黒祓いがそれを知るまで

星井

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絆と傷と明日と眠り

41*

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 温かい海の底へ沈んでいる。
 ゆらゆらと波に揺れながら青が広がる世界は、キラキラと光が反射して眩しくて目を細める。身体が重い。なのに泳ごうともがくと全身に得も言われぬ快楽が漂って、ゆったりとしたその気持ち良さに吐息を漏らした。
 少しだけ息苦しさを感じてやはり水中では生きていけないなぁなんて思う。なのに息ができている。
 にしても熱い。お湯なのだろうか? でも背筋がぞわぞわする心地良さに、もしかしたらここは母親の胎内なのかと思い至る。こうして手足を丸めてゆらゆらするのがひどく安心できて、幸せな気分だ。
 まだ寝ていたい。まだ寝ていたいのに。
 熱い……。

「……んっ……」
「……はぁ……凄い……締まる……」

 誰だ。
 掠れた、聞き覚えのある声が背後でした。その瞬間に、体内の奥底を抉られたような感覚がして必死に手を伸ばしてそこから逃れようとした。
 ここは、熱い。それになんだか苦しい。息がうまくできないし、なのに気持ち良くてたまらない。
 これはなんだ。
 これは……。

「……ぅぁ……!」

 もがいてもがいて伸ばした腕を誰かに掴まれる。

「……しぃー……兄上が起きる……」

 そっと腕を手繰り寄せられ、海が消えて視界が開ける。

「エンリ……」

 覗き込むようにして俺を優しく見ているのは、金色の髪を掻き上げたエンリィの姿だ。そこでようやく、夢を見ていたのだと理解した。視界は海ではなく薄暗い室内で、エンリィの金髪が外の星空の明かりでほんのりと反射しているように見える。
 鉛のように重たく怠い身体を起こそうともがけば、ようやくそこで下半身の違和感に気付く。

「……おまえ……」

 呟きは殆ど声にならず、喉すら疲労でくたばっている感覚だった。横向きの俺の目の前には穏やかな顔で寝入るアーシュの横顔が見える。上下に揺れる腹部と微動だにしない瞼が彼が深い眠りについている事がわかる。
 だが真後ろにいる弟のエンリィは、ぴったりと俺の尻に自分の下腹部を合わせている。理由は明白だ。

「……抜けって……!」

 囁けば上半身だけ起こして俺を見下ろしていたエンリィは、ふふ、と口許を緩めて首を横に振った。余裕綽々なその表情に眉を寄せ、再度背後に横たわったエンリィを押し退けようと腹部を押すが全くビクともせず、逆にグリと腰を押し付けられて背を仰け反らせた。

 もう、声すら出ない。
 夢で見た息苦しさと怠さは、疲労が溜まった身体を更に酷使されていたせいだろう。首を振って嫌がる俺をエンリィが抱き込むようにして耳元にくちづけを落とす。

「……ぁ、……っゃだ……も……」

 ゆるく出し入れされて身体が揺れる。ギシギシとベッドが軋んで微かな音を立てた。

「……だって……兄上だけ狡い……。それに……脚なんか出して……」

 吐息交じりにエンリィが言って、俺の髪に唇を寄せる。そのまま耳元や首筋にも唇を押し付けられ、内部の長く硬い熱が押し広げるように侵入しては離れていく。ぐずぐずに解れたそこはもう主の意思とは反対に、歓迎するかのように柔らかく脈動していた。
 疲労で身体に力が入らないおかげで、エンリィは好き勝手に俺を揺さぶる。抵抗も出来ず喘ぐ事すらうまく出来ない俺を知りながら、それでも辞める気はないらしい。
 眠りたい身体には与えられる快楽が苦痛で、自然と涙が出てシーツを伝うが、背後の青年はそれには気付かない。

「……できなぃ……もうできない……」

 ずりゅ、ずりゅと緩慢な動きで出し入れされ、敏感な部分をゆっくりと圧し潰される。
 深い快感に浅く呼吸を繰り返し絶頂を回避しようと逃げたくなる。なのに、もう指すら動かせない。
 疲労で死にそうな俺をエンリィだって知っているはずなのに。

「は……っ……いいよ、寝てて……」

 だらんとした足を持ち上げ、エンリィは囁いて更に抽送運動を速める。だがあくまでも兄を起こすつもりはないのかその動きは遠慮がちだ。なるべく音も出さないようにしているのが分かるが、俺にとってはそんなことはどうでもいい。
 勿論、寝ているアーシュを起こしたくはない。起きたら何かややこしくなるのは目に見えているし、何より、もうそんな体力もない。
 兎に角今は俺を犯すエンリィがさっさと満足してくれるのを待つしか方法はないのだ。逃げる力もないし、むしろこのまま寝たいくらいだった。
 試しに目を閉じてみるが、内部を抉られて眠りこける図太さはさすがの俺にも無かったらしく。

「……っ……ん、……は」
「……はぁ……凄い……いつもより柔らかくて……ぐねぐねしてて……出たくない」

 恐ろしい事をエンリィが言って、俺は心中で悲鳴を上げた。
 頼むから早く終わらせろ。そして俺を寝かせろ。小さく抗議の首を振っても、エンリィは気に留めていない。力の入らない拳で脚に置かれたエンリィの手の甲を叩くが、その手を掴まれて後ろに回されたらもう何もできない。

