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第8話 婚約者も妻も生涯ひとり
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半日考え込んで、その家の中をあちこち探してみたが、ポーション作りについては地下に道具が見つかり、そこが作業場所なのだとわかったけれど、肝心の何を作って売って暮らしていたのかがわからない。
それにあの山羊髭の話やアンナさんの話を聞いていると、魔力持ちは相当人数が少なくて、生きにくい世の中なんだとわかってきた。
すぐに権力者に取り込まれちゃうんだ。
同じ魔力持ちでも、大貴族のお嬢様に生まれていれば、こんな苦労をしなかったものを。
結局、仕方なく、しおしおと学校に戻らなくてはならなくなった。
あの退学願どうしようかしら。撤回したものかしら。出来るのかしら。
しかし、撤回するならするで条件がある。あの高級貴族をどうにかして欲しい。
校門を入ろうとすると、門番が飛び出してきた。
「こぉら! ポーシャ・レッド、このブス生徒! 逃走しやがって」
うわあ。もう言いたい放題なのね。
「出すなって言われていたんだ。どうやって出たんだ!」
「正門から出たんじゃないわ!」
私はそう言い返し、寮に戻ろうとしたが、顔色を変えた山羊髭に捕まった。校門周辺をウロウロしていたらしい。相当消耗した顔をしていた。
「ダメだ、退学しちゃダメだって」
そのままズルズルと引きずられて、山羊髭の部屋に連れ込まれた。
大体、山羊髭は常日頃から運動不足だ。それが一日中校内をグルグル探し回っていたそうだ。疲れ切った顔をしていた。
「とにかく、まず、これ、撤回して」
そして、これ! と言って出された紙は退学願だった。
「先生が書かせたんじゃないですか」
「いや、違う。書かせてない」
「書けって言ったじゃないですか」
「へえ。退学願書かせたんだ」
横から低い声がした。
出た。
私は顔色青ざめたが、先生の方はもっと青くなった。
この間会ったばかりの高級貴族のご子息様だ。
「先生、出て行って」
ご子息様は横柄に山羊先生に命令した。
「いえ! あの!」
先生と私は声をそろえて言った。
「高位貴族のご子弟と二人きりと言うのは、大変にまずいので!」
「大丈夫。さあ出てって」
彼は本当に高位貴族のご令息らしい。あの先生が、ものすごく迷った末、おそるおそる自分の部屋から出て行った。
パタン。
ドアが閉まった途端、彼は何か魔法をかけた。
なんだかわからない。だけど、防音魔法の類だと思う。何しろ、その瞬間から音がしなくなったからだ。
きれいな顔だ。その目がなんとも言えない表情を浮かべている。
「ポーシャ。学校を辞めるだなんて言わないで」
とてもモテそうな男子生徒だ。その人物が甘い声で、哀願するように話しかけてくる。
これはおかしい。
こいつが狂ったのか、私が幻想を見ているのか。
「何を恐れているの? アランソンの一族?」
私が何も言わないので、彼は少し焦ったようだった。
「それとも正体がバレること?」
私はピクッとなった。
何が怖いって、一つは誤解されること。つまり、平民娘が高位貴族のご子息を色気で落として、結婚に持ち込むつもりだって。
そして、もうひとつ恐ろしいのは魔力持ちだと身バレ?すること。
高位貴族を色仕掛けで……とんでもない! その誤解の方も結構恐ろしい。どう考えても茨の道だ。
私が所属している最下位クラスでさえあの調子だ。
私の方が身分は高いのにとか、そんなつまらないいさかいを起こし続けている。
同じ男爵家同士の身分差争いなんて、意味わかんない。
最近になって、ようやく気がついたのだが、クラス分けは成績順だとばかり思いこんでいたが、身分順だった。
平民だから、当然最下位クラスにいるんである。と言うのは、成績が発表されても、クラス編成は変わらなかったからだ。
身分順にクラスを固定しているのには、当然、訳があって、数年前みたく公爵令息と平民娘の真実の愛物語を起こさないために、下位と上位をクラス別に分けておけば、婚活もスムーズだとか言う合理的過ぎる配慮に基づくものだった。
なのに、それをひっくり返しちゃダメでしょう! 目の前の高位貴族様!
「大丈夫だ。婚約者のアランソン嬢なのだから」
「え? 婚約者がいるのですか?」
これ、ダメなやつ。婚約者のいる男と二人きりだなんて、何を言われるかわからない。超危険。
だが、不良高級貴族は嬉しそうに笑った。
「やっと口を利いてくれた、愛しい人」
待て。誰が愛しい人だ、こら。
とは言わないが、困った。
「アランソン姉妹は、婚約者候補と言われているだけだ」
「婚約者が姉妹ですか?」
一番肝心な候補の部分を聞き損ねた私は驚愕した。
「王家は一夫多妻制だったのですか?」
そう言えば、魔力がバレたら第二夫人とか言われた気がする。あれ、正式な妻以外の意味で使っているんだと聞き流していたけど、そうじゃなかったのか。
村人は全員一夫一妻制だったから、この国はそんな決まりなのかと思っていたけど、第二夫人、本当に存在するんだ。日陰の身かと勝手に思っていた。
王都では一夫多妻制が公認されているのか。
でも、姉妹を妻にって鬼畜じゃないかなあ?
