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038 亡き友との約束【ロビン・クレランス】
しおりを挟むは、はじめまして…その、
僕の名前はロビン・クレランスといいます…。
実は今、人を探しているんです。あっ、これ写真です。
この人なんですが…お名前はジュナイ・サザランドさんといいます。
…僕の大切な友達の、お兄さんです。
僕の友達ですか?
ジュナイさんの隣に写っている、この人です。
綺麗な人でしょう?
リュウ・アーヴァインさんと言うんです。
…もう一年も前に亡くなってしまったんですが…。
当時僕はとある病気で入院していて、病室が近くだったリュウさんには、
とても親切にして頂いたんです。
両親は忙しく、いつも一人だった僕を、リュウさんは元気付けてくれました。
あっ、すみません!関係ないことを…えっ、つ、続けていいんですか?…では…
…リュウさんは心臓の難病で、子供の頃からずっと入院しているとの事でした。
綺麗で近寄り難い見た目とは裏腹に、無邪気で子供っぽいところもあって…
そして優しく聡明な、ほんとうに素敵な人でした…。
リュウさんは「寂しさが紛れるように」と、よく僕に本を貸してくれました。
本の中にはすでに絶版で、中々手に入らない貴重なものも多くあり、
僕は驚くばかりでした。そう伝えるとリュウさんは
「ジュナイに頼めば、なんでも持って来てくれるんだ」
と、とても誇らしげでした。
リュウさんは、四つ上のお兄さん…ジュナイさんの事が大好きでした。
血の繋がりはないとの事でしたが、たまに一緒に過ごすお二人の姿は、
本当の兄弟以上に仲が良さそうに見えました。
僕は検査なんかのタイミングで、ジュナイさんと直接お会いしたことは無いんですが…
リュウさんを乗せた車椅子を押して病院の庭に出るジュナイさんの姿を、
何回か見たことがあります。
この写真みたいに、いつもきちんとした身なりで…かっこいい人でした。
「ジュナイが勤めている商社の名前を聞いたら、
きっとみんな腰を抜かしちゃうよ」
そんなジュナイさんの話をするリュウさんは誇らしげで、
僕はずっと年上のはずの彼が
小さな子供のように見えて、微笑ましく思ったものです…。
でもリュウさんは、誇らしく思うのと同じくらい、
治療費のために働きづめのジュナイさんに心を痛めていました。
「リュウさんは、優しいんですね」
…僕がそう言うと、彼はとても悲しげに微笑みました。
「それは違うよ…ロビたん。僕は酷いやつなんだよ」
…あ、『ロビたん』というのは僕のあだ名です。
リュウさんが呼び始めたら、看護師さんも真似して…
あぁまた脱線した…す、すみません…。
…ある時期から、
リュウさんの病状は悪化して面会謝絶の日々が続きました。
ようやく面会できるようになったある日、僕は看護師さんに呼ばれて
リュウさんのお部屋に行きました。
ベッドに横たわるリュウさんの肌は雪のようで、
なんだか、人間というよりも美しい人形のようでした…。
「ロビたん、いつか君は、僕を優しいと言ってくれたね」
小さな…でもしっかりとした声でリュウさんは言いました。
「でも、前も言ったけど、それは違うよ。僕は酷いやつなんだ」
リュウさんが僕の手を握りました。
…その白くて綺麗な手は、まるで氷のように冷たかった。
「…僕はいつも、死に際になんと言えば
ジュナイを傷つけられるか…そればかり考えているんだ。」
意外な告白に、僕は言葉を失いました。
大好きなお兄さんを傷つける…?どうして?
リュウさんは、薄く微笑んで、僕に一冊の本を差出しました。
「これを、君に預かって欲しい」
僕は本を受け取りました。彼の許可を得て頁を開くと、
そこにはひとつの封筒が挟まれていました。
「僕が死んだら…その本と封筒を、ジュナイに渡してくれないか」
縁起でもない事を…僕はそう言おうとしましたが、無理でした。
あの時のリュウさんの透き通るような美しさは、すでに彼岸のものでした。
『絶対に手紙を読まない事』『必ず死んだ後に渡す事』
その二つを、僕は彼から言い付かり、間違いなく果たすと約束しました。
リュウさんは安心したように微笑んで…
「ありがとう…ロビたん。優しいというのはね、
君のような人の事を言うんだよ」
そう言って抱きしめてくれました。
…ぅ…っ、す、すみません…。ハンカチまで貸して頂いて…。
それから、すぐにリュウさんは亡くなったそうです。
…伝聞なのは、恥ずかしながら、僕はその夜急な発作を起こしてしまって…
数週間ほど昏睡状態に陥っていたせいです…。
目覚めた頃は、すでに…リュウさんのお部屋は空でした。
幸い、僕がリュウさんから預かった本も手紙も無事でしたが…
ジュナイさんは…お兄さんは行方不明で…。
リュウさんとジュナイさんが育ったという
孤児院の方にも協力して頂いたんですが、
商社を辞めて家も引き払って、魔導フォンも解約されていて…
軍警に捜索願を出しても、現時点では音沙汰もなく。
ジュナイさんの消息は、絶たれてしまっていたんです…。
お葬式に出たという職員の方が、言っていました。
いつも気丈なジュナイさんが、
リュウさんが亡くなった後は抜け殻のようになっていたって…。
誰が何を話しかけても応えず、
ただ、リュウさんの棺が火葬される時だけ
「やめろ」と泣き叫んでいたそうです…。
周囲の制止を振り切ろうと藻掻きながら、何度も…。
職員さんも僕も、その時のジュナイさんの気持ちを思うと、
涙をこらえ切れませんでした。
「あの様子では…ジュナイはもう、生きてはいないのかもしれない」
職員さんはそう言っていました。
でも、僕は諦めずに捜そうと決めたんです。
なんとしても、リュウさんとの約束を果たしたい。
たとえ何年掛かろうと…。
もしジュナイさんが亡くなっていたとしても
、墓前にこの手紙をお供えしたいのです。
それでも僕は変わらず病気がちで、1年も経ってしまったのですが…
人づてに、この商店街の古魔道具屋さんに
ジュナイさんそっくりの人がいると聞いて、お伺いしたのです。
…貴方はエイデンさんとおっしゃいましたよね?
エイデンさん。ここに、ジュナイさんはいらっしゃるんですか?
もし間違いなければ、お願いです!ジュナイさんに会わせてください!
リュウさんが本当にジュナイさんに伝えたかった言葉が、ここにあるんです!
僕は中身を読んでいません。
ジュナイさんに読んでいただけないのなら…
僕、この場から一生動きません!
お願いしますっ!どうか、ジュナイさんに会わせてください!!
……え?別に全然構わない?
でもジュナイさんは今出掛けてるから、帰って来たら…?
あっ…はい!か、構いません!ありがとうございます!
…ところで、ジュナイさんはどちらへ…?
……夕飯の買い物…
そ、そうなんですね……。
すみません、な、なんだか興奮してしまって…
てっきり反対されるかと…。
あぁ、お水まで…ありがとうございます。いただきます…。
あの…ところで、エイデンさんはジュナイさんと、
どのような関係でいらっしゃるんですか?
……え?!
あ、ぼ、僕なにか変なこと聞いちゃったでしょうか?!
え、エイデンさん、顔真っ赤ですよ?
だだ大丈夫ですか?!
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