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わからない、わからない。
彼の考えていることが四年も一緒にいてまったくわからない。
朱音は邸内をずかずか歩きながら考える。
(こう見えたって私だって龍仁様との関係をなんとかしようとしたわよ!)
いきなりさらわれてきた身だけど、意地悪はされても危害はくわえられないし、衣食住も保証されている。
それに彼は実は温かな陽の気でいっぱいなのだ。
この世界を構成する陰と陽の気。
陽の気とは相手を思いやる優しい心、明るいまっすぐな、お日様みたいな気配のこと。
朱音は花仙だから無条件に陽の光を慕ってしまう。
彼の傍にいると気持ちいい。
根はいい人なのだと思う。
だから一方的に嫌うのもまずいかと、朱音も好意を持とうと努力した。
でもそろそろと近づいてみると、さっきの出迎えの時のように、彼はことごとく希望的観測を打ち砕いてくれるのだ。
(そんなに私が気に入らないなら、さっさと追いだせばいいじゃない……!)
彼ならもっと気のきく娘を傍におくことができる。
銀の髪と翠の眼が気に入りなら胡人を召し抱えればいい。
花仙だから朱音にこだわるのかと思ったこともあったが、彼は一度も朱音に花仙の力を見せろと言ったことはない。
それどころか他の皆に正体を隠している。
だから朱音は自分がどうしてここにいるのかわからない。
おさまりが悪い。
強引にさらわれた身だけど、本当にここにいていいのかと不安になる。
自分の立ち位置が謎で、彼の前にでると体がもぞもぞして落ちつかない。
朱音は足を止めると、与えられた房の扉を開ける。
朱音は贅沢にも龍仁の居房に近い個室を与えられている。
中も豪華だ。
庭に面した花窓や、薄い繻子をはった屏風など、調度も華やかで品がいい。
少しためらって、これまた見事な黒檀でできた衣裳櫃を開ける。
櫃にはたくさん衣が入っていた。
朱音の瞳に合わせた翡翠色の艶やかな牡丹の綾目を織りだしてある衣、紫がかった蒼水晶のように輝く絹の上着、芯が淡い緑に見える純白の長裙、深い紅に沈む飾り帯。
玉を削り薔薇や芍薬をかたどった簪に飾り紐、異国渡来の蜘蛛糸のような細い絹を編んだ黒や金の襟飾りまである。
これらはすべて龍仁がくれたもの。
こんな衣を日常に着るのは公主か名家の令嬢だけだ。
女嬬ごときにどうしてこんな贅沢をさせるのか、彼の真意が読めない。
それにどれだけ慎重に衣を選んでも、彼は、似合わない、組み合わせが下手だと難癖をつけて、朱音の乙女心を踏みにじってくる。
(一度くらい、私だって褒めてほしいのに……)
こんなに華やかでうっとりするような衣を、誰かのために一生懸命選んで装った時くらいは。
だから今日も、今の流行だと言われた、佑鷹にもらった衣を着て出迎えたのに。
くすんと、濡れた息が喉の奥からもれた。
駄目だ。
また心が重くなっている。
朱音はいそいで袖で眼をこすった。
前向きに衣を広げると、手早くまとって髪をふく。
ゆっくりしていたらまた龍仁に何を言われるかわからない。
不本意な女嬬生活だけど、朱音は頑張ると決めていた。
そもそも自分がさぼったら、それを口実に父母にまで咎がおよぶかもしれない。
彼の考えていることが四年も一緒にいてまったくわからない。
朱音は邸内をずかずか歩きながら考える。
(こう見えたって私だって龍仁様との関係をなんとかしようとしたわよ!)
いきなりさらわれてきた身だけど、意地悪はされても危害はくわえられないし、衣食住も保証されている。
それに彼は実は温かな陽の気でいっぱいなのだ。
この世界を構成する陰と陽の気。
陽の気とは相手を思いやる優しい心、明るいまっすぐな、お日様みたいな気配のこと。
朱音は花仙だから無条件に陽の光を慕ってしまう。
彼の傍にいると気持ちいい。
根はいい人なのだと思う。
だから一方的に嫌うのもまずいかと、朱音も好意を持とうと努力した。
でもそろそろと近づいてみると、さっきの出迎えの時のように、彼はことごとく希望的観測を打ち砕いてくれるのだ。
(そんなに私が気に入らないなら、さっさと追いだせばいいじゃない……!)
彼ならもっと気のきく娘を傍におくことができる。
銀の髪と翠の眼が気に入りなら胡人を召し抱えればいい。
花仙だから朱音にこだわるのかと思ったこともあったが、彼は一度も朱音に花仙の力を見せろと言ったことはない。
それどころか他の皆に正体を隠している。
だから朱音は自分がどうしてここにいるのかわからない。
おさまりが悪い。
強引にさらわれた身だけど、本当にここにいていいのかと不安になる。
自分の立ち位置が謎で、彼の前にでると体がもぞもぞして落ちつかない。
朱音は足を止めると、与えられた房の扉を開ける。
朱音は贅沢にも龍仁の居房に近い個室を与えられている。
中も豪華だ。
庭に面した花窓や、薄い繻子をはった屏風など、調度も華やかで品がいい。
少しためらって、これまた見事な黒檀でできた衣裳櫃を開ける。
櫃にはたくさん衣が入っていた。
朱音の瞳に合わせた翡翠色の艶やかな牡丹の綾目を織りだしてある衣、紫がかった蒼水晶のように輝く絹の上着、芯が淡い緑に見える純白の長裙、深い紅に沈む飾り帯。
玉を削り薔薇や芍薬をかたどった簪に飾り紐、異国渡来の蜘蛛糸のような細い絹を編んだ黒や金の襟飾りまである。
これらはすべて龍仁がくれたもの。
こんな衣を日常に着るのは公主か名家の令嬢だけだ。
女嬬ごときにどうしてこんな贅沢をさせるのか、彼の真意が読めない。
それにどれだけ慎重に衣を選んでも、彼は、似合わない、組み合わせが下手だと難癖をつけて、朱音の乙女心を踏みにじってくる。
(一度くらい、私だって褒めてほしいのに……)
こんなに華やかでうっとりするような衣を、誰かのために一生懸命選んで装った時くらいは。
だから今日も、今の流行だと言われた、佑鷹にもらった衣を着て出迎えたのに。
くすんと、濡れた息が喉の奥からもれた。
駄目だ。
また心が重くなっている。
朱音はいそいで袖で眼をこすった。
前向きに衣を広げると、手早くまとって髪をふく。
ゆっくりしていたらまた龍仁に何を言われるかわからない。
不本意な女嬬生活だけど、朱音は頑張ると決めていた。
そもそも自分がさぼったら、それを口実に父母にまで咎がおよぶかもしれない。
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