【毎日連載】古魔道具屋『レリックハート』の女房と猫

丁銀 導

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035 日々は慰安に明け暮れて【マーズ・レイバン】

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「それじゃ今日もお疲れさん!!」
「お疲れ~!」
「…お疲れさまです…」

 ジュナイとエイデンさんが帰ったあと、
 俺はヴィクター様とドミニオ様と一緒に
 行きつけの東洋料理店に夕飯を食べに行った。
 いつものように麦酒で乾杯をする。

「腹減ったろマーズ!なんでも好きなもん食えよ!」
「そうそう。ヴィクターの奢りだからね~」
「あのなドミニオ!俺は猫ちゃんに噛まれた怪我人なんだぜ?」
「それが何?もう僕の治癒魔法で完治したでしょ?」

 エイデンさんに歯が立たなかった俺に気を遣ってくれているのか、
 いつも優しいお二人が、今日はさらに優しかった。
 ありがたいが、ちょっといたたまれない…。

 …悔しいが、確かにあの人は…エイデンさんは強かった。
 もし彼が黒ギルドに返り咲いていたら、
 俺はヴィクター様の死角を守る大任から外されていただろう。

「あの…ヴィクター様」
「なんだ?」
「エイデンさんは…なぜ黒ギルドを抜けたんですか…」

 あれほどの実力があり、年齢も30歳前後ならまだまだ現役だ。
 5年かそこらのブランクがあると聞いたか、
 腕はまったく錆びついていなかった。
 疑問を抱いても当然のことだろう。
 ヴィクター様は杯に注がれた麦酒を飲み干すと、
 少し遠くを視るような眼をしたあと、話してくれた。

「俺とエイデンは、今日まで一度も面識がねぇ。
 だから、これは俺が先代…親父から聞いた話だ。それでもいいか?」
「…はい」
「五年前だから、エイデンは二十五か六か…」

 その後続いたヴィクター様の話はこうだった。
 エイデンさんとその父親は、先代から黒ギルド長に仕える殺し屋だった。
 十五歳から『仕事』を始めたエイデンさんは、二十四歳の冬にやはり仕事で
 父親を亡くすまで、かなりの数の殺しをこなして来たのだという。
 母親は死んだのか逃げたのか…それはヴィクター様も知らないらしいが、
 唯一の肉親を喪ったエイデンさんは、彼なりに人生というものを
 真剣に考えざるを得なかったのだろうとヴィクター様は言う。
 …肉親というものに縁がない俺には、よく分からないが…。

「いきなり、先代に『生き方を見直したいから、黒ギルドを抜けたい』
と言ったんだと」
「……」

 しかし当時は抗争の真っ只中。エイデンさん以上に優れた殺し屋は
 黒ギルド社会には一人としていなかった。先代をはじめ重鎮達は
 なんとか引きとめようと説得を重ねたらしいが、エイデンさんの決意は堅かった。

「それで、先代と当時の幹部どもは思いついたのさ」
「…何をです」
「絶対に達成不可能な仕事をエイデンに与え、それが成功すれば
 足を洗うことを許す…という条件を出す事をだ」
「それが…」
「…そう、『ノースウッド』の黒ギルド長と幹部全員を始末できたら、
抜けてもいいって条件だ」

 酷な事をするものだと思う。
 当時飛ぶ鳥を落とす勢いのノースウッドの黒ギルド長・幹部となれば、守りは鉄壁。
 どこに潜伏しているかを探ることすら至難の業で、たとえそれを知ったところで
 そこに侵入し、標的を一人残らず殺すことなど限りなく不可能だ。

「万が一にもないが、成功すればしめたもの…
 失敗してもエイデンは死ぬ。だから戦力が他所に漏れることはない。
 どっちに転ぼうと損はねえって算段だ。」

 …しかし、エイデンさんはそれをやってのけた。
 一夜にして、ノースウッドの黒ギルド長・幹部、
 総勢三十名を地獄に送ったのだ。

「あとは、今日話したとおりだ」
「……」

「エイデンは先代から退職金代わりにと刀を一振り譲り受け、
 そのまま姿を消した。
 …まさか今もシナノワにいるたぁ思わなかったけどな」
「それが、この刀ですか…」
「そうだ」

 東洋料理店の個室の壁に、無造作に立て掛けられたそれをヴィクター様は見詰めた。
 俺もドミニオ様も芸術的な拵えと、鞘の中に収まっている白銀の刃を思い、見入った。
 エイデンさんはこれを持ち帰ることも出来た。しかし頑なにそれを拒んだ。
『もう自分には必要のない物だから』と…。

「抜けた後の『黒き刃のバルヴァロス』にはいっさい手出しをしない。
 した場合は、どんな報復があろうと覚悟すること…」
「……」
「それが先代から俺に、
 そしてこの辺の黒ギルド長に周知されてる決まりのひとつだ」
「はぁ?!」

 黙って話に耳を傾けていたドミニオ様が、いきなり声を上げた。

「ヴィクター!僕そんなの初耳だけど?!そして何?
 それを知っててエイデンさんにケンカ売ってた訳?!」
「別にいいじゃねえかよドミニオ~」
「よくないよ!!」
「俺が『赤き槍のケイロニウス』を演れる器か…験したかったんだよ」

『黒き刃のバルヴァロス』と『赤き槍のケイロニウス。』

 さっき移動中に魔導フォンで調べたが、
 それはとある歌劇の演目の登場人物の名前だ。
 両者は家柄においては不俱戴天の仇同士。
 個人的にも『セレンティア』という美女を取り合う仇同士であるらしい。
 
 ノースウッドのギルド長は大の歌劇好きだったという。
 それをどこかで知ったエイデンさんは、討ち入る時にそう名乗ったのだろう。

「……」
「ま、無理だったけどな」
「…ヴィクターは『赤き槍のケイロニウス』って感じじゃないよね」
「へいへい。悪うござんしたね」

 ふて腐れるヴィクター様に、ドミニオ様は悪戯っぽく笑う。

「もっと男前だもの」
「ば~か。おだてても何も出ねえぞ?」
「…ヴィクター様の方がお美しいです」
「ありがとなぁ~~マーズぅ!!今夜泊まってくか?」
「え…、その…」
「ちょっとヴィクター!何?その扱いの違い!」
「ドミニオも泊まってけよ~三人でイイコトしようぜ?」
「うん!しようか!」
「冗談だよバカ!なんでノリノリなんだよ!」

 …今日はなんだか、色々な事があった。
 上には上がいるという事も分かって、自分の力不足を痛感した。
 そして武力だけではなく、もっと様々な事を学ぶ必要があるのだと知った。

 ヴィクター様、ドミニオ様…
 俺はもっと強い男になって、お二人を生涯お護りします。

 ジュナイ、そしてエイデンさん…
 あなた達とも、もう一度会って色々な話がしたい。
 もう生きる世界が違う以上、
 それは叶わない事かも知れないけれど…。


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