真実の愛を貫き通すと、意外と悲惨だったという話(相手が)~婚約破棄から始まる強引過ぎる白い結婚と、非常識すぎるネチ愛のいきさつ

buchi

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第39話 殿下の征伐隊の理由

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 ラルフがずいっと体を乗り出してきた。

「今夜遅くなったのは、殿下がリリアン嬢との婚約無効と、我々の結婚の無効確認を求めてきたからだ」

 びっくりした。

「何をバカなことを!」

 私は思わず怒鳴った。

「さすがに国王陛下も王妃様も賛成しなかった。だが、アウサ征伐を成功させたら考えようと言われたそうだ」

「なんですって?!」

 どうしてそんなことが認められると言うの?
 常識外れも甚だしい。いったん結婚した人の結婚の無効を宣言するだなんて。

「私たちの結婚には何の問題もないのですよ!」

 叫んでから私は気付いた。問題はある。というか、そもそも結婚として成り立っていない。

 国王陛下と王妃様は、そこまでおかしな人たちじゃない。きっと殿下が白い結婚だと二人に教えたのだ。無効にできると考えたのかもしれない。

 完全な結婚じゃないなら、くつがえすことができる。
 それは私の狙いだった。でも、こんな局面で殿下に利用されるとは!
 ラルフのくらい目が怖い。
 急いで話題を変えることにした。

「アウサ征伐なんか戦争じゃありません。ただのコソ泥退治でしょう! 手柄だなんて言えませんわ!」

「国民も多くの貴族も細かい部分までは知らないだろう。要は言い訳さえ作れればいいのだ。激戦だったが、勇敢な王太子殿下の活躍で勝った、とかね。あなただって、アウサの襲撃がどれくらいのものなのか、本当は知らないでしょう?」

 それは確かに知らない。私は唇を噛んだ。

「評判の悪すぎる王太子殿下を派遣して、手柄を立てさせるのに、うってつけだ。何しろ簡単そうな仕事だからね。失敗はないだろう」

 一国の王太子がやるようなことではない。情けないような仕事だ。

 でも、あの殿下に出来るのかと言えば、不安が残る。

 それに、王太子殿下が安全な王宮から出て、そんな辺鄙へんぴな警護の薄い場所へ行くのは危険じゃないかしら。

「いや、王太子に危険はないだろう。アウサ族のコソ泥を始末したって、表向きアレキアは関係がない。それに、ベロス公爵はアレキアと盛んに貿易をしていて、友好な関係だ。付き合いのあるアレキア人商人も大勢いる。ただ……」

「ただ……なんなのですか?」

「アレキアは宗教も文化も全く異なる国だ。王太子が出向くことに、どう反応するか、正直わからない」

 私は渋い顔をした。簡単な仕事だと王宮の人たちは思っているようだが、ラルフの話を聞いていると、殿下の遠征は不安要素が多い気がする。
 それに殿下は軽率で、考えなしなのだ。戦闘なんか、相性が悪い気がする。これを決めた人たちは、わかっているのかしら。

「誰ですか? 王太子の名誉回復などと言う案を出したのは?」

「本人さ。王太子はあなたをどうしても欲しい。ベロス嬢のことはつくづく嫌になった。彼女のせいで殿下の評判まで悪くなるしね。大きな手柄を立てたらどうかと、誰かに言われでもしたんじゃないかな」

 ラルフは暗い感じに笑った。面白くないのだろう。

「あの二人はあなたを巡って狂っている」

「私は何もしていないのに……」

「元々、自分自身に自信のない人間だったのだよ。殿下はあなたがそばにいることで、なんとか体面を保っていたし、自分でもわかっていた。ベロス嬢はあなたを見るたびに劣等感にさいなまれ、暴走する」

 ラルフは私の様子をうかがいながら、言った。

「白い結婚は、殿下の妄想じゃないらしい。誰かが白い結婚だと教えたらしい」

「え?」

 ラルフは唇の片端だけをゆがめて笑った。

「そう考えれば、どうして突然、僕たちの結婚は無効などと言い出したのか、説明がつくよね。殿下は想像力があるほうじゃないからな」

 私は青くなって、ラルフを顔を眺めた。

「殿下は期待し始めたのだろう。それは彼を悩ませる。バカな男だ。夫との関係がなかったとしても、あなたがあの男を好きになるとは思えない」

 ラルフ以外の誰がそんなことをしゃべると言うのだろう。私は誰にも話したことがない。

「あなたが殿下に教えたのですか?」

 ラルフは嫌な顔をした。

「そんな訳ない。これは、ただの噂だ。あなたと僕さえ無視していれば、証拠なんかないのだ。この南翼は夜は誰も入れない。ちゃんと用心している」

「でも! でも、何のための結婚だったのかわからないわ! そんな噂が流れてしまったら……」

「そんなことはない。信じたい者は信じるかもしれないが、普通は信じるかな?」

「え……?」

「私たち二人の仲が良いことを宣伝するために、パーティーに出続けたんだよ? 殿下が飛び入り参加してくる危険を冒してまで。私はことあるたびに、あなたを好きだったと公言していた。パーティーではあなたを抱きしめた」

 私は虚ろな目で彼を眺めた。うん……。確かにね。そうか。そう言う意味だったわけね。

「リーリ侯爵夫人をはじめとした貴婦人たちは、白い結婚だなんて信じないだろう」

 あの方たちは、私の味方だ。殿下の言うことなんか信じないだろう。

「あなたの両親や私の姉達も、そんなこと信じない。みな、心から私たちの幸せを願ってくれている。私があなたのことを求めていたことも知っている」

 心苦しくなってきた。

 結婚式から、かなりの月日が立つ。

 両親もリーリ侯爵夫人やシュザンナのような私の友人たちもみんな、私の幸せな結婚を信じて、祝福してくれていた。

 私は彼らをだましていたのだ。

「王太子はあなたに執着している。そして、ベロス嬢のことが嫌でたまらない。可能性があるなら、あなたに戻りたい。それが、可能だと信じ始めた」

「可能なわけがないではありませんか! もう、あの二人の間には、子どもまでいるのですよ!」

「自分の子ではないと言い出している」

「まあ、そんな……」

 私は一瞬ひるんだが、叫んだ。

「あの無精者の殿下が、そんな面倒な真似をするでしょうか? アウサ征伐だなんて」

「行くよ。恋に狂った殿下をなめてはいけない。それに戦うのは騎士たちだしね。今更ながら、あなたと過ごした五年間は彼の心の中で揺るぎない思いになっているそうだ」

 ラルフはそう言ったが、私は彼をにらみ返した。

 私の中の殿下は、本当にしょうもない男だった。彼は五年かけてそのことを証明したのだ。
 
 それに、私がアウサの襲撃の詳細を知らないのと同じように、ラルフだって殿下の心の中を知ってるはずがない。私に気が狂ったようになっているだなんて信じられない。

 ラルフは薄ら笑いを浮かべた。

「でもね、ベロス嬢は婚約破棄になるかも知れませんが、あなたには手も触れさせませんよ」
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