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第16話 止まらない愛
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その後は平和な日々が続いた。
アーノルドは、今、私のベッドを嬉しそうに覗き込んでいる。
正確には、私のベッドの横に並んだ二つのゆりかごをだ。
双子の男の子だ。
「似ているけど、そっくりってわけでもないな。でも、なんてかわいいんだ」
私は笑った。
「まだ、わからないと思うわ」
赤ん坊は夫が伸ばした小指をキュッと握った。
「小さくても力が強いのよね」
後ろでリンカン夫人が嬉しそうに言った。
双子の男の子でも、全く問題ない。だって、ダラム家とリンカン家と爵位が二つあるんですもの。
私たちの結婚から数年後、父は夜会で知り合った素性の正しい未亡人と結婚した。
武人である父は、あまり器用な方ではないので、娘の私の反応や世間の反応を気にして、長いこと悩んでいたらしいが、よかったと思う。
「お父様がお幸せなら、それが一番ですわ」
新夫人は穏やかで控えめな方だった。
「私のことはヘレンと呼んで。そして、もしよければ、アマリアと呼んでもいいかしら」
新夫人は父より三つほど年上だった。夫と死に別れて、もう十年ほど経つらしい。子ども達は皆結婚して、それぞれ家庭がある。
うちと似たような環境だ。
皆、折り合って、生きていく。
もし、グロリアが、まるで征服者みたいに私に邪険な扱いをしないで、少しでも仲良くしようとしていたら、きっと私は彼女を助けたと思う。
「考えてみれば、かわいそうな人でしたわね」
「とんでもない!」
夫は強く否定した。
「あなたと結婚し損ねるところだった。こんなに可愛い子どもたちが、生まれてこなかったかも知れないじゃないか。最初に来た時、家のまわりをうろつき回られたら困るから、後から人を出して殴っておいた」
「は?」
「甘い顔をしたら、とことんつけあがる。今度来たら命はないものと思えと、よっく伝えた」
やりすぎでは?
「ダニのようなものだ。まともに働こうともせず、贅沢しようとする。あなただって子育てだの帳簿つけだのして働いている」
「それは当然ですから」
夫の剣幕に恐れをなして私は答えた。それにたいした労働ではない。乳母だっているし。
「高い宝石なんか買わないし、両親にも気を遣ってくれている。僕にももっと優しくして欲しいけど、今は子どもが生まれたばかりだから、仕方ないことはわかっている」
なんの話だろう。
「少し前の話になるが、死んだと聞いてほっとしたよ」
え? 誰の話? グロリア?
「し、死んだのですか? あのグロリアがですか?」
「ああ。死んでくれて助かったよ。安い酒場を転々としていたそうだ」
驚いた。あのピンクの衣装で光り輝くばかりだったグロリアの姿がちらっと脳裏をかすめた。
「酒場でも、すぐつけあがって、怠け者で嘘を言うので嫌われて、長くはつとまらなかったらしい」
伯爵令嬢として、派手に着飾り、まわりからチヤホヤされていたグロリア。なんという落差だろう。
「飲み過ぎて、転んで頭を打って死んだそうだ。その上、火事を起こしたので、焼けただれた遺体しか見つからなかったと聞いた」
私はあまりのことに驚いて震えた。そんな私を夫は背中からやさしく抱いた。
「よかったよ。ダラム家とリンカン家の親戚だ、あなたとは姉妹だと場末の酒場で名乗っていたそうだから、腹が立って仕方なかった。姉妹を名乗るだなんて、おこがましすぎる。昔、パーティで付きまといに来るたび、この馬鹿女、先行きロクなことはないぞと怒鳴ってたんだが、その通りになったな」
えっ……?
「あの、パーティーで、いつもそんなことを言っていたのですか?」
だって、グロリアはアーノルド様は自分のファンなのだと言い張っていたのに。
夫は「ん?」と言う顔になった。
「毎回、会うたびに言ったよ。全然応えてなかったがね」
アーノルドが、嘘を言うはずがない。
それなら、結構冷たくあしらわれていたわけだ。
それなのに、よくもアーノルドに愛されているだの、好きだと言われているだの言えたものだ。
「あなたのおかげで助かったのね、私」
グロリアの嘘に負けそうになっていた。だが、夫はいつも私の味方をしてくれていた。心強かった。
「あなたは優しすぎる。だから心配で仕方なかった。それで、早く結婚したかったんだ。まずは、夫にならないとできることが少なくて」
夫が私にキスをした。
「邪魔者が一人減ったけど、これからも、頑張るから。守らなきゃいけない大事な人が三人に増えたしね。もっと早く始末すればよかったよ」
!?
もしや、耳が故障したのではないかと……いやこれはきっと聞き間違い。私ったら、本当にぼんやりしてたのね。
でも、そう言えば、あの時話しかけてきた下品な男、ジョン・スタンレーは、私の結婚後、あっという間に評判を落とし、スタンレー商会もいつの間にか無くなってしまっていたけど。まさか?
