【完結】婚約者の真実の愛探しのお手伝い。私たち、愛のキューピッドなんです?

buchi

文字の大きさ
4 / 58

第4話 これは浮気なのでは?

しおりを挟む
そして、ある日のこと。



「ちょっと! シュザンナ!」



大人しいはずのルシンダが血相変えて走ってくる。



「はい!?」



あたしはルシンダの勢いに押された。何かへまを仕出かしたかしら?





「第5限の!」



5限? 5限は、語学だったような。それがどうかしたのだろうか?

ルシンダは息が切れて、思うようにしゃべれないらしい。



「……の、あとで!」



「?」



「アマンダ王女とケネスが親し気に話をしていたのよ!」



「へ、へえ?」



ルシンダは、はあはあ言っていた。大体、のんびりゆっくり行動するたちなのに、大事件でも起きたかのようだ。



「へ、へえ?……ではありません!」



で、でも、何てコメントしたらいいの……?



「ケネスは……すごいことをしていたの。恐ろしいことよ。あり得ないわ、よく知りもしない隣国の王女殿下に向かって!」



ここでルシンダは一息入れた。



ケネスが何をしたと言うんだろう。私は心配になった。あのケネスのことだ。王女殿下に向かって、怒鳴ったとか? キスしたとか?



「ケネスはデートの約束をしていたのよ」



……なんだ。



そんなことか。

あんまり息を切らしてルシンダがやって来るものだから、もの凄い事態を想像してしまっていた。



「良かったじゃないの」



私の想像より、まだマシという意味でだけど。



幼馴染だからこそ知ってるけれど、ケネスは相当な悪い子でした。

大胆と言うか、豪気と言うか。

大きくなった今のことは、よく知らないけど、そんなに大きく変わることはないと思うの。





「何を言っているのよ! シュザンナ」



まあ、内心ムカつかないと言えばうそになる。



私のことなんか、一度だって誘ってくれなかった。



この容姿がマズいのかしら。



マズイのは多少わかっているけど。



まあ、まずいんだろうな。



マズイかも……マズいだろう……マズいに違いない。

三段活用だ。





母のせいで私はメガネをかけていた。自分的には美人度4割減だ。



「とればいいのに」



と、アーノルドやウィリアムなんかは簡単に言うが、母は絶対に許してくれないと思う。



「母が許してくれないのよ」



私は弱々しく弁解した。母は絶対に私の言うことなど聞いてくれない。





でも、容姿がよろしくないのは令嬢としては決定的に損だ。



だから父は婚約を早めたのかも知れない。公爵家の権威を振りかざして。



そう考えると、ケネスはいわば被害者なのかも知れない。



意に染まぬ、容色の劣る、おそらくは気位ばかりが高い公爵令嬢を、強制的に娶らなくてはならないだなんて、気の毒と言えば気の毒な身の上なのだ。





私は、連れ立って歩く、フワフワの綿毛のような髪を明るい黄色のリボンで結んだ愛らしい令嬢と、すらりと背の高いたくましい体つきの騎士見習の青年を見送った。





大変残念だけれど…………お似合いである。





ケネスが真実の愛を求めるとか言いだした理由は……わからないでもない。



こんなに容色の劣る、高慢娘の相手を一生するのかと思うと、気が滅入るのだろう。



「あなたは高慢なんかじゃないわ!」



ルシンダは私の代わりに怒ってくれた。

彼女は、浮気をする婚約者なんか許せないのだろう。



私だって、許したいわけじゃないんだけれど、でも、どうしたらいいのかわからない。





私は怒っているルシンダとアーノルド、面白がっているウィリアムと別れて、しょぼくれて屋敷に帰った。







まさか、この顛末を母に話すわけにはいかない。



母は、実はあんまり美人と言うたぐいの人ではなかった。

だが、隣国の王女だったのだ。持参金だって、たんまり持ってきた。



父は美男子で温厚で、一度主張し出したら止まらない頑固なところのある母でも、穏やかにあしらい、夫婦仲は(たまに母は暴走して面倒なことになることはあったが)いいと言えるだろう。



波風立たない幸せな家庭なのだ。



私は末娘で、母は自分に似た私の結婚にはことのほか力が入っていた。



その母に、実は婚約者のケネスが真実の愛を求めて迷走中で、隣国の王女(母とは別の国の出身である)とデートの予定です、なんて言う訳に行かない。どんな大騒ぎになることやら。



