11 / 17
第11話 ナスは自殺未遂より重要に決まっている
しおりを挟む
「でもさー、頼むよ。あの女子高生もどきに会ったらマズイしさー」
宇津木さんは開き直った。
「いや、困るのは真壁さんだから、私は別に?」
「でも、わざわざ教えてくれたじゃないの。行かない方がいいって」
「そりゃ、真壁さんがフランツ呼ばわりされて、あちこちにラインとかツィッターされてる実態を考えると、出来るだけ行かない方がいいとは思うけど、好きにすればいいんじゃないですか?」
「ラインとツィッター?」
俺は眉をしかめた。
「ラインとツィッター」
宇津木さんはケータイを指した。
あほか。俺だってそれくらい知ってるわ。そうじゃなくて、あの女子高生型座敷童がツィッターで何ツィートしんのかってことだよ、知りたいのは。
「いきさつを送りまくってるから」
「いきさつとは?」
「フランツとの出会いと、どんなふうに恋が進んだか、そして手ひどくフラれて、死を選んだとかなんとか」
「マジで俺がフランツ役なのか?!」
「真壁さん、無駄に顔がいいから」
「無駄は余計だ、無駄は」
「モテるんですか?」
「妻子がいるわ。モテても意味ない」
「はあ……離婚したんですか?」
「なぜ、そうなる?」
「土日、ずっと菜園にかかりきりだから、独身かと思ってました」
「………」
体が悪いんじゃないかと思わせられるくらい細いのに、妙に鋭い。
「それはどうでもいいんですが、とにかく、水やりは嫌です。ナスの生死なんか知りません。別にフランツとの恋物語に続編がついたって、私には関係ないですし、真壁さんが好きにすればいいと思います」
「……あの女が、今週はウロウロすると?」
「そりゃそうでしょう。えっとですね」
彼女はケータイをごそごそ触って、見せてくれた。
『死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。死ぬしかない。最後にフランツの顔を見てから、死ぬ』
死んでも全然かまわない。むしろ、死んでほしい。
「まあ、死ぬ死ぬ詐欺ですよね。何回もやってますしね。潤夏ちゃん、文才ないしね。なんせ、フランツですしね。日本人の名前じゃないし、みんな実在の人物だなんて思ってないかもね」
「みんなって?」
「ラインとツイッターで絶賛拡大中ですね。ネーミングのフランツ、ウザすぎでウケてます」
……俺は沈黙した。
ナスと女子高生型座敷童を天秤にかけた。
「宇津木さんが行ってくれさえすれば、解決するのに」
「嫌ですよ。ナスなんかのために。真壁さん、馬鹿じゃないですか?」
俺はむっとした。
しかし、ナスは水をやらねば枯れてしまう。
「大体、3時間もかかるんですよ? 往復で6時間。あほじゃないですか」
黙って聞いていれば言いたい放題……
「クルマなら往復2時間だ。高速通って。レンタカーと高速代は出そう」
「クルマ、乗れません」
「免許ないのか」
「あっても乗れません。高速みたいな危険なとこ、走れるわけないじゃないですか」
「高速の方が断然安全だ。そこらへんの交差点の方がよっぽど危ないわ」
宇津木さんは肩をすくめた。
「まあ、お好きなように」
そう言って、席を立とうとした。
「よし、仕方ない。俺が運転してってやろう」
ものすごく妥協せざるを得なかった。本来一人で行くはずだった。余計な荷物を乗っけてかなきゃならないとなると、燃費が悪くなる。
だが、宇津木さんは馬鹿にしたような笑い声をあげた。ムカつくな、この女。
「ハッハッハ。とんでもありません。自分で行ったらいいじゃないですか。なんで私がナスの水やりに付き合わなきゃいけないんですか? 知ったこっちゃないですよ」
気づかれたか。
「迎えに行ってやる」
彼女が不審な顔をした。
「迎え?」
「南大江のとこのマンションまで行ってやる」
宇津木さんが顔色を変えた。
「なんで知ってるんですか」
「入れてくれたじゃないか、夕べ」
仕方ない。ナスのためだ。大義の前に些事は嘘をついてよいと聖書に書いてあった。ような気がする。
「あ、言われたくないなら、水やりして」
宇津木さんが顔色を変えた。今度は赤い顔だ。
「奥さんいるんでしょう? なんてことを」
いえ。あの。独身ですが。
あと、マンションには入っておりません。ちょっと、口が滑った。
なにか、今、大惨事を引き起こした? 口は災いの元ってやつ?
