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走る背中と、言えない気持ち 3
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朝のホームルーム。
教室には、いつものざわめきが広がっている。
「おはよー」
「昨日の体育祭の話、マジ?」
「リレーのチーム誰出るんだろ」
すずは自分の席に座りながら、ぼんやりと黒板を見つめていた。
——昨日の夕方。
弓道場の裏。
人目につかない、小さな通路。
あの場所で見た光景が、頭から離れない。
向かい合って立つ二人。
名前も知らない女子生徒。
そして——
湊。
声は聞こえなかった。
でも、距離と空気で分かった。
あれは、きっと。
告白だった。
すずの胸の奥が、静かにきゅっと締めつけられる。
(やっぱり……)
分かっていたことだった。
背が高くて。
落ち着いた雰囲気で。
優しくて。
あんな人が、目立たないはずがない。
きっと中学でも人気だっただろうし、
高校に入ってからも、すぐに誰かが好きになる。
それなのに。
実際にその光景を見てしまった瞬間、
胸の奥が、思っていたよりずっと痛んだ。
(当たり前なのに……)
すずは小さく息を吐く。
(何、ショック受けてるんだろ……)
まだほとんど話したこともない。
それなのに。
胸の奥にある感情は、もう隠せないほど大きくなっていた。
(でも……)
視線が、ふと窓側へ向く。
そこには、いつもの席。
藤沢湊が、静かにノートを開いていた。
姿勢を崩さず、落ち着いた横顔。
それを見ただけで、胸が少しだけ高鳴る。
(……やっぱり)
すずは小さく思う。
(好きなんだ……)
どんなに自分に言い聞かせても、
その気持ちは消えてくれなかった。
むしろ——
知ってしまったからこそ、
余計にはっきりしてしまった気がする。
そのとき。
教室のドアが開いた。
「はい、おはよう」
担任の山本先生だった。
先生が教卓に立つと、教室のざわめきが少しずつ落ち着いていく。
「朝のホームルーム始めるぞー」
先生は出席簿を机に置くと、黒板にチョークを走らせた。
体育祭準備
白い文字が、黒板に浮かび上がる。
「昨日も少し話したが、体育祭の準備を本格的に進めていく」
その言葉に、教室がざわっとする。
「今日から種目ごとの練習も始めるからな」
「まず、もう決まっている種目を確認するぞ」
先生は黒板に名前を書いていく。
クラス代表リレー
藤沢 湊
教室が小さくざわめいた。
すずの視線も、自然とその名前へ向く。
藤沢。
黒板に書かれたその名前だけで、
胸がまた少しだけざわつく。
先生は続けた。
「男子リレーメンバーはこの四人だ」
藤沢
山口
田中
佐々木
「女子リレーはこっち」
東雲
吉田
加藤
森
男子と女子、別々のチーム。
教室では「おおー」と声が上がる。
「藤沢いるなら勝てるんじゃね?」
「大翔も速いしな」
大翔が笑う。
「いやいや、プレッシャーやめろって」
その横で、湊は少し困ったように小さく笑っていた。
先生は次の種目を書く。
二人三脚
一ノ瀬すず
月島ひかり
西野夏希
「この三人は女子の二人三脚な」
ひかりがすぐ振り向く。
「すず! 頑張ろうね!」
夏希も笑う。
「絶対転ぶやつじゃんこれ」
教室に笑い声が広がる。
先生はさらに書く。
綱引き
山口 大翔
「大翔は男子綱引きな」
「お、任せろ」
大翔が軽く手を上げる。
そして先生は、最後に書いた。
応援団マネージャー
東雲 花音
教室がまたざわつく。
花音は照れたように小さく笑った。
その隣には、湊がいる。
すずの胸の奥が、また少しだけ痛んだ。
昨日の光景がよぎる。
告白。
