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越えられない君 3
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朝のホームルームが終わると、教室のあちこちで椅子を引く音や話し声が重なり始めた。
まだ新しいクラスだけれど、少しずつ日常の形ができ始めている。
すずは鞄からノートを取り出しながら、ふと顔を上げた。
教室の反対側、窓際の席。
藤沢湊が座っている。
背筋をまっすぐに伸ばし、ノートを開いてペンを持っている。その落ち着いた姿は特別目立つわけでもないのに、なぜか視線が引き寄せられてしまう。
その隣では、東雲花音が椅子を少しだけ湊の方へ向けていた。
「ねえ、湊」
花音の声は明るくてやわらかい。
湊が顔を上げる。
「ん?」
「今日体育だよね」
「そうだね」
湊は軽く頷く。
花音は楽しそうに続けた。
「体育館だし、球技かな」
「ありそうだね」
「バレーとかかな」
湊は少し考えるように言う。
「どうだろう」
花音はふっと笑った。
「湊、バレー上手だよね」
「そうかな?」
「そうだよ。中学のときもできてたよね」
湊は少し視線を外す。
「まあ、体育は嫌いじゃないかな」
花音は頬杖をついた。
「テストも常に上位に入ってるし、運動もできるし」
湊は少し困ったように笑う。
「それは東雲さんもじゃない?」
花音は首を振る。
「私はそんなことないよ」
それから、少し楽しそうに言った。
「でもね」
「うん」
「もし同じチームだったら、ちょっと安心かも」
湊は小さく笑った。
「同じチームだったらね」
「うん」
花音も嬉しそうに笑う。
教室の端と端。
すずの席からは、二人の声は聞こえない。
ただ、花音が笑っている様子だけが遠くに見える。
すずはノートへ視線を落とした。
(……お礼)
ずっと心に残っていること。
助けてもらったのに、まだきちんと言えていない。
(言わなきゃ)
そう思うのに、声をかけるタイミングが分からない。
席は遠いし、休み時間も周りに人がいる。
結局、今日の朝も何も言えないまま時間が過ぎていた。
(体育のときなら……)
もしかしたら少し話せるかもしれない。
そんなことをぼんやり考えていると、教室の後ろから声が聞こえた。
「夏希ー」
ひかりだった。
「今日の体育って何するんだろうね」
西野夏希が椅子を少し後ろに向ける。
「どうだろう」
「体育館だし、球技かな」
「そうかもしれないね」
夏希は穏やかに答える。
「えー……」
ひかりは机に突っ伏した。
「球技ほんと苦手」
その横に立っていた山口大翔が少し笑う。
「月島さん、ドッジボールとか弱そう」
「弱くない!」
ひかりはすぐ顔を上げた。
「避けるのは得意!」
「攻撃しないタイプなんだ」
大翔が面白そうに言う。
「だって怖いじゃん!」
ひかりは少し頬をふくらませる。
周りから小さな笑い声が起こる。
夏希もくすっと笑った。
「でも、みんなでやると楽しいかもしれないよ」
「そうかなあ……」
ひかりはまだ不安そうだ。
「まあ、やってみたら意外と大丈夫かも」
夏希はやわらかく言った。
やがて一時間目が終わり、クラスは体育館へ向かった。
体育館の扉が開くと、広い空間に声が響く。
ボールの跳ねる音や、他のクラスの話し声が混ざり合っていた。
生徒たちが床に座ると、先生が前に立つ。
「今日はバレーボールをやります」
体育館にざわめきが広がる。
「まずチームを作って、簡単な試合形式でやるから」
あちこちで小さな反応が起こる。
「えー、バレーかあ……」
ひかりが小さくつぶやいた。
夏希が振り向く。
「苦手?」
「うん……」
ひかりは正直に頷く。
「ボール怖いんだよね」
