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第41話 順調な商談
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したがって私は、私を愛する?殿下に一方的に出禁を申し入れた。
「なぜ?」
本日のリボンと新しい香水を両手に持って、やってきた殿下に、もう来ないでちょうだいと伝えると彼は顔色を変えて、尋ねた。
「だって、おかしいじゃない。他の方に聞いたら、身の回りのお世話は全員侍女の皆さんですってよ?」
「うっ……」
私もおかしいなと思ってはいたのだ。しかし、殿下の発言を色々合計すると、やっぱり見て見ぬ振りにも限界があると言う結論に達した。
「大丈夫よ。私だって、自分の身の回りのことくらいどうにかなるわ」
殿下の為ですしね。私、がんばりますわ!
しかし、私は初日から壁に激突した。
殿下に毎朝、身支度を手伝ってもらっていたので、そこそこ一人前に見えたのである。
自分でやってみたら、惨憺たる有様だった。
格言:自殺はやればできるが、化粧の技術は一朝一夕では身に着かない。
私は真実を悟った。
殿下の身支度は完ぺきだった。それが自分でも出来るだなんて、私のバカ。身の程知らず。
結局、遅刻寸前になって、髪は後ろでリボンでくくっただけ、ドレスはとても簡単なもの。化粧はどうにもこうにもまとまらなくって、ほぼ素顔で授業に出た。
「はああ……」
令嬢に化けるのは難しい。生活魔法のより一層の上達が必要だった。
そんなことしている場合じゃないのに。
ポーション、作らなきゃいけないのに。
この前は余裕綽々で、ハウエル商会に赴いたものだった。
例の会長と副会長(後日、バスター君から聞いた)は、私の完全な貴族令嬢への変身っぷりにめちゃくちゃ驚いていた。
そして、バスター君は誇らしげだった。
私は堂々とした貴婦人ぶりで、お茶を頂戴した。
「公爵令嬢のお口に合うかどうかわかりませんが」
会長がおそるおそる機嫌をとりにきた。なんでも、異国から輸入した特別品のお茶だそうだ。香りが高くほのかに甘い。
「とても上品な味わいですわ」
私はお茶をガブ飲みした。
うめー。
この前私を見て、むしろ侮蔑の表情を浮かべていた女中は、最初私だと気がつかなかったようだったが、驚愕していた。ザマアみろ、ですわ。
ハウエル商会との話は順調で、私のポーションは絶賛されていた。
だが、相手も商売人。儲かるとわかれば、彼らの要求はどんどん大きくなる。
私は、やりがいがあるだとか、お金こそが全てとか、口走っていたけれど、こうなってみると、お金が全てなのじゃないと思い返すようになっていた。
まあ、お金は大切である。値段と言うものは、それだけ評価されていると言う意味だ。
だけど、量産と言う問題はね! ポーションは魔力がないと作れない。だけど、私一人がどんなに頑張っても作れる量には限界がある。
「ハゲ治療薬は、ほかの魔力持ちでは作れないのでしょうか?」
副会長が遠慮しながらも尋ねた。
要するにレシピがあるなら、教えてほしい、もっと量産したいということだ。
「それはですね……」
だって、ハゲ治療薬は、以前の太鼓腹のポーションの先生が出した宿題の副産物なのだ。技術的にはさほど難しくない。まあ、あの先生は無茶で、命のポーションを宿題に出すだなんて荒技を繰り出してたけど。
私が作ると、どう言うわけか、めったやたらに効果が出るだけだ。
「おかしいな? 同じ製法なんですけどね」
ハウエル商会は、そんな言葉は信じないが、自分だって不思議だ。
私は会長の頭に目をむけた。
だって、会長は今やフサフサだもん。生きた証拠ってやつですね。
とりあえず、私は契約書についてはその場でサインせず持ち帰ることにした。殿下が以前、側近の誰かに契約書を確認させてやると言ってくれたのだ。つくづく殿下は便利なのだ。ほんと、どうしよう。
惜しい人材って彼のことを言うのね。アデル嬢の気持ちがわかる。
商売は順調で、問題なくお金は入ってくる。
