夢禍自戒(むかじかい)

さこ丸

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四節 -3

甘い誘惑

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気が付けば教室の中にいた。

ぼんやりと霞んだ窓の外。あたたかな日差し。
いつの間に眠っていたのか、腕を枕にして突っ伏していたらしい。
教室は静かで、人の気配もない。

「…なんか、気持ちいな。」

健一は体を起こし、伸びをする。

心地よい風がカーテンを揺らし、甘い匂いが花をくすぐる。
眠りの続きのような、優しい感覚に包まれていた。

「…健一くん。」

名前を呼ばれて、振り向く。

そこにいたのは詩織だった。

制服姿。髪型もそのまま。笑っている。

けれど ーー 妙に色っぽい笑みだった。

「詩織…?」

「ふふっ。驚いた?」

詩織が机の上をすり抜けるようにして近づいてくる。

「今日は…一緒にいたい気分なの」

そう言いながら健一の前に立つと、そのまま腰を下ろしてきた。

健一の膝の上に。

「え?!ちょ…ちょっと!?」

「いいじゃん。…ダメ?」

見上げてくる視線。
肌が近い。いや、というか密着している。
制服の襟元から漂うシャンプーの匂いが、鼻を突く。
ドクン、と心臓が跳ねた。

「し、詩織?ど、どうしたの?」

「…ダメじゃないなら…いいでしょ?」

細い指先が、健一の胸元をなぞってくる。

「だって…私、健一くんのこと、もっと知りたいんだもん…・」

耳元に顔を寄せて、囁くように。
息が触れて、体がびくりと反応する。

(これ…本当に詩織…?)

体温が妙に低い。
瞳が、どこか商店の定まらないような光を宿している。

そして ーー 

その指先が、制服の裾をゆっくり引き上げる動きを見せた瞬間。

「…キミ。誰?」

彼女の動きがぴくりと止まる。

「…へえ。バレちゃうんだ…♡」

彼女が不敵な笑み浮かべた。

次の瞬間。

「そこまで!」

空間が裂け、誰かが飛び出してくる。

白い髪。
錫杖を持った少女の姿。

「詩織…!」

健一が思わず声を上げる。

「健一!”ソイツ”私じゃない!離れて!」

白い髪が揺れる。詩織は錫杖を構えた。

それを見た”詩織”は健一の膝の上からスッと体を離し、両手を軽く上にあげる。

「あー。無理。降参です~。”夢守”が来るなんて聞いてないしー。」

「こっちとしては、もうちょっと遊びたかったんだけどね~。さすがにあなたがでてくると話は別。」

まろで面倒くさそうに髪をかき上げ、ぺろりとしたを出す。

「じゃ、またね。健一くん♡ 次はもっと ーー ね?♡」

ウィンクを残して、”詩織の姿をした何か”は霧のようにスッと消えていった。

残されたのは、ぼんやり突っ立った健一と詩織だけ。

「…。」

健一が額の汗をぬぐうようにして、深く息をつく。

「健一」

詩織の声が低くなる。

「な、なに…?」

「…顔、真っ赤。」

「そ、そんなことないし…。」

健一の視線が泳ぎ、言葉がもつれる。

詩織は無言でじっと見つめたあと ーー ジットッと目を細めた。

「…まったく。鼻の下、伸びすぎ。あんなにニヤニヤしてさ?」

「そ、そんなことないしっ!」

ふーっと息をついた詩織は少しだけ視線をそらした。

「…あんなのに気を許すなんて、ちょっと…むかつく。」

その言い方が少しだけ拗ねたようにも聞こえた。

「あんなのって…。見た目、詩織だったじゃん。」

詩織がポツリとつぶやく。

「まあ、たしかに…。…ていうかさ。あれ…私の姿で、健一にあんなこと…」

「私がやったわけじゃないけど…っ、でも、あれ、なんか…こう…私がやったみたいで…」

詩織の声がどんどん小さくなっていく。
そして、パッと顔を赤くして、そっぽを向いた。

「健一。…さっきのことは、わ、忘れなさい…。」

「は、はい…」

空間が歪み始めた。夢が終わろうとしている。

「…健一。」

「ん?」

「…ばか。」

彼女の言葉を聞いたと同時に、僕は夢から覚めた。




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