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第47話 ポーシャ参戦!
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彼が玄関を出て行ってしまったのを、私は呆然と見送ったが、何をしに来たのか思い出した。
「カールソンッ……」
「ここでございますよ。お嬢様」
カールソンは、すぐそばにいた。優れた執事がみんなそうであるように、彼も主人の秘密を全部知っているらしい。
「ハウエル商会のバスター君よ」
私はバスター君を紹介した。とにかく、こういう時は人手不足なのだ。セス様が抜けた穴は誰かが埋めなくてはいけない。
カールソンはきちんとした執事服を隙なく着こなしていたが、少々困惑気味だった。
「バスター君なのですか?」
「バスターとお呼び捨てください」
いきなり、バスター君が大まじめに言いだした。
「僕は、光栄にもアランソン公爵令嬢とクラスメイトになりました。でも、魔術の力がほとんどありません。セス様のように戦闘に参加することはできません。セス様が抜けたあとを、少しでもお手伝いできればと思います」
「ご実家を手伝われることは?」
カールソンは用心深く尋ねた。
「実家は兄が継ぎます。ハウエル商会に僕の出番はありません。父と兄は、僕にわずかですが魔力があったので、僕に魔術師になることを期待しているのですが、無理なんです」
まあ、ハウエル一家は骨の髄まで商家で、魔力に関しては無知の極みだ。息子のバスターくんに、過大な期待をしてしまったとしても仕方ない。
ポーションの値打ちと市場価格については、プロ中のプロだけど。
「僕は、家にも学校にも居場所がありません」
「それなら、卒業後はここで働いてもらおうかしら」
まるで打ち合わせでもしてあったかのように、私はすらすらと話を引き取った。
バスター君は有能だ。ここで働いて欲しい。
カールソン氏は、顎を外しそうだったが、とりあえず夏休みのアルバイトとして雇ってくれることになった。
「人手不足は確かですからね」
バスター君はとりあえずお試しで公爵家で働くことになった。
「ポーシャさん、ありがとう」
バスターくんは、お礼を言った。
「平民の僕をこんな大家で使ってくれて」
「うちは、めちゃくちゃなのよ」
私は、大真面目に答えた。
「あのスターリン男爵のせいでね」
私は一度しか会ったことないけどね。
「そうでしたね」
「使用人はスターリン派とアランソン派に二分されたし。カールソンは本来領地の管理人で、アランソン派だけど、帳簿関係はそう強い訳じゃない。セス様は、他人の嘘を見抜くらしいので、その点ではよかったのだけど」
「今、スターリン男爵は勾留されているらしいですけど、そんな人に忠誠を誓う使用人なんているんでしょうか?」
「でも、スターリン男爵に雇われた人たちはアランソンのことを恨んでいると思うわ」
できれば、私のことを悪く思っている人に、身の回りの世話など頼みたくない。
「わかりました」
彼は一度実家に帰ってから、また来ることになった。
「ビシバシしごいてやります!」
カールソンは穏やかでないことを言っていたが、バスター君なら大丈夫だろう。
彼が途方に暮れていたのは、学校では魔術がすべてだったからだ。
この家でなら、活躍できると思う。
バスター君を見送ってから、私はカールソンに尋ねた。
「ところで、カールソン、魔法の絨毯の地図はどこにあるの? ここの絨毯が三階にあるのは知ってるけど」
カールソンはギクリとした。
「いいこと? 私がほしいのは、おばあさまが作った魔法の絨毯の地図よ。出しなさい」
当主には権力がある(はずだ。多分)
私は渋るカールソンから地図を巻き上げた。
カールソンは、父親が同じ仕事(当家の執事)だったので、地図のことは知っていた。しかし、彼にはバスター君ほども魔力がなかったので、彼にとって絨毯はただの絨毯だった。
そして、地図の方は、先祖伝来の貴重な宝物だった。
私は、カールソンが麗々しくささげ持ってきた立派な箱ごと地図を没収した。
これは、実用品である。私はさっさと箱を開けて、地図だけ取り出した。
「え? あああ~! 家宝の地図を~?」
「何言ってるの。絨毯の地図でしょ? 宝の地図なんかじゃないわ」
私は未練がましいカールソンに向かって宣言すると、地図だけ持って寮の部屋に戻った。
カールソンに絨毯の魔法なんか使えっこないから、絶対追いかけて来れない。ましてやここは、女子寮だ。
誰もいない静かな寮の部屋に戻ると、市販の一番安物のランプに火を入れて、公爵家とは比べ物にならないくらい質素な自分の机に、地図を広げた。
そして、私は目を目張った。
その地図はただものではなかった。
なんてことだ!