きっとあれは、特別なことじゃない。
そう思うと、胸がまたぎゅっと締めつけられた。
先生は続ける。
「それから写真部」
黒板に書く。
体育祭記録係
一ノ瀬すず
「写真部は競技より撮影優先だ」
「体育祭の記録は大事な仕事だからな」
その言葉に、すずは小さく顔を上げた。
(撮影……)
体育祭当日。
自分は競技より、カメラを持って動くことになる。
つまり——
グラウンドを走る選手たちを、
カメラ越しに見ている立場。
そして。
その中には、きっと。
湊の姿もある。
リレーで走る姿。
風を切って、まっすぐ前へ走る姿。
すずは、ふと気づく。
(……私)
その姿を、
遠くから見ていることしかできないんだ。
カメラ越しに。
近くではなく、
少し離れた場所から。
その事実が、胸に静かに落ちてくる。
でも——
それでも。
すずはそっと思った。
(それでもいい)
たとえ遠くからでも。
カメラ越しでも。
その姿を、ちゃんと見ていられるなら。
すずは静かにノートを閉じた。
胸の奥には、まだ少し痛みが残っている。
それでも——
その奥で、
消えない気持ちが、確かに灯っていた。
午後の体育の時間になり、
教室からグラウンドへ向かう廊下は、いつもより少し賑やかだった。
「今日から体育祭の練習だってさ」
「マジか」
「まだ先じゃなかった?」
そんな声があちこちで聞こえる。
昇降口で上履きから運動靴に履き替え、
クラスの生徒たちはぞろぞろと校庭へ出ていった。
春の空は高く、雲ひとつない青だった。
グラウンドの土は、昼の光を受けて白っぽく乾いている。
まだ他のクラスはいない。
広い校庭の真ん中に、
すずたちのクラスだけが集まっていた。
体育教師が腕を組んで立っている。
ホイッスルが鳴った。
「整列ー!」
鋭い声がグラウンドに響く。
生徒たちは慌てて並ぶ。
「はい!」
声がそろう。
運動着姿の生徒たちが、
白線の前に整然と並んでいく。
まだ少しばらばらだった列も、
教師の視線に合わせて徐々に整っていった。
「よし」
教師は頷く。
「今日から体育祭の練習を始める」
その言葉に、生徒たちの間に小さなざわめきが広がる。
「まずは基本からだ」
教師が手を上げた。
「行進練習!」
「右、向けー!」
「前へ、進め!」
砂を踏む音が一斉に響く。
運動靴が土を踏みしめ、
クラス全員がゆっくりと歩き出す。
まだ歩幅が合わない。
前の列と後ろの列の間が少しずつずれる。
「歩幅そろえろー!」
教師の声が飛ぶ。
「前見ろ、前!」
大翔が小さくぼやいた。
「これ地味に難しくね?」
前を歩く男子が笑う。
「体育祭ってこんなのやるんだな」
列の中で、ひかりが小さく言った。
「なんか運動会みたい」
すずは少し笑った。
確かに、どこか懐かしい光景だった。
行進練習が終わると、
教師がまた笛を鳴らした。
「次、ラジオ体操!」
生徒たちが大きく息を吐く。
「まじかー」
「久しぶりすぎる」
「腕を伸ばしてー!」
掛け声とともに、
クラス全員が一斉に体を動かす。
腕を大きく振る。
体を横に倒す。
ジャンプ。
グラウンドに、
運動着が揺れる音が広がっていた。
ひかりが小さく笑う。
「すず、ちょっと遅れてる」
「えっ」
慌てて腕を伸ばす。
夏希が後ろから笑った。
「リズム合ってないよ」
三人で小さく笑い合う。
ラジオ体操が終わると、
教師が腕時計を見た。
「よし、次」
「男子、綱引き準備!」
男子たちが一斉に動き出す。
グラウンドの中央に太い綱が運ばれた。
白線の真ん中に赤い布が結ばれている。
「位置につけ!」
男子たちが左右に分かれて並ぶ。
綱を握る手に力が入る。
大翔が綱を握りながら言った。
「これ腕ちぎれそう」
隣の男子が笑う。