それに金額が妥当でないと思うと、バスター君が割り込んできてくれるのだ。
バスター君も素敵。
そのバスター君が言う。
「一般的な美肌ポーションの価格はチビ銀貨十枚ですが、この商品なら、金貨一枚でも売れますよ、会長」
会長がメガネをずらして、ビックリまなこで息子の顔を見た。
「学校内のご令嬢方からリサーチしたのです」
「ええっ?」
会長、副会長、私が三人で声を揃えた。
そのあとで、会長と副会長は、私の顔を見た。
会長と副会長は、自分たちが驚くのは無理もないと納得らしかった。だけど私が驚くのは解せなかったらしい。
バスター君まで「なんで令嬢のくせに知らないの?」と、一瞬、むしろ訝しそうに私を見たが、彼はそれは置いといて、堂々と観察結果を発表した。
「実は、マーガレット・ソーントン男爵令嬢にお試しいただいたところ、上から目線でもっと寄越せと再三に渡り要求されています」
ああ、あれか。
ソーントン嬢、バスター君相手に、一体、何やってんだろうと思ってたけど、そういうことか。
「元はと言えば、ソーントン男爵令嬢が、僕の家がポーション製作の大商会と知ったために、何かくれと近寄ってきたのが原因ですが」
あつかましい。
私は思ったが、貴族令嬢の厚顔っぷりは、時々呆れることがある。
相手が平民だと、貴族に対して尽くすのは名誉だ、とか思い込んでいる手合い。
あいさつ代わりに、お仕えすることはこの上ない名誉ですとか、よく言われてるので、言葉のまんま受け取ってしまうんだろうか。
なにを勘違いしてるんだと思わずにはいられない。
まあ、貴族同士では、そんなこと全然なくて、いい人だったってこともあるけど。
「ですので、試供品ならあげられるよと、多めに渡しておいたのです」
会長、副会長、それから私は、背が低くて幼い感じに見えるバスター君の、戦略的説明に釘付けになった。
「なるほど! 美顔と言えば貴族令嬢だものなっ」
副会長が言い、会長がウンウンと強くうなずき、その拍子にずらしていた老眼鏡がポトリと机の上に落ちた。
「ソーントン嬢はケチなので独り占めするかなとも危惧していたのですが、思っていたよりケチで、どうやらお友達に売りつけたようです」
ソーントン嬢、ダメだろ。
「それで、ソーントン嬢を通すと損だと気がついたご令嬢が、直接、僕のところにきました。その数、五人」
「ソーントン嬢に試供品はいくつ渡したのかね?」
さすが会長! 数値的な把握はとっても大事です!
「十個でした」
「それで五人が来たと!」
「そのうちソーントン嬢から、ハウエル商会からだと教えてもらって、僕のところにやって来たのは一人だけ。あとは、あたりをつけて僕にたどり着きました」
「なんでわかったの?」
私は思わず聞いた。
「もちろん、本人に聞きました。それから商品の使い心地もね」
「さすがは我が息子!」
会長と副会長は、バスター君を見直したらしい。
バスター君は、実はとっても賢い子なのだ。
見た目が少しふくよかで、子どもっぽくすら見えるけど、的確な計算能力、状況把握力が働くのだ。
だけど、私は後悔した。
この手のリサーチは、本来同じ令嬢である私の方が適当なはずだ。
それを、本来まるで出来ないはずの男の子のバスター君が、サラッとやってのけている。
こんなんでいいのか、私。
「ソーントン嬢からの再三の要求は全部断りました。お渡しした試供品は、数はあれしかないと。それから、今度、改良を重ねた上で、盛大に販売するのでぜひお買い求めくださいと言っときました」
「でかした、バスター!」
これは副会長の言である。
「高級感溢れるガラスの入れ物を手配してください、兄上。そして金貨一枚で打って出てみませんか? 使用後が段違いだそうで。彼女たちがいつ売り出すのか、毎日聞いてくるので、正直困ってます」
「ソーントン男爵令嬢以外には、金貨一枚の分を格安で試験購入していただきましょうよ」
私は提案した。
「欲しいと言ってるなら、本当は金貨一枚なんだけど、お試しですって言って広めてもらいましょう。私も、お友達全員に配りますわ」
