見切り教育

ラッキーセヴァン

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山口 翠4

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(死ぬ程勉強した自分はロクなところに入れなかった。私をいじめていた奴らは私よりもぜーんぜーん良いところに入ったよお。へへっ。へへへへっ。)

あの出来事から数ヶ月が経ち、山口は失意の中で中学校を卒業して担任の先生に薦められた鈍倉高校へと入学した。

(まあ、要は大学を目指せればどこだって良いんだ。勉強はどこの高校でも幾らでも出来るしね。)

彼女は毎日そう自分に言い聞かせ、この高校に毎日通った。そして入学してから暫くの期間は、静かに授業を受ける事が出来た。

しかし・・・

ある日、授業をいつもの様に受けていたら、一人の男子生徒が先生と口論になった。

「お前!そろそろ真面目に授業を受けろ!いっつもいっつも騒ぎやがって!」

「うっせーんだよこの老いぼれジジイが!死ね!」

この男子生徒はいつも授業を妨害するのだ。でもこういう人はどこにでもいるから山口は知らん顔をしていた。

暫く二人は言い争っていたが、遂に先生が生徒にキレた。

「お前!そんなにやる気が無いなら出て行きなさい!もう授業を受けなくて良いよ!」

「何だとこの野郎!!」

(あーあ、キレてらキレてら。)

びゅっ!!

(えっ!?)

ガーーーーーーーン!!

急に彼女の目の前に椅子が飛んできた。そしてその椅子はそのまま彼女の席の前に落ちた。幸い、山口が一番前だったから誰にも当たらなかったけど、もし、ここが前から二番目とかだったら間違いなく怪我人が出ていただろう。いや、それでは済まない場合もある。

(う・・・嘘でしょ?投げたの?椅子。こ・・・怖い。)

山口は自然と共感を求めてクラスを見渡した。しかし・・・

「あ・・・」


「「「ぎゃはははははははは!!」」」


「マジウケんですけどー!」

「やっば!最高だわ、もう!」

(はっ?椅子投げて、ヤバいからウケるだと!?何言ってるんだこいつらは!!)

そしてこれを機に、いやこうなる運命だったのかもしれないけれど、この学年はどんどん荒れていった。

授業の時間になっても半数の生徒がいない。

何故か一人のメンヘラ女子がバナナを食べずに舐めている。

何故かトイレで大勢がたむろしている。

授業を抜け出して女子呼び出して告りに行く野郎がいる。

そしてフラれて暴れ出す。

廊下で楽しく追いかけっこ。

・・・・・・。

(まあ要は卒業出来れば良いのだと。とりあえず毎日通っておけば高卒にはなれるからね。うん。)

そして彼女はこの環境にイライラしながらも毎日学校に通った。

(よし。これで今回は不登校にならずに済むかな?)

しかし、そんな彼女に恐れていた事態が訪れた。

「やーまぐっちさん!」

「え?何?」

「山口さんちって、

貧乏なんでしょ?」

ドキッ!

(おかしいな。どうしてばれたんだろう。)

「ねえねえ、これ見てみてよ!

すたーと!」

彼女はタブレットの画面に映っている動画を再生した。

「ん・・・?ああっ!!」

『良七第一中学校 2年3組の貧乏人、山口 翠ちゃんでーす!今からこのコジキをボコボコにしてやりたいと思いまーす!いけええええっ!』

『い・・・痛いっ!止めて!』

「はっ!!」

山口は驚いて息を呑んだ。これは彼女が中学の頃にいじめられていたところを撮影されてSNSに上げられてしまった動画だ。

「ど・・・どうして!?この動画消してもらった筈じゃ!?なんでそれが手元にあるの!?」

「あはははは!こういうのって、けっこうグロいのが好きな人とかが消される前に保存して、そういうのが沢山集まってるサイトにアップしてたりするんだよ!」

「えっ!?じゃあこの動画、今もネットに出回ってんの!?」

「まーあねー!あっ、勿論このサイト以外にも出回ってる筈だよ!」

(嘘だ。こんなの嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。)

山口はその場で目を変な方向にぐるぐると泳がせる。

「あはははは!あと貧乏だったんだねー!

気に入らねえ。」

「えっ?」

「いっつもガリ勉ぶっててめえらとは違いますオーラ出してた癖に、てめえの親馬鹿じゃん!!」

(違う。そうじゃない。私は関係ない。)

「ねえねえみんなー!こいつの家貧乏なんだってー!みんなでこれよりももっと酷い事してネットにアップしようよ!」

(止めて。ねえもう止めて。)

「おっ、良いねー!俺もグロいの結構好きなんだ!かっけえから!」

「グロ耐性ある人カッコ良いよねー!」

「もうそこのサイトで有名になっちゃう?」

「よーし!何する何するー?」

(あ・・・あ・・・)

「うげああああああっ!!」

バタンッ!!

山口は声にならない声を絞り上げてその場に背中から倒れ込んだ。

(もう止めて。もう解放して。殺して。殺して。)

その後の記憶はないらしいが、それ以来もう二度と彼女は学校へ足を運ばなかった。

あの法律が出来るまでは。




























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