黒祓いがそれを知るまで

星井

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桃紫の瞳

01*

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 ……夢だ。
 窓から差し込む朝日の光に眉を寄せ、見上げた天井に目を細める。
 遠くで男たちの笑い声が聞こえる。そのすぐ近くで少し低い女性の声もして、覚醒したばかりの思考回路を繋ぐようにゆっくりと身を起こした。そうして女性の声をこの駐屯地で働くナンナのものだと思い至る。
 大方己の仕事に毒ついているのだろう。子育てをとうに終えた彼女は、世話焼きだが口が悪い。悪態もよくついているのだ。
 この声にあの懐かしい夢を引き起こされたのだろうか。

「……ん?」

 隣の温もりに気付いたのはその時だ。
 晒された金色の髪に、薄手の毛布からのぞく高い鼻梁。半開きの唇は少し厚く男らしい。溜息が出るほどの美しい瞳は今は閉ざされ彼が深い眠りについている事を示していた。
 いつの間に。
 口元を緩めベッドサイドの時計を見る。出勤まで一時間。イケるか。
 首を傾げ少しだけ考えて、俺は早急に迷いを捨てた。この最悪な気分を今すぐにでも払拭したい。
 それにこの男だってそのつもりでここに来たんだろう。主である俺が寝ていて断念しただけで。
 男が潜り込んでいる毛布を躊躇いなく剥ぎ取り、朝の自然現象を目にして笑う。下着を膨らませ硬く押し上げているそれは、こんなに綺麗な男でも自分と同じだ。
 起こさないようにそっと足を広げ、その間に膝をつく。
 まだ完全じゃないその男のものを下着をそっと降ろし解放してやる。呼吸に合わせ僅かに揺れる男根。これがどんなに完璧な形に育ち、最後には俺のすべてを夢中にさせるのかを俺は何度も経験し知っている。
 髪の色と同じの陰毛でさえ愛おしい。そんなことを思ってるなんて一生教えないが。

「……ン……」

 右手で半勃ちのそれを支え裏筋に舌を這わす。ぴく、と可愛く反応するそれに頭上の顔を確認するが瞼はきつく閉じられたままで、起きる気配はない。
 そのまま舌を全体に這わせ唾液をまぶすように舐めまわしてやる。瞬く間に成長した男根は血管を浮かせ物欲しげに揺れた。
 カリのくぼみにくちづけて悪戯のように軽く吸ってやる。
 再度寝顔を確認すれば、僅かに眉を寄せしかめ面になっていた。
 夢の中でエロい事をしているのだろうか。楽しくなってきて、ふふと声を漏らしてしまった。
 ああ、やばいなぁ……。
 もぞもぞと兆してきた自分のものには敢えて触れず、俺はその男根を飲み込むべく準備にかかる。一度起き上がりベッドサイドに随時置かれている潤滑油の瓶の蓋を開け、人差し指と中指を中に突っ込んだ。
 とろりとした感触を楽しんで、自らの下着を脱ぐ。そのまま前かがみになり、後孔に油を塗り込むように指を這わせる。ぞくりとする感覚。鳥肌が立つが吐息をついてやり過ごした。
 まずは一本。ゆっくりと内部に指を突き入れながら、目の前にある男の熱を口に含む。
 じゅぷ、じゅぷじゅる……。
 口だけで奉仕するには大きくなりすぎたそれを必死に舌を使い愛してやれば、唾液に塗れた男の下腹部と自らの下腹部から卑猥な水音が絶え間なく聞こえた。

「は……っ……ぅ……」

 たまんない……。
 この大きいものが今から俺の中に入るのだ。そうして俺の弱いところを突いてあますことなく満たしてくれるのだ。この世に怖いものなどないとでも言うように。
 この男は俺を何もかもから引き離してくれる。

「……ナツ」

 掠れた低い声が頭上からして、はっとなって動きが止まる。さわ、と髪を大きな手のひらで撫でられた。優しく、まるで俺が愛おしいとでも言うように。
 目線を上げれば桃紫の不思議な色合いをした瞳が俺を見つめている。眉を寄せ少し苦悶な表情なのは快楽に溺れかかってる証しだ。

「……おはよ」

 にや、と笑って俺が言えば男は無言で俺の腕を引っ張り抱き上げた。その腕から逃れるように彼を跨いで言う。

「時間ないからな。さっさとヤるぞ」

 渇いた唇を舐め見下ろすと、男はつられたように少し微笑んだ。そうして俺の腰を引き寄せ、濡れそぼった男根を中心に押し付ける。

「ぅ……ああ……っ」

 侵入してくるそれは少しの準備では足りなかったようで、ほんの少し引き攣れたような痛みを与えた。だが俺はそれでも半ば無理矢理腰を押し付ける。
 入ってしまえばいい。この先は何も考えられないのだから。
 逞しい腹筋に右手を置き、そそり立ったそれをゆっくりと飲み込んでいく。そんな俺の様子を男が凝視している。
 その視線に挑発するように微笑んで、興奮で立ち上がった己のものを見せつけるようにしごいた。すると男がノった、と言わんばかりに俺の乳首に唇を寄せた。
 ぐり、と舌を這わされ、快楽に喉が開く。
 我慢できずに律動を開始した。膝立ちになり己のものを扱きながら夢中で腰を振る。最初はゆっくり。徐々に激しく。

「……ナ、ツ」

 この男の掠れた低い声は色っぽい。じっと見上げるその紫と桃の宝石のような瞳も人種が違う故の金色の髪も。分厚く鍛えられた胸板と腹筋も、俺より白い肌も。
 剣ダコのついた大きな手のひらと指は、この世界の騎士なら誰でも出来るものなのだろう。
 誰が見ても魅力的な男だ。顔も体も性格も、身分ですらべらぼうに良い男。
 そんな男が俺を抱いてるのだ。こんなに夢中な瞳で、俺を感じて男根を硬くして。
 たまらない興奮だった。

 肉と肉がぶつかる音が響いた。張り詰めた前を扱きながら手早く極めようと天を仰ぐ。
 晒した喉に噛みつくように舌を這わされ、笑みを浮かべた。
 その首に腕を回し、腰の動きを止め男を見下ろす。快楽に堪える眉間の皺と、半開きの厚い唇。誘われるように唇を重ねるとすぐに肉厚な舌が入り込んできた。
 互いの舌を絡めながらぎゅっと抱きつき律動を再開する。唇が離れないように、ゆっくりと緩慢に。

「ン、ン……ぅ」

 その緩慢な動きでさえたまらないほど感じてしまい、内部をきつく締め付けながらそろそろ近付く限界に突っ走ろうとした時だった。

 ドンドンドンドン!!

「……!」

 びく、と肩を震わせた俺たちは同時に動きを止めた。

 ドンドンドンドン!!

 背後にある木製のドアが激しく叩かれている。
 一瞬時が止まり、次には盛大に眉を寄せた俺に、目の前の男もちいさく溜息を吐いた。
 激しく叩かれている扉を見遣り、互いに視線を交わせば男に慰めるように唇を優しく食まれた。
 意図を理解し、仕方なく熱が引いていく身体を離す。
 繋がっていた部分を引き離すのに息をつめ、そこからそっと脱出して、ベッドの端っこにくるまった下着を身に着けた。
 そうして俺は緩慢とした動きでドアの向こうの来訪者を迎える。どうせろくでもない用事だと確信を持ちながら。
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