「おお、現役のご令嬢が!」
会長、副会長は嬉しそうだ。
「評判が良ければどんどん広まりますわ。美容に熱心な貴族令嬢を、直接試供品で攻略致しましょう」
「頼りになりますな!」
「その代わり、もちろん、取り分に色をつけてくださいまし」
「もちろん! 貴族令嬢なのに商売の話がわかる上、行動的な方ですなあ!」
「素晴らしい!」
元々陽気な会長、副会長は、ワハハハと声高らかに笑い、バスター君は調子を合わせて?微妙な笑いを口元に浮かべていた。
そして、帰りの馬車の中で、彼は、心配そうに尋ねた。
「ポーシャさんて、お友達、いましたっけ」
「……聞かないで……」
私は元平民の今公爵令嬢。それも多分現役女公爵。
高位中の高位貴族だ。
どの公爵令嬢も敵わないと思う。
つまり、最底辺?から、最高位への移動を果たしている。
貴族令嬢のボリュームゾーンすっ飛ばし組なのだ。
「でしょうね……」
バスター君が同情とも憂い顔とも、なんとも言えない表情で私の顔を見た。
どうしたらいいのか。
殿下には出禁を言っちゃったし、アデル嬢は、私のお願いなんて、鼻でせせら笑うだろう。それどころか、効かないとか吹き出物が出来たとか風評被害を広げかねない。
おばあさまとおばあさまのお友達も、どこかにいるんだろうけど、あの連中はダイレクトに自分自身に魔法噴射やってそう。
「僕ももちろん頑張りますけど……」
「そ、そうだわ!」
私はドレスメーカーの連中を思い出した。
ちっちゃな試供品を渡したらどうかしら。むろんタダで。公爵令嬢なんだから、デザイナーさんたちからお金は取れない。
でも、彼女たちは喜んで受け取ってくれるだろうし、顔が広い。学校に行っていない、マダム連中がターゲットだ。
「それはいい考えですね!」
「でもなー……」
ドレスメーカーへお金を払っているのは、やはり殿下だった。
彼自身が言っていたように、「真綿で首を絞めるように」彼の手は至る所に及んでいた。
「なぜ?」
本日のリボンと新しい香水を両手に持って、やってきた殿下に、もう来ないでちょうだいと伝えると彼は顔色を変えて、尋ねた。
「だって、おかしいじゃない。他の方に聞いたら、身の回りのお世話は全員侍女の皆さんですってよ?」
「うっ……」
私もおかしいなと思ってはいたのだ。しかし、殿下の発言を色々合計すると、やっぱり見て見ぬ振りにも限界があると言う結論に達した。
「大丈夫よ。私だって、自分の身の回りのことくらいどうにかなるわ」
殿下の為ですしね。私、がんばりますわ!
しかし、私は初日から壁に激突した。
殿下に毎朝、身支度を手伝ってもらっていたので、そこそこ一人前に見えたのである。
自分でやってみたら、惨憺たる有様だった。
格言:自殺はやればできるが、化粧の技術は一朝一夕では身に着かない。
私は真実を悟った。
殿下の身支度は完ぺきだった。それが自分でも出来るだなんて、私のバカ。身の程知らず。
結局、遅刻寸前になって、髪は後ろでリボンでくくっただけ、ドレスはとても簡単なもの。化粧はどうにもこうにもまとまらなくって、ほぼ素顔で授業に出た。
「はああ……」
令嬢に化けるのは難しい。生活魔法のより一層の上達が必要だった。
そんなことしている場合じゃないのに。
ポーション、作らなきゃいけないのに。
この前は余裕綽々で、ハウエル商会に赴いたものだった。
例の会長と副会長(後日、バスター君から聞いた)は、私の完全な貴族令嬢への変身っぷりにめちゃくちゃ驚いていた。
そして、バスター君は誇らしげだった。
私は堂々とした貴婦人ぶりで、お茶を頂戴した。
「公爵令嬢のお口に合うかどうかわかりませんが」
会長がおそるおそる機嫌をとりにきた。なんでも、異国から輸入した特別品のお茶だそうだ。香りが高くほのかに甘い。
「とても上品な味わいですわ」
私はお茶をガブ飲みした。
うめー。
この前私を見て、むしろ侮蔑の表情を浮かべていた女中は、最初私だと気がつかなかったようだったが、驚愕していた。ザマアみろ、ですわ。
ハウエル商会との話は順調で、私のポーションは絶賛されていた。
