真実の愛を貫き通すと、意外と悲惨だったという話(相手が)~婚約破棄から始まる強引過ぎる白い結婚と、非常識すぎるネチ愛のいきさつ

buchi

文字の大きさ
47 / 64

第47話 翌朝

しおりを挟む
 彼に抱き締められて初めて私は、本当は、彼が愛しくてならなかったのだと、やっと気がついた。

 心配する必要などなかったマルケ行きを、身も世もなくイライラ心配したり、帰ってくるのが怖かったのは、どんな顔をして戻ってくるのか自信がなかったから。

 嫌われていたらどうしよう。

 結婚していても、気持ちがなかったらどうしたらいいの。
 結婚なんか形だけ。本当の心が欲しい。

 そう思うようになって、ようやくラルフの気持ちに思い至った。

 ラルフはずっと不安だったのだ。

 形だけの結婚。利害関係だけの結び付き。そして、自分の小手先の細工の結果が、結婚なだけだった。 


 エレノアをたきつけたのは、本当だろう。
 言われて初めて、そうかもしれない、いや、間違いないと思った。でなければ、あんなことにならなかった。
 ラルフのことだ、誰かから聞いたとでもエレノアに伝えたのだろう。

 公爵家の後継者になるのに、妻がエレノアだろうと私だろうと違いはないのだという彼の説明は、すとんと胸に落ちた。

 そして、同時に、大勢いた求婚者の中で、彼だけは、公爵家の跡取り娘に求婚したわけじゃないのだと言うことにも気が付いた。

 父のリッチモンド公爵の腹積はらづもりでは、彼は娘二人のどちらかの婿になることが確定していたのだ。

 彼には、私と王太子との結婚をぶちこわす必要なんかなかった。私を手に入れたいのでなければ。



「手をこまねいているわけにはいかなかった」

 翌朝、やけくそみたいに、庭師が苦心して咲かせた花を片っ端からんで、私にくれながら、彼は言った。

「僕があなたを手に入れたかったら……ほかに方法はなかった。たとえそれが少々後ろ暗い手でも、しないわけにはいかなかった。あなたが好きだ」

 私は顔を伏せてしまった。好きだと真正面から告げられることは、いつまでたっても慣れない。好きだと伝えることにも慣れられない。

 それは、何回一緒に過ごそうと、恥ずかしかった。ラルフは歯止めがはずれたみたいに好きだと言って欲しいとねだって来て、私はそのたびに赤くなってしまって、私がせっかく顔を手で覆っているのに、無理矢理その手を外しに来て顔をのぞき込んできて、つぶやいた。

「かわいい」

「エレノアはかわいいかもしれないけど、私はちっともかわいくないわ」

 反抗してみた。

「本当にかわいい。エレノアなんかまるで興味がない。あんな女こそ、かわいくない。男の気持ちにむちを振るいたがる」

「鞭?」

「いうことを聞かせようとするんだ。男の好意を盾にとって、自分のワガママを通すだけだ。そんなものに何の値打ちがある?」

 もはや、数える気にもならないくらいの数のキスをしたうえで、ラルフは言った。

「オーガスタは、かわいい。透き通った宝石のように純粋な気持ちだ。なんの見返りも求めない。だから好きだ」



 帰りの馬車の中のラルフは、引っ込めようとする私の手を放さなかった。目が執拗しつように私の目を追ってくる。視線のやり場に困った。

「馬車の中なんですもの。どこにも行きませんわ」

 ラルフはちょっとだけ唇の端を持ち上げたが、手は離さなかった。

「これで完全無欠な夫婦だ。ちょっと僕は嫉妬深い傾向があると自分でもわかっているけど」

 傾向ではない気がする。

「オーガスタのことは信じているから」

 だから何? 彼はちょっと言葉に詰まった。

「あまり、他の男と親しくしないでほしい」

 なに言ってんだろう。

「浮気をしないことは重々理解している。だけど」

「ラルフ、仕事をしてね」

 私は突っ込みを入れた。

「私も手伝いますわ。あなたの仕事の中身は私にはわからないけど。私を口説くためだけに、別邸へ来た訳じゃないでしょう?」

 ババリア元帥夫人の誇り高い姿が頭の中には残っていた。
 全幅ぜんぷくの信頼、強い絆。
 それはお互いの為になる。私はあなたを支えたいのだ。
 だって、私はあなたが好き。好きだから。それが理由。


