【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

buchi

文字の大きさ
25 / 97

第25話 溺愛劇場

しおりを挟む
溺愛劇場とはなにか。

それは、公開で、いかに愛されているかを、通行人や見物人に知らしめるモノである。


「そんなの、嫌です!」

私は叫んだ。

「嫌も応もあるか。命が大事だと言ってるだろうが」

「まあ、大事にしていると思われたら、確かに手は出しにくい。一週間後くらいには、どうせバレるしね。先に周知しておいた方が安全だろうな」

セス様まで。

「まあ、その溺愛劇場演出の理由の九十五%くらいは不純な動機ってやつだろうと思うけどね」

セス様の言葉を理解するのに時間がかかった。

「ちょっと。それなら、めてくれたらいいじゃないですか!」

「あ、ちょうど魔法塔で煮込んでいた水虫に効く薬が出来上がったころだ。焦がすと効き目が半減するんで、失礼するよ。じゃ!」

セス様はとっとといなくなり、邪魔者が消えた殿下は、意気揚々と私に指令を出した。命大事だとか言って。

まず、朝は、食堂へ来るように命令された。


嫌々ながら、食堂へ行くと、殿下と取り巻きの人々が待ち構えていた。

「ポーシャ嬢」

彼らは(殿下の手前か)下にも置かぬもてなしぶりだった。
これではまるで、愛嬌あふれる平民の娘が、大勢の貴族の男を自分の魅力で陥れて逆ハーレムを作ったとか言う話の実写版ではないか。

見た目だけなら殿下は、端正な美貌の持ち主。やってることは、アレだけど。
それが、こんな平凡顔と溺愛劇場。
いたたまれない……。しかも、本気のボロ服なのだ。

そして、食堂にいる全生徒が注目している中、私はアーンして朝食を食べさせられた。

「クロワッサンは僕がこっちから食べるから、君は反対側から」

「いやです」

悪寒が走った。

「いうことを聞かないと、ラテを口移しで飲ませるぞ。どっちがマシだ?」

なぜ、人前で、そんな真似を?

「人前じゃなきゃ意味ないだろう」

ものすごくまじめくさって言い返され、さらに聞かれた。

「人前でなかったらいいのか?」

話題をずらすな。そうじゃなくて。

「せめて半分に割って食べたらいいでしょう」

取り巻きがウンウンとうなずく。
そりゃそうだ。こんなバカげた溺愛劇場、見ていられるか。

「手を握っていい?」

「ダメです」

脊髄反射で断ってしまった。殿下が、ちょっと傷ついた顔をしている……ような気がする。そうなの?

