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040 手紙②【リュウ・アーヴァイン】
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『ジュナイへ
お定まりだけど、一度使ってみたい言葉だったから、書かせて貰うよ。
「この手紙を君が読んでいるという事は、
僕はもうこの世には居ないんだね」
僕はおそらく、君にひどいことを言い捨てて死んだのだと思う。
もし君が僕を憎んだり、もう思い出したくもないくらい嫌いだと思っているのなら、
この手紙は読まずに破り棄ててくれて構わない。
そしてそれきり僕のことなど忘れて、
君自身の人生を、君のためだけに、好きなように生きて欲しい。
…ただ、もし君が自分を責め、悲しみに沈み、
前に進む気力を失っているのだとしたら…
どうかこのまま、最後までこの手紙を読んで欲しい。
率直に言うよ。
僕は君を愛している。
出会ったその日から今まで、君のことを愛さない時は一秒だって無かった。
施設のみんなや病院の看護師さん達、先生達、友達…
色々な人が僕を大事にしてくれた事は分かっているし、感謝しているけれど、
それでも僕が本当に心の底から愛していたのは、君ひとりだけだ。
君は僕を弟として大切にしてくれたね。
人の体は、その人が食べたもので作られているという。
それならば僕の体は、髪のひとすじ、爪のひとかけらに至るまで
君の愛で作られていたと言い切れる程に、君は僕に愛情を注いでくれた。
その思いは僕が君に対して抱くものとは種類が違っていたけれど、
僕はとても幸せだったよ。
二十年ちょっとの短い人生ではあったけれど、僕はその間中、ずっと君を独占し続けた。
君が心身を切り売りしてまで、僕の治療費を稼いでくれていた事も知っているよ。
知っているのに、何も言わず、知らない振りをした。
それとなく聞いても君は上手にはぐらかすし、僕もそれ以上は聞かなかった。
君の前では、君の望むように
穢れなく優しい弟でいたかったからだ。
本当はそんな人間じゃないのにね…。
それでも我慢できなくなって、いつだったか僕は君に一度だけ
『愛している。抱いて欲しい』と懇願した事があったね。
君はそれを否定もせず、肯定もせず『聞かなかった事にする』とだけ言って、
それっきりにしたけれど…僕はその事を、ずっとずっと恨んでいたんだよ。
憎んでいたと言ってもいい。愛するのと同じだけの強さでね。
ジュナイ、君は優しいから、僕を傷つけまいとしてそう言ったのかな?
それともそんな汚らわしいことを、清らかな『弟』の口から聞きたくなかった?
どちらにせよ、君が僕を拒んだその日から、僕はそれまでのように
純粋に君を愛せなくなった。
同じかそれ以上の分量で、君を憎むようになった。
死に際に僕が君を深く傷つけるような事を言ったのは、
ありていに言うならば、その仕返しだよ。
僕が傷ついたのと同じくらい、君も傷つくべきだと思ったんだ。
残りの人生を僕への負い目を背負いながら、生きて行く事を期待した。
一生、僕を忘れられないままでいて欲しいと願った。
…ここまで読んでうんざりした?
でも残念ながら、これが僕の本性だ。
僕はこういう、身勝手で醜い、汚い人間なんだよ。
君の一途な愛に相応しい人間なんかじゃ、全然なかったんだ。
だから、君が罪の意識で苦しんだり、自分にはそんな資格はないと
幸せを諦めたりする必要は何も無い。
君に愛され、幸せになる資格など無かったのは、僕の方なんだ。
これからは僕の事など忘れて、
君の事を心から信頼し、大切に守ってくれる人と幸せになって欲しい。
もうすでに、君にああして欲しいこうして欲しいと
要望を述べる資格など、僕には無いのだろうけれど…
どうか僕の最後の我侭だと思って、叶えてくれないだろうか。
これからは君の人生を、君の幸せのためだけに使って欲しい。
何度も言うけれど、僕は幸せだったよ。
君の愛情を欲しいがままに独り占めした二十余年は、
傍から見るほど短くも、苦しいだけのものでもなかった。
もし君がいなければ、僕の人生はどれだけ暗く惨めなものだっただろう。
きっと、この歳まで生きてはいなかっただろうね。
僕はもうすぐ死ぬけれど、その事についての恐れもないよ。
やっと僕は楽になれる。
僕自身の心身が作り出した地獄から、解放される。
肉体という檻から自由になって、子供の頃と同じように純粋に君を愛せる。
それが嬉しくて仕方ないんだ。
…なんだか読み返すと滅茶苦茶な文章だね。
まぁ死を前にした人間の思考なんて、こんなものだと許して欲しい。
しかし、たとえ取り留めなくとも、ここに書かれていることは全て僕の偽らざる本音だよ。
今言っても仕方ないことだけれど、
僕達はもっと喧嘩をすればよかったね。
僕にとっては、君から愛されることが、生きることの全てだった。
それを失うのが怖くて、いつも笑顔しか君に見せなかった。
だから君も、僕に本音を明かせなかった。
後悔しているよ…ごめんね。
だらだらと書いてしまったけれど、
結局僕が君に言いたい事の内の、半分も言えてない気がする。
でもいい加減キリがないから、これで最後にするね。
ジュナイ、今まで本当にありがとう。