「無罪だなんて。あなたをあんなに傷つけたのに。安心して。火事にしたから、証拠もない。これからも、あなたのために手を尽くすよ。残りもいるしね。愛しているよ、アマリア」
______________
アーノルドの正義は続く……
アーノルドは、今、私のベッドを嬉しそうに覗き込んでいる。
正確には、私のベッドの横に並んだ二つのゆりかごをだ。
双子の男の子だ。
「似ているけど、そっくりってわけでもないな。でも、なんてかわいいんだ」
私は笑った。
「まだ、わからないと思うわ」
赤ん坊は夫が伸ばした小指をキュッと握った。
「小さくても力が強いのよね」
後ろでリンカン夫人が嬉しそうに言った。
双子の男の子でも、全く問題ない。だって、ダラム家とリンカン家と爵位が二つあるんですもの。
私たちの結婚から数年後、父は夜会で知り合った素性の正しい未亡人と結婚した。
武人である父は、あまり器用な方ではないので、娘の私の反応や世間の反応を気にして、長いこと悩んでいたらしいが、よかったと思う。
「お父様がお幸せなら、それが一番ですわ」
新夫人は穏やかで控えめな方だった。
「私のことはヘレンと呼んで。そして、もしよければ、アマリアと呼んでもいいかしら」
新夫人は父より三つほど年上だった。夫と死に別れて、もう十年ほど経つらしい。子ども達は皆結婚して、それぞれ家庭がある。
うちと似たような環境だ。
皆、折り合って、生きていく。
もし、グロリアが、まるで征服者みたいに私に邪険な扱いをしないで、少しでも仲良くしようとしていたら、きっと私は彼女を助けたと思う。
「考えてみれば、かわいそうな人でしたわね」
「とんでもない!」
夫は強く否定した。
「あなたと結婚し損ねるところだった。こんなに可愛い子どもたちが、生まれてこなかったかも知れないじゃないか。最初に来た時、家のまわりをうろつき回られたら困るから、後から人を出して殴っておいた」
「は?」
「甘い顔をしたら、とことんつけあがる。今度来たら命はないものと思えと、よっく伝えた」
やりすぎでは?
「ダニのようなものだ。まともに働こうともせず、贅沢しようとする。あなただって子育てだの帳簿つけだのして働いている」
「それは当然ですから」
夫の剣幕に恐れをなして私は答えた。それにたいした労働ではない。乳母だっているし。
「高い宝石なんか買わないし、両親にも気を遣ってくれている。僕にももっと優しくして欲しいけど、今は子どもが生まれたばかりだから、仕方ないことはわかっている」
なんの話だろう。
「少し前の話になるが、死んだと聞いてほっとしたよ」
え? 誰の話? グロリア?
「し、死んだのですか? あのグロリアがですか?」
「ああ。死んでくれて助かったよ。安い酒場を転々としていたそうだ」
驚いた。あのピンクの衣装で光り輝くばかりだったグロリアの姿がちらっと脳裏をかすめた。
「酒場でも、すぐつけあがって、怠け者で嘘を言うので嫌われて、長くはつとまらなかったらしい」
伯爵令嬢として、派手に着飾り、まわりからチヤホヤされていたグロリア。なんという落差だろう。
「飲み過ぎて、転んで頭を打って死んだそうだ。その上、火事を起こしたので、焼けただれた遺体しか見つからなかったと聞いた」
私はあまりのことに驚いて震えた。そんな私を夫は背中からやさしく抱いた。
「よかったよ。ダラム家とリンカン家の親戚だ、あなたとは姉妹だと場末の酒場で名乗っていたそうだから、腹が立って仕方なかった。姉妹を名乗るだなんて、おこがましすぎる。昔、パーティで付きまといに来るたび、この馬鹿女、先行きロクなことはないぞと怒鳴ってたんだが、その通りになったな」
えっ……?
「あの、パーティーで、いつもそんなことを言っていたのですか?」
だって、グロリアはアーノルド様は自分のファンなのだと言い張っていたのに。
夫は「ん?」と言う顔になった。
「毎回、会うたびに言ったよ。全然応えてなかったがね」
アーノルドが、嘘を言うはずがない。
それなら、結構冷たくあしらわれていたわけだ。
それなのに、よくもアーノルドに愛されているだの、好きだと言われているだの言えたものだ。
「あなたのおかげで助かったのね、私」
グロリアの嘘に負けそうになっていた。だが、夫はいつも私の味方をしてくれていた。心強かった。
「あなたは優しすぎる。だから心配で仕方なかった。それで、早く結婚したかったんだ。まずは、夫にならないとできることが少なくて」
夫が私にキスをした。
「邪魔者が一人減ったけど、これからも、頑張るから。守らなきゃいけない大事な人が三人に増えたしね。もっと早く始末すればよかったよ」
!?
もしや、耳が故障したのではないかと……いやこれはきっと聞き間違い。私ったら、本当にぼんやりしてたのね。
でも、そう言えば、あの時話しかけてきた下品な男、ジョン・スタンレーは、私の結婚後、あっという間に評判を落とし、スタンレー商会もいつの間にか無くなってしまっていたけど。まさか?
「無罪だなんて。あなたをあんなに傷つけたのに。安心して。火事にしたから、証拠もない。これからも、あなたのために手を尽くすよ。残りもいるしね。愛しているよ、アマリア」
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アーノルドの正義は続く……
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