それに、ちょっと過激ではないだろうか。もう少し地味な溺愛劇場があると思うんだけど。

「殿下、早く終わらせて、教室に戻りましょう」

真っ赤になって、私は焦った。これ以上続けたくない。


そして、ようやく殿下から逃れて、顔を出したクラスは、案の定、針のむしろ

特に令嬢方の視線が氷のようだ。刺さる。

「何のつもりかしら? ブスのくせに」

「平民のくせに。殿下も何をお考えなのかしら? 特殊フェチ?」

まあ、そうなりますよね。

その上、この手の噂は千里を走る。

いつ、アランソン公爵令嬢が鉄扇ごと出現するか、おびえる日々だった。


ポーションの時間も、私はこそこそと一人で教室入りしようとした。

だが、教室前には悩めるバスター君がソワソワと落ち着きなく待っていた。

「あっ! ポーシャさん! やっと来た」

いろいろあり過ぎて、バスター君のことは完全に忘れていた。

「来てくれなかったらどうしようかと思っていました。あの、それで、例の物は……?」

「ちょっと待っててね」

私はあわてて泥棒魔法宅配便でポーションの大荷物を、教室近くの何だかよくわからない箱の中に出現させ、彼に渡した。

「はい、これ」

「わっ。本当だ。すごいな」

「一応全部作ったよ。先週の分もある」

おかげで保護魔法がハゲかけになっているけど。

「もう効き目なくたっていいです。数さえあれば、とりあえず退クラスは免れると思います」

バスター君が観念したように言った。

「全部、ポーションぽく見えます。ありがとうございます、ポーシャさん」

教室に入ると、ポーションのクラスにおいても、噂が噂を呼んで、振り返って私を見る生徒が多かった。先生もぎろりと噂の主を気が済むまで眺めていた。

ただ、ポーションの先生は厳しくて、授業中の私語はばっちり叱られる。コソコソ話以外は、順当に進んでいった。おかげで、少しは落ち着いていられた。

だが、この授業、妙に高難度のポーションばかり選んで教えているよな気がする。

私は楽しいが、他の生徒はこれは苦労するんじゃないかな? なんで、こんなにハイレベルなんだろう。このクラス、確か初級クラスじゃなかったっけ。

「バスター!」

先生の声が響いて、教室中が先生とバスター君に集中した。

「先週、課題のポーションを作って来なかったら、クラスを辞めてもらうと言ったな? ちゃんと持ってきたのか?」

先生はこれまでの授業から、バスター君には魔力がほとんどないことをよく知っているのに。なんだかこれは虐めみたいだ。

ただ、バスター君は今日に限っては調子が良かった。

「はいッ」

そして大量のポーションを先生に渡した。

どの瓶にも、全部、バスター君の名前とポーション名を書いてある。

先生は、眉をしかめて、気に入らないふうだった。おかしいと思ったのかも知れない。その中から、一つを取り出した。

「命のポーション」

声に出して読んで、先生はせせら笑った。

最高難度のポーションだ。私だって、作ったのは初めてだ。効くのかどうかさっぱりだ。

これを学校の宿題にするのって、正しいの?

「今すぐ病院に持っていく」

先生、嬉しそうだな?

「効き目抜群のポーションで、大勢の病人が回復できる。素晴らしいよな」

そう言って、先生はバスター君を見つめた。

「効き目は確かだろうな?」

「は、はい」

この先生、やっぱり嫌なやつだ。

「フォード!」

もう一人、薄い金髪が頭に張り付いているような小柄な少女が、うなだれて立ち上がった。

「お前にも宿題を出したな。命のポーションを作れって」

私は驚いた。無茶振りもいいところだ。

「……ダメでした」

その後も次々に名前が呼ばれ、それぞれが課題のポーションの提出を求められていく。

私は途中からこのクラスに入ったので知らなかったが、どうやら成績不良者には課題が出されていて、クリアできなかったら退クラス、つまり落第?と言う決まりがあるらしい。

「買ってきたり、他人に作ってもらったりしてもらすぐバレるぞ? ポーションにはクセが出るからな。お前らみたいなひよっこの作ったものなのかどうか、すぐにわかる」

先生は、特にバスター君を睨みつけながら、そう言った。

まあ、バスター君、これまで多分出来てなかったんだよね? それがいきなり、この量の提出をしたら、そりゃ疑われるよね。

授業が終わると、私はこっそりバスター君を探した。

彼も私を探していたらしい。

あの授業じゃ、噂話どころではないな。

かわいそうに彼は震えていた。

「バレちゃいます。確かにポーションは個性が出やすい品物ですから」

彼は涙ぐんでいた。

「すみません。ポーシャさんのポーションだって先生にバレたら、ポーシャさんまで退クラスになっちゃうかも……」

そんな心配はいらない。

「大丈夫だよ、バスター君。少なくとも、私のポーションだなんて絶対バレない。だって、先生、私のポーションをひとつも知らないもの。私、実技させてもらえていないでしょ?」

まあ、そうは言ってもバスター君のポーションでないことは丸わかりなわけで、バスター君はやっぱり窮地を脱し切れていない。彼は暗い顔になった。

まるで、バスター君の弱みに付け込むようだけど、チャンスだ。

「でも、バスター君、お父さんからポーションが作れなかったら、いいポーション作りを引き抜いて来いって言われているんだよね?」

「え? ええ。でも、優れたポーション作りは大抵すでに誰かに引き抜かれているか、本人が大貴族だったりするんですよ」

「ねえ、私ではどう?」

バスター君は目を見開いた。

「バスター君のおうちは、大きなポーション屋さんをやっているんだよね。先生が品質をテストするって言ってるけど、もし私の作ったポーションの品質が合格だったら、私を雇ってくれない? そこそこ腕のいいポーション作りを確保したことになると思う……」

目を丸くしたバスター君を口説き落としにかかっていると、急に後ろに人の気配を感じた。

冷気が漂ってくる。

まずいと思って、振り返ると、まるで表情が読めない、恐怖の顔付きの殿下がいた。

「昼だ。食堂に行くぞ」


しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

【完結】教会で暮らす事になった伯爵令嬢は思いのほか長く滞在するが、幸せを掴みました。

まりぃべる
恋愛
ルクレツィア=コラユータは、伯爵家の一人娘。七歳の時に母にお使いを頼まれて王都の町はずれの教会を訪れ、そのままそこで育った。 理由は、お家騒動のための避難措置である。 八年が経ち、まもなく成人するルクレツィアは運命の岐路に立たされる。 ★違う作品「手の届かない桃色の果実と言われた少女は、廃れた場所を住処とさせられました」での登場人物が出てきます。が、それを読んでいなくても分かる話となっています。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ていても、違うところが多々あります。 ☆現実世界にも似たような名前や地域名がありますが、全く関係ありません。 ☆植物の効能など、現実世界とは近いけれども異なる場合がありますがまりぃべるの世界観ですので、そこのところご理解いただいた上で読んでいただけると幸いです。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

処理中です...