だが、相手も商売人。儲かるとわかれば、彼らの要求はどんどん大きくなる。
私は、やりがいがあるだとか、お金こそが全てとか、口走っていたけれど、こうなってみると、お金が全てなのじゃないと思い返すようになっていた。
まあ、お金は大切である。値段と言うものは、それだけ評価されていると言う意味だ。
だけど、量産と言う問題はね! ポーションは魔力がないと作れない。だけど、私一人がどんなに頑張っても作れる量には限界がある。
「ハゲ治療薬は、ほかの魔力持ちでは作れないのでしょうか?」
副会長が遠慮しながらも尋ねた。
要するにレシピがあるなら、教えてほしい、もっと量産したいということだ。
「それはですね……」
だって、ハゲ治療薬は、以前の太鼓腹のポーションの先生が出した宿題の副産物なのだ。技術的にはさほど難しくない。まあ、あの先生は無茶で、命のポーションを宿題に出すだなんて荒技を繰り出してたけど。
私が作ると、どう言うわけか、めったやたらに効果が出るだけだ。
「おかしいな? 同じ製法なんですけどね」
ハウエル商会は、そんな言葉は信じないが、自分だって不思議だ。
私は会長の頭に目をむけた。
だって、会長は今やフサフサだもん。生きた証拠ってやつですね。
とりあえず、私は契約書についてはその場でサインせず持ち帰ることにした。殿下が以前、側近の誰かに契約書を確認させてやると言ってくれたのだ。つくづく殿下は便利なのだ。ほんと、どうしよう。
惜しい人材って彼のことを言うのね。アデル嬢の気持ちがわかる。
商売は順調で、問題なくお金は入ってくる。
それに金額が妥当でないと思うと、バスター君が割り込んできてくれるのだ。
バスター君も素敵。
そのバスター君が言う。
「一般的な美肌ポーションの価格はチビ銀貨十枚ですが、この商品なら、金貨一枚でも売れますよ、会長」
会長がメガネをずらして、ビックリまなこで息子の顔を見た。
「学校内のご令嬢方からリサーチしたのです」
「ええっ?」
会長、副会長、私が三人で声を揃えた。
そのあとで、会長と副会長は、私の顔を見た。
会長と副会長は、自分たちが驚くのは無理もないと納得らしかった。だけど私が驚くのは解せなかったらしい。
バスター君まで「なんで令嬢のくせに知らないの?」と、一瞬、むしろ訝しそうに私を見たが、彼はそれは置いといて、堂々と観察結果を発表した。
「実は、マーガレット・ソーントン男爵令嬢にお試しいただいたところ、上から目線でもっと寄越せと再三に渡り要求されています」
ああ、あれか。
ソーントン嬢、バスター君相手に、一体、何やってんだろうと思ってたけど、そういうことか。
「元はと言えば、ソーントン男爵令嬢が、僕の家がポーション製作の大商会と知ったために、何かくれと近寄ってきたのが原因ですが」
あつかましい。
私は思ったが、貴族令嬢の厚顔っぷりは、時々呆れることがある。
相手が平民だと、貴族に対して尽くすのは名誉だ、とか思い込んでいる手合い。
あいさつ代わりに、お仕えすることはこの上ない名誉ですとか、よく言われてるので、言葉のまんま受け取ってしまうんだろうか。
なにを勘違いしてるんだと思わずにはいられない。
まあ、貴族同士では、そんなこと全然なくて、いい人だったってこともあるけど。
「ですので、試供品ならあげられるよと、多めに渡しておいたのです」
会長、副会長、それから私は、背が低くて幼い感じに見えるバスター君の、戦略的説明に釘付けになった。
「なるほど! 美顔と言えば貴族令嬢だものなっ」
副会長が言い、会長がウンウンと強くうなずき、その拍子にずらしていた老眼鏡がポトリと机の上に落ちた。
「ソーントン嬢はケチなので独り占めするかなとも危惧していたのですが、思っていたよりケチで、どうやらお友達に売りつけたようです」
ソーントン嬢、ダメだろ。
「それで、ソーントン嬢を通すと損だと気がついたご令嬢が、直接、僕のところにきました。その数、五人」
「ソーントン嬢に試供品はいくつ渡したのかね?」
さすが会長! 数値的な把握はとっても大事です!
