【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

buchi

文字の大きさ
10 / 97

第10話 婚約のフリの理由

しおりを挟む
王子が颯爽と去った後、山羊髭と私は、みじめな様子で会談を持った。

会談場は当然、山羊髭の部屋である。まるで葬儀会場だ。


「どうにかならないんですか?」

「お前こそ、どうにかしろ」

「一生懸命、誤解を解こうとしたんですけど」

山羊髭は黙った。少なくとも、私も迷惑していると言う点だけは伝わったらしい。

「あのう、アランソン公爵姉妹が婚約者候補だそうなのですが……?」

ルーカス殿下の言い方が、イマイチはっきりしない。よくわからない。


アランソン公爵家と言う言葉は、山羊髭の痛いところを突いたらしい。

「アランソン公爵家の令嬢は、二人とも在籍している。最上クラスに」

「公爵家なら、最上クラスでしょうねえ」

私は言った。

「これからのことがあるんで、説明しとくが、現在アランソン公爵位は空位だ」

「え? 空位?」

アランソン公爵が現存しているのに、空位ってどういうこと?

「でも、公爵令嬢だって聞きましたけど?」

「一応、その令嬢方の父上が公爵領の監督等をなさっているので、便宜上アランソン公爵と呼んでいるだけで、アランソン公爵の本当のご令嬢が見つかるまでの間の繋ぎなんだ」

「へ、へえ?」

おかしいな。それって、家令が公爵家を名乗ってるってこと?

「ちょっと違うな。元々遠い親族だった。余り裕福ではなかったが有能だったので、手伝っていたと言うのが近いかな」

「そういうもんなんですかね?」

「普通に多い。ただ、アランソン公爵家の場合は、結果論として、親族による乗っ取りに近いな」

貴族社会は領地戦争になると、俄然本気出す。あんな連中に本気出されてはたまらない。割と平気で毒殺とかやらかして、挙句、平気で隠蔽する。こわ。

「すると本家の令嬢が見つからない方が都合がいいんですね?」

私は気がついて言ってみた。

「うん。それに娘が王子と結婚すれば王家が味方になるので、公爵領をそのまま自分のものにできる。正式には相続権はないけれど、王家も反対しないだろう」

「なるほど」

弱肉強食ですなあと感想を抱く。

「多分、王子側は嫌がっていると思うけど。だって、アランソン公爵領でなくたって、王子だもの、どこかの領地と公爵位くらいもらえると思う。あんな面倒くさい舅と疑惑の付きのアランソン公爵領なんか遠慮したいんじゃないかな」

私はひらめいた。

「つまり、真実の愛作戦ですか」

山羊髭はびっくりした。

「なにそれ?」

「つまり、王子は真実の愛に目覚めた、だからアランソン家の姉妹とは結婚できない、っていうストーリーですよ。アランソン姉妹と結婚したくないので、適当な言い訳が欲しかったのでは?」

山羊髭はうさん臭そうに私の顔を眺めた。

「それならそれで、もう少し言い訳の立つ顔を選ばない? せめて、もうちょっと美人とか」

先生、今、ワンフレーズで二回、私の顔をけなしましたね。

「それかせめて、実際に結婚できそうな別の侯爵家の令嬢とか」

今度は私が提案してみた。

「どうかなあ。難しい気がする。名乗り出る家がないような気がする」

先生の答えに、私はうーんと、うなった。

「アランソン公爵家に対抗できるだけの力がない? さもなければ、対抗するのが面倒くさいと思っている家ばかりだとか?」

先生が答えなかったところを見ると、多分、当たっているんだと思う。

「まあ、勢力家でアランソン公爵家より強い家もあるんだけど、面倒くさいよね。アランソン姉妹は美人だし気も強い。絶対いじめられる」

え? それヤバいやつでは?

「あのー、先生。この流れで行くと、虐められるの、私ですよね?」

先生は山羊髭をでた。

「あんたが虐められても、誰も痛痒を感じないからね、あんた以外」

真実を言うな、真実を!

「だが、なるほど。ルーカス殿下があんたを選んだのは、そこらへんに理由があるのかもしれないな。選ばれたところで、反対できないし、何かあっても誰も気にしないしね」

何かあってもって、どんなことですか? 川に死体で浮いていたとかですか?