「まだ引いてないだろ」
「よーい!」
笛が鳴る。
「引けー!!」
一斉に力が入る。
土が削れる音。
靴が地面を踏みしめる音。
「うおおお!」
男子たちの声が響く。
綱が少しずつ動く。
赤い布が、ゆっくりと左へ寄っていく。
「大翔引け!」
「引いてるって!」
腕を踏ん張りながら、
大翔が歯を食いしばる。
土煙が少し舞った。
女子たちは少し離れた場所で見ている。
「男子すご」
「めっちゃ本気じゃん」
やがて笛が鳴る。
「そこまで!」
男子たちが一斉に手を離した。
「疲れたー!」
「腕やばい」
大翔が肩を回しながら笑う。
「これ本番やばいな」
教師が次の指示を出した。
「次、リレー組前へ!」
グラウンドの中央へ数人が集まる。
男子リレー。
藤沢湊。
山口大翔。
田中。
佐々木。
女子リレーも少し離れて並んでいた。
教師が言う。
「まず順番確認だ」
「軽く一本走ってみる」
生徒たちが少しざわつく。
「お、藤沢走る?」
「見ようぜ」
すずも、自然とその方向へ視線を向けていた。
湊がスタートラインに立つ。
風が、少しだけ吹いた。
運動着の袖がわずかに揺れる。
背筋の伸びた姿。
静かな表情。
「よーい」
教師の声。
「スタート!」
次の瞬間。
湊の体が、前へ跳び出した。
速い。
地面を蹴る音。
腕の振り。
一直線に、風を切るように走っていく。
「速っ!」
誰かが声を上げた。
「やば!」
クラスの空気が一瞬で変わる。
あっという間に、
コーナーを回る。
フォームが崩れない。
足の運びが滑らかだった。
その背中を見ながら、
大翔が思わず笑った。
「藤沢ガチじゃん」
その言葉に、
周りの男子たちも頷く。
「これは速いわ」
「リレー勝てるんじゃね?」
湊はそのままゴールラインを駆け抜けた。
速度を落としながら振り返る。
呼吸は少し上がっている。
でも表情は、いつもと同じだった。
その姿を見ながら、
すずの胸は、
ほんの少しだけ強く鳴っていた。
教室には、いつものざわめきが広がっている。
「おはよー」
「昨日の体育祭の話、マジ?」
「リレーのチーム誰出るんだろ」
すずは自分の席に座りながら、ぼんやりと黒板を見つめていた。
——昨日の夕方。
弓道場の裏。
人目につかない、小さな通路。
あの場所で見た光景が、頭から離れない。
向かい合って立つ二人。
名前も知らない女子生徒。
そして——
湊。
声は聞こえなかった。
でも、距離と空気で分かった。
あれは、きっと。
告白だった。
すずの胸の奥が、静かにきゅっと締めつけられる。
(やっぱり……)
分かっていたことだった。
背が高くて。
落ち着いた雰囲気で。
優しくて。
あんな人が、目立たないはずがない。
きっと中学でも人気だっただろうし、
高校に入ってからも、すぐに誰かが好きになる。
それなのに。
実際にその光景を見てしまった瞬間、
胸の奥が、思っていたよりずっと痛んだ。
(当たり前なのに……)
すずは小さく息を吐く。
(何、ショック受けてるんだろ……)
まだほとんど話したこともない。
それなのに。
胸の奥にある感情は、もう隠せないほど大きくなっていた。
(でも……)
視線が、ふと窓側へ向く。
そこには、いつもの席。
藤沢湊が、静かにノートを開いていた。
姿勢を崩さず、落ち着いた横顔。
それを見ただけで、胸が少しだけ高鳴る。
(……やっぱり)
すずは小さく思う。
(好きなんだ……)
どんなに自分に言い聞かせても、
その気持ちは消えてくれなかった。
むしろ——
知ってしまったからこそ、
余計にはっきりしてしまった気がする。
そのとき。
教室のドアが開いた。
「はい、おはよう」
担任の山本先生だった。
先生が教卓に立つと、教室のざわめきが少しずつ落ち着いていく。
