか、自分の意思が無い感じがした。
争いを避けるように動いているのかもしれないけれど、やっぱり男らしくない。


 何を書けばいいんだろう。
とりあえず結果、頑張ったけど、勝てなかった。
何故そこまで勉強ができるのか、それを探るために今日は彼女の家に行ってきた。
勉強を楽しんでいて、とても参考にはならない事ぐらいしか分からなかったから、これ書く意味あるのかな。
でも諦めたりしない、僕は僕のやり方で勝ってみせる。
僕のライバルだと宣言してやったのに、彼女は負けませんからねとそれを茶化すことなく受け止めてくれたのは嬉しかった。


 ゆうかちゃんは勉強だけじゃない、スポーツもできる。
だけど、さすがに足は僕の方が早いし、体力だって僕の方が上だった。
彼女はとても悔しがっていた、そしてリベンジマッチとして勉強でもスポーツでもないもので勝負になってしまった。
どっちがモテるかなんて、考えた事もないし、競ったこともないんだけど……どうしよう。


 今日は……色々あった。
海で知らない男性二人に囲まれて、岩場の影まで連れていかれそうになった。
これから何が起こるのか、嫌でもそれが想像できて、だけど怖くて声すら出なかった。
言われるがまま、気持ちの悪い手を肩におかれていた時、ゆうかちゃんが連れてきていたお兄さんが助けてくれた。
いつもの意志薄弱な感じじゃなくて、力強い瞳と、僕を助けるために体を張って動いてくれた。
お兄さんに守られていると、とても安心できた。
頭がいいって事以外でゆうかちゃんに嫉妬したのはこれが始めてだった。

 あんなに素敵なお兄さんがいるなんて、羨ましいな。


 僕はゆうかちゃんと勝負をした。
次のテストで僕が勝ったらお兄さんを改めて紹介してもらうって条件で、ゆうかちゃんが勝ったら僕が商店街のコロッケを奢るって条件。
コロッケとあの素敵なお兄さんを天秤にかけてもいいのかと思ったけれど、ゆうかちゃんにとってお兄さんは僕と違って魅力的な異性じゃなくて、ただの兄妹だからコロッケよりも価値がないらしい。
僕のお兄さんをバカにされたような気がする。
絶対に、負けない。


 勝った!
やっと、僕はゆうかちゃんに勝てた!
思わず教室で声を出して喜んでしまった。
ゆうかちゃんは口から魂をぽわぽわと出して、コロッケにさようならを告げていた。
なんだかとてもかわいそうだったから奢ってあげたけど。
ゆうかちゃんはお兄さんを紹介してくれる。
僕を彼女にぴったりな女性だと紹介すると約束してくれた。
公園でコロッケを食べながら、ゆうかちゃんにお兄さんのどこがいいのかと聞かれて、思っている事を全て答えたけれど、ゆうかちゃんは苦笑いをしながら、僕に変わっていると言うだけで理解はしなかったみたい。


 今日はゆうかちゃんに頼み込んで、お兄さんと二人っきりの時間を作ってもらった。
ゆうかちゃんが買い食いから帰ってくるまでの間、僕はお兄さんに……あーもー!
僕の臆病者!
あんなに近くにいたのに、何で勉強の話しかしなかったんだよ!
バカバカバカ!
次こそは、お兄さんと距離を深めてみせる。


 お兄さんの事で分かった事。
お兄さんは結構派手な女性が好きらしい。
服の話をするために持っていった雑誌のギャルに目が釘付けになってたから間違いない。
ゆうかちゃんにそれを話して相談したけれど、"兄の性癖を聞かされる私の気持ちを考えてください!"と怒られてしまった。
そう言いながらも、僕に合う服を一緒に探してくれたけどね。
でも……僕とギャルなんて真逆じゃないか、まったくもう!
そんな事を考えていても、お兄さんの事が好きなのは変わらない。
お兄さんに振り向いてもらうため、頑張るぞ!

 
 髪を染めようとすると、両親に反対された。
僕はお兄さんが好きなのに、同姓から告白される。
それをお兄さんに見られた、最悪。


 やっぱりお兄さんは素敵。
昨日の一件をお兄さんは勘違いしなかった、僕を見て可愛い女の子なのに、君も大変だなと言ってくれた。
可愛い。
僕を可愛いと言ってくれた。
驚いて何も言えなくて、そそくさと逃げるように消えてしまったから、ここに書きます。

 お兄さんもカッコいいですよ!
大好きです!