俄然がぜん、真実っぽくなってきた。ことの真実が近付いてきた感がひしひしとする。
私みたいな平民のブス娘、あんなキラキラした王子様が相手にするわけないものね。

「まあ、唯一救いはクラスが別ってことかな。あんたのクラスは、最上級クラスから一番場所が離れている。授業に間に合いたかったら、休み時間に最下位クラスまで出張する時間はない。まあ、助言としては食堂で昼を食べない方がいいってことくらいかな」

「はあ……」

山羊髭、役に立たない……


だが、ルーカス殿下は、困ったことに行動派だった。

『図書館のテラスで午前十時に待つ』

かわいらしい小鳥が私の部屋に飛んできて、机の真ん中にポトリとフンを落した……それが殿下からの手紙だった。

「まぎらわしい」

魔獣……いや魔鳥だ。魔力のある人間にだけなつく特殊な魔鳥だ。初めて見た。
フンだと思って、捨てようとしたじゃない。

『目立たないところで会おう』

何を言ってるんだ。

目立たないところで会う必要がどこにある。平民娘と恋に落ちて、それでアランソン嬢と婚約破棄するんでしょ? 私はその小道具でしょ? 

だったら、目立つところで会わないといけないはず。

「嫌だ」

考えただけで頭痛がする。

王子様はいいよねー。審美眼がおかしくたって、誰もいじめたりしないわよ。でも、私は陰になり日向になり、どう言う手段でいじめられるやら、見当もつかない。

その上、めでたくアランソン公爵令嬢姉妹と婚約破棄した暁には、どんな運命が待っていることやら。

王子様は、あれは真実の愛ではなかった宣言で事済むけれど、王子をたぶらかした悪女の私はどうなる? 冤罪を着せられて、処刑とか国外追放とか?

私の方には、王子様のご要請にお応えする理由が全くなかった。

ぜひとも、別な被害者を選んで欲しい。

もう少し抵抗力のあるご令嬢でお願いしたいわ。でないと……あれから、私もアランソン姉妹について情報収集に努めたけど、二人とも黒髪の壮大な美女だそうで……背も高ければ横幅もあるんですって。グラマラスでもあって、すごく大きな黒い目をしているんですって。あの王子、簡単に食べられちゃうんじゃないかしら。

これが他人事だったら、楽しめたのに。


しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【受賞&書籍化】先視の王女の謀(さきみのおうじょのはかりごと)

神宮寺 あおい
恋愛
謎解き×恋愛 女神の愛し子は神託の謎を解き明かす。 月の女神に愛された国、フォルトゥーナの第二王女ディアナ。 ある日ディアナは女神の神託により隣国のウィクトル帝国皇帝イーサンの元へ嫁ぐことになった。 そして閉鎖的と言われるくらい国外との交流のないフォルトゥーナからウィクトル帝国へ行ってみれば、イーサンは男爵令嬢のフィリアを溺愛している。 さらにディアナは仮初の皇后であり、いずれ離縁してフィリアを皇后にすると言い出す始末。 味方の少ない中ディアナは女神の神託にそって行動を起こすが、それにより事態は思わぬ方向に転がっていく。 誰が敵で誰が味方なのか。 そして白日の下に晒された事実を前に、ディアナの取った行動はーー。 カクヨムコンテスト10 ファンタジー恋愛部門 特別賞受賞。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

【完結】王位に拘る元婚約者様へ

凛 伊緒
恋愛
公爵令嬢ラリエット・ゼンキースア、18歳。 青みがかった銀の髪に、金の瞳を持っている。ラリエットは誰が見ても美しいと思える美貌の持ち主だが、『闇魔法使い』が故に酷い扱いを受けていた。 虐げられ、食事もろくに与えられない。 それらの行為の理由は、闇魔法に対する恐怖からか、或いは彼女に対する嫉妬か……。 ラリエットには、5歳の頃に婚約した婚約者がいた。 名はジルファー・アンドレイズ。このアンドレイズ王国の王太子だった。 しかし8歳の時、ラリエットの魔法適正が《闇》だということが発覚する。これが、全ての始まりだった── 婚約破棄された公爵令嬢ラリエットが名前を変え、とある事情から再び王城に戻り、王太子にざまぁするまでの物語── ※ご感想・ご指摘 等につきましては、近況ボードをご確認くださいませ。

処理中です...