「朝のホームルーム始めるぞー」
先生は出席簿を机に置くと、黒板にチョークを走らせた。
体育祭準備
白い文字が、黒板に浮かび上がる。
「昨日も少し話したが、体育祭の準備を本格的に進めていく」
その言葉に、教室がざわっとする。
「今日から種目ごとの練習も始めるからな」
「まず、もう決まっている種目を確認するぞ」
先生は黒板に名前を書いていく。
クラス代表リレー
藤沢 湊
教室が小さくざわめいた。
すずの視線も、自然とその名前へ向く。
藤沢。
黒板に書かれたその名前だけで、
胸がまた少しだけざわつく。
先生は続けた。
「男子リレーメンバーはこの四人だ」
藤沢
山口
田中
佐々木
「女子リレーはこっち」
東雲
吉田
加藤
森
男子と女子、別々のチーム。
教室では「おおー」と声が上がる。
「藤沢いるなら勝てるんじゃね?」
「大翔も速いしな」
大翔が笑う。
「いやいや、プレッシャーやめろって」
その横で、湊は少し困ったように小さく笑っていた。
先生は次の種目を書く。
二人三脚
一ノ瀬すず
月島ひかり
西野夏希
「この三人は女子の二人三脚な」
ひかりがすぐ振り向く。
「すず! 頑張ろうね!」
夏希も笑う。
「絶対転ぶやつじゃんこれ」
教室に笑い声が広がる。
先生はさらに書く。
綱引き
山口 大翔
「大翔は男子綱引きな」
「お、任せろ」
大翔が軽く手を上げる。
そして先生は、最後に書いた。
応援団マネージャー
東雲 花音
教室がまたざわつく。
花音は照れたように小さく笑った。
その隣には、湊がいる。
すずの胸の奥が、また少しだけ痛んだ。
昨日の光景がよぎる。
告白。
きっとあれは、特別なことじゃない。
そう思うと、胸がまたぎゅっと締めつけられた。
先生は続ける。
「それから写真部」
黒板に書く。
体育祭記録係
一ノ瀬すず
「写真部は競技より撮影優先だ」
「体育祭の記録は大事な仕事だからな」
その言葉に、すずは小さく顔を上げた。
(撮影……)
体育祭当日。
自分は競技より、カメラを持って動くことになる。
つまり——
グラウンドを走る選手たちを、
カメラ越しに見ている立場。
そして。
その中には、きっと。
湊の姿もある。
リレーで走る姿。
風を切って、まっすぐ前へ走る姿。
すずは、ふと気づく。
(……私)
その姿を、
遠くから見ていることしかできないんだ。
カメラ越しに。
近くではなく、
少し離れた場所から。
その事実が、胸に静かに落ちてくる。
でも——
それでも。
すずはそっと思った。
(それでもいい)
たとえ遠くからでも。
カメラ越しでも。
その姿を、ちゃんと見ていられるなら。
すずは静かにノートを閉じた。
胸の奥には、まだ少し痛みが残っている。
それでも——
その奥で、
消えない気持ちが、確かに灯っていた。
午後の体育の時間になり、
教室からグラウンドへ向かう廊下は、いつもより少し賑やかだった。
「今日から体育祭の練習だってさ」
「マジか」
「まだ先じゃなかった?」
そんな声があちこちで聞こえる。
昇降口で上履きから運動靴に履き替え、
クラスの生徒たちはぞろぞろと校庭へ出ていった。
春の空は高く、雲ひとつない青だった。
グラウンドの土は、昼の光を受けて白っぽく乾いている。
まだ他のクラスはいない。
広い校庭の真ん中に、
すずたちのクラスだけが集まっていた。
体育教師が腕を組んで立っている。
ホイッスルが鳴った。
「整列ー!」
鋭い声がグラウンドに響く。
生徒たちは慌てて並ぶ。
「はい!」
声がそろう。
運動着姿の生徒たちが、
白線の前に整然と並んでいく。
まだ少しばらばらだった列も、
教師の視線に合わせて徐々に整っていった。
「よし」
教師は頷く。
「今日から体育祭の練習を始める」