 そりゃそうだよね、あんな素敵な人を見逃す女性はゆうかちゃんぐらいだよ。
お兄さんには彼女がいた。
悔しい、だけど、僕はあきらめない。
もちろん彼女がいるって黙っていたゆうかちゃんにはめちゃくちゃ怒ったし、ゆうかちゃんも謝ってくれた。
それに、お詫びとしていい作戦を教えてもらった。
最高のロケーションで、お兄さんを誘惑する。
お兄さんだって年頃の男、そういう事に興味があるに違いない。
ゆうかちゃんが死んでも秋祭りの日を開けさせると言ってくれたので、そこで勝負だ。


 可愛い下着も買った。
ゆうかちゃんをつれ回して、どれが一番お兄さんが手を出してくれるかって質問をしながらまるまる1日を使って探したんだ、きっと大丈夫。
ゆうかちゃんはとても苦い顔で、また"家族がどんな下着に興奮するかなんて考えた事ありませんよ! うぅ、気持ち悪くなってきました"と言っていたけれど。
僕の事をお義姉さんと呼ぶ日が来るよと言ってやると、笑いながら真面目な顔で応援してくれた。
彼女が僕の親友でよかった。


 僕のせいだ。
僕が祭りに誘ったから。
お兄さんと二人きりになるために、一人で待ちたいって言ってゆうかちゃんを一人にしたから。
あんな事件が起きてしまった。
ゆうかちゃんは下着姿で、あと少し遅かったらそれすら脱がされてもっと悲惨な事になっていたけれど、お兄さんがそれを防いだ。
僕は怖かった。
お兄さんが、僕が祭りに誘ったせいで妹がこうなったと怒るんじゃないかって、とにかく怖かった。
でも、お兄さんは僕を怒る事はしなかった。
少しも怒ってくれない、小言も言わない。
いつか、言われる日がくるのかもしれない。


 ゆうかちゃんが、壊れてしまった。
二週間ぶりに見たゆうかちゃんは、とても以前のゆうかちゃんとは違っていて、ほとんど別人。
お兄さんの事を私だけの兄さんと呼び、兄妹とは思えない程の距離感で、誰にもお兄さんをわたすまいと振る舞う彼女に変わっていた。
それでも、今のゆうかちゃんにはお兄さんが必要だから、家族なんだから、間違いなんておきる訳はない。
今は、親友の精神が安定するのを待つしかない。


 ゆうかちゃんは笑顔で、お兄さんと彼女を別れさせたと報告してきた。
それは僕のためじゃなくて、君のためなんじゃないの?
君たちは兄妹なんだよ?
ねぇ、なんで恋人繋ぎなんてしているの? 


 お兄さんはゆうかちゃんの事で必死になっていた。
男性からの視線ですら恐怖し、怯えるゆうかちゃんを守る為、まるでゆうかちゃんの彼氏のように振る舞っている。
本人は大丈夫だと言っているけれど、そんなはずはない。
ゆうかちゃんのお兄さんに対する依存はどんどん強くなっていく。
そして今日、ゆうかちゃんからやっぱりお兄さんに僕を彼女候補として紹介するのはやめると言われた。
今のゆうかちゃんを責める事はできない、でも、僕はお兄さんとゆうかちゃんの関係を認めたくない。
だから今は約束を後回しにするって事で、ゆうかちゃんも納得してくれた。

 親友じゃなくて、まるで夫に色目を使う女性を見るような目で、僕を睨みながらだったけれど。

 
 何で同じ匂いがするの?
家族だから?
僕だって女、だから分かる。
こんなにも濃いお兄さんの匂いがゆうかちゃんからする。
ゆうかちゃんの匂いが、お兄さんからする。
……気持ち悪い。
 

 よかった、まだお兄さんは完全にゆうかちゃんに依存していない。
普通を望んでいる、いままでの、昔のゆうかちゃんを望んでくれている!
僕が動かなきゃ、お兄さんはゆうかちゃんに縛られて動けないんだから、僕が守らなきゃ。


 僕が出来ることはゆうかちゃんの代わりに妹を演じる事。
少しでもお兄さんの好意を僕にそらしたい。
大嫌いな演じるって事をしなきゃいけないけれど、お兄さんは僕の本当の姿を理解してくれている、だから大丈夫。
もう、あんな風に泣いたらだめだからね!


 ゆうかちゃんは親友。
でも、今はもうどうやってお兄さんを手に入れるかを考えている。
お兄さんもゆうかちゃんばっかり見ている。
ダメ、僕を見てよ。
ストレスの捌け口でも、欲求を満たす為でもいい。
何でもいいから、もう一度僕を見てよ。


 
 
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