「十個でした」
「それで五人が来たと!」
「そのうちソーントン嬢から、ハウエル商会からだと教えてもらって、僕のところにやって来たのは一人だけ。あとは、あたりをつけて僕にたどり着きました」
「なんでわかったの?」
私は思わず聞いた。
「もちろん、本人に聞きました。それから商品の使い心地もね」
「さすがは我が息子!」
会長と副会長は、バスター君を見直したらしい。
バスター君は、実はとっても賢い子なのだ。
見た目が少しふくよかで、子どもっぽくすら見えるけど、的確な計算能力、状況把握力が働くのだ。
だけど、私は後悔した。
この手のリサーチは、本来同じ令嬢である私の方が適当なはずだ。
それを、本来まるで出来ないはずの男の子のバスター君が、サラッとやってのけている。
こんなんでいいのか、私。
「ソーントン嬢からの再三の要求は全部断りました。お渡しした試供品は、数はあれしかないと。それから、今度、改良を重ねた上で、盛大に販売するのでぜひお買い求めくださいと言っときました」
「でかした、バスター!」
これは副会長の言である。
「高級感溢れるガラスの入れ物を手配してください、兄上。そして金貨一枚で打って出てみませんか? 使用後が段違いだそうで。彼女たちがいつ売り出すのか、毎日聞いてくるので、正直困ってます」
「ソーントン男爵令嬢以外には、金貨一枚の分を格安で試験購入していただきましょうよ」
私は提案した。
「欲しいと言ってるなら、本当は金貨一枚なんだけど、お試しですって言って広めてもらいましょう。私も、お友達全員に配りますわ」
「おお、現役のご令嬢が!」
会長、副会長は嬉しそうだ。
「評判が良ければどんどん広まりますわ。美容に熱心な貴族令嬢を、直接試供品で攻略致しましょう」
「頼りになりますな!」
「その代わり、もちろん、取り分に色をつけてくださいまし」
「もちろん! 貴族令嬢なのに商売の話がわかる上、行動的な方ですなあ!」
「素晴らしい!」
元々陽気な会長、副会長は、ワハハハと声高らかに笑い、バスター君は調子を合わせて?微妙な笑いを口元に浮かべていた。
そして、帰りの馬車の中で、彼は、心配そうに尋ねた。
「ポーシャさんて、お友達、いましたっけ」
「……聞かないで……」
私は元平民の今公爵令嬢。それも多分現役女公爵。
高位中の高位貴族だ。
どの公爵令嬢も敵わないと思う。
つまり、最底辺?から、最高位への移動を果たしている。
貴族令嬢のボリュームゾーンすっ飛ばし組なのだ。
「でしょうね……」
バスター君が同情とも憂い顔とも、なんとも言えない表情で私の顔を見た。
どうしたらいいのか。
殿下には出禁を言っちゃったし、アデル嬢は、私のお願いなんて、鼻でせせら笑うだろう。それどころか、効かないとか吹き出物が出来たとか風評被害を広げかねない。
おばあさまとおばあさまのお友達も、どこかにいるんだろうけど、あの連中はダイレクトに自分自身に魔法噴射やってそう。
「僕ももちろん頑張りますけど……」
「そ、そうだわ!」
私はドレスメーカーの連中を思い出した。
ちっちゃな試供品を渡したらどうかしら。むろんタダで。公爵令嬢なんだから、デザイナーさんたちからお金は取れない。
でも、彼女たちは喜んで受け取ってくれるだろうし、顔が広い。学校に行っていない、マダム連中がターゲットだ。
「それはいい考えですね!」
「でもなー……」
ドレスメーカーへお金を払っているのは、やはり殿下だった。
彼自身が言っていたように、「真綿で首を絞めるように」彼の手は至る所に及んでいた。
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