【完結】不本意ながら、結婚することになりまして

buchi

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第11話 ナスは自殺未遂より重要に決まっている

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「でもさー、頼むよ。あの女子高生もどきに会ったらマズイしさー」

宇津木さんは開き直った。

「いや、困るのは真壁さんだから、私は別に?」

「でも、わざわざ教えてくれたじゃないの。行かない方がいいって」

「そりゃ、真壁さんがフランツ呼ばわりされて、あちこちにラインとかツィッターされてる実態を考えると、出来るだけ行かない方がいいとは思うけど、好きにすればいいんじゃないですか?」

「ラインとツィッター?」

俺は眉をしかめた。

「ラインとツィッター」

宇津木さんはケータイを指した。

あほか。俺だってそれくらい知ってるわ。そうじゃなくて、あの女子高生型座敷童がツィッターで何ツィートしんのかってことだよ、知りたいのは。

「いきさつを送りまくってるから」

「いきさつとは?」

「フランツとの出会いと、どんなふうに恋が進んだか、そして手ひどくフラれて、死を選んだとかなんとか」

「マジで俺がフランツ役なのか?!」

「真壁さん、無駄に顔がいいから」

「無駄は余計だ、無駄は」

「モテるんですか?」

「妻子がいるわ。モテても意味ない」

「はあ……離婚したんですか?」

「なぜ、そうなる?」

「土日、ずっと菜園にかかりきりだから、独身かと思ってました」

「………」

体が悪いんじゃないかと思わせられるくらい細いのに、妙に鋭い。

「それはどうでもいいんですが、とにかく、水やりは嫌です。ナスの生死なんか知りません。別にフランツとの恋物語に続編がついたって、私には関係ないですし、真壁さんが好きにすればいいと思います」

「……あの女が、今週はウロウロすると?」

「そりゃそうでしょう。えっとですね」

彼女はケータイをごそごそ触って、見せてくれた。

『死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。死ぬしかない。最後にフランツの顔を見てから、死ぬ』

死んでも全然かまわない。むしろ、死んでほしい。

「まあ、死ぬ死ぬ詐欺ですよね。何回もやってますしね。潤夏ちゃん、文才ないしね。なんせ、フランツですしね。日本人の名前じゃないし、みんな実在の人物だなんて思ってないかもね」

「みんなって?」

「ラインとツイッターで絶賛拡大中ですね。ネーミングのフランツ、ウザすぎでウケてます」

……俺は沈黙した。

ナスと女子高生型座敷童を天秤にかけた。

「宇津木さんが行ってくれさえすれば、解決するのに」

「嫌ですよ。ナスなんかのために。真壁さん、馬鹿じゃないですか?」

俺はむっとした。

しかし、ナスは水をやらねば枯れてしまう。

「大体、3時間もかかるんですよ? 往復で6時間。あほじゃないですか」

黙って聞いていれば言いたい放題……

「クルマなら往復2時間だ。高速通って。レンタカーと高速代は出そう」

「クルマ、乗れません」

「免許ないのか」

「あっても乗れません。高速みたいな危険なとこ、走れるわけないじゃないですか」

「高速の方が断然安全だ。そこらへんの交差点の方がよっぽど危ないわ」

宇津木さんは肩をすくめた。

「まあ、お好きなように」

そう言って、席を立とうとした。

「よし、仕方ない。俺が運転してってやろう」

ものすごく妥協せざるを得なかった。本来一人で行くはずだった。余計な荷物を乗っけてかなきゃならないとなると、燃費が悪くなる。

だが、宇津木さんは馬鹿にしたような笑い声をあげた。ムカつくな、この女。

「ハッハッハ。とんでもありません。自分で行ったらいいじゃないですか。なんで私がナスの水やりに付き合わなきゃいけないんですか? 知ったこっちゃないですよ」

気づかれたか。

「迎えに行ってやる」

彼女が不審な顔をした。

「迎え?」

「南大江のとこのマンションまで行ってやる」

宇津木さんが顔色を変えた。

「なんで知ってるんですか」

「入れてくれたじゃないか、夕べ」

仕方ない。ナスのためだ。大義の前に些事は嘘をついてよいと聖書に書いてあった。ような気がする。

「あ、言われたくないなら、水やりして」

宇津木さんが顔色を変えた。今度は赤い顔だ。

「奥さんいるんでしょう? なんてことを」

いえ。あの。独身ですが。

あと、マンションには入っておりません。ちょっと、口が滑った。

なにか、今、大惨事を引き起こした? 口は災いの元ってやつ?
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