 ラルフは素でちょっとビクッとなった。
 珍しい。

「手伝ってもらわなくてもいいと思う」

 彼はモゴモゴ言った。

「一緒に暮らしてくれれば、それだけでいいんだ」

 私はラルフをにらんだ。
 ラルフは決して無駄なことはしない。
 そして、執事のセバスの言い分ではないが、「仕事は出来る人間の背中に乗ってくる」のである。
  
「後継者問題はどうなったのですか?」

 私が聞くと、ラルフは手を離した。

「別に変ったことはないさ。ベロス嬢が産んだお子を王太子殿下の嫡子にするために、王家は苦労している」

 そうか。結婚式がまだだったから、正式な夫婦の子供ではないのだ。

「手紙がたくさん届いていましたわよね」

 私たちは宮廷貴族だ。愛を確かめ合っても、それだけに夢中になっているわけにはいかない。

「それはベロス嬢の問題とは別問題で、アレキアの出方が問題になっている」

 ラルフは私の手を取った。

「そんなことより……急な結婚で披露ひろうのパーティもできなかった。王太子の喪中だが、ベロス嬢のお子様が生まれたら、世の中も少しは明るくなるだろう。親しい人たちを集めて私たちの結婚のお披露目ひろめパーティをしたい」

 彼は熱心に言った。

「僕たちの間柄は正式なものなんだと知らしめたい。純白のドレスとベールでね」

 ちょっと夢見るような調子でラルフは言った。知らしめたいって……私は知らしめる必要なんか感じないのだけれど。

「いや、ぜひ。きっと、とてもきれいだと思うんだ。今度こそ、本当の意味での結婚だから。僕の中では記念日だ」

 その発想は、かなり恥ずかしい気がするのですが。こんな人だったかしら。
 
「でも、王妃様は私が結婚することをどうお思いになるかしら? 不安ですわ」

 王妃様は私のことを見るたびに、順調だった頃の王太子殿下を思い出すらしい。

「だから内輪で。もう数か月でベロス嬢のお子様は生まれる。王妃様にとってはお孫様だ。嬉しくないわけがない。きっとほかのことなんか忘れてくれるだろう」

 ラルフはニコリと笑った。

「僕は王位継承権を辞退し、リッチモンド公爵家は、ベロス家ともどもその子どもの後ろ盾になると誓ったのだ。後ろ盾の一家が良い結婚をして、栄えることは王家にとって悪い話ではあるまい」

 後ろ盾……。
 内心、王家に反発している貴族は多いだろう。
 王家から遠い家は、特に王家の継承に違和感を抱くだろう。

 王家にしてみれば、理解がある大貴族はいくつあってもありがたい。

 ラルフは継承権を辞退することにより、王家との確執かくしつを乗り越えて恩を売ったと言うことなのだろう。

「今や王家と縁のないリッチモンド家の動向は、非常に大事だ。他の貴族たちもリッチモンド家の動きに従うだろう」

「ベロス公爵は何の役職になるのですか?」

「公爵は生まれてくる子どもの後見人の役を買って出た」

 ラルフはニヤリとした。

「僕は悪手だと思うね」

 それはわかる。
 王家を乗っ取るつもりだと宣言したも同様だろう。

 ラルフは握っていた手を唇に持って行って、言った。

「パーティにはベロス公爵もベロス嬢も呼ばない。リーリ侯爵夫人の一味はご招待申し上げる。コーブルグ侯爵家とババリア元帥夫妻、ゲイリーと父親の老チェスター卿も来てくれるだろう」

「テオ・イングラムは?」

 私は意地悪を言ってみた。

 ラルフは案の定、私をちょっとにらんで、手を強く握った。

「意地悪のつもり? そんなことを言うなら、後で怖い思いをしてもいいんだね?」

 赤くなって首を振ると、彼は満足したらしく、笑った。

「父親のイングラム市長が、市庁舎のパーティに呼んでくれるよ。私たちは、賓客ひんきゃくとして参加する。テオ・イングラムとその父は商人たちの代表だ。大事にしなくてはね」
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~

岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。 「これからは自由に生きます」 そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、 「勝手にしろ」 と突き放した。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

処理中です...