この場合、母に首を絞め上げられるのは、まず父になる。理由はわからないけれど。



次のとばっちりが、そんな男一人つなぎ留められないあなたはなんなの?……と私に回ってくれるのは間違いない。



くわばら、くわばら。



まだ、何も確定しているわけではない。黙っておこう。



学園内での友達はルシンダだが、屋敷の中には、メアリ・アンとロンダがいる。私の侍女で、侍女と言うより仲間だ。年も近い。奥様のヒステリーについてはよく知っている。



彼女たちには事情を話しておいた。



「ケネス様なんぞとの結婚なんて、捨て置かれたらいかがですか?」



二人は憤慨して、私に意見を言った。



「でもねえ……」



捨て置くって、どういう意味なんだ。



このまま放っておくのは別にかまわない。一番楽だ。



だけど、婚約というものには強制力がある。



破棄するにしても、解約するにしても、ある程度、儀式と言うか手続きが必要だ。



それに私はもう17歳だったし、たいていの良家のご子息たちには、婚約の公表までは至らなくても、そこそこ縁談がきていて、まとまりかけているところも多いだろう。



今更そこに参戦しても、迷惑なだけなのでは……。というか、もう空き席がないのでは? ましてや、メガネっ子だしなあ……。



「ケネスと結婚するのが一番楽なのよね」



「そんなにケネス様がお好きなのですか?」



「いえ。別に」





身もフタもないとはこのことだろう。自分で言ってて気になった。



幼馴染のケネスは……好きじゃないけど、気になる人。でも、今のケネスは遠い人。



「じゃあ、ケネス様のことなんか、どうでもいいじゃないですか」



「次を探すのが大変なのよ」



「それは……」



それは侍女の彼女たちがどうにか出来る話ではない。



母親の務めなのだ。

だが、母はその役目をすでに立派に果たしてしまっている(と思っている)。



時々、本当にまれだが、母がオズボーン侯爵夫人に向かって、ケネスからのお誘いがないけれど?などと、嫌味を言うことがある。思わず、お忙しいですからとか、私がうっかりフォローを入れてしまうのだが、その数日後には立派な花束が届いたりする。むろん、ケネス本人は来ないけれど。



お母さまのオズボーン夫人が気を使っているのじゃないかしら。



多分、母はそこまで確認していないだろう。花束で満足しているはずだ。





「それにしても、お嬢様、心配ですね」



「もう、夏の休暇ですもの。ケネス様に会う機会もグッと減るではありませんか」



「その間に、アマンダ王女様がケネス様に熱烈アプローチされていたら……」



逆だろう。ケネスがアマンダ王女に熱烈アプローチをかけるのじゃないかしら?

なぜなら、ケネスなんかより、アマンダ王女の方が圧倒的に身分が高いのだもの。



思っただけで、ちょっと鬱になった。





それに、学園に通っていても、ケネスと会う機会なんかない。



向こうだって会いたくないだろうから、私は気を利かせて出来るだけ近寄らないようにしている。



夏季休暇中なら、会う可能性はほぼゼロだろう。



「来年にはオズボーン侯爵ご子息と成婚ね。そろそろ準備を始めた方がいいのだけど」



母は無慈悲なことを言う。思わず私は首をすくめた。



無理なんじゃないかな。



あれから、ケネスとアマンダ王女はいつも一緒だ。とても仲が良い。



見れば、それはそれで腹が立つ。



なんなんだ、私と言う婚約者がいながら! 



と思いはするものの、かわいらしい令嬢と立派な騎士の組み合わせは、周りでもお似合いだと好評らしくて、手も足も出ない。



それに、冷静に、客観的になって考えれば、二人が思いあっているなら、私は本気で邪魔者だよね。



そう思うと、それこそ悲しかったけれど。

別にケネスが好きなわけじゃないけれど。





自分の屋敷の自分の部屋で一人きりの時に、思わず本音が勝手に出た。



「私も、真実の愛を探したいわ」



ケネスのことはあきらめた。あきらめるしかないじゃない。



大事にしてくれない人になんか、用事はないと私は意地悪な気持ちになって考えた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

4人の女

猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。 うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。 このご婦人方には共通点がある。 かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。 『氷の貴公子』の異名を持つ男。 ジルベール・タレーラン公爵令息。 絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。 しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。 この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。 こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。

別れたいようなので、別れることにします

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。 魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。 命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。 王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

【完結】3度婚約を破棄された皇女は護衛の騎士とともに隣国へ嫁ぐ

七瀬菜々
恋愛
 先日、3度目の婚約が破談となったモニカは父である皇帝から呼び出しをくらう。  また皇帝から理不尽なお叱りを受けると嫌々謁見に向かうと、今度はまさかの1回目の元婚約者と再婚約しろと言われて----!?  これは、宮中でも難しい立場にある嫌われ者の第四皇女モニカと、彼女に仕える素行不良の一途な騎士、そして新たにもう一度婚約者となった隣国の王弟公爵との三角関係?のお話。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

処理中です...