宇津木さんは開き直った。
「いや、困るのは真壁さんだから、私は別に?」
「でも、わざわざ教えてくれたじゃないの。行かない方がいいって」
「そりゃ、真壁さんがフランツ呼ばわりされて、あちこちにラインとかツィッターされてる実態を考えると、出来るだけ行かない方がいいとは思うけど、好きにすればいいんじゃないですか?」
「ラインとツィッター?」
俺は眉をしかめた。
「ラインとツィッター」
宇津木さんはケータイを指した。
あほか。俺だってそれくらい知ってるわ。そうじゃなくて、あの女子高生型座敷童がツィッターで何ツィートしんのかってことだよ、知りたいのは。
「いきさつを送りまくってるから」
「いきさつとは?」
「フランツとの出会いと、どんなふうに恋が進んだか、そして手ひどくフラれて、死を選んだとかなんとか」
「マジで俺がフランツ役なのか?!」
「真壁さん、無駄に顔がいいから」
「無駄は余計だ、無駄は」
「モテるんですか?」
「妻子がいるわ。モテても意味ない」
「はあ……離婚したんですか?」
「なぜ、そうなる?」
「土日、ずっと菜園にかかりきりだから、独身かと思ってました」
「………」
体が悪いんじゃないかと思わせられるくらい細いのに、妙に鋭い。
「それはどうでもいいんですが、とにかく、水やりは嫌です。ナスの生死なんか知りません。別にフランツとの恋物語に続編がついたって、私には関係ないですし、真壁さんが好きにすればいいと思います」
「……あの女が、今週はウロウロすると?」
「そりゃそうでしょう。えっとですね」
彼女はケータイをごそごそ触って、見せてくれた。
『死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。死ぬしかない。最後にフランツの顔を見てから、死ぬ』
死んでも全然かまわない。むしろ、死んでほしい。
「まあ、死ぬ死ぬ詐欺ですよね。何回もやってますしね。潤夏ちゃん、文才ないしね。なんせ、フランツですしね。日本人の名前じゃないし、みんな実在の人物だなんて思ってないかもね」
「みんなって?」
「ラインとツイッターで絶賛拡大中ですね。ネーミングのフランツ、ウザすぎでウケてます」
……俺は沈黙した。
ナスと女子高生型座敷童を天秤にかけた。
「宇津木さんが行ってくれさえすれば、解決するのに」
「嫌ですよ。ナスなんかのために。真壁さん、馬鹿じゃないですか?」
俺はむっとした。
しかし、ナスは水をやらねば枯れてしまう。
「大体、3時間もかかるんですよ? 往復で6時間。あほじゃないですか」
黙って聞いていれば言いたい放題……
「クルマなら往復2時間だ。高速通って。レンタカーと高速代は出そう」
「クルマ、乗れません」
「免許ないのか」
「あっても乗れません。高速みたいな危険なとこ、走れるわけないじゃないですか」
「高速の方が断然安全だ。そこらへんの交差点の方がよっぽど危ないわ」
宇津木さんは肩をすくめた。
「まあ、お好きなように」
そう言って、席を立とうとした。
「よし、仕方ない。俺が運転してってやろう」
ものすごく妥協せざるを得なかった。本来一人で行くはずだった。余計な荷物を乗っけてかなきゃならないとなると、燃費が悪くなる。
だが、宇津木さんは馬鹿にしたような笑い声をあげた。ムカつくな、この女。
「ハッハッハ。とんでもありません。自分で行ったらいいじゃないですか。なんで私がナスの水やりに付き合わなきゃいけないんですか? 知ったこっちゃないですよ」
気づかれたか。
「迎えに行ってやる」
彼女が不審な顔をした。
「迎え?」
「南大江のとこのマンションまで行ってやる」
宇津木さんが顔色を変えた。
「なんで知ってるんですか」
「入れてくれたじゃないか、夕べ」
仕方ない。ナスのためだ。大義の前に些事は嘘をついてよいと聖書に書いてあった。ような気がする。
「あ、言われたくないなら、水やりして」
宇津木さんが顔色を変えた。今度は赤い顔だ。
「奥さんいるんでしょう? なんてことを」
いえ。あの。独身ですが。
あと、マンションには入っておりません。ちょっと、口が滑った。
なにか、今、大惨事を引き起こした? 口は災いの元ってやつ?
0
あなたにおすすめの小説
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
せめて、淑女らしく~お飾りの妻だと思っていました
藍田ひびき
恋愛
「最初に言っておく。俺の愛を求めるようなことはしないで欲しい」
リュシエンヌは婚約者のオーバン・ルヴェリエ伯爵からそう告げられる。不本意であっても傷物令嬢であるリュシエンヌには、もう後はない。
「お飾りの妻でも構わないわ。淑女らしく務めてみせましょう」
そうしてオーバンへ嫁いだリュシエンヌは正妻としての務めを精力的にこなし、徐々に夫の態度も軟化していく。しかしそこにオーバンと第三王女が恋仲であるという噂を聞かされて……?
※ なろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる