【毎日連載】古魔道具屋『レリックハート』の女房と猫

丁銀 導

文字の大きさ
39 / 54

040 手紙②【リュウ・アーヴァイン】

しおりを挟む
『ジュナイへ

お定まりだけど、一度使ってみたい言葉だったから、書かせて貰うよ。

「この手紙を君が読んでいるという事は、
僕はもうこの世には居ないんだね」

僕はおそらく、君にひどいことを言い捨てて死んだのだと思う。
もし君が僕を憎んだり、もう思い出したくもないくらい嫌いだと思っているのなら、
この手紙は読まずに破り棄ててくれて構わない。
そしてそれきり僕のことなど忘れて、
君自身の人生を、君のためだけに、好きなように生きて欲しい。

…ただ、もし君が自分を責め、悲しみに沈み、
前に進む気力を失っているのだとしたら…
どうかこのまま、最後までこの手紙を読んで欲しい。

率直に言うよ。
僕は君を愛している。
出会ったその日から今まで、君のことを愛さない時は一秒だって無かった。
施設のみんなや病院の看護師さん達、先生達、友達…
色々な人が僕を大事にしてくれた事は分かっているし、感謝しているけれど、
それでも僕が本当に心の底から愛していたのは、君ひとりだけだ。

君は僕を弟として大切にしてくれたね。
人の体は、その人が食べたもので作られているという。
それならば僕の体は、髪のひとすじ、爪のひとかけらに至るまで
君の愛で作られていたと言い切れる程に、君は僕に愛情を注いでくれた。
その思いは僕が君に対して抱くものとは種類が違っていたけれど、
僕はとても幸せだったよ。

二十年ちょっとの短い人生ではあったけれど、僕はその間中、ずっと君を独占し続けた。
君が心身を切り売りしてまで、僕の治療費を稼いでくれていた事も知っているよ。
知っているのに、何も言わず、知らない振りをした。
それとなく聞いても君は上手にはぐらかすし、僕もそれ以上は聞かなかった。
君の前では、君の望むように
穢れなく優しい弟でいたかったからだ。
本当はそんな人間じゃないのにね…。

それでも我慢できなくなって、いつだったか僕は君に一度だけ
『愛している。抱いて欲しい』と懇願した事があったね。
君はそれを否定もせず、肯定もせず『聞かなかった事にする』とだけ言って、
それっきりにしたけれど…僕はその事を、ずっとずっと恨んでいたんだよ。
憎んでいたと言ってもいい。愛するのと同じだけの強さでね。

ジュナイ、君は優しいから、僕を傷つけまいとしてそう言ったのかな?
それともそんな汚らわしいことを、清らかな『弟』の口から聞きたくなかった?
どちらにせよ、君が僕を拒んだその日から、僕はそれまでのように
純粋に君を愛せなくなった。
同じかそれ以上の分量で、君を憎むようになった。

死に際に僕が君を深く傷つけるような事を言ったのは、
ありていに言うならば、その仕返しだよ。
僕が傷ついたのと同じくらい、君も傷つくべきだと思ったんだ。
残りの人生を僕への負い目を背負いながら、生きて行く事を期待した。
一生、僕を忘れられないままでいて欲しいと願った。

…ここまで読んでうんざりした?
でも残念ながら、これが僕の本性だ。
僕はこういう、身勝手で醜い、汚い人間なんだよ。
君の一途な愛に相応しい人間なんかじゃ、全然なかったんだ。
だから、君が罪の意識で苦しんだり、自分にはそんな資格はないと
幸せを諦めたりする必要は何も無い。
君に愛され、幸せになる資格など無かったのは、僕の方なんだ。
これからは僕の事など忘れて、
君の事を心から信頼し、大切に守ってくれる人と幸せになって欲しい。

もうすでに、君にああして欲しいこうして欲しいと
要望を述べる資格など、僕には無いのだろうけれど…
どうか僕の最後の我侭だと思って、叶えてくれないだろうか。

これからは君の人生を、君の幸せのためだけに使って欲しい。

何度も言うけれど、僕は幸せだったよ。
君の愛情を欲しいがままに独り占めした二十余年は、
傍から見るほど短くも、苦しいだけのものでもなかった。
もし君がいなければ、僕の人生はどれだけ暗く惨めなものだっただろう。
きっと、この歳まで生きてはいなかっただろうね。

僕はもうすぐ死ぬけれど、その事についての恐れもないよ。
やっと僕は楽になれる。
僕自身の心身が作り出した地獄から、解放される。
肉体という檻から自由になって、子供の頃と同じように純粋に君を愛せる。
それが嬉しくて仕方ないんだ。

…なんだか読み返すと滅茶苦茶な文章だね。
まぁ死を前にした人間の思考なんて、こんなものだと許して欲しい。
しかし、たとえ取り留めなくとも、ここに書かれていることは全て僕の偽らざる本音だよ。

今言っても仕方ないことだけれど、
僕達はもっと喧嘩をすればよかったね。
僕にとっては、君から愛されることが、生きることの全てだった。
それを失うのが怖くて、いつも笑顔しか君に見せなかった。
だから君も、僕に本音を明かせなかった。
後悔しているよ…ごめんね。

だらだらと書いてしまったけれど、
結局僕が君に言いたい事の内の、半分も言えてない気がする。
でもいい加減キリがないから、これで最後にするね。


ジュナイ、今まで本当にありがとう。
悲しい思いをさせてごめんね。
幸せになって。
大好きだよ。

さようなら。

                 リュウより』

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...