大翔が少し笑う。
「月島さん、避けるのは得意なんでしょ?」
「避けるのはね!」
ひかりはすぐ言い返す。
「でも飛んでくるの怖いの!」
夏希は少し笑った。
「大丈夫だよ、きっと」
先生が続けて言った。
「今からチーム分けするぞ」
名前が順番に呼ばれていく。
「藤沢、東雲」
続けて呼ばれた二人の名前。
花音が少し嬉しそうに湊を見る。
「同じチームだね」
湊は小さく頷いた。
「そうだね」
少し離れた場所から、その様子がすずの目に入る。
胸の奥がほんの少しだけざわついた。
やがて——
「西野、一ノ瀬、山口、田中」
すずたちの名前も呼ばれる。
同じチームになったのは
夏希
すず
大翔
田中
先生が言う。
「じゃあまず軽くパス練習しよう。男子は男子、女子は女子で、隣同士で組んで」
生徒たちがそれぞれ近くのペアを作っていく。
大翔は隣にいた田中を見る。
「田中、やろう」
「おう」
男子二人は少しスペースを取って向かい合った。
夏希はすずの方に向き直る。
「すず、こっちでやろう」
「あ、うん」
すずは小さく頷き、向かい合って立つ。
少し離れた場所では花音も女子とパスを始めていた。
その隣では、湊が男子とボールを上げ合っている。
「すず、いくね」
夏希がやさしく声をかける。
ボールがふわりと上がる。
すずは慌てて手を上げた。
「えっと……」
少しぎこちない動き。
夏希は微笑んだ。
「大丈夫、ゆっくりで」
すずはそっとボールを上げ返す。
体育館の高い天井の下で、ボールが静かに弧を描いた。
何度か続けるうちに、少しずつ感覚がつかめてくる。
そのとき——
「あっ」
すずの手に当たったボールが、思った方向に上がらなかった。
ぽん、と床に落ちて、そのままコロコロと転がっていく。
「あ、ごめん……」
すずはボールを追いかけた。
少し離れたところで、誰かがしゃがんでボールを拾う。
顔を上げると——
藤沢湊だった。
湊はボールを軽く持ち上げると、すずの方へ歩いてくる。
そして、そっと差し出した。
「はい」
落ち着いた声。
その声を聞いた瞬間、すずの胸がどくん、と鳴った。
「あ、ありがとう……」
ボールを受け取り、小さく頭を下げる。
(今だ……)
昨日からずっと言おうと思っていた言葉が浮かぶ。
(昨日のお礼……)
すずが勇気を出して口を開こうとした、そのとき——
「湊」
明るい声がすぐ横から聞こえた。
東雲花音だった。
いつの間にか隣に立っている。
近くに立った花音から、ふわっとやさしいシャンプーの香りがした。
遠くから見るのとは違う、すぐそばにいると存在感がやわらかく広がるような感覚。
(やっぱり……かわいいな)
すずは思わずそう思った。
花音は湊の方を見て言う。
「湊、ボール拾ってたんだ」
湊は軽く頷く。
「うん、転がってきたから」
花音はくすっと笑った。
それから、すずの方へ視線を向ける。
「結構転がっていっちゃうよね」
やさしい声だった。
すずは少し戸惑いながら頷く。
「う、うん……」
花音は軽く笑った。
「私も最初よくやる」
三人の間に、ほんの少しだけ静かな時間が流れる。
湊がふとすずの方を見る。
「大丈夫?」
落ち着いた声。
すずは慌てて頷く。
「う、うん。大丈夫」
言おうとしていたお礼は、また喉の奥で止まってしまう。
そのとき——
「藤沢くん!」
体育館の向こうから声が飛んだ。
チームの男子だった。
湊がそちらを見る。
花音も同じ方向へ顔を向ける。
「呼ばれてるね」
花音が小さく言う。
湊はすずに軽く頷いた。
「じゃあ」
そう言って、元の場所へ戻っていく。
花音もその隣を歩いてついていった。
すずはボールを持ったまま、その背中を少しだけ見送った。
結局、言おうとしていた言葉は口に出せないままだった。
「すず」