その言葉に、生徒たちの間に小さなざわめきが広がる。
「まずは基本からだ」
教師が手を上げた。
「行進練習!」
「右、向けー!」
「前へ、進め!」
砂を踏む音が一斉に響く。
運動靴が土を踏みしめ、
クラス全員がゆっくりと歩き出す。
まだ歩幅が合わない。
前の列と後ろの列の間が少しずつずれる。
「歩幅そろえろー!」
教師の声が飛ぶ。
「前見ろ、前!」
大翔が小さくぼやいた。
「これ地味に難しくね?」
前を歩く男子が笑う。
「体育祭ってこんなのやるんだな」
列の中で、ひかりが小さく言った。
「なんか運動会みたい」
すずは少し笑った。
確かに、どこか懐かしい光景だった。
行進練習が終わると、
教師がまた笛を鳴らした。
「次、ラジオ体操!」
生徒たちが大きく息を吐く。
「まじかー」
「久しぶりすぎる」
「腕を伸ばしてー!」
掛け声とともに、
クラス全員が一斉に体を動かす。
腕を大きく振る。
体を横に倒す。
ジャンプ。
グラウンドに、
運動着が揺れる音が広がっていた。
ひかりが小さく笑う。
「すず、ちょっと遅れてる」
「えっ」
慌てて腕を伸ばす。
夏希が後ろから笑った。
「リズム合ってないよ」
三人で小さく笑い合う。
ラジオ体操が終わると、
教師が腕時計を見た。
「よし、次」
「男子、綱引き準備!」
男子たちが一斉に動き出す。
グラウンドの中央に太い綱が運ばれた。
白線の真ん中に赤い布が結ばれている。
「位置につけ!」
男子たちが左右に分かれて並ぶ。
綱を握る手に力が入る。
大翔が綱を握りながら言った。
「これ腕ちぎれそう」
隣の男子が笑う。
「まだ引いてないだろ」
「よーい!」
笛が鳴る。
「引けー!!」
一斉に力が入る。
土が削れる音。
靴が地面を踏みしめる音。
「うおおお!」
男子たちの声が響く。
綱が少しずつ動く。
赤い布が、ゆっくりと左へ寄っていく。
「大翔引け!」
「引いてるって!」
腕を踏ん張りながら、
大翔が歯を食いしばる。
土煙が少し舞った。
女子たちは少し離れた場所で見ている。
「男子すご」
「めっちゃ本気じゃん」
やがて笛が鳴る。
「そこまで!」
男子たちが一斉に手を離した。
「疲れたー!」
「腕やばい」
大翔が肩を回しながら笑う。
「これ本番やばいな」
教師が次の指示を出した。
「次、リレー組前へ!」
グラウンドの中央へ数人が集まる。
男子リレー。
藤沢湊。
山口大翔。
田中。
佐々木。
女子リレーも少し離れて並んでいた。
教師が言う。
「まず順番確認だ」
「軽く一本走ってみる」
生徒たちが少しざわつく。
「お、藤沢走る?」
「見ようぜ」
すずも、自然とその方向へ視線を向けていた。
湊がスタートラインに立つ。
風が、少しだけ吹いた。
運動着の袖がわずかに揺れる。
背筋の伸びた姿。
静かな表情。
「よーい」
教師の声。
「スタート!」
次の瞬間。
湊の体が、前へ跳び出した。
速い。
地面を蹴る音。
腕の振り。
一直線に、風を切るように走っていく。
「速っ!」
誰かが声を上げた。
「やば!」
クラスの空気が一瞬で変わる。
あっという間に、
コーナーを回る。
フォームが崩れない。
足の運びが滑らかだった。
その背中を見ながら、
大翔が思わず笑った。
「藤沢ガチじゃん」
その言葉に、
周りの男子たちも頷く。
「これは速いわ」
「リレー勝てるんじゃね?」
湊はそのままゴールラインを駆け抜けた。
速度を落としながら振り返る。
呼吸は少し上がっている。
でも表情は、いつもと同じだった。
その姿を見ながら、
すずの胸は、
ほんの少しだけ強く鳴っていた。
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