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第86話 強制的な口使いの口説き
考えていると言うのか、なんなのか。
「王族としての義務は果たさなければならないと思いますが」
ハンナはやんわりと言ってみた。
「果たすとも。ただ、田舎で果たすんだよ」
殿下はすっりリラックスして椅子の肘掛に腕をもたせ掛け、お茶に手を出した。
「ハンナ嬢、話の内容はわかってくれた? 僕は都合よく、王家の特権を使って、王都と田舎を行き来して、ストレスの少ない暮らしを満喫しようと思っている。そしてあなたはついてきてくれないかな」
「なぜ、私を……」
言ったとたんに気が付いた。つまらないことを聞いてしまったと。
だが、フィリップ殿下がこのチャンスを逃すはずがなかった。
「大好きだからさ。愛してる」
言葉にすると短くて、なんの色香もない。でも、柔らかな表情、何よりも目だった。
目はすべてを語る。
ハンナは思わずうつむいたが、殿下の厚かましい手がそろりとハンナの顎に伸びて、強制的に顔をあげさせた。
「フィリップ殿下……」
「どうしてあなたが僕の求婚を断ったか知っている。めんどくさいんだ。めんどくさいなんて理由で、こんな条件のいい男を断るなんて信じられない。最初は腹が立った。僕はこんなにあなたが好きなのに。だけど、結婚は一生の話。そうなると、めんどくさいは一生ついて回る」
もう一度、フィリップ王子はサファイヤの瞳でハンナの目を覗き込んだ。
「でもね、考えてもみて。国王陛下が僕を田舎に住まわせると発表すれば、王都で王族の一員として派手で高い地位について、偉そうな生活を満喫しようとする連中は一挙に減る。そう言う人たちは、田舎に行きたくない。田舎住まいには、伯爵家の令嬢で十分だと裏で悪口を言われるくらいなものさ」
ハンナは考えた。それはその通りかも。フィリップ殿下はよく読んでいる。
「でも、国王陛下がどうしてそんな発表をしなくてはならないのですか? わざわざ不利な結婚をさせるためだけに?」
「ハンナ。OKしてくれるかい?」
絶対にダメだと思う。
「陛下はそんなこと、絶対許さないと思います」
ハンナは勇気を出して答えた。
「なぜなら殿下は優秀です。そして、王になりたいなどと言う欲を持たない。年も離れていらっしゃる。王太子殿下を支えるのに最適です。そんな方を政治に関われない田舎住まいをさせるほど、王家は愚かではないと思います」
フィリップ殿下は複雑な笑みを漏らした。
「その通りだよ。だけど、事情があるんだ。聞きたくない?」
「聞きたいですけれど……」
ハンナはためらった。
「結婚してくれるね? あなたの懸念はめんどくさいかもしれないってことだけだよね? 僕のことは好きだよね? いくら僕だって、僕のことを嫌いだと言う人とは結婚できない」
「ええ」
「もっとハッキリ言ってくれないと、困るな」
「殿下のことは好きですわ。でも……」
「どんな感じに好きなの?」
「どんな感じ……」
それは困る。言いにくい。
「夫としてはどうですか? 嫌ですか?」
考えたことがない。
「ずっと一緒に暮らすのだけど。昼も夜も」
熱心に言い募られて、ハンナは真っ赤になった。
「いいよね。嬉しいよね?」
ハンナがうつむくと、今度は両手が伸びてきた。温かい手が、頬っぺたをはさむと、無理に上を向かされた。殿下の椅子が後ろにひっくり返った音がした。
はわわわあああ。
目をつぶってしまった。ずっと大きな体にずっしりと包み込まれて、捕まえられて、唇に柔らかいものが当たった感触がした。
理屈なんかどっかへ飛んでいった。ずっと一緒にいたくなる。
「王族としての義務は果たさなければならないと思いますが」
ハンナはやんわりと言ってみた。
「果たすとも。ただ、田舎で果たすんだよ」
殿下はすっりリラックスして椅子の肘掛に腕をもたせ掛け、お茶に手を出した。
「ハンナ嬢、話の内容はわかってくれた? 僕は都合よく、王家の特権を使って、王都と田舎を行き来して、ストレスの少ない暮らしを満喫しようと思っている。そしてあなたはついてきてくれないかな」
「なぜ、私を……」
言ったとたんに気が付いた。つまらないことを聞いてしまったと。
だが、フィリップ殿下がこのチャンスを逃すはずがなかった。
「大好きだからさ。愛してる」
言葉にすると短くて、なんの色香もない。でも、柔らかな表情、何よりも目だった。
目はすべてを語る。
ハンナは思わずうつむいたが、殿下の厚かましい手がそろりとハンナの顎に伸びて、強制的に顔をあげさせた。
「フィリップ殿下……」
「どうしてあなたが僕の求婚を断ったか知っている。めんどくさいんだ。めんどくさいなんて理由で、こんな条件のいい男を断るなんて信じられない。最初は腹が立った。僕はこんなにあなたが好きなのに。だけど、結婚は一生の話。そうなると、めんどくさいは一生ついて回る」
もう一度、フィリップ王子はサファイヤの瞳でハンナの目を覗き込んだ。
「でもね、考えてもみて。国王陛下が僕を田舎に住まわせると発表すれば、王都で王族の一員として派手で高い地位について、偉そうな生活を満喫しようとする連中は一挙に減る。そう言う人たちは、田舎に行きたくない。田舎住まいには、伯爵家の令嬢で十分だと裏で悪口を言われるくらいなものさ」
ハンナは考えた。それはその通りかも。フィリップ殿下はよく読んでいる。
「でも、国王陛下がどうしてそんな発表をしなくてはならないのですか? わざわざ不利な結婚をさせるためだけに?」
「ハンナ。OKしてくれるかい?」
絶対にダメだと思う。
「陛下はそんなこと、絶対許さないと思います」
ハンナは勇気を出して答えた。
「なぜなら殿下は優秀です。そして、王になりたいなどと言う欲を持たない。年も離れていらっしゃる。王太子殿下を支えるのに最適です。そんな方を政治に関われない田舎住まいをさせるほど、王家は愚かではないと思います」
フィリップ殿下は複雑な笑みを漏らした。
「その通りだよ。だけど、事情があるんだ。聞きたくない?」
「聞きたいですけれど……」
ハンナはためらった。
「結婚してくれるね? あなたの懸念はめんどくさいかもしれないってことだけだよね? 僕のことは好きだよね? いくら僕だって、僕のことを嫌いだと言う人とは結婚できない」
「ええ」
「もっとハッキリ言ってくれないと、困るな」
「殿下のことは好きですわ。でも……」
「どんな感じに好きなの?」
「どんな感じ……」
それは困る。言いにくい。
「夫としてはどうですか? 嫌ですか?」
考えたことがない。
「ずっと一緒に暮らすのだけど。昼も夜も」
熱心に言い募られて、ハンナは真っ赤になった。
「いいよね。嬉しいよね?」
ハンナがうつむくと、今度は両手が伸びてきた。温かい手が、頬っぺたをはさむと、無理に上を向かされた。殿下の椅子が後ろにひっくり返った音がした。
はわわわあああ。
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