目を凝らすと、王城からトリエステ、ヘルトムント、レイビックを経てエッセンがあった。
絨毯は四角い黄色、兵は青で悪獣は黒と焦げ茶色の丸。
異常事態の起きている場所は、メラメラと炎が立っている。
でも、触っても熱くないし、感触がない。
だけど、見ているだけで心がざわついた。
エッセンは燃えていた。黒と焦げ茶が錯綜するなか、青色の点が混ざり、銀と赤が発光していた。
じっと見ているとパッと銀の光が強く光り、次の瞬間、大きな黒の点が消え、いくつかの青の点も色が薄くなり同時に消えていった。
手が震えて来た。指先から冷えてくる。誰かが死んだのだ。悪獣ともに。
白髪のカールソンは、この地図を美術品として私の目の前に出してきた。おばあさまのお気に入りの逸品だと言って。
「何回見てもタダの古地図でございますよ。装飾の多い、絹地で裏張りされた美しい作品ではありますが……」
違う。断じてそんなものではない。
そして、カールソンには見えないのだと気がついた。
見える者は限られる。
見ているうちに、またパッと炎が上がった。
きっと私の他には、おばあさまやセス様、殿下には見えるだろう。
「私に出来ることは何?」
大事の前の小事は、神に許される。
……のかどうかほんとのところは知らないが、私は、騎士御用達の店舗から革のブーツと手袋と、首元まで詰まったしっかりした上着をかっぱらって来た。
丈夫な生地のトラウザーは男みたいだが、動きやすいだろう。
ほかにはリュックと靴だ。
これは泥棒魔法ではない。なぜなら代金を置いてきたからだ。買い物と言う。
それから、邪魔な髪を後ろで編んで束ね、背中のリュックにタオルで巻いた一升瓶を二本背負った。
命のポーションだ。
ハウエル商会に一升瓶一本分の中身を、使いやすいように分けて小瓶に入れて渡した。
だが、あと二本分残っている。
そしてハウエル商家の便では、まだトリエステまでも着いていないだろう。間に合わない。
人が死ぬ。
「私なら、レイビックまで飛べる。絨毯を使って」
念のため、食料を緩衝材として一升瓶の間に突っ込んだ。
そして大事な地図は、水なんかには濡れないように保護魔法をかけて背中に近いところに突っ込んだ。
「行くぞ」
殿下やセス様、おばあさまみたいに役に立つことはできないけど、私には私の役割がある。
私は絨毯の上に立った。
「レイビックへ!」
「カールソンッ……」
「ここでございますよ。お嬢様」
カールソンは、すぐそばにいた。優れた執事がみんなそうであるように、彼も主人の秘密を全部知っているらしい。
「ハウエル商会のバスター君よ」
私はバスター君を紹介した。とにかく、こういう時は人手不足なのだ。セス様が抜けた穴は誰かが埋めなくてはいけない。
カールソンはきちんとした執事服を隙なく着こなしていたが、少々困惑気味だった。
「バスター君なのですか?」
「バスターとお呼び捨てください」
いきなり、バスター君が大まじめに言いだした。
「僕は、光栄にもアランソン公爵令嬢とクラスメイトになりました。でも、魔術の力がほとんどありません。セス様のように戦闘に参加することはできません。セス様が抜けたあとを、少しでもお手伝いできればと思います」
「ご実家を手伝われることは?」
カールソンは用心深く尋ねた。
「実家は兄が継ぎます。ハウエル商会に僕の出番はありません。父と兄は、僕にわずかですが魔力があったので、僕に魔術師になることを期待しているのですが、無理なんです」
まあ、ハウエル一家は骨の髄まで商家で、魔力に関しては無知の極みだ。息子のバスターくんに、過大な期待をしてしまったとしても仕方ない。
ポーションの値打ちと市場価格については、プロ中のプロだけど。
「僕は、家にも学校にも居場所がありません」
「それなら、卒業後はここで働いてもらおうかしら」
まるで打ち合わせでもしてあったかのように、私はすらすらと話を引き取った。
バスター君は有能だ。ここで働いて欲しい。
カールソン氏は、顎を外しそうだったが、とりあえず夏休みのアルバイトとして雇ってくれることになった。
「人手不足は確かですからね」
バスター君はとりあえずお試しで公爵家で働くことになった。
「ポーシャさん、ありがとう」
バスターくんは、お礼を言った。
「平民の僕をこんな大家で使ってくれて」
「うちは、めちゃくちゃなのよ」
私は、大真面目に答えた。
「あのスターリン男爵のせいでね」
私は一度しか会ったことないけどね。
「そうでしたね」
「使用人はスターリン派とアランソン派に二分されたし。カールソンは本来領地の管理人で、アランソン派だけど、帳簿関係はそう強い訳じゃない。セス様は、他人の嘘を見抜くらしいので、その点ではよかったのだけど」
「今、スターリン男爵は勾留されているらしいですけど、そんな人に忠誠を誓う使用人なんているんでしょうか?」
「でも、スターリン男爵に雇われた人たちはアランソンのことを恨んでいると思うわ」
できれば、私のことを悪く思っている人に、身の回りの世話など頼みたくない。
「わかりました」
彼は一度実家に帰ってから、また来ることになった。
「ビシバシしごいてやります!」
カールソンは穏やかでないことを言っていたが、バスター君なら大丈夫だろう。
彼が途方に暮れていたのは、学校では魔術がすべてだったからだ。
この家でなら、活躍できると思う。
バスター君を見送ってから、私はカールソンに尋ねた。
「ところで、カールソン、魔法の絨毯の地図はどこにあるの? ここの絨毯が三階にあるのは知ってるけど」
カールソンはギクリとした。
「いいこと? 私がほしいのは、おばあさまが作った魔法の絨毯の地図よ。出しなさい」
当主には権力がある(はずだ。多分)
私は渋るカールソンから地図を巻き上げた。
カールソンは、父親が同じ仕事(当家の執事)だったので、地図のことは知っていた。しかし、彼にはバスター君ほども魔力がなかったので、彼にとって絨毯はただの絨毯だった。
そして、地図の方は、先祖伝来の貴重な宝物だった。
私は、カールソンが麗々しくささげ持ってきた立派な箱ごと地図を没収した。
これは、実用品である。私はさっさと箱を開けて、地図だけ取り出した。
「え? あああ~! 家宝の地図を~?」
「何言ってるの。絨毯の地図でしょ? 宝の地図なんかじゃないわ」
私は未練がましいカールソンに向かって宣言すると、地図だけ持って寮の部屋に戻った。
カールソンに絨毯の魔法なんか使えっこないから、絶対追いかけて来れない。ましてやここは、女子寮だ。
誰もいない静かな寮の部屋に戻ると、市販の一番安物のランプに火を入れて、公爵家とは比べ物にならないくらい質素な自分の机に、地図を広げた。
そして、私は目を目張った。
その地図はただものではなかった。
なんてことだ!
目を凝らすと、王城からトリエステ、ヘルトムント、レイビックを経てエッセンがあった。
絨毯は四角い黄色、兵は青で悪獣は黒と焦げ茶色の丸。
異常事態の起きている場所は、メラメラと炎が立っている。
でも、触っても熱くないし、感触がない。
だけど、見ているだけで心がざわついた。
エッセンは燃えていた。黒と焦げ茶が錯綜するなか、青色の点が混ざり、銀と赤が発光していた。
じっと見ているとパッと銀の光が強く光り、次の瞬間、大きな黒の点が消え、いくつかの青の点も色が薄くなり同時に消えていった。
手が震えて来た。指先から冷えてくる。誰かが死んだのだ。悪獣ともに。
白髪のカールソンは、この地図を美術品として私の目の前に出してきた。おばあさまのお気に入りの逸品だと言って。
「何回見てもタダの古地図でございますよ。装飾の多い、絹地で裏張りされた美しい作品ではありますが……」
違う。断じてそんなものではない。
そして、カールソンには見えないのだと気がついた。
見える者は限られる。
見ているうちに、またパッと炎が上がった。
きっと私の他には、おばあさまやセス様、殿下には見えるだろう。
「私に出来ることは何?」
大事の前の小事は、神に許される。
……のかどうかほんとのところは知らないが、私は、騎士御用達の店舗から革のブーツと手袋と、首元まで詰まったしっかりした上着をかっぱらって来た。
丈夫な生地のトラウザーは男みたいだが、動きやすいだろう。
ほかにはリュックと靴だ。
これは泥棒魔法ではない。なぜなら代金を置いてきたからだ。買い物と言う。
それから、邪魔な髪を後ろで編んで束ね、背中のリュックにタオルで巻いた一升瓶を二本背負った。
命のポーションだ。
ハウエル商会に一升瓶一本分の中身を、使いやすいように分けて小瓶に入れて渡した。
だが、あと二本分残っている。
そしてハウエル商家の便では、まだトリエステまでも着いていないだろう。間に合わない。
人が死ぬ。
「私なら、レイビックまで飛べる。絨毯を使って」
念のため、食料を緩衝材として一升瓶の間に突っ込んだ。
そして大事な地図は、水なんかには濡れないように保護魔法をかけて背中に近いところに突っ込んだ。
「行くぞ」
殿下やセス様、おばあさまみたいに役に立つことはできないけど、私には私の役割がある。
私は絨毯の上に立った。
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