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第17話 ルイス、独り立ちを目指す
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「ついに結婚申し込み間近になったらしいよ、君のルイス」
ジョナスが情報をもたらしてくれる。
実は、それはそれでイラっとする。ルイスのことなんかどうでもいいし。
ルイスはしかし、あれっきりロザンナ嬢の相手を止めてしまった。
まだ、学園の授業は残っている。
それから、子爵が立て直してくれた公爵家の経営もある。
やらなければいけないことが、ルイスにはたくさんあった。
ロザンナ嬢にかまけている場合ではなかった。
元々ルイスから誘ったわけじゃないのだ。彼の行く先々にロザンナ嬢がちょうどよく、うまい具合に出現するだけだ。
その理屈を逆算すれば、実に簡単に、ルイスはロザンナ嬢と会わないで済んだ。
メリンダに会うために、散々工夫したが、まったくダメだった。
相手はルイスを知り尽くしている。
だが、ロザンナ嬢を撒くのは、実に簡単だった。
執事のセバスはルイスが推し活を止めて、家の事業に興味を持ってくれたことを喜んでくれた。
「まだ、学生でいらっしゃるので遠慮しておりましたが、お家の仕事に興味を持ってくださるとはありがたいことでございます」
しかし、残念ながら帳簿を見て、説明を受けてもさっぱりわからなかった。
だが、わからないでは済まされない。
ルイスは執念深かった。そして、女性(メリンダ)の気持ちには疎かったのかもしれないが、人の気持ちを察するのは敏かった。
セバスが最初より親切に説明しなくなったことに気がつくと、帳簿をかき回すのはやめて、メリンダの父のところに謝りに行った。
子爵は会ってくれはしたものの、渋い顔だった。
「お忙しいところを申し訳ございません」
ルイスは丁寧に頭を下げた。
「一つだけ教えていただきたいのです」
「時間がないんだ。さっさといい給え」
娘の婚約者でもない男に割いてやる時間なんかない。
「どうしてセバスが、領地からの歳入の詳細について、はぐらかすような返事をするのかわからないのです」
子爵は、ちょっと驚いてルイスの顔を見た。
「私が公爵領の帳簿も見るというと、最初は喜んでくれました。だが、だんだん細かいところを聞き出すと、嫌そうな顔をするのです」
子爵は、話を熱心に聞き始めた。
「では、領地の差配人と会って話してみるが良い」
子爵は教えてくれた。
「セバスが誤魔化しているとは思わない。だけど、誰だって、自分のつけた帳簿を他人が鑑定し始めたら、嫌な気がするものだ。計算が合わなかったり、ミスをしているかもしれない。執事などごまかすのが仕事だと言われることさえある」
「そうなんですか?」
子爵はうなずいた。
「君は、当家ばかり見ているから知らないだろう。うちは商家みたいなものだ。お金については、何重にもチェックが入る。私も、金の流れには目を光らせているしね。金の管理が出来なかったら、主人として失格だから」
「だとしたら、大抵の貴族の家は失格ということになりますね」
「そうだ」
子爵は真面目になって答えてくれた。
「商人の家でも、二代目になったら、もうダメというところも多い。君がご執心のロザンナ嬢の家などもそうだ。今は良いけれど、次代で没落するだろう」
「そうなのですか?」
驚いてルイスは恩人の子爵の顔を見た。
「貴族に憧れててね。屋敷を改造したり、ぜいたくなパーティを何回も開いたりしている。手間と時間がかかるだろう? 当主がそう言ったことに夢中だそうだ。人間、そうたくさんのことを出来る訳じゃない。本業の商売が疎かになっているらしいな」
ルイスが聞き取ったのは、ロザンナ嬢の家が没落するだろうと言う部分ではなかった。
人間、そんなにたくさんのことが出来る訳じゃないと言う部分だった。
推し活は楽しかった。
だけど、それ以外が抜け落ちていた。
ロザンナ嬢は、大事なものがあると言っていた。その言葉に自分は興味があったのだ。ロザンナ嬢に興味があったわけではない。
大事なもの…………
「もし……」
ルイスが突然言い始めた。
「メリンダ嬢にイエスと言ってもらえたら、もう一度婚約をお願いできるでしょうか?」
子爵は突然の質問に、相当びっくりしたらしかった。
あの子爵が、思わず咳き込んだくらいだ。
「なんでそんなことを言うんだね? 君は、娘とのダンスパーティも断ったし、冬祭りにも一緒に行かなかった。メリンダのことなんかどうでもよかったんだろう?」
そう言われると辛かった。
「そんなことはありません」
自分でも、それじゃあなんだったんだと思う。だけど、同じ言葉を伝えるしかなかった。
自分はわかっていなかったのだ。そして、メリンダに甘えていたのだ。
子爵は、呆れたと言った様子だった。
「誰にも信用されないと思うよ? 口に出すことだけなら誰にでもできる。メリンダが君を好きだと言うなら私は止めないけど、今はジョナスとうまく行っているようだよ。君だって、ロザンナ嬢と良い仲なのだろう。ロザンナ嬢が怒ってくるかもしれない。裏切られたって。また、裏切り者というレッテルを貼られるよ?」
「今一度、チャンスをください」
「あのね、チャンスなんか誰もくれないんだよ。君は少し頭が悪いところがあるね。チャンスは自分が掴むものだし、一度失った信用は戻らない。ないしはとても労力と時間がかかる。人の気持ちなんか、なおさらだ。悪いことは言わない、ロザンナ嬢と仲良くしておくがいい。彼女には、プレゼントをする気になれるんだろ? それから、デートにも行っているって聞いたよ。順調じゃないか。メリンダ相手なら、絶対する気になれなかったんだ。何を今更だよ。ジョナスとメリンダのことは放っといてくれ。君には関係ない」