悲しい思いをさせてごめんね。
幸せになって。
大好きだよ。
さようなら。
リュウより』
お定まりだけど、一度使ってみたい言葉だったから、書かせて貰うよ。
「この手紙を君が読んでいるという事は、
僕はもうこの世には居ないんだね」
僕はおそらく、君にひどいことを言い捨てて死んだのだと思う。
もし君が僕を憎んだり、もう思い出したくもないくらい嫌いだと思っているのなら、
この手紙は読まずに破り棄ててくれて構わない。
そしてそれきり僕のことなど忘れて、
君自身の人生を、君のためだけに、好きなように生きて欲しい。
…ただ、もし君が自分を責め、悲しみに沈み、
前に進む気力を失っているのだとしたら…
どうかこのまま、最後までこの手紙を読んで欲しい。
率直に言うよ。
僕は君を愛している。
出会ったその日から今まで、君のことを愛さない時は一秒だって無かった。
施設のみんなや病院の看護師さん達、先生達、友達…
色々な人が僕を大事にしてくれた事は分かっているし、感謝しているけれど、
それでも僕が本当に心の底から愛していたのは、君ひとりだけだ。
君は僕を弟として大切にしてくれたね。
人の体は、その人が食べたもので作られているという。
それならば僕の体は、髪のひとすじ、爪のひとかけらに至るまで
君の愛で作られていたと言い切れる程に、君は僕に愛情を注いでくれた。
その思いは僕が君に対して抱くものとは種類が違っていたけれど、
僕はとても幸せだったよ。
二十年ちょっとの短い人生ではあったけれど、僕はその間中、ずっと君を独占し続けた。
君が心身を切り売りしてまで、僕の治療費を稼いでくれていた事も知っているよ。
知っているのに、何も言わず、知らない振りをした。
それとなく聞いても君は上手にはぐらかすし、僕もそれ以上は聞かなかった。
君の前では、君の望むように
穢れなく優しい弟でいたかったからだ。
本当はそんな人間じゃないのにね…。
それでも我慢できなくなって、いつだったか僕は君に一度だけ
『愛している。抱いて欲しい』と懇願した事があったね。
君はそれを否定もせず、肯定もせず『聞かなかった事にする』とだけ言って、
それっきりにしたけれど…僕はその事を、ずっとずっと恨んでいたんだよ。
憎んでいたと言ってもいい。愛するのと同じだけの強さでね。
ジュナイ、君は優しいから、僕を傷つけまいとしてそう言ったのかな?
それともそんな汚らわしいことを、清らかな『弟』の口から聞きたくなかった?
どちらにせよ、君が僕を拒んだその日から、僕はそれまでのように
純粋に君を愛せなくなった。
同じかそれ以上の分量で、君を憎むようになった。
死に際に僕が君を深く傷つけるような事を言ったのは、
ありていに言うならば、その仕返しだよ。
僕が傷ついたのと同じくらい、君も傷つくべきだと思ったんだ。
残りの人生を僕への負い目を背負いながら、生きて行く事を期待した。
一生、僕を忘れられないままでいて欲しいと願った。
…ここまで読んでうんざりした?
でも残念ながら、これが僕の本性だ。
僕はこういう、身勝手で醜い、汚い人間なんだよ。
君の一途な愛に相応しい人間なんかじゃ、全然なかったんだ。
だから、君が罪の意識で苦しんだり、自分にはそんな資格はないと
幸せを諦めたりする必要は何も無い。
君に愛され、幸せになる資格など無かったのは、僕の方なんだ。
これからは僕の事など忘れて、
君の事を心から信頼し、大切に守ってくれる人と幸せになって欲しい。
もうすでに、君にああして欲しいこうして欲しいと
要望を述べる資格など、僕には無いのだろうけれど…
どうか僕の最後の我侭だと思って、叶えてくれないだろうか。
これからは君の人生を、君の幸せのためだけに使って欲しい。
何度も言うけれど、僕は幸せだったよ。
君の愛情を欲しいがままに独り占めした二十余年は、
傍から見るほど短くも、苦しいだけのものでもなかった。
もし君がいなければ、僕の人生はどれだけ暗く惨めなものだっただろう。
きっと、この歳まで生きてはいなかっただろうね。
僕はもうすぐ死ぬけれど、その事についての恐れもないよ。
やっと僕は楽になれる。
僕自身の心身が作り出した地獄から、解放される。
肉体という檻から自由になって、子供の頃と同じように純粋に君を愛せる。
それが嬉しくて仕方ないんだ。
…なんだか読み返すと滅茶苦茶な文章だね。
まぁ死を前にした人間の思考なんて、こんなものだと許して欲しい。
しかし、たとえ取り留めなくとも、ここに書かれていることは全て僕の偽らざる本音だよ。
今言っても仕方ないことだけれど、
僕達はもっと喧嘩をすればよかったね。
僕にとっては、君から愛されることが、生きることの全てだった。
それを失うのが怖くて、いつも笑顔しか君に見せなかった。
だから君も、僕に本音を明かせなかった。
後悔しているよ…ごめんね。
だらだらと書いてしまったけれど、
結局僕が君に言いたい事の内の、半分も言えてない気がする。
でもいい加減キリがないから、これで最後にするね。
ジュナイ、今まで本当にありがとう。
悲しい思いをさせてごめんね。
幸せになって。
大好きだよ。
さようなら。
リュウより』
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