「違います!」
かなりの大音響で言われた。
「婚約者も妻も生涯一人です」
ほっとした。私の常識は間違っていなかったらしい。
「あなただけです」
え……
それにあの山羊髭の話やアンナさんの話を聞いていると、魔力持ちは相当人数が少なくて、生きにくい世の中なんだとわかってきた。
すぐに権力者に取り込まれちゃうんだ。
同じ魔力持ちでも、大貴族のお嬢様に生まれていれば、こんな苦労をしなかったものを。
結局、仕方なく、しおしおと学校に戻らなくてはならなくなった。
あの退学願どうしようかしら。撤回したものかしら。出来るのかしら。
しかし、撤回するならするで条件がある。あの高級貴族をどうにかして欲しい。
校門を入ろうとすると、門番が飛び出してきた。
「こぉら! ポーシャ・レッド、このブス生徒! 逃走しやがって」
うわあ。もう言いたい放題なのね。
「出すなって言われていたんだ。どうやって出たんだ!」
「正門から出たんじゃないわ!」
私はそう言い返し、寮に戻ろうとしたが、顔色を変えた山羊髭に捕まった。校門周辺をウロウロしていたらしい。相当消耗した顔をしていた。
「ダメだ、退学しちゃダメだって」
そのままズルズルと引きずられて、山羊髭の部屋に連れ込まれた。
大体、山羊髭は常日頃から運動不足だ。それが一日中校内をグルグル探し回っていたそうだ。疲れ切った顔をしていた。
「とにかく、まず、これ、撤回して」
そして、これ! と言って出された紙は退学願だった。
「先生が書かせたんじゃないですか」
「いや、違う。書かせてない」
「書けって言ったじゃないですか」
「へえ。退学願書かせたんだ」
横から低い声がした。
出た。
私は顔色青ざめたが、先生の方はもっと青くなった。
この間会ったばかりの高級貴族のご子息様だ。
「先生、出て行って」
ご子息様は横柄に山羊先生に命令した。
「いえ! あの!」
先生と私は声をそろえて言った。
「高位貴族のご子弟と二人きりと言うのは、大変にまずいので!」
「大丈夫。さあ出てって」
彼は本当に高位貴族のご令息らしい。あの先生が、ものすごく迷った末、おそるおそる自分の部屋から出て行った。
パタン。
ドアが閉まった途端、彼は何か魔法をかけた。
なんだかわからない。だけど、防音魔法の類だと思う。何しろ、その瞬間から音がしなくなったからだ。
きれいな顔だ。その目がなんとも言えない表情を浮かべている。
「ポーシャ。学校を辞めるだなんて言わないで」
とてもモテそうな男子生徒だ。その人物が甘い声で、哀願するように話しかけてくる。
これはおかしい。
こいつが狂ったのか、私が幻想を見ているのか。
「何を恐れているの? アランソンの一族?」
私が何も言わないので、彼は少し焦ったようだった。
「それとも正体がバレること?」
私はピクッとなった。
何が怖いって、一つは誤解されること。つまり、平民娘が高位貴族のご子息を色気で落として、結婚に持ち込むつもりだって。
そして、もうひとつ恐ろしいのは魔力持ちだと身バレ?すること。
高位貴族を色仕掛けで……とんでもない! その誤解の方も結構恐ろしい。どう考えても茨の道だ。
私が所属している最下位クラスでさえあの調子だ。
私の方が身分は高いのにとか、そんなつまらないいさかいを起こし続けている。
同じ男爵家同士の身分差争いなんて、意味わかんない。
最近になって、ようやく気がついたのだが、クラス分けは成績順だとばかり思いこんでいたが、身分順だった。
平民だから、当然最下位クラスにいるんである。と言うのは、成績が発表されても、クラス編成は変わらなかったからだ。
身分順にクラスを固定しているのには、当然、訳があって、数年前みたく公爵令息と平民娘の真実の愛物語を起こさないために、下位と上位をクラス別に分けておけば、婚活もスムーズだとか言う合理的過ぎる配慮に基づくものだった。
なのに、それをひっくり返しちゃダメでしょう! 目の前の高位貴族様!
「大丈夫だ。婚約者のアランソン嬢なのだから」
「え? 婚約者がいるのですか?」
これ、ダメなやつ。婚約者のいる男と二人きりだなんて、何を言われるかわからない。超危険。
だが、不良高級貴族は嬉しそうに笑った。
「やっと口を利いてくれた、愛しい人」
待て。誰が愛しい人だ、こら。
とは言わないが、困った。
「アランソン姉妹は、婚約者候補と言われているだけだ」
「婚約者が姉妹ですか?」
一番肝心な候補の部分を聞き損ねた私は驚愕した。
「王家は一夫多妻制だったのですか?」
そう言えば、魔力がバレたら第二夫人とか言われた気がする。あれ、正式な妻以外の意味で使っているんだと聞き流していたけど、そうじゃなかったのか。
村人は全員一夫一妻制だったから、この国はそんな決まりなのかと思っていたけど、第二夫人、本当に存在するんだ。日陰の身かと勝手に思っていた。
王都では一夫多妻制が公認されているのか。
でも、姉妹を妻にって鬼畜じゃないかなあ?
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「あなただけです」
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