「……ぅンー……っ」

 湿った卑猥な音を立てて下腹部を穿たれる。俺の腕を取ったエンリィはたまらなくなったのか腰のスピードを上げてきた。肉を打つ音と濡れた音が室内に響き、ふと目の前のアーシュに目をやる。
 呼吸と共に上下する腹が、こちらを向いている。
 あれ?
 そのまま胸、首、そして顔に目を向ければ、バッチリと視線が交わり息を飲んだ。
 アーシュは肘をたてて横になり、手のひらに自分の頬を預けてこちらを見つめている。目が合った俺に口角を上げて無言で腕を伸ばしてくる。

 いつから起きてたんだコイツは!

 驚愕し身を強張らせるが揺らされる衝撃に声を押し殺して耐える。アーシュの指がまるでそうすることが当然のように俺の乳首を優しく引っ掻くように触れてきた。
 びく、と跳ねた体を後ろのエンリィがぎゅっと抱き込む。荒い吐息が首筋にかかりその体勢からエンリィはまだアーシュが起きたことに気付いていないのだと分かった。
 驚きで内部が締まったのかエンリィは気持ち良さげに呻いて、さわさわと俺の股間を弄る。芯を持たぬままのそれを愛しそうに擦り撫でていくが、疲労も相まって反応しない。
 萎えてもイケる俺を知っているからか、エンリィもそこまで執着せず手は肌を離れて行った。
 乳首を愛撫する兄の手とぶつかる事もなくすれ違う二人に、どうしようと考えながらアーシュを見ればふっと笑みを作られて思わず首を横に振った。
 その瞬間に乳首をぎゅっとつままれて直ぐに離される。一瞬の痛みに力が入って内部のエンリィを更に感じてしまい、アーシュにやめてほしいと目で訴える。
 だが奴は笑っているだけだ。尖ったそこをつまんでは離しを繰り返されて我慢できずに口を開いた。

「……ゃ、やめろ……っ」

 もうこれ以上は出来ない。
 前のアーシュと背後のエンリィから逃げたくて半泣きの俺に、ピストンが止まったのは同時だった。じわり、と熱い飛沫を内部に感じてエンリィが声もなく絶頂したのだと知る。遠慮もなく中に出されたのに眉を寄せるが、もう文句すら言えない。
 問題は愉しげに口許を緩めている目の前のアーシュだ。このまま何事もなかったかのように寝てほしいと、懇願するために解放された腕でアーシュの指を掴んで首を振る。

「……ナツヤ?」

 そんな俺の様子に今気付いたのか、エンリィがむくりと起き上がり俺の先のアーシュと目が合ったようだった。
 少しの沈黙が下りて、二人が見つめ合った。だが次には小さく溜め息を吐いたエンリィが俺の腹に腕を回してそのまま身体を起こしてくる。
 繋がったままエンリィが俺を持ち上げて器用に胡坐をかくような体勢を取った。最早なんの力もない人形のような俺は脚を大きく開かせられたまま背後のエンリィに身を預ける。

「……兄上、まだ寝てていいんですよ。今は私の番です」

 硬い口調のエンリィがそう言って、同じように身を起こしたアーシュがそれに鼻で笑った。

「私の睡眠を邪魔しておきながら、随分な言い草だな」
「……えんり、もうできないか、ら」
「だって兄上はもうしたんでしょう。ならいいじゃないですか」
「あーしゅ、おねがい……やめさせてくれ」

 重たい身体と広げられた脚も痛んで、藁にも縋る思いでアーシュに頼み込む。
 もう自分の力では抵抗も出来ないし、逃げる事も不可能だ。だとしたら目の前の男に頼み込むしかないだろう。

「……ふ、ぐだぐだだな」

 なのにアーシュは柔らかく笑って俺とエンリィに近寄ってくる。
 ああ、だめかも……。

 最後の希望を折られた気がして目を瞑れば、す、と結合部を撫でられる。
 ぬるついたそこは油とエンリィの出したもので卑猥な光景だろう。そこを更に指が侵入してきて目を見開いた。
 アーシュが真剣な眼差しでそこを凝視している。下着一枚の彼の股間が少し硬く変化しているのが見て取れて恐怖に戦慄いた。

「……う、そ……や、……やめっ……!」

 ぐり、と指が二本に増えてアーシュが蕾の淵を中から伸ばすように広げている。解れきって柔らかいそこでも、痛みが走って咄嗟にアーシュの肩を押した。

「兄上、まさか……」

 何をやろうとしているのかエンリィも気付いたのだろう。強張った声が背後からしてそのまま止めてくれ、と強く願う。

「これだけ柔らかければ……いけそうだな」

 低い声で言うアーシュの目線はずっとそこだ。その言葉に首を振る俺に気付いているはずなのに、一切こちらを見ようとはしない。

「ゃだやだやだ……! あーしゅ、できない……!」

 焦って脚を閉じようとすればエンリィの腕がそれを止める。
 追い詰められた絶望感に襲われ、涙が流れ落ちていく。

 こいつら、俺の意思を少しも汲んでくれない!
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