ジョナスが情報をもたらしてくれる。
実は、それはそれでイラっとする。ルイスのことなんかどうでもいいし。
ルイスはしかし、あれっきりロザンナ嬢の相手を止めてしまった。
まだ、学園の授業は残っている。
それから、子爵が立て直してくれた公爵家の経営もある。
やらなければいけないことが、ルイスにはたくさんあった。
ロザンナ嬢にかまけている場合ではなかった。
元々ルイスから誘ったわけじゃないのだ。彼の行く先々にロザンナ嬢がちょうどよく、うまい具合に出現するだけだ。
その理屈を逆算すれば、実に簡単に、ルイスはロザンナ嬢と会わないで済んだ。
メリンダに会うために、散々工夫したが、まったくダメだった。
相手はルイスを知り尽くしている。
だが、ロザンナ嬢を撒くのは、実に簡単だった。
執事のセバスはルイスが推し活を止めて、家の事業に興味を持ってくれたことを喜んでくれた。
「まだ、学生でいらっしゃるので遠慮しておりましたが、お家の仕事に興味を持ってくださるとはありがたいことでございます」
しかし、残念ながら帳簿を見て、説明を受けてもさっぱりわからなかった。
だが、わからないでは済まされない。
ルイスは執念深かった。そして、女性(メリンダ)の気持ちには疎かったのかもしれないが、人の気持ちを察するのは敏かった。
セバスが最初より親切に説明しなくなったことに気がつくと、帳簿をかき回すのはやめて、メリンダの父のところに謝りに行った。
子爵は会ってくれはしたものの、渋い顔だった。
「お忙しいところを申し訳ございません」
ルイスは丁寧に頭を下げた。
「一つだけ教えていただきたいのです」
「時間がないんだ。さっさといい給え」
娘の婚約者でもない男に割いてやる時間なんかない。
「どうしてセバスが、領地からの歳入の詳細について、はぐらかすような返事をするのかわからないのです」
子爵は、ちょっと驚いてルイスの顔を見た。
「私が公爵領の帳簿も見るというと、最初は喜んでくれました。だが、だんだん細かいところを聞き出すと、嫌そうな顔をするのです」
子爵は、話を熱心に聞き始めた。
「では、領地の差配人と会って話してみるが良い」
子爵は教えてくれた。
「セバスが誤魔化しているとは思わない。だけど、誰だって、自分のつけた帳簿を他人が鑑定し始めたら、嫌な気がするものだ。計算が合わなかったり、ミスをしているかもしれない。執事などごまかすのが仕事だと言われることさえある」
「そうなんですか?」
子爵はうなずいた。
「君は、当家ばかり見ているから知らないだろう。うちは商家みたいなものだ。お金については、何重にもチェックが入る。私も、金の流れには目を光らせているしね。金の管理が出来なかったら、主人として失格だから」
「だとしたら、大抵の貴族の家は失格ということになりますね」
「そうだ」
子爵は真面目になって答えてくれた。
「商人の家でも、二代目になったら、もうダメというところも多い。君がご執心のロザンナ嬢の家などもそうだ。今は良いけれど、次代で没落するだろう」
「そうなのですか?」
驚いてルイスは恩人の子爵の顔を見た。
「貴族に憧れててね。屋敷を改造したり、ぜいたくなパーティを何回も開いたりしている。手間と時間がかかるだろう? 当主がそう言ったことに夢中だそうだ。人間、そうたくさんのことを出来る訳じゃない。本業の商売が疎かになっているらしいな」
ルイスが聞き取ったのは、ロザンナ嬢の家が没落するだろうと言う部分ではなかった。
人間、そんなにたくさんのことが出来る訳じゃないと言う部分だった。
推し活は楽しかった。
だけど、それ以外が抜け落ちていた。
ロザンナ嬢は、大事なものがあると言っていた。その言葉に自分は興味があったのだ。ロザンナ嬢に興味があったわけではない。
大事なもの…………
「もし……」
ルイスが突然言い始めた。
「メリンダ嬢にイエスと言ってもらえたら、もう一度婚約をお願いできるでしょうか?」
子爵は突然の質問に、相当びっくりしたらしかった。
あの子爵が、思わず咳き込んだくらいだ。
「なんでそんなことを言うんだね? 君は、娘とのダンスパーティも断ったし、冬祭りにも一緒に行かなかった。メリンダのことなんかどうでもよかったんだろう?」
そう言われると辛かった。
「そんなことはありません」
自分でも、それじゃあなんだったんだと思う。だけど、同じ言葉を伝えるしかなかった。
自分はわかっていなかったのだ。そして、メリンダに甘えていたのだ。
子爵は、呆れたと言った様子だった。
「誰にも信用されないと思うよ? 口に出すことだけなら誰にでもできる。メリンダが君を好きだと言うなら私は止めないけど、今はジョナスとうまく行っているようだよ。君だって、ロザンナ嬢と良い仲なのだろう。ロザンナ嬢が怒ってくるかもしれない。裏切られたって。また、裏切り者というレッテルを貼られるよ?」
「今一度、チャンスをください」
「あのね、チャンスなんか誰もくれないんだよ。君は少し頭が悪いところがあるね。チャンスは自分が掴むものだし、一度失った信用は戻らない。ないしはとても労力と時間がかかる。人の気持ちなんか、なおさらだ。悪いことは言わない、ロザンナ嬢と仲良くしておくがいい。彼女には、プレゼントをする気になれるんだろ? それから、デートにも行っているって聞いたよ。順調じゃないか。メリンダ相手なら、絶対する気になれなかったんだ。何を今更だよ。ジョナスとメリンダのことは放っといてくれ。君には関係ない」
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