後ろから夏希の声。
振り向くと、夏希がやさしく笑っていた。
「もう一回やろ」
すずは小さく頷く。
「……うん」
ボールを持ち直し、もう一度向かい合う。
体育館の中では、あちこちでボールの音が軽く響いていた。
そのとき——
「じゃあ、そろそろ練習試合をやってみようか」
先生の声が体育館に響いた。
生徒たちが顔を上げる。
「男女でコートを分けてやるからね」
周りから小さな声が上がる。
「男女別なんだ」
「まぁそうだよね」
先生が手を叩く。
「準備できたチームから入っていこう」
生徒たちがチームごとに集まり始める。
夏希がボールを持ったまま言う。
「女子コートだね」
すずは少し緊張しながら頷く。
「うん……」
その横で、大翔と田中も近づいてきた。
「俺ら男子コート行くわ」
「頑張れー」
夏希が軽く手を振る。
男子二人は反対側のコートへ向かっていった。
すずは体育館の奥をちらっと見る。
男子コートの方には、湊たちも集まっていた。
湊がチームの男子と話している姿が見える。
すずはほんの少しだけ視線を逸らした。
胸の奥には、さっきの出来事の余韻がまだ残っている。
そのとき——
「すず」
夏希が声をかける。
「最初レシーブやってみる?」
すずは少し驚いた。
「え、私?」
夏希はやさしく笑う。
「さっきパス普通にできてたし」
もう一人の女子も頷く。
「大丈夫だと思うよ」
その言葉に、すずは少し勇気をもらった。
「……うん」
小さく頷く。
女子コートでは、ちょうど一つ前の試合が終わったところだった。
先生が声を上げる。
「次、女子チーム入ろうか」
夏希が言う。
「よし、行こ」
三人でコートへ向かう。
体育館の床を踏む音が、少しだけ大きく響いた。
そのとき——
ふと、向こうの男子コートから視線を感じた気がした。
すずは思わず顔を上げる。
けれど、その瞬間にはもう誰もこちらを見ていなかった。
体育館のざわめきの中で、
すずの胸だけが、ほんの少しだけ早く鼓動を打っていた。
まだ新しいクラスだけれど、少しずつ日常の形ができ始めている。
すずは鞄からノートを取り出しながら、ふと顔を上げた。
教室の反対側、窓際の席。
藤沢湊が座っている。
背筋をまっすぐに伸ばし、ノートを開いてペンを持っている。その落ち着いた姿は特別目立つわけでもないのに、なぜか視線が引き寄せられてしまう。
その隣では、東雲花音が椅子を少しだけ湊の方へ向けていた。
「ねえ、湊」
花音の声は明るくてやわらかい。
湊が顔を上げる。
「ん?」
「今日体育だよね」
「そうだね」
湊は軽く頷く。
花音は楽しそうに続けた。
「体育館だし、球技かな」
「ありそうだね」
「バレーとかかな」
湊は少し考えるように言う。
「どうだろう」
花音はふっと笑った。
「湊、バレー上手だよね」
「そうかな?」
「そうだよ。中学のときもできてたよね」
湊は少し視線を外す。
「まあ、体育は嫌いじゃないかな」
花音は頬杖をついた。
「テストも常に上位に入ってるし、運動もできるし」
湊は少し困ったように笑う。
「それは東雲さんもじゃない?」
花音は首を振る。
「私はそんなことないよ」
それから、少し楽しそうに言った。
「でもね」
「うん」
「もし同じチームだったら、ちょっと安心かも」
湊は小さく笑った。
「同じチームだったらね」
「うん」
花音も嬉しそうに笑う。
教室の端と端。
すずの席からは、二人の声は聞こえない。
ただ、花音が笑っている様子だけが遠くに見える。
すずはノートへ視線を落とした。
(……お礼)
ずっと心に残っていること。
助けてもらったのに、まだきちんと言えていない。
(言わなきゃ)
そう思うのに、声をかけるタイミングが分からない。
席は遠いし、休み時間も周りに人がいる。
結局、今日の朝も何も言えないまま時間が過ぎていた。
(体育のときなら……)
もしかしたら少し話せるかもしれない。
そんなことをぼんやり考えていると、教室の後ろから声が聞こえた。
「夏希ー」
ひかりだった。
「今日の体育って何するんだろうね」
西野夏希が椅子を少し後ろに向ける。
「どうだろう」
「体育館だし、球技かな」
「そうかもしれないね」
夏希は穏やかに答える。
「えー……」
ひかりは机に突っ伏した。
「球技ほんと苦手」
その横に立っていた山口大翔が少し笑う。
「月島さん、ドッジボールとか弱そう」
「弱くない!」
ひかりはすぐ顔を上げた。
「避けるのは得意!」
「攻撃しないタイプなんだ」
大翔が面白そうに言う。
「だって怖いじゃん!」
ひかりは少し頬をふくらませる。
周りから小さな笑い声が起こる。
夏希もくすっと笑った。
「でも、みんなでやると楽しいかもしれないよ」
「そうかなあ……」
ひかりはまだ不安そうだ。
「まあ、やってみたら意外と大丈夫かも」
夏希はやわらかく言った。
やがて一時間目が終わり、クラスは体育館へ向かった。
体育館の扉が開くと、広い空間に声が響く。
ボールの跳ねる音や、他のクラスの話し声が混ざり合っていた。
生徒たちが床に座ると、先生が前に立つ。
「今日はバレーボールをやります」
体育館にざわめきが広がる。
「まずチームを作って、簡単な試合形式でやるから」
あちこちで小さな反応が起こる。
「えー、バレーかあ……」
ひかりが小さくつぶやいた。
夏希が振り向く。
「苦手?」
「うん……」
ひかりは正直に頷く。
「ボール怖いんだよね」
大翔が少し笑う。
「月島さん、避けるのは得意なんでしょ?」
「避けるのはね!」
ひかりはすぐ言い返す。
「でも飛んでくるの怖いの!」
夏希は少し笑った。
「大丈夫だよ、きっと」
先生が続けて言った。
「今からチーム分けするぞ」
名前が順番に呼ばれていく。
「藤沢、東雲」
続けて呼ばれた二人の名前。
花音が少し嬉しそうに湊を見る。
「同じチームだね」
湊は小さく頷いた。
「そうだね」
少し離れた場所から、その様子がすずの目に入る。
胸の奥がほんの少しだけざわついた。
やがて——
「西野、一ノ瀬、山口、田中」
すずたちの名前も呼ばれる。
同じチームになったのは
夏希
すず
大翔
田中
先生が言う。
「じゃあまず軽くパス練習しよう。男子は男子、女子は女子で、隣同士で組んで」
生徒たちがそれぞれ近くのペアを作っていく。
大翔は隣にいた田中を見る。
「田中、やろう」
「おう」
男子二人は少しスペースを取って向かい合った。
夏希はすずの方に向き直る。
「すず、こっちでやろう」
「あ、うん」
すずは小さく頷き、向かい合って立つ。
少し離れた場所では花音も女子とパスを始めていた。
その隣では、湊が男子とボールを上げ合っている。
「すず、いくね」
夏希がやさしく声をかける。
ボールがふわりと上がる。
すずは慌てて手を上げた。
「えっと……」
少しぎこちない動き。
夏希は微笑んだ。
「大丈夫、ゆっくりで」
すずはそっとボールを上げ返す。
体育館の高い天井の下で、ボールが静かに弧を描いた。
何度か続けるうちに、少しずつ感覚がつかめてくる。
そのとき——
「あっ」
すずの手に当たったボールが、思った方向に上がらなかった。
ぽん、と床に落ちて、そのままコロコロと転がっていく。
「あ、ごめん……」
すずはボールを追いかけた。
少し離れたところで、誰かがしゃがんでボールを拾う。
顔を上げると——
藤沢湊だった。
湊はボールを軽く持ち上げると、すずの方へ歩いてくる。
そして、そっと差し出した。
「はい」
落ち着いた声。
その声を聞いた瞬間、すずの胸がどくん、と鳴った。
「あ、ありがとう……」
ボールを受け取り、小さく頭を下げる。
(今だ……)
昨日からずっと言おうと思っていた言葉が浮かぶ。
(昨日のお礼……)
すずが勇気を出して口を開こうとした、そのとき——
「湊」
明るい声がすぐ横から聞こえた。
東雲花音だった。
いつの間にか隣に立っている。
近くに立った花音から、ふわっとやさしいシャンプーの香りがした。
遠くから見るのとは違う、すぐそばにいると存在感がやわらかく広がるような感覚。
(やっぱり……かわいいな)
すずは思わずそう思った。
花音は湊の方を見て言う。
「湊、ボール拾ってたんだ」
湊は軽く頷く。
「うん、転がってきたから」
花音はくすっと笑った。
それから、すずの方へ視線を向ける。
「結構転がっていっちゃうよね」
やさしい声だった。
すずは少し戸惑いながら頷く。
「う、うん……」
花音は軽く笑った。
「私も最初よくやる」
三人の間に、ほんの少しだけ静かな時間が流れる。
湊がふとすずの方を見る。
「大丈夫?」
落ち着いた声。
すずは慌てて頷く。
「う、うん。大丈夫」
言おうとしていたお礼は、また喉の奥で止まってしまう。
そのとき——
「藤沢くん!」
体育館の向こうから声が飛んだ。
チームの男子だった。
湊がそちらを見る。
花音も同じ方向へ顔を向ける。
「呼ばれてるね」
花音が小さく言う。
湊はすずに軽く頷いた。
「じゃあ」
そう言って、元の場所へ戻っていく。
花音もその隣を歩いてついていった。
すずはボールを持ったまま、その背中を少しだけ見送った。
結局、言おうとしていた言葉は口に出せないままだった。
「すず」
後ろから夏希の声。
振り向くと、夏希がやさしく笑っていた。
「もう一回やろ」
すずは小さく頷く。
「……うん」
ボールを持ち直し、もう一度向かい合う。
体育館の中では、あちこちでボールの音が軽く響いていた。
そのとき——
「じゃあ、そろそろ練習試合をやってみようか」
先生の声が体育館に響いた。
生徒たちが顔を上げる。
「男女でコートを分けてやるからね」
周りから小さな声が上がる。
「男女別なんだ」
「まぁそうだよね」
先生が手を叩く。
「準備できたチームから入っていこう」
生徒たちがチームごとに集まり始める。
夏希がボールを持ったまま言う。
「女子コートだね」
すずは少し緊張しながら頷く。
「うん……」
その横で、大翔と田中も近づいてきた。
「俺ら男子コート行くわ」
「頑張れー」
夏希が軽く手を振る。
男子二人は反対側のコートへ向かっていった。
すずは体育館の奥をちらっと見る。
男子コートの方には、湊たちも集まっていた。
湊がチームの男子と話している姿が見える。
すずはほんの少しだけ視線を逸らした。
胸の奥には、さっきの出来事の余韻がまだ残っている。
そのとき——
「すず」
夏希が声をかける。
「最初レシーブやってみる?」
すずは少し驚いた。
「え、私?」
夏希はやさしく笑う。
「さっきパス普通にできてたし」
もう一人の女子も頷く。
「大丈夫だと思うよ」
その言葉に、すずは少し勇気をもらった。
「……うん」
小さく頷く。
女子コートでは、ちょうど一つ前の試合が終わったところだった。
先生が声を上げる。
「次、女子チーム入ろうか」
夏希が言う。
「よし、行こ」
三人でコートへ向かう。
体育館の床を踏む音が、少しだけ大きく響いた。
そのとき——
ふと、向こうの男子コートから視線を感じた気がした。
すずは思わず顔を上げる。
けれど、その瞬間にはもう誰もこちらを見ていなかった。
体育館のざわめきの中で、
すずの胸だけが、ほんの少しだけ